幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百九十三話:迷宮トレジャー探検

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「本当!綺麗だね~」

ルーは、目をパチパチさせ目の前で起こっている現象を喰い入るように眺めていた。

「折角だし観ていこうよ!」

ユイも乗り気だった。
ユイの袖を掴んでいるミラもまた、コクコクと頷いている。

やはり女性は、光り輝くものに魅了させられる。
それは、異世界だろうと変わらないのだろう。

「あそこ、空いてるよ」

簡易のドームの中へとやって来た一行は、人数分の席を確保し、開演まで期待の眼差しで待つ。

客席は円形状のホールになっていて、観客席が外円に並べられ、中央が窪地となっている。
デモンストレーションだけでこれだけ胸踊らされるのだから、本番には当然の事ながら期待してしまう。

「お待たせ致しました!本日もたくさんのお客様にお越し頂き、誠にありがとうございます!只今より、ミラージュ、世界の誕生編を開演させて頂きます」

紳士風な男の仰々しい挨拶から幕開けとなった。
挨拶が終わると、ドーム内が暗転する。
真っ暗なドームの中、中央に僅かばかり輝く球体が現れた。
観客の視線が球体に注がれる中、まるで球体自身が意志を持っているかのようにフワリとその身を浮かせた。

ユイたちもその様を固唾を飲んで見守る。

フワリと浮いた球体は、蒼白く眩い光を放ち出した。

「遥か昔、この大地は大陸のない、海だけの世界が広がっていた」

解説の為の場内アナウンスが流れる。
球体の光は、海を連想させているのだろう。

「我々の祖先である生物の根源は、髪の毛よりも小さな小さな生物でした」

海を見立てた光の中に、小さな白い線を模した光が放たれた。
その小さな白い光は、大海原をユラユラと漂っている。

「やがて、海底火山の噴火により、長い長い年月を掛け海だけの世界に大地が誕生しました」

勢い良くマグマが噴き出す情景を赤い光を用いて表現していた。

「度重なる進化により、生物の種類も次第に増えていき、ある種は海の中に留まり、ある種は海の外に出る決心をしました」

ユイたちは、息をするのも忘れるほどに、喰い入るようにその様を見ていた。

その後も生物の進化の過程を巧みに光と解説を使い、生物の誕生の様を再現していく。

時代は移り変わり、人族やエルフ族や魔族でさえ、元は同種の種族だったと説明付けて終わりを迎えた。

最後に、この説明はあくまでも一つの説だと添えていた。
そして、種族間の差はなく、全てにおいて平等なのだと添えてミラージュ、世界の誕生編が終了した。

「内容は難しくて良く分からなかったけど、何か凄かったね。それに綺麗だった!」

ミラもコクコクと頷いている。

「うん、綺麗だったよねぇ、なんて言うか光がこう、縦に横に縦横無尽に動いて。私、そっちに夢中で解説が入って来なかったなぁ」
「ユウ様にも見せてあげたかったですね・・」

エレナは、以前ユウの理想を聞いていた。
そう、それは全種族の統合だった。

同種の理想を掲げているユウにも見せてあげたいと思うエレナだった。

会場を後にした一行は、当初の目的地であった、迷宮トレジャー探検の会場へと向かう。
地図に記された通りに進むと、広いテーマパーク会場の再奥だった。
進むに連れて段々と人通りが少なくなっていく。

「ねぇ、ユイちゃん本当にこっちであってるのかなぁ?人が全く誰も居なくなっちゃったけど・・」
「うん、地図だとまだ先だよ」
「あそこに見える銅像の辺りが入口みたいですよ。この地図にも目印として表記してあります」

エレナが、指し示した場所には、高さ3m程の背中に翼を持つ人物の銅像が立っていた。
その銅像の前まで進むと、ユイが人影を発見した。
まるで、隠れているかのように、銅像の真後ろにその人物はいた。

「見て、あそこに誰かいるよ」

見ると、仮面を被ったいかにも怪しげな人物が狭い通路の入口に立っている。
他に誰もいない為、エレナが代表してその人物に問い掛ける。

「あの、すみません。私たち、ここに記載されている迷宮トレジャー探検会場を探しているのですが」

仮面の人物は、少しの間を置いた後、

「ええ、ここであっていますよ。皆様全員の参加で宜しいですかね?」

若い青年のような声だった。
しかし、見るからに怪しいの一言に尽きる。

「その前にいくつか教えてよ。お兄さんはなんでそんな格好してるの?」

疑うことを知らない純粋無垢な気持ちで只々自らの疑問に問い掛ける。

「これはね、年齢制限がありますので、少しでも雰囲気を出す為なんだよ。怖がらせておけば、小さな子は寄り付かないでしょ?」
「ふうん。ならさ、女性限定なのはなんでなの?」
「以前開催した時にね、迷宮で密室なのをいい事に、起きてはならない事件があったんだよ」

ユイもミラもまだまだ子供だ。
今の説明だけで納得が言ったのは、エレナとルーだけだった。
二人とも若干ながら頬を赤く染めていた。

「そういえば、ここへ来る道中、案内とか係の人もこの場所を知らないみたいでしたけど、何故でしょうか?」

エレナも自身の疑問を問い掛けた。

今まで淡々と答えていた仮面の人物に少しだけ間が空く。

「それは・・・・たぶん、その係の人が新人だったんでしょう。それにこの迷宮トレジャー探検は、昨年できたばかりで、まだあまり知れ渡っていないのでしょう」
「確か、25年のベテランの方でしたよ」
「ならば、まだ昨年に続いて2回目ですので、あまり周知されていないのでしょう。見て頂いたら分かりますが、テーマパークの一番外れで、解りにくい場所ですからね」
「な、なるほど・・」

まだ疑問はあったが、半ば強引に質問タイムに終止符を打たれた。

「えっと、では、皆様全員が参加されるという事で宜しいですね?」

お互いを見やり、一行は頷く。

「ルールは、中に入ったところにある看板を読んで下さい。制限時間は3時間です。ここから出るには、無事に脱出するか、運営の者に救助されるかのどちらかになります。では、ご武運を」

そう言い、仮面の人物が後ろの通路へと案内する。

「エレナさん、頑張ろうね」
「何だか薄暗くて少し怖いですね」
「大丈夫だよ!私がいるから!」

いつも通り、どこから湧いて出たのか、ルーが自信満々に皆を鼓舞する。

入口に設置してあるランプの灯りから遠ざかると、そこは陽の光の届かない暗黒の世界が広がっていた。

「エーテルライト!これで大丈夫だよ」

ユイが灯りを照らすスキルを使う。

「凄いね、ユイちゃんそんな事も出来るんだ」
「盗賊のスキルだよ。あんまし、出番はないんだけどね」

迷宮と言うだけあり、中は迷路のように入り組んでいた。
そして進み始めてすぐに二手に分かれる道へと差し掛かった。

「どっちに進めばいいんだろう?」
「私は右だと思うよ!だって、右の方から何かの気配を感じるもん!きっと、係の人がいるんだよ」

わざわざ迷路と謳っている中にしかもこんなに早く人を配置しているとはルー以外の皆には思えなかったが、どちらが正解とも言えない為、結局右に進む事になった。

ユイもまた、進むに連れ、確かに何かの気配を息遣いを感じ、各々が自然と武器を手にしていた。

予想通り、曲がり角を曲がった先には、体長1m程の蜥蜴型モンスターが待ち構えていた。

その数凡そ6体。

「やっぱり、迷宮ですからモンスターも出るんですね・・」

エレナが動揺する。

「エレナさんとミラちゃんは、後ろにいて。ここは、私とユイちゃんとでサクッと片付けるから」

ルーは、火の精霊を召喚し、蜥蜴モンスターに向かい、火炎ブレスをお見舞いした。
少しは抵抗があるかと思いきや、呆気なく6体全てが一瞬のうちに炭と化した。
過剰威力だったようだ。

その後も何度かモンスターと遭遇するが、ユイとルーの戦闘力の高さに一掃していく。

そうしながら、何度目かの別れ道に差し掛かった際、ユイがある事に気が付いた。

「今度は人の気配がするね」
「もしかして、私たちと同じように挑んでいる冒険者の方ですかね?」
「うん、分からないけど、同時に血の匂いもするよ」

ユイの言葉に全員に緊張が走る。
武器を握る手に力がこもる。
そして真っ直ぐに前を見つめる。

ユイを先頭に慎重に歩みを進めて行くと、目の前に血を流して倒れている女性冒険者を発見した。

すぐにエレナが駆け寄り、容態を確認するが、既に息をしていなかった。

「みんな、気を付けて。この人を襲ったモンスターは、まだこの近くにいるはずだよ」

ユイは、狐人族ルナールで人族に比べると何倍も耳と鼻に優れている。

目の前以外に血の匂いがするのを感じ取ったのだ。

ルーが自身が持てる最大召喚数である3体の精霊を召喚する。
3体の内2体は、攻撃に特化した精霊で、1体は防御に特化した精霊だ。
自分自身は当然の事、非戦闘員のエレナとミラを守る為だった。

「リリザス!二人を守って!」

ルーの言葉に、精霊リリザスが結界を張った。
此方の準備が整うとほぼ同タイミングで、前方からモンスターが現れた。

「あいつ、攻撃通るのかな・・・?」

ユイがボヤくのも無理はない。
一行の目の前に現れたのは、装甲をギラギラさせている巨大なゴーレムだった。
どうみても、通常の武器が届きそうには思えなかった。

「ユイちゃん、たぶんあれ、物理攻撃無効で魔術しか効かないと思う」
「だよね。だったら私が引き付けるから、後はお願い!」

ユイたちは、余程の相手でなければ、何通りもの連携パターンを既に熟知している。
これも全て、口うるさくユウに言われて身に付けたものだった。

ユイの素早い動きでゴーレムを撹乱させ、その大振りの拳を楽々と躱していく。

「今だ!フレイムアロー!!」

ルーの言葉に合わせて、精霊が炎に包まれた矢を射る。

フレイムアローは、触れた物全てを即座に火達磨にする特性を持っていた。
それはゴーレムとて例外ではなく、着弾すると一瞬の内に、その巨体が火に包まれた。
しかし、火に包まれた程度でゴーレムはその歩みを止める事はなかった。
ゆっくりではあるが、一歩、また一歩と近付いてくる。

「ユイちゃん、こっちに来て!」

ユイを精霊が張っている結界の中へと入れる。

「じゃあ続けて行くよ!フレイムバーン!!」

フレイムバーンは、フレイムアローによって火達磨になっている相手にのみ有効の特殊魔術だ。
対象を爆発させるという単純なものだが、火達磨になっている時間が長ければ長いほど爆発の威力は肥大化する。

そして、ゴーレムは、その体を真っ赤に染め、大きな爆発音を立て、消滅した。
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