95 / 242
第九十六話:出発の日
しおりを挟む
魔界から戻ってから数日が経過していた。
サナを含めた各国の王女とそのパートナー達は、この数日の間に自国へと戻って行った。
今回の一件、説明の出来ない不可解な事が多すぎる事から、人々から”神の悪戯”などと呼ばれていた。
全てを知っている俺としては、少しだけ罪悪感に苛まれるが、話す訳にもいかないので致し方ない。
ただ一人だけ、バーン帝国のムー王女が去り際に放った言葉が非常に気掛かりだった。
”是非、近くを立ち寄った暁には妾のバーン帝国にお立ち寄り下さい。今回の一件を肴に語り尽くそうぞ”
フランさんの魔術で記憶を失くしているはずなんだが、彼女は魔女の称号を持っている。大丈夫だとは思うが、ボロが出ないように振る舞いには気を付けよう。
戻って来てからというもの、ユイが一日中ベッタリとくっついて離れようとしない。
今回は連絡も出来ない非常事態だったので、相当に心配させてしまったようだ。
「3日分のお兄ちゃん成分を吸収するんだもん!」
何やら意味不明な発言をしているが、気にしないでおこう。
「マスター、命令を下さい」
暇でする事がないのか、アリスが日に何度も命令を要求してくる。
「よし、アリス。一つ仕事を頼まれてくれないか」
ストレージからメモ用紙を一枚取り出す。
「ここに書いてあるものを買って来て欲しいんだ」
紙には、旅の必需品である食糧や錬金術に使用する薬品がギッシリ記載してあった。
食糧と言っても、調味料などのかさばらない物だ。
「リン、一緒に頼めるか?」
「分かりました」
「延び延びになってしまったが、明日には此処を出発しようと思っている。ユイもクロもみんなにお別れを言っておくんだぞ」
何かを思い出したようにユイが手を挙げている。
「お兄ちゃん!私、孤児院のみんなにお別れを言いたい!」
「クロも」
「ああ、そうだな。あれ以来結局顔出せず仕舞いだったからな、最後くらい挨拶しないとな」
この王国にまだ来たばかりの頃、卑怯な方法で孤児院が取り壊されそうになっていた所を俺達が救う手助けをしたのだ。
無事に解決したのだが、その後の動向は確かに気になる。
と言うわけでユイとクロと一緒に孤児院の前に来ていた。
ジラはシャロンの所に行っている。
趣味の裁縫をシャロンに指南してもらっているのだそうだ。
俺達が戻ってきて、この3日毎日通い詰めている。
そこでは、シャロンの事を”先生”と呼んでいるそうだ。
「すみませーん」
俺は孤児院のドアを軽くノックした。
孤児院の見た目は特に変わりはないようだ。
無くなっていたらどうしようかと思っていたが、それは俺の杞憂に終わった。
ドアを開けて中から出てきたのは、なんと貴族のヴィランだった。
「あれ、あんたは確か・・」
続いて出てきたのは、シスターシルキーだ。
「あ、ユウさんじゃないですか!お久しぶりです」
ヴィランを押し退けて俺の手を掴む。
「あ、うん、久しぶり。シルキーと、、、ヴィランさん」
ヴィランとは、ちょっと気まずかったりする。
シルキーを守る為に少しだけ争った事がある。
争うと言ってもただ一方的に俺のターンだったんだけどね。
思えば直接顔を合わすのは、それ以来だったりする。
「それに、ユイちゃんと、クロちゃんも!ささ、中へどうぞ」
「みんな!ユイちゃんとクロちゃんが来たわよ!」
入り口の所で少し話をするだけのつもりだったが、断る道理もないので、中にお邪魔する事にする。
中へ入ると、ここに住んでいる子供達がダーッと押し寄せてきて、ユイとクロを連れて行ってしまった。
「子供達の人数増えてません?」
「そうなんですよ。あの頃から2倍くらいに増えてます。私と老シスターだけではさすがに手が回らない時があるので、こうやってヴィランが時々お手伝いに来てくれるのよ」
「ま、まぁ、僕は子供が大好きだしね!あやすなんてのは朝飯前さ」
なるほど、彼がいるのはそういう事だったのね。
それにしても、まさか二人がここまで仲良くなっていようとは、初の恋のキューピットをさせられたんだ。二人にはこの恋が成就して欲しいと心から願っている。
「今日は老シスターはいないのですか?」
「そうなんです。今日は各孤児院を周回する日ですので、夜まで戻らないんです」
老シスターに会えなかったのは残念だが、アポなしで訪れたこちらが悪いしね。
俺は明日このガゼッタ王国を出発する事をシルキーに話した。
ヴィランは何か用事を思い出したとか言って席を外してしまった。
そりゃ、ボコボコにした張本人が前にいたのでは、この場に居づらいのも頷ける。
「そうですか・・。ユウさんは冒険者ですものね、いずれは次の場所に行ってしまわれると思っていましたから、驚きはありません」
淡々と語るシルキーだったが、その横顔は何処となく寂しそうだった。
「でもユウさん達には感謝しています。今のこの孤児院があるのはユウさん達のおかげですので」
「俺一人の力じゃどうしようもなかったですよ。あくまでも力を貸しただけです。それに、今はもう俺なんかよりも頼りになる相手がすぐ近くいるみたいですしね」
少し茶化してみた。
シルキーが少しだけ頬が赤くなっている。
「彼は、あれから本当に変わったんですよ。私の事も良くしてくれますし、それに子供達にもだいぶ懐かれちゃって」
ウィランの事を本当に嬉しそうに話しているシルキー。
少し妬いてしまうなんて事はない。決してない!
暫く雑談していると、ユイとクロが戻って来た。
「お兄ちゃん、ミゥちゃんの怪我を治せる?」
若干潤んだ瞳で懇願してくる。
ユイ、だからその手は卑怯だって・・。
そんな顔されたらお兄ちゃん断れないだろ。
ま、断る気もないけど。
隣の部屋に移動する。
「見せてみて」
ユイの後ろに隠れていた犬人(シエンヌ)の少女がクロに引っ張られてひょっこり顔を出す。
右手が肘の所から無くなっていた。
「部位欠損か」
「難しい?」
俺にとってはどうって事はないのだが、何でもかんでも治してしまうのもどうかと思うわけで、
「ミゥちゃん。その腕の事を聞いてもいいかい?」
依然としてモジモジしていたが、コクりと頷いて徐に話し出した。
別にすぐに治してあげても良いのだが、治してしまうともう元には戻せない。
戒めと過去の自分への決別の意味を込めて、治す前にどういった経緯でそうなってしまったのか、俺は聞くようにしていた。
彼女は前の孤児院に居た時に獣人族だからという一方的な理由で酷いイジメを受けていたそうだ。
その時に負った傷が元で腕を失う結果になったそうだ。話している途中に涙をボロボロとこぼしていた。
「話してくれてありがとう。辛い事を思い出させてごめんな」
俺はミゥの頭を優しく撫でる。
「目を瞑って」
MAXレベルの治癒をミゥに使用する。
部位欠損を治すには、レベル5の治癒でなければならない。
「目を開けて」
ミゥは、恐る恐る片目ずつ開けていた。
「私の腕が・・。治ってる・・・・うわぁぁん・・」
今度のは嬉し泣きだろう。
「ユイ、一緒にいてあげてくれるか?」
ユイがミゥの元に駆け寄り、抱きしめていた。
その光景を微笑ましく思いながら、部屋を出ようとした時だった。
「っひっぐ、お兄さん、っありがとうございます」
「どういたしまして、ミゥちゃん」
シルキーのいる部屋に戻った。
「ユウさん、いつもすみません」
「いえいえ、俺に出来る事でしたら」
暫く話をしていると、ユイとクロが戻ってきた。
「お別れの挨拶は済んだのか?」
「うん!でもお別れじゃないよ!また来るもん!絶対!」
「そうだな」
挨拶を終わり、孤児院を後にする。
俺にはもう一つだけ最後に行っておきたい場所があった。
大聖堂だ。
大聖堂に用があるという訳ではなく、五大神である神メルウェルに用がある。
早速、高位聖職者であるレミリアさんに参拝の儀をしてもらう。
「また会えましたね」
「はい、今日は話があってきました」
神メルウェルは、優しく微笑んでいた。
「本当に貴方は凄い人ですね。魔界まで足を運び、魔王の代弁者とも仲良くなってしまうのですから」
「なんでもお見通しなんですね。俺的には、全て神様の掌の上で踊らされている気がしてならないですけど」
「うふふ。そこはノーコメントですよ」
普段は神々しい雰囲気を醸し出しているが、時々こうやって、茶目っ気を出してくる。
嫌いではないけどね。
「これから起こり得る、巨大な歪みに対抗する準備をこれまで通り進めて下さい」
「相変わらず、何が起こるのか、何をした方が良いのかは教えて貰えないんですね」
「ごめんなさい。ギリギリ言えるのはここまでなのです。お詫びと言ってはなんですが、私を叩いてくれても構いませんので」
「いえ、結構です」
即座に拒否する。
前回の時もそうだったが、神メルウェルは間違いなくMだろう。
「次の街に移動しようと思います。海を越えて、新しい大陸へ」
「はい、良いと思います。どこに居ようと私が見守っていますよ」
ツッコミはしないぞ。
「この方法以外でメルウェル様に会うにはどうすれば?」
「これを使って下さい」
名前:神札
説明:神と対話する事が出来る。
「それを持ち、念じるだけで私と対話する事が出来ます。ですが、使用する度に私の神珠(しんじゅ)を消費しますので、滅多な事では使用しないで下さいね」
神珠とは、神が行使できる所謂(いわゆる)MPみたいなものだ。スキルを使用するのにMPを消費するのは当たり前だが、消費してしまった神珠は膨大な時間を要しないと回復しないそうだ。
「貴方に神のご加護があらん事を」
貴女が神でしょ!
とツッコミを入れたいが我慢だ。
宿屋へと戻ってきた俺達は、意外な訪問者と顔を合わせていた。
「ユウさん!ジラさんに聞きましたよ!明日、この王国を立ってしまうそうじゃないですか!」
この王国の王女でもあるシャロン王女だ。
「ごめんごめん、勿論挨拶に行くつもりだったよ」
「本当かな~? どちらにしても明日は一日中王宮から出られないので、見送りはできそうにありません」
「いやいや、見送りなんていいよ。一国の王女が一冒険者の俺の見送りなんて、側から見たらおかしいだろ?」
「本当に行っちゃうんですね・・」
何処かしら寂しそうな顔をしている。
「ああ、冒険者だしな」
「また・・・。また会えますか?」
「この世界を周って、いつかまた戻ってくるつもりさ」
「待ってますよ。ユウさんは、私の・・・恋人役であり、私の騎士様なんですから、私のピンチの時にはちゃんと助けに来てくださいね?」
そんな、ヒーローじゃあるまいし。
そんな事が可能な、魔術や魔導具があれば、迷わず手に入れたいとは思うけどね。
「おおぅ。ちゃんと俺の名前を呼ぶんだぞ?」
そして、出発の当日を迎える。
サナを含めた各国の王女とそのパートナー達は、この数日の間に自国へと戻って行った。
今回の一件、説明の出来ない不可解な事が多すぎる事から、人々から”神の悪戯”などと呼ばれていた。
全てを知っている俺としては、少しだけ罪悪感に苛まれるが、話す訳にもいかないので致し方ない。
ただ一人だけ、バーン帝国のムー王女が去り際に放った言葉が非常に気掛かりだった。
”是非、近くを立ち寄った暁には妾のバーン帝国にお立ち寄り下さい。今回の一件を肴に語り尽くそうぞ”
フランさんの魔術で記憶を失くしているはずなんだが、彼女は魔女の称号を持っている。大丈夫だとは思うが、ボロが出ないように振る舞いには気を付けよう。
戻って来てからというもの、ユイが一日中ベッタリとくっついて離れようとしない。
今回は連絡も出来ない非常事態だったので、相当に心配させてしまったようだ。
「3日分のお兄ちゃん成分を吸収するんだもん!」
何やら意味不明な発言をしているが、気にしないでおこう。
「マスター、命令を下さい」
暇でする事がないのか、アリスが日に何度も命令を要求してくる。
「よし、アリス。一つ仕事を頼まれてくれないか」
ストレージからメモ用紙を一枚取り出す。
「ここに書いてあるものを買って来て欲しいんだ」
紙には、旅の必需品である食糧や錬金術に使用する薬品がギッシリ記載してあった。
食糧と言っても、調味料などのかさばらない物だ。
「リン、一緒に頼めるか?」
「分かりました」
「延び延びになってしまったが、明日には此処を出発しようと思っている。ユイもクロもみんなにお別れを言っておくんだぞ」
何かを思い出したようにユイが手を挙げている。
「お兄ちゃん!私、孤児院のみんなにお別れを言いたい!」
「クロも」
「ああ、そうだな。あれ以来結局顔出せず仕舞いだったからな、最後くらい挨拶しないとな」
この王国にまだ来たばかりの頃、卑怯な方法で孤児院が取り壊されそうになっていた所を俺達が救う手助けをしたのだ。
無事に解決したのだが、その後の動向は確かに気になる。
と言うわけでユイとクロと一緒に孤児院の前に来ていた。
ジラはシャロンの所に行っている。
趣味の裁縫をシャロンに指南してもらっているのだそうだ。
俺達が戻ってきて、この3日毎日通い詰めている。
そこでは、シャロンの事を”先生”と呼んでいるそうだ。
「すみませーん」
俺は孤児院のドアを軽くノックした。
孤児院の見た目は特に変わりはないようだ。
無くなっていたらどうしようかと思っていたが、それは俺の杞憂に終わった。
ドアを開けて中から出てきたのは、なんと貴族のヴィランだった。
「あれ、あんたは確か・・」
続いて出てきたのは、シスターシルキーだ。
「あ、ユウさんじゃないですか!お久しぶりです」
ヴィランを押し退けて俺の手を掴む。
「あ、うん、久しぶり。シルキーと、、、ヴィランさん」
ヴィランとは、ちょっと気まずかったりする。
シルキーを守る為に少しだけ争った事がある。
争うと言ってもただ一方的に俺のターンだったんだけどね。
思えば直接顔を合わすのは、それ以来だったりする。
「それに、ユイちゃんと、クロちゃんも!ささ、中へどうぞ」
「みんな!ユイちゃんとクロちゃんが来たわよ!」
入り口の所で少し話をするだけのつもりだったが、断る道理もないので、中にお邪魔する事にする。
中へ入ると、ここに住んでいる子供達がダーッと押し寄せてきて、ユイとクロを連れて行ってしまった。
「子供達の人数増えてません?」
「そうなんですよ。あの頃から2倍くらいに増えてます。私と老シスターだけではさすがに手が回らない時があるので、こうやってヴィランが時々お手伝いに来てくれるのよ」
「ま、まぁ、僕は子供が大好きだしね!あやすなんてのは朝飯前さ」
なるほど、彼がいるのはそういう事だったのね。
それにしても、まさか二人がここまで仲良くなっていようとは、初の恋のキューピットをさせられたんだ。二人にはこの恋が成就して欲しいと心から願っている。
「今日は老シスターはいないのですか?」
「そうなんです。今日は各孤児院を周回する日ですので、夜まで戻らないんです」
老シスターに会えなかったのは残念だが、アポなしで訪れたこちらが悪いしね。
俺は明日このガゼッタ王国を出発する事をシルキーに話した。
ヴィランは何か用事を思い出したとか言って席を外してしまった。
そりゃ、ボコボコにした張本人が前にいたのでは、この場に居づらいのも頷ける。
「そうですか・・。ユウさんは冒険者ですものね、いずれは次の場所に行ってしまわれると思っていましたから、驚きはありません」
淡々と語るシルキーだったが、その横顔は何処となく寂しそうだった。
「でもユウさん達には感謝しています。今のこの孤児院があるのはユウさん達のおかげですので」
「俺一人の力じゃどうしようもなかったですよ。あくまでも力を貸しただけです。それに、今はもう俺なんかよりも頼りになる相手がすぐ近くいるみたいですしね」
少し茶化してみた。
シルキーが少しだけ頬が赤くなっている。
「彼は、あれから本当に変わったんですよ。私の事も良くしてくれますし、それに子供達にもだいぶ懐かれちゃって」
ウィランの事を本当に嬉しそうに話しているシルキー。
少し妬いてしまうなんて事はない。決してない!
暫く雑談していると、ユイとクロが戻って来た。
「お兄ちゃん、ミゥちゃんの怪我を治せる?」
若干潤んだ瞳で懇願してくる。
ユイ、だからその手は卑怯だって・・。
そんな顔されたらお兄ちゃん断れないだろ。
ま、断る気もないけど。
隣の部屋に移動する。
「見せてみて」
ユイの後ろに隠れていた犬人(シエンヌ)の少女がクロに引っ張られてひょっこり顔を出す。
右手が肘の所から無くなっていた。
「部位欠損か」
「難しい?」
俺にとってはどうって事はないのだが、何でもかんでも治してしまうのもどうかと思うわけで、
「ミゥちゃん。その腕の事を聞いてもいいかい?」
依然としてモジモジしていたが、コクりと頷いて徐に話し出した。
別にすぐに治してあげても良いのだが、治してしまうともう元には戻せない。
戒めと過去の自分への決別の意味を込めて、治す前にどういった経緯でそうなってしまったのか、俺は聞くようにしていた。
彼女は前の孤児院に居た時に獣人族だからという一方的な理由で酷いイジメを受けていたそうだ。
その時に負った傷が元で腕を失う結果になったそうだ。話している途中に涙をボロボロとこぼしていた。
「話してくれてありがとう。辛い事を思い出させてごめんな」
俺はミゥの頭を優しく撫でる。
「目を瞑って」
MAXレベルの治癒をミゥに使用する。
部位欠損を治すには、レベル5の治癒でなければならない。
「目を開けて」
ミゥは、恐る恐る片目ずつ開けていた。
「私の腕が・・。治ってる・・・・うわぁぁん・・」
今度のは嬉し泣きだろう。
「ユイ、一緒にいてあげてくれるか?」
ユイがミゥの元に駆け寄り、抱きしめていた。
その光景を微笑ましく思いながら、部屋を出ようとした時だった。
「っひっぐ、お兄さん、っありがとうございます」
「どういたしまして、ミゥちゃん」
シルキーのいる部屋に戻った。
「ユウさん、いつもすみません」
「いえいえ、俺に出来る事でしたら」
暫く話をしていると、ユイとクロが戻ってきた。
「お別れの挨拶は済んだのか?」
「うん!でもお別れじゃないよ!また来るもん!絶対!」
「そうだな」
挨拶を終わり、孤児院を後にする。
俺にはもう一つだけ最後に行っておきたい場所があった。
大聖堂だ。
大聖堂に用があるという訳ではなく、五大神である神メルウェルに用がある。
早速、高位聖職者であるレミリアさんに参拝の儀をしてもらう。
「また会えましたね」
「はい、今日は話があってきました」
神メルウェルは、優しく微笑んでいた。
「本当に貴方は凄い人ですね。魔界まで足を運び、魔王の代弁者とも仲良くなってしまうのですから」
「なんでもお見通しなんですね。俺的には、全て神様の掌の上で踊らされている気がしてならないですけど」
「うふふ。そこはノーコメントですよ」
普段は神々しい雰囲気を醸し出しているが、時々こうやって、茶目っ気を出してくる。
嫌いではないけどね。
「これから起こり得る、巨大な歪みに対抗する準備をこれまで通り進めて下さい」
「相変わらず、何が起こるのか、何をした方が良いのかは教えて貰えないんですね」
「ごめんなさい。ギリギリ言えるのはここまでなのです。お詫びと言ってはなんですが、私を叩いてくれても構いませんので」
「いえ、結構です」
即座に拒否する。
前回の時もそうだったが、神メルウェルは間違いなくMだろう。
「次の街に移動しようと思います。海を越えて、新しい大陸へ」
「はい、良いと思います。どこに居ようと私が見守っていますよ」
ツッコミはしないぞ。
「この方法以外でメルウェル様に会うにはどうすれば?」
「これを使って下さい」
名前:神札
説明:神と対話する事が出来る。
「それを持ち、念じるだけで私と対話する事が出来ます。ですが、使用する度に私の神珠(しんじゅ)を消費しますので、滅多な事では使用しないで下さいね」
神珠とは、神が行使できる所謂(いわゆる)MPみたいなものだ。スキルを使用するのにMPを消費するのは当たり前だが、消費してしまった神珠は膨大な時間を要しないと回復しないそうだ。
「貴方に神のご加護があらん事を」
貴女が神でしょ!
とツッコミを入れたいが我慢だ。
宿屋へと戻ってきた俺達は、意外な訪問者と顔を合わせていた。
「ユウさん!ジラさんに聞きましたよ!明日、この王国を立ってしまうそうじゃないですか!」
この王国の王女でもあるシャロン王女だ。
「ごめんごめん、勿論挨拶に行くつもりだったよ」
「本当かな~? どちらにしても明日は一日中王宮から出られないので、見送りはできそうにありません」
「いやいや、見送りなんていいよ。一国の王女が一冒険者の俺の見送りなんて、側から見たらおかしいだろ?」
「本当に行っちゃうんですね・・」
何処かしら寂しそうな顔をしている。
「ああ、冒険者だしな」
「また・・・。また会えますか?」
「この世界を周って、いつかまた戻ってくるつもりさ」
「待ってますよ。ユウさんは、私の・・・恋人役であり、私の騎士様なんですから、私のピンチの時にはちゃんと助けに来てくださいね?」
そんな、ヒーローじゃあるまいし。
そんな事が可能な、魔術や魔導具があれば、迷わず手に入れたいとは思うけどね。
「おおぅ。ちゃんと俺の名前を呼ぶんだぞ?」
そして、出発の当日を迎える。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。
女神の話によれば、異世界に転生できるという。
ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。
父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。
その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。
食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。
そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる