女神のために

タクナ

文字の大きさ
上 下
12 / 12
私を助けて

第十一話 少年の誤算

しおりを挟む
※深夜の一人称視点

 「…………オイ、なんだその目は?」

 ジト目を向ける太一とエアに対して、不機嫌極まりない声で俺は言った。特に、下を向いて頭を振りながら呆れる太一に向けて。だが、当然の如く呆れ声が返ってきた。

 「深夜って、意外と抜けてるのね……」

 「なぜ、そんな話を聞いていて他の異邦人がいないと思うんだ? 確実にいるだろっ! ていうか、アンタの母親は異邦人だったのか!?」

 太一の言葉に、たっぷり5秒ほど固まってから俺は応えた。なぜなら、今まで目の前にエアという存在が来るまで、その事実をすっかり忘れていたのだ。
 自分が覚えている限りだが、父親が話してくれた唯一の母親の話だったはずだ。それを全く覚えていなかった。
 いくら人間の脳が全てを覚えていられないからといって、こんな重要なことを忘れてしまうものだろうか。

 「…………なぜ、俺は忘れていたんだ?」

 その声は呟く程度の小さい声だったが、強い意思が隠れていた。
だが、深夜のものとは思えないほど低く冷え切った声で、深夜を知るものからは想像もつかないような声だった。
 それに、自分でも驚いていたくらいだ。

 「オイ、難しい顔してどうした深夜?」

 目敏く俺の微かな変化に気付いた太一が声を掛けてきたが、心配をさせたくないのでなんでもないという風に首を振った。今、この疑問を話すことはやめておこう。自分でもなぜかわからないのだから。

 「いいや、なんでもないさ。そういえば思い出したコトがあってな」

 「ん? なんだ、それは」

 俺は太一を部屋の隅まで引っ張り、エアに聞こえないように耳打ちした。あの驚異的なまでの聴覚を欺くためである。

 「俺の家に女性用の服が一着もなくてだな。俺の服をエアに貸したんだが、ちょっとアブナクないか? いろんな意味で」

 そう言いきると太一はエアのほうを見て納得したように頷く。そして、渋い顔になりながら言った。

 「仮にも追われる身だということを忘れているかのような恰好だな。あんな服じゃ、そこらの男共は全員寄って来るぞ。注目を集めること間違いなしだな」

 あんな服というのも、着ているのは深夜が持っているTシャツとジーンズ(深夜はシャツとジーンズしか持っていない)だ。一見すると地味に見えるが、女の子特有の体つきと、抜群のスタイルを持つエアが着ると恐ろしい破壊力を持つ。
自分の顔を見慣れている深夜は、必然的に女性に対して免疫があるが、その深夜ですら色々とやばい。

 「…………上にジャケットでも羽織れば大丈夫じゃないか?」

 自分は顔さえ隠しておけば地味そのものなので、目立たなくさせるための解決法が全く思いつかない。苦肉の策として出した提案もすぐに太一が首を横に振る。

 「どこぞのモデルみたいになるぞ」

 にべもなく拒否する太一。言いたいことはすごくわかるし、雑誌の表紙を飾っている姿が容易に想像できる。想像ですらとても似合ってしまうので、これまた質が悪い。
 二人揃って同時にエアを見て、これまた同時に溜め息を吐く。
 鏡写しのように見事に同時に動いた二人を見て、エアがギョッとしたような表情になり、若干身を引く。だが、悩んでいるというのを悟ったのか、すぐに訝しげな表情に変わった。形の良い眉をキレイに寄せて、実に困っているという様相を呈している。実に可愛い……じゃなくて!

 「何よ、二人ともどこか諦めたような顔して」

 「「……諦めるしかないよな、やっぱり……」」

 二人全く同時に声を発し、全く同時に溜め息をついた。ここまで同時とか、大親友すぎるだろ。

 「君たち、なんだかヘンよ? 頭でも打ったの?」

 「自覚してないトコロがまた恐いっ!」
 「どこぞのモデルよりタチが悪いな」

 益々、怪しげな顔になったエアに対し二人は悪態をついた。太一と同じことを考えていたのが、妙にこそばゆい。
 エアは訝しげな顔から取って代わり、眉を吊り上げて目を細めるという険しい顔になったので、危機を察した俺が素直に打ち明けた。美人は怒らせると怖いというのは、深夜の経験則によるものだ。

 「イヤイヤ、エアが可愛すぎてどうしようかっていう話だよ」

 隣の太一を見たら、いつもみたく囃し立てるのではなく真剣に頷いていた。太一も本能的にエアの危険度を察したのかもしれない。

 「そうそう、深夜の言う通り」

 「エアが可愛すぎてどうしようかっていう話だよ」

 深夜の言葉を全面的に肯定した太一と、さっきと同じ言葉を繰り返す深夜。
 二人の真剣さが伝わったのか、異性に(しかも、片方は超美少年)に揃って可愛いと言われ一気に顔を赤くするエア。

 「え、えーと。なんか誤解してたようでゴメンなさい」

 「いやぁ、君が謝るようなコトじゃないさ。俺が貸した服のせいでもあるからね。しっかし、どうしようかなぁ」

 「……………………」

 赤くなりながら謝るエアが可愛くて、言葉を発する時に少し照れてしまう。
 うーむ、誤魔化せたからいいか。いや、それにしても、チョロすぎないか? エアがこの先、ヘンな男に捕まらないか心配だなぁ。などと母親目線で見てしまう。
 まぁ、すでに自分たちといる時点で、ヘンな男に捕まっているとも言えなくもないが。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

心の癒し手メイブ

ユズキ
ファンタジー
ある日、お使い帰りのメイブは、”癒しの魔女”が住む『癒しの森』の奥で運命の出会いを果たす。倒れていたのは、平和を象徴する東の大国メルボーン王国の近衛騎士、レオンだった。彼が抱える使命とは、”曲解の魔女”によって突如もたらされたチェルシー王女を苦しめる『魔女の呪い』を解くこと――ただそれのみ。 “癒しの魔女”ロッティと、その使い魔であるヒヨコのメイブは、彼の願いに共感し、勇敢なる冒険へと旅立つ。 魔女の使う禁忌『魔女の呪い』は、生命力を吸い取り苦しみを与え死に至らしめる強力なもの。唯一解呪することができるロッティの魔法効力を底上げ出来る『フェニックスの羽根』を求め、使い魔メイブ、”癒しの魔女”ロッティ、”霊剣の魔女”モンクリーフ、近衛騎士団長レオン、騎士フィンリーは旅に出る。 世界の南ルーチェ地方に位置する『癒しの森』を拠点に、数々の困難な試練と不思議な出会い、魔女や人々、そして仲間たちとの織りなす絆を描くこの物語は、信じる心と愛情の物語でもある。 怒り心頭の”曲解の魔女”が語った愛するペットが被った悪戯の真相、人語が話せないことで苦悩するメイブ、心に秘めた思いと使命の板挟みに葛藤するロッティ、自分の行動に対し無責任だったモンクリーフの心の成長、人間でありながらメイブの言葉が判ってしまうフィンリーの秘密とメイブへの恋、忠誠心故に焦るレオンの誠実な想い。ロッティとレオン、メイブとフィンリーの異種族間の恋愛模様や、みんなの心の成長を経て王女の解呪に挑むとき、ロッティとメイブに立ち塞がる最後の試練は!? きらめく冒険と温もりに満ちたファンタジーが、今ここに始まる。 中世欧州風の、人間と魔女が共存する世界アルスキールスキンを舞台に、小さなヒヨコの使い魔メイブと、魔女や人間たちとのほのぼの王道ハートウォーミング冒険ファンタジー。

夜な夜な魔法少女に襲われてます

重土 浄
ファンタジー
俺こそが世界を滅ぼす最悪の敵だった?  そんな俺を付け狙う魔法少女たちは、夜な夜な俺のアパートに入り浸り俺を攻め立てる。  世界の破壊者となった俺と美少女三人の魔法少女が夜ごと繰り広げるちょっとHな添い寝バトル開催!

処理中です...