22 / 242
第二十二話:エルフの里での生活4(クロの異変)
しおりを挟む
屋敷へ戻ってきた俺は、グッタリとしていた。
「先生ってのも、案外疲れるもんだな・・」
倦怠感でベッドの上でうつ伏せになって寝転んでいると、ユイが背中に乗って、マッサージをしてくれていた。
「お兄ちゃん、おつかれさま」という言葉も忘れない。マッサージといっても、ただ足踏みしているだけなのだが、意外とそれが気持ち良かったりする。
こういう気遣いは嬉しい限りだ。
そして、いつしか俺は、眠ってしまった。
朝日が眩しい・・気が付いたら朝になっていた。
いつものように上に重みと温もりを感じる。
恐らくユイだろう。
しかし、右側にも温もりを感じていた。
誰かが、俺の右腕をガッチリとロックしている。
誰だろうか。
徐に目を開けると、案の定俺の上ので気持ちよさそうに寝ているユイの姿が見える。
ということは、隣にいるのは誰だ?
右腕のロックを振りほどき、大きく伸びをしてから、右側に目を向ける。
ん? 誰だ?
そこには、見知らぬ幼女が寝ていたのだ。
布団を被っているので、頭しか見えない。
しかし、全く見覚えが無い顔だった。
起こさないように上に乗っていたユイを左側にそっと降ろす。
そして俺はベッドから飛び出た。
布団をめくると、見知らぬ幼女は、一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに寝ていた。
慌てて布団を元に戻す。
「一体、何がどうなってるんだ?」
取り敢えずユイを起こす。
「ユイ、起きろ!」
しばらくして、眼を擦りながら、まだ寝足りないといった感じでユイが起きてきた。
「ふあぁー、うぅ、お兄ちゃん、おふぁよー」
大あくびをしている。
そして、布団をガバッと跳ね飛ばした。
「ちょ!まてユイ!」
再び、幼女のあられもない姿が露(あら)わとなった。
ユイをベッドから降ろし、再度布団を掛ける。
「この子が誰なのか知ってるか?」
「ううん、見たことないよ。もしかして・・・二人目の妹・・?」
「妹は勝手に増えたりしないと思うけどな・・」
一体、この幼女は何者なのだろうか・・
このユイとの一連のやり取りで、幼女が眼を覚ましてしまった。
ベッドから体を起こして、まるで自分の姿を初めて見るかのように、眺めていた。
布団がはだけているが、もう直すのも面倒だ。
それに相手はどうみても7~8歳だ。
俺はロリコンじゃないし、何の問題もないだろう。
「ユウおは・・ヨ?」
ぎこちない感じだが、幼女が喋った。
ん?そういえば何処かで聞いたことがある声だった。
鑑定を使用した。
名前:クロ
レベル:37
種族:魔族
弱点属性:なし
スキル:怪音波Lv1、速度増強Lv1
うそん・・
今俺たちの目の前にいるのは、昨日まで子犬の姿をしていたクロだったのだ。
「本当にクロ・・なのか?」
幼女は頷いた。
「え、クロって、あの犬ちゃんのクロだよね?え、なんで?」
ユイが同様するのも無理はない。
俺でさえ今目の前で起こっている自体が飲めないでいるのだから。
「クロ成長・・シタ。ユウ、ユイみたいに、人ノ姿・・ナッタ?」
ユイが口をポカーンと開けて驚いている。
セリアが俺の中から出てきた。
そして、わざとらしくコホンと1回咳払いをし、説明し出した。
「本来魔族に形というものは決まっていません。人の姿をしていたり、山のように大きな怪物であったりと様々です。クロはまだ生まれたばかりの子供でしたので、恐らく、親代わりをしているユウさんやユイさんに影響されて、人の姿になったのだと思われます」
な、なるほど・・セリアさん解説ありがとう。
つまり簡単に言うと、魔族はとんでも生物だという事なのだろう。
取り敢えず、俺はユイに服を着せてあげるように言った。
ユイのサイズなので少しサイズが大きいが、我慢してもらおう。
改めて見ると、クロには子犬の時の名残を残しており、黒い犬耳と尻尾を生やしている。
姿だけを見るならば、どうみても犬人族(シエンヌ)だろう。
なので、街中を歩いても怪しい目で見られることはないだろう。
ユイは、俺が悩んでいるというのに、呑気なものだ。
「妹が出来たよ!」と言って、はしゃいでいる。
まぁ、いいけどね。
取り敢えず、朝食だ。
クロを連れて俺たちは、リビングに降りてきた。
階段で転ばないようにユイが手を繋いでいた。
朝の挨拶をザンバドさんとルナさんにして、いつものように席に着いた。
2人の表情が誰だろう?と言う反応をしていたので、正直にクロが成長しました。とだけ告げておいた。
人の姿となったクロが何を食べるのか気になったのだが、クロはテーブルの上に並べられた料理には見向きもしなかった。
席を立ち、俺の隣に来る。
「ユウ、ご飯」
そう言って、俺の腕を甘噛みしてきたのだ。
「え、ご飯ってやっぱり魔力なのか?」
「クロご飯、昔から魔力」
やはり、子犬の時と同じで、魔力が食料のようだ。
しかし、何故だか吸収量が大幅に減っていた。
昨日までは1食分で1/5位減っていた俺のMPだが、今は1/10も減っていない。人の姿になった事で、取り敢えずの成長期は終わったのだろうか?
エレナも昨晩は、この屋敷に泊まっていたようだ。
そして、何やら豪華な装飾が施されたカードを手渡してきた。
「お父様にお願いしていた魔導具の売買をするための許可証ですよ」
「お、ありがとうエレナ!これで魔導具の購入が出来るよ」
このカードがあれば、魔導具の購入だけではなく、通行禁止場所に入れるだとかエルフの里内で規制されている事がほぼ全て可能になる特典付きだそうだ。
「無くさないようにお願いしますね」
「こんな貴重な代物、いいの?」
「ユウ様は、この里にとって、特別な存在ですから」
そう言い、エレナが微笑んでいる。
礼を言って、早速外へ繰り出す事にした。
エレナも一緒に来ると言っているので、みんなで行く事にする。
その際、クロの足取りが若干おぼつかない。どうやらまだ二足歩行に慣れていないようだ。
俺は、クロのペースに合わせつつも、ユイに一つのアドバイスをした。
「ユイはクロのお姉ちゃんなんだから、ちゃんとクロの面倒を見てやるんだぞ」
ユイは、おでこに手を当てラジャーのポーズを取る。
後ろを振り返ってみるとユイがクロの手を引いている。
その様はまるで本当の姉妹のようだ。
ホッコリするその後継を俺とエレナも微笑ましい表情で眺めていた。
途中寄り道しながらもいつの間にか、お昼になっていたので昼食をサッと屋台で済ませ、俺たちは猫店長の店の前までやってきていた。
そして中に入る。
「いらっしゃいませニャ」
いたいた。愛くるしい猫店長が。
客が俺たちだと気が付くと、声を荒げる。
「ニャニャ!またおまえらかニャ!」
ユイの視線が一点に集中している。
クロの手を引いたまま、一直線に猫店長の元まで駆け寄る。
「猫ちゃん、なでなでなで」
もうやってるよ。
「やめるニャ!」
猫店長は必至に抵抗しようとする。
カウンターの上からの必殺の猫パンチを繰り出している。
今回は、前回と違いクロもいたので、2人で猫店長を捕まえて、なでなで、もといモフモフしまくっている。
俺も参加しようと一瞬思ったが、エレナと目が合ってしまったので自重する。
エレナが、ユイたち元へ近寄る。
「ユイちゃん、クロちゃん、クラムさんを放してあげてね」
どうやら、猫店長の名前はクラムさんと言うらしい。
二人がコクリと頷くと、渋々といった感じで猫店長を解放した。
「助かったニャ、エレナ様」
ユイが耳を下に下げて、シュンとしている。
エレナが、そのユイの頭を優しく撫でている。
その姿を見た猫店長が、デレまがいな事を言っている。
「ま、まぁ、少しくらいなら撫でられて上げてもいいニャ」
猫店長は、優しいのだ。
さてと、事態も収まった事だし、本題に入るとする。
俺は猫店長にエレナから貰ったカードを見せる。
すると、無言でカウンターの奥から、先日リストで確認した1~4の魔導具の現物を持って来てくれた。
総額は金貨380枚だった。
金額を聞いて驚いていたのは、この中ではエレナだけだった。
勿論一括払いで金貨380枚を払い、現物を受け取った。
「毎度ありニャ」
俺たちは店を出て、次なる目的地へ向かい歩いている。
以前立ち寄った際に、王の許可が必要と言われたお店がもう一つあったのだ。
それは、魔導書を取り扱っているお店。
俺に関していえば、読むだけで覚えられるので便利な魔術があったら、なるべく購入しておきたいと思っていた。
魔術屋の前までやってきた俺たちは、店の中に入る。
「おや、お客さんかい?珍しい。って、エレナ様じゃないかい!」
店主の恰幅のいいおばちゃんエルフがエレナを見て驚いていた。
取り扱っている品物が品物な為、この店に立ち寄る客は、ほとんどおらず、多くても一日一人、二人なのだとか。
驚いているところ申し訳ないんだけど、おばちゃんエルフに頼み、商品のリストを見せて貰った。
1.妖精の羽:背中に妖精の羽が生えて、10秒間だけ空を飛ぶ事が出来る。
価格:金貨20枚
2.#防御力上昇__ヴァイタリティアップ__#:対象者の耐久力を一時的に上げる事が出来る。
価格:金貨10枚
3.ダイビング:水中で呼吸する事が出来る。
価格:金貨10枚
4.睡眠:相手を眠らせる事が出来る。
価格:金貨10枚
他にも色々とあるが、すでに覚えている魔術だったり、劣化版だった為、目ぼしいのはこの辺りだろう。
俺は4つを即購して、店を出た。
「ユウ様の財布は凄いですね、正直王族の私ですら、驚くほどですよ」
「あはは・・」
俺は笑ってごまかしていた。
気が付けば、日も暮れ始めていた。丸一日近くブラブラしていたことになるのか。
偶然にも王宮の近くまで来ていた事もあり、折角なのでとエレナが夜は王宮でご馳走してくれると言う。
断る理由もないので、みんなでお邪魔することになった。
王様は、外出しており、現在この里にいないようだ。
いつも家族で食べていると言う食堂に案内してくれた。
しばらくすると、エレナの母親ことミリハさんが食堂に入ってくる。
「あらまぁ、ユウさんじゃない」
俺の顔を見て、何故だかテンションの上がるミリハさん。
席は複数空いているのに何故俺の横に座る!
ミリハさんが来る前にエレナは「シェフの所に行ってくる」と言い、席を外していた。
「ところで、エレナとはその後どうなの~?」
ん?その後とは、一体どういう事だろうか。
言われている意味が分からず困惑していると、エレナが戻ってきた。
!?
「もぉ!お母様、そこは、私の席です!」
「エレナは、ユウさんといつも一緒なんだから、たまにはいいじゃない。お母さんだってベタベタしたいもの」
エレナの頬がプクッと膨らんでいる。
恐らく怒っているのだろうが、可愛らしい表情には変わりがなかった。
親子の微笑ましい光景なのだろうけど、単純にエレナが遊ばれているだけのような気もする。
結局、エレナに引っ張られて、ミリハさんは抵抗しつつも退かされてしまった。
料理も運ばれてきたので、少しゴタゴタしながらも、食事スタートだ。
食事が始まってからも、ミリハさんがエレナをナジっている。その度にエレナは時々頬を赤く染めていた。
その際、たまにこっちにまで火の粉が飛んで来るのは正直やめてもらいたい・・。
「ねえ、ユウさん。エレナとは、どこまでやったの?」
「ぶほぉ・・」
俺は、食べていたものを吹き出しそうになってしまった。
エレナが真っ赤になり、反論する。
「ちょ、ちょっと、お母様!私たちはまだ、そんな・・」
段々とエレナの声が小さくなっていた。
ヤバい、何かこのままだと誤解されてしまうんじゃないだろうか。
ハッキリと言わなければ。
「えっと、ミリハさん、僕らはそんな関係じゃないですから!」
ガチャンッ!
何の音かと思い隣のエレナを見ると、エレナが手に持っていた茶碗を床に落とした音だった。
エレナは、呆然とした「えっ?」という驚いた顔をしている。
そして、眼に涙を浮かべ、ドタドタと外へと走り去ってしまった。
え、何が起こった?
なんかマズい事言った・・?
「先生ってのも、案外疲れるもんだな・・」
倦怠感でベッドの上でうつ伏せになって寝転んでいると、ユイが背中に乗って、マッサージをしてくれていた。
「お兄ちゃん、おつかれさま」という言葉も忘れない。マッサージといっても、ただ足踏みしているだけなのだが、意外とそれが気持ち良かったりする。
こういう気遣いは嬉しい限りだ。
そして、いつしか俺は、眠ってしまった。
朝日が眩しい・・気が付いたら朝になっていた。
いつものように上に重みと温もりを感じる。
恐らくユイだろう。
しかし、右側にも温もりを感じていた。
誰かが、俺の右腕をガッチリとロックしている。
誰だろうか。
徐に目を開けると、案の定俺の上ので気持ちよさそうに寝ているユイの姿が見える。
ということは、隣にいるのは誰だ?
右腕のロックを振りほどき、大きく伸びをしてから、右側に目を向ける。
ん? 誰だ?
そこには、見知らぬ幼女が寝ていたのだ。
布団を被っているので、頭しか見えない。
しかし、全く見覚えが無い顔だった。
起こさないように上に乗っていたユイを左側にそっと降ろす。
そして俺はベッドから飛び出た。
布団をめくると、見知らぬ幼女は、一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに寝ていた。
慌てて布団を元に戻す。
「一体、何がどうなってるんだ?」
取り敢えずユイを起こす。
「ユイ、起きろ!」
しばらくして、眼を擦りながら、まだ寝足りないといった感じでユイが起きてきた。
「ふあぁー、うぅ、お兄ちゃん、おふぁよー」
大あくびをしている。
そして、布団をガバッと跳ね飛ばした。
「ちょ!まてユイ!」
再び、幼女のあられもない姿が露(あら)わとなった。
ユイをベッドから降ろし、再度布団を掛ける。
「この子が誰なのか知ってるか?」
「ううん、見たことないよ。もしかして・・・二人目の妹・・?」
「妹は勝手に増えたりしないと思うけどな・・」
一体、この幼女は何者なのだろうか・・
このユイとの一連のやり取りで、幼女が眼を覚ましてしまった。
ベッドから体を起こして、まるで自分の姿を初めて見るかのように、眺めていた。
布団がはだけているが、もう直すのも面倒だ。
それに相手はどうみても7~8歳だ。
俺はロリコンじゃないし、何の問題もないだろう。
「ユウおは・・ヨ?」
ぎこちない感じだが、幼女が喋った。
ん?そういえば何処かで聞いたことがある声だった。
鑑定を使用した。
名前:クロ
レベル:37
種族:魔族
弱点属性:なし
スキル:怪音波Lv1、速度増強Lv1
うそん・・
今俺たちの目の前にいるのは、昨日まで子犬の姿をしていたクロだったのだ。
「本当にクロ・・なのか?」
幼女は頷いた。
「え、クロって、あの犬ちゃんのクロだよね?え、なんで?」
ユイが同様するのも無理はない。
俺でさえ今目の前で起こっている自体が飲めないでいるのだから。
「クロ成長・・シタ。ユウ、ユイみたいに、人ノ姿・・ナッタ?」
ユイが口をポカーンと開けて驚いている。
セリアが俺の中から出てきた。
そして、わざとらしくコホンと1回咳払いをし、説明し出した。
「本来魔族に形というものは決まっていません。人の姿をしていたり、山のように大きな怪物であったりと様々です。クロはまだ生まれたばかりの子供でしたので、恐らく、親代わりをしているユウさんやユイさんに影響されて、人の姿になったのだと思われます」
な、なるほど・・セリアさん解説ありがとう。
つまり簡単に言うと、魔族はとんでも生物だという事なのだろう。
取り敢えず、俺はユイに服を着せてあげるように言った。
ユイのサイズなので少しサイズが大きいが、我慢してもらおう。
改めて見ると、クロには子犬の時の名残を残しており、黒い犬耳と尻尾を生やしている。
姿だけを見るならば、どうみても犬人族(シエンヌ)だろう。
なので、街中を歩いても怪しい目で見られることはないだろう。
ユイは、俺が悩んでいるというのに、呑気なものだ。
「妹が出来たよ!」と言って、はしゃいでいる。
まぁ、いいけどね。
取り敢えず、朝食だ。
クロを連れて俺たちは、リビングに降りてきた。
階段で転ばないようにユイが手を繋いでいた。
朝の挨拶をザンバドさんとルナさんにして、いつものように席に着いた。
2人の表情が誰だろう?と言う反応をしていたので、正直にクロが成長しました。とだけ告げておいた。
人の姿となったクロが何を食べるのか気になったのだが、クロはテーブルの上に並べられた料理には見向きもしなかった。
席を立ち、俺の隣に来る。
「ユウ、ご飯」
そう言って、俺の腕を甘噛みしてきたのだ。
「え、ご飯ってやっぱり魔力なのか?」
「クロご飯、昔から魔力」
やはり、子犬の時と同じで、魔力が食料のようだ。
しかし、何故だか吸収量が大幅に減っていた。
昨日までは1食分で1/5位減っていた俺のMPだが、今は1/10も減っていない。人の姿になった事で、取り敢えずの成長期は終わったのだろうか?
エレナも昨晩は、この屋敷に泊まっていたようだ。
そして、何やら豪華な装飾が施されたカードを手渡してきた。
「お父様にお願いしていた魔導具の売買をするための許可証ですよ」
「お、ありがとうエレナ!これで魔導具の購入が出来るよ」
このカードがあれば、魔導具の購入だけではなく、通行禁止場所に入れるだとかエルフの里内で規制されている事がほぼ全て可能になる特典付きだそうだ。
「無くさないようにお願いしますね」
「こんな貴重な代物、いいの?」
「ユウ様は、この里にとって、特別な存在ですから」
そう言い、エレナが微笑んでいる。
礼を言って、早速外へ繰り出す事にした。
エレナも一緒に来ると言っているので、みんなで行く事にする。
その際、クロの足取りが若干おぼつかない。どうやらまだ二足歩行に慣れていないようだ。
俺は、クロのペースに合わせつつも、ユイに一つのアドバイスをした。
「ユイはクロのお姉ちゃんなんだから、ちゃんとクロの面倒を見てやるんだぞ」
ユイは、おでこに手を当てラジャーのポーズを取る。
後ろを振り返ってみるとユイがクロの手を引いている。
その様はまるで本当の姉妹のようだ。
ホッコリするその後継を俺とエレナも微笑ましい表情で眺めていた。
途中寄り道しながらもいつの間にか、お昼になっていたので昼食をサッと屋台で済ませ、俺たちは猫店長の店の前までやってきていた。
そして中に入る。
「いらっしゃいませニャ」
いたいた。愛くるしい猫店長が。
客が俺たちだと気が付くと、声を荒げる。
「ニャニャ!またおまえらかニャ!」
ユイの視線が一点に集中している。
クロの手を引いたまま、一直線に猫店長の元まで駆け寄る。
「猫ちゃん、なでなでなで」
もうやってるよ。
「やめるニャ!」
猫店長は必至に抵抗しようとする。
カウンターの上からの必殺の猫パンチを繰り出している。
今回は、前回と違いクロもいたので、2人で猫店長を捕まえて、なでなで、もといモフモフしまくっている。
俺も参加しようと一瞬思ったが、エレナと目が合ってしまったので自重する。
エレナが、ユイたち元へ近寄る。
「ユイちゃん、クロちゃん、クラムさんを放してあげてね」
どうやら、猫店長の名前はクラムさんと言うらしい。
二人がコクリと頷くと、渋々といった感じで猫店長を解放した。
「助かったニャ、エレナ様」
ユイが耳を下に下げて、シュンとしている。
エレナが、そのユイの頭を優しく撫でている。
その姿を見た猫店長が、デレまがいな事を言っている。
「ま、まぁ、少しくらいなら撫でられて上げてもいいニャ」
猫店長は、優しいのだ。
さてと、事態も収まった事だし、本題に入るとする。
俺は猫店長にエレナから貰ったカードを見せる。
すると、無言でカウンターの奥から、先日リストで確認した1~4の魔導具の現物を持って来てくれた。
総額は金貨380枚だった。
金額を聞いて驚いていたのは、この中ではエレナだけだった。
勿論一括払いで金貨380枚を払い、現物を受け取った。
「毎度ありニャ」
俺たちは店を出て、次なる目的地へ向かい歩いている。
以前立ち寄った際に、王の許可が必要と言われたお店がもう一つあったのだ。
それは、魔導書を取り扱っているお店。
俺に関していえば、読むだけで覚えられるので便利な魔術があったら、なるべく購入しておきたいと思っていた。
魔術屋の前までやってきた俺たちは、店の中に入る。
「おや、お客さんかい?珍しい。って、エレナ様じゃないかい!」
店主の恰幅のいいおばちゃんエルフがエレナを見て驚いていた。
取り扱っている品物が品物な為、この店に立ち寄る客は、ほとんどおらず、多くても一日一人、二人なのだとか。
驚いているところ申し訳ないんだけど、おばちゃんエルフに頼み、商品のリストを見せて貰った。
1.妖精の羽:背中に妖精の羽が生えて、10秒間だけ空を飛ぶ事が出来る。
価格:金貨20枚
2.#防御力上昇__ヴァイタリティアップ__#:対象者の耐久力を一時的に上げる事が出来る。
価格:金貨10枚
3.ダイビング:水中で呼吸する事が出来る。
価格:金貨10枚
4.睡眠:相手を眠らせる事が出来る。
価格:金貨10枚
他にも色々とあるが、すでに覚えている魔術だったり、劣化版だった為、目ぼしいのはこの辺りだろう。
俺は4つを即購して、店を出た。
「ユウ様の財布は凄いですね、正直王族の私ですら、驚くほどですよ」
「あはは・・」
俺は笑ってごまかしていた。
気が付けば、日も暮れ始めていた。丸一日近くブラブラしていたことになるのか。
偶然にも王宮の近くまで来ていた事もあり、折角なのでとエレナが夜は王宮でご馳走してくれると言う。
断る理由もないので、みんなでお邪魔することになった。
王様は、外出しており、現在この里にいないようだ。
いつも家族で食べていると言う食堂に案内してくれた。
しばらくすると、エレナの母親ことミリハさんが食堂に入ってくる。
「あらまぁ、ユウさんじゃない」
俺の顔を見て、何故だかテンションの上がるミリハさん。
席は複数空いているのに何故俺の横に座る!
ミリハさんが来る前にエレナは「シェフの所に行ってくる」と言い、席を外していた。
「ところで、エレナとはその後どうなの~?」
ん?その後とは、一体どういう事だろうか。
言われている意味が分からず困惑していると、エレナが戻ってきた。
!?
「もぉ!お母様、そこは、私の席です!」
「エレナは、ユウさんといつも一緒なんだから、たまにはいいじゃない。お母さんだってベタベタしたいもの」
エレナの頬がプクッと膨らんでいる。
恐らく怒っているのだろうが、可愛らしい表情には変わりがなかった。
親子の微笑ましい光景なのだろうけど、単純にエレナが遊ばれているだけのような気もする。
結局、エレナに引っ張られて、ミリハさんは抵抗しつつも退かされてしまった。
料理も運ばれてきたので、少しゴタゴタしながらも、食事スタートだ。
食事が始まってからも、ミリハさんがエレナをナジっている。その度にエレナは時々頬を赤く染めていた。
その際、たまにこっちにまで火の粉が飛んで来るのは正直やめてもらいたい・・。
「ねえ、ユウさん。エレナとは、どこまでやったの?」
「ぶほぉ・・」
俺は、食べていたものを吹き出しそうになってしまった。
エレナが真っ赤になり、反論する。
「ちょ、ちょっと、お母様!私たちはまだ、そんな・・」
段々とエレナの声が小さくなっていた。
ヤバい、何かこのままだと誤解されてしまうんじゃないだろうか。
ハッキリと言わなければ。
「えっと、ミリハさん、僕らはそんな関係じゃないですから!」
ガチャンッ!
何の音かと思い隣のエレナを見ると、エレナが手に持っていた茶碗を床に落とした音だった。
エレナは、呆然とした「えっ?」という驚いた顔をしている。
そして、眼に涙を浮かべ、ドタドタと外へと走り去ってしまった。
え、何が起こった?
なんかマズい事言った・・?
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
MMOやり込みおっさん、異世界に転移したらハイエルフの美少女になっていたので心機一転、第二の人生を謳歌するようです。
遠野紫
ファンタジー
大人気スマホMMO『ネオ・ワールド・オンライン』、通称ネワオンの廃人プレイヤーであること以外はごく普通の一般的なおっさんであった彼は今日もいつもと変わらない日常を送るはずだった。
しかし無情にもネワオンのサ終が決まってしまう。サービスが終わってしまう最後のその時を見届けようとした彼だが、どういう訳か意識を失ってしまい……気付けば彼のプレイヤーキャラであるハイエルフの姿でネワオンの世界へと転移していたのだった。
ネワオンの無い元の世界へと戻る意味も見いだせなかった彼は、そのままプレイヤーキャラである『ステラ・グリーンローズ』としてネワオンの世界で生きて行くことを決意。
こうして廃人プレイヤーであるおっさんの第二の人生が今始まるのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる