上 下
16 / 65
第3話「知らない間に押し付けられた債務!計画倒産を目論む悪徳経営者にリベンジだ!」

3-4「金城司法書士事務所」

しおりを挟む
「金城司法書士事務所」
 陽菜は、帰りの行楽客でにぎわう京阪電車の中で人野にいろいろと話をした。人野はひとつひとつに頷いてメモを取った。夏子は、(難しい話は、陽菜ちゃんに任せといたらええよな。私が首を突っ込んでもややこしくするだけやしな。それにしても、あんないい家、放ったらかしにして人野さんとこの社長どこに連れ去られてしもたんやろか?2週間に一回の訪問って何なんかな?この広い大阪で1週間で人探しなんかできるんやろか…。なんか、不安になってきたなぁ…。)と考えながら窓の外を見つめていた。

 古川橋で3人は電車を降り、そこから15分ほど歩いた。夏子と陽菜がニコニコ商店街でリサイクルショップを開業する際に、商店街会長から紹介をもらった、お人好しでリーズナブルでちょっとおせっかいなおじさんとイケメン先生のふたりでやっている「金城司法書士事務所」にやってきた。
 「よろず相談承ります」の売り文句に嘘はなく、イケメン所長で司法書士の森先生と補助者で「自称もぐりのオールラウンドコンサルサント」の副島のおっちゃんと呼ばれるふたりが人野を迎えてくれた。
 事前に人野が「リサイクルショップニコニコの夏子さんと陽菜さんの知り合いです」と言って電話をしていたのでスムーズに話は進んだ。
 陽菜の指示通り、人野は副島に書類を渡し、コピーを取ってもらった。要望を伝えると、森と副島がふたりでこそこそと話をすると、森から「明日の昼にまた来てください」と言われた。今まで、社長のところで出入りしていた「先生」と呼ばれるどの「サムライ業」の人たちとも違うフレンドリーな雰囲気が人野に伝わった。
 夏子は最後に副島と目が合った気がした。(まあ、副島のおっちゃんには私の姿見えへんはずやし、気のせいかな?)と考えた。



 金城事務所を出ると強い風が吹いた。「ぱさっ」っと夏子の顔に風で飛ばされてきた紙が貼りついた。
「もう、何やねん!鼻紙とちゃうやろなぁ?」
と夏子がいぶしがって髪をつまむと、5000円札だった。
「きゃー、「樋口一葉」やんかー!ラッキー!」
 夏子は周りでお金を落としたであろう人がいないか探した。見える範囲では人ひとりいなかったのでよほど遠くからか、落ちていたものが風で煽られて飛んできたのだろうと思った。物欲しそうに陽菜の目を見る夏子に
「財布やったら届けなあかんけど、ばら札やから人野さんにあげとき。私ら持ってても使われへんからな。」
と優しい言葉をかけた。
 人野は申し訳なさそうに受け取ると、
「おふたりにはご迷惑おかけしましたので、大したことはできませんがよかったら、今晩うちでごちそうしますので寄って行ってください。腕を振るわせていただきますから。」
と控えめに申し出た。夏子と陽菜は顔を見合わせ、有無を言わさず同時に頷いた。

 業務用スーパーで5000円で材料を購入し、3人は人野のアパートに戻った。人野は、狭いキッチンではあるが、手際よく調理を進め、次々と夏子と陽菜にサーブした。前菜に始まって、かっちりとコース形式で5品。ミシュランシェフの腕をふたりは堪能した。喜ぶ、ふたりの顔を見て人野も嬉しそうだった。
 すっかり満腹になった夏子が人野に小さな声で聞いた。
「人野さん、彼女とかいてんの?」



人野は片づけをしていた手を止め、夏子に言った。
「いません。いたこともありません。料理、料理でそれどころじゃなかったですから。はずかしい話ですけど、28歳で彼女歴無しの童貞です。カッコ悪いでしょ?」
人野の言葉に夏子は赤くなって再度尋ねた。
「女の子に興味ないの?」
「うーん、興味ないことは無いですよ。ただ、今までに女の人と話す機会がなかったんで。おそらく、この一生で女性と話した時間では、なっちゃんと陽菜ちゃんがトップ2ですね!」
とさわやかに笑った。夏子は意を決して
「それやったら、今晩私と…」
と言いかけた瞬間、ガンガンとドアが蹴られ、ドアの向こうから怒声が飛んだ。聞き覚えのある声は、昼に取り立てに来ていたふたりであることは間違いない!
(くっそー、せっかくのチャンスを邪魔しやがって!)夏子は再び「ナイトメア」を送り込んだ!

 夏子の送り込んだ「ドアのノブから無数の紫色の触手が出てきて、手のひらや腕を食い破り体内に侵食していく悪夢」に男ふたりの悲鳴が上がった。さらに、怒りが収まらない夏子はさらにパイロキネシスで体が発火するイメージを送り込んだ。
「ぎゃおっ!」男の叫びが響くとガタンゴロンと階段を転げ落ちる音が室内にまで響いてきた。
「なっちゃん、ちょっと出かけてくる!あとはよろしく!」
と言い残し、突然、陽菜は壁から「すーっ」と出て行った。アパートの前でエンジン始動音が響くとキュルキュルキュルとタイヤを鳴らし排気音が遠ざかっていった。

 4月30日朝、夏子と人野は一晩中、徹夜で話をしていて、周りが明るくなりなりかけたとき、人野が敷いてくれた布団で夏子は休み、人野は壁にもたれ、バスタオルを被って座ったまま眠りについた。
 朝7時のアラームが鳴って夏子が目を覚ました瞬間、壁から陽菜が抜け出てきた。
「あれっ、なっちゃんやらずじまいやったんかいな?せっかく気を利かしたったのに…。もったいないことしたな。ケラケラケラ!まあ、私も徹夜明けやから、今から1時間半寝させてな!」
と言いうと、夏子の寝ていた布団にもぐりこみ、すぐにすやすやと眠りに落ちた。

 午前8時半、陽菜は、紅茶の香りで目を覚ました。鼻をくすぐるアールグレイと焼けたトーストとベーコンと蜂蜜の香りで人野の家にいることに気がついた。夏子と人野はふたりでテーブルで既に食事をとっている最中だった。(おっ、何かええ感じやん!もしかするとあと5日の間になんかあるかな?)と陽菜は思った。
「おはよう、朝ごはん食べたら、すぐに金城事務所に行こか!」
陽菜が言うと
「えっ、お昼の予定やなかったん?」
と夏子が返した。陽菜は、細かい話は飛ばして、朝9時の訪問が可能か、人野に電話で確認させた。司法書士の森は法務局に行く予定だが副島は事務所にいるとこ事だったので訪問することにした。

 金城司法書士事務所につくと、横に着いた陽菜の言うことを人野はオウム返しで副島に伝えた。昨晩、取り立てに来ていた男たちのおんぼろセルシオの後部席に便乗し一晩いろいろと調べに回っていたらしい。
 副島から森に連絡してもらい、法務局で、人野の会社の履歴事項等全部証明書と社長の家の登記閲覧以外にいくつか追加の調べ物を依頼した。

 9時10分、副島のスマホに森からラインが入ってきた。写真が2枚来ていた。一枚は、人野の会社の履歴事項等全部証明書の写真だった。その登記簿では、人野が代表取締役になっており、黒井の名前はなかった。相談役に人野の知らない男の名が入っていた。変更登記は2週間前に行われていたことが分かった。 
 もう一枚は、陽菜が追加で調べて欲しいといった会社のものだった。

 10時、陸運局に移動した森から社長が載っていたベンツの現在登録証の写真が送られてきた。車両所有者は別の法人に変更されていた。(やっぱり…。私の感が正しければ…)陽菜が思った直後に、2枚目に履歴登録が送られてきた。その画を人野の肩越しに覗き込んだ陽菜は確信した。10時40分、森が帰ってきた。それと同時に事務所の電話が鳴った。副島が対応した。副島が依頼した仲間の弁護士からの電話だった。
「人野さん、黒井譲司の現住所が分かりました。元の住所からは2週間前に移転してますね。住所は…」
(これは、もう間違いない!人野さん、ごめんね、ちょっと体借りるで!)と陽菜が人野の背中から入り込んだ。そこから、約30分、陽菜が憑依した人野と森と副島で喧々諤々けんけんがくがくと議論が交わされた。副島が指示を出し、森がパソコンを叩きプリントアウトしていく。出された資料を憑依した陽菜も副島と一緒に確認した。
 夏子は何が起こっているのか全く理解できずにおろおろするだけだった。そんな夏子に今日も副島の視線が向いた。(ん?明らかに私の存在を副島のおっちゃんは分かってる?)夏子が思ったところ、副島の指示で森と人野は別室に移動した。
 
 副島は、部屋でふたりっきりになった夏子に正面から向かい尋ねた。
「リサイクルショップニコニコのなっちゃんやな?なんかすごいカッコしてるけど。」
「えっ、おっちゃん、私の姿が見えるん?」
「あぁ、陽菜ちゃんの姿も見えてるで。ついさっき、なっちゃんと陽菜ちゃんやって確信が持てたんでな…。ところで…」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然覚醒した巫女の夏子が古代ユダヤのアーク探しに挑んだ五日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R《リターンズ》~

M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第1弾!ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第1弾の今作の主人公は「夏子」?淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基にアークの追跡が始まる。もちろん最後は「ドンパチ」の格闘戦!7月1日までの集中連載で毎日更新の一騎掲載!アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!では、感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました

福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。 現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。 「君、どうしたの?」 親切な女性、カルディナに助けてもらう。 カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。 正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。 カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。 『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。 ※のんびり進行です

完結!「お母ちゃん(霊)といっしょ」&『夏だ!お盆だ!怪談だ!オカルトネタ大好き!「MNRJオカやんR」」

M‐赤井翼
現代文学
夏ですねー! 夏といえば「稲淳」! もちろん「稲垣潤一」さんでなく「稲川淳二」さんですねー! 思い起こせば、2020年のコロコロの頃(※韻を踏んでみました。) 全国の劇団は「蜜」を避けるために、「劇」ができず、客も入れられず「どないしたらええねん!」状態でした。 そんな中、依頼を受けたのが「ソロライブ(ひとり演劇)」形式のオンライン配信でした。 「赤井先生、コロコロの鬱憤はらすような話書いてよ。基本的に笑えるやつね!」 という事で、書いたのが 「オカルト系コメディー」劇の「MNRJ《ミッドナイトラジオジョッキー》オカやん」でした。 早いもんで今年でもう5年。 もちろん今年も「月刊ムー」の布教になればと思い楽しんで書かせてもらいました。 その2年目の作品群が今回公開する6本です。 (※他の年度の作品は「大人の事情」でここでは公開できません。なぜか、2年目はこの作品を多くの方が「使いまわしをしても良い」という妙な契約だったので、こうして公開することができています(笑)。 基本的には「ホラー(&コメディ)」の深夜放送の物語です。 DJのオカやんがひたすらリスナーの投書を読んで突っ込むというスタイルです(笑)。 お時間ある方に「かるーく」読んでいただくものなので、深く考えないでください。 では、「MNRJオカやん」始まるよー!(※順不同のランダム掲載です。) (⋈◍>◡<◍)。✧♡

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

「お疲れ「生」です」! 「音玄万沙ちゃんファンクラブ」設立しました!サポーター募集中!(⋈◍>◡<◍)。✧💓

ひいちゃん
現代文学
初めての投稿です! この度、RBFCの「あーくん」さんの協力を得て「音玄万沙ちゃんファンクラブを立ち上げました! 私が小説を書くわけじゃないんですけど、赤井翼先生と現在、連載中の『ながらスマホで56歳のおっさん霊を憑依させざるを得なくなった23歳の女劇団員「音玄万沙《ねくろ・まんさ》」の物語』を全力で応援する会として、「感想欄に書ききれない作品に対する思い」を書き連ねていこうと思いまーす! 「音玄万沙ちゃん」の読者の皆さんに読んでもらえたら嬉しいです(笑)。 では、よーろーひーこー!

邪悪で凶悪な魔物ですが聖女です。~神の使命を忘れて仲間と気ままなスローライフを送っていたら、気付けば魔王とか呼ばれていた訳でして~

日奈 うさぎ
ファンタジー
 とある山奥にて魔物のお友達と共にスローライフを始めた心優しき子猫獣人のネルル。実は彼女には誰にも言えない秘密があった。  それは彼女が元人間で、魔物の宿敵である聖女だったということ。  聖女、それは人類を産んだ至高神オーヴェルの力を授かりし者。本来なら神の使命を全うして神々の仲間になるはずだった……のだが。  色々あって転生した結果、なぜか人類の敵である魔物に生まれ変わってしまった訳でして。  それでもネルルは諦めなかった。人間の敵になろうとも優しい心を忘れず、一生懸命生きようと努力し続けたのだ。  そうして苦難を乗り越え、分かり合える友達と出会い、その末に山奥の元聖地という自分たちの理想郷を手に入れたのである。  しかしそんな彼女たちの平穏は意図しない客人によって振り回されることに。  人間や魔物の間で噂が広まり始め、気付けば尾ひれ背びれが付いて収集が付かなくなっていって――  元聖女だとバレたくない。でもお友達は一杯欲しい!  だけど来るのは奇人変人ついでに亜人に怖い魔物たち!  その中でネルルたちは理想のスローライフを維持し続けられるのだろうか!?  邪悪で凶悪な猫聖女の新たなる人生譚が今ここに始まるにゃーん!

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

女神扱いを受ける夏子と伝説の怪異「令和のメリーさん」に挑んだ四日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R2《リターンズ2》

M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第2弾!ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第2弾の今作の主人公も「夏子」?夏子は稀世にかわって「ヒロイン」に定着できるのか? 今回の敵は」懐かしの怪異が令和の時代によみがえった「令和のメリーさん」!かつて「口裂け女」、「八尺様」と並んで「昭和の怪異トップ3」だった「メリーさん」がデジタルの時代に堂々復活! そりゃ「貞子たん」だって「ビデオ」だったのが今じゃ「ネット」で増殖だもんね(笑)!「メリーさん」もアナログ電話からスマホにステージを変えて「呪い」をばらまきます! 女子高生の自殺者が頻発する門真の街を夏子達ニコニコ商店街のメンバーは救えるのか?7月27日までの集中連載で毎日更新の一騎掲載!「令和のメリーさん」との対決と「夏子の恋の行方」をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!では、感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす! いただいた感想やイラストのメールは本編「おまけ」と「RBFC4-H(レッドバロンファンクラブ4-H)」で不定期で公開していきますよー! ではよろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...