【完結】『夏子と陽菜の犯科帳４　ＴＨＥ　FINAL～カルト新興宗教「魂の解放」から洗脳娘を救い出せ！～』　

M‐赤井翼

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「４９日後」

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「４９日しじゅうくにち後」

　向日葵寿司で黒のフォーマルを着た直が三朗に
「あのあほボケコンビがこの店に来えへんようになってもう４９日しじゅうくにちか…ちょっとさみしいのぉ。」
とカウンターに「３本の男物の数珠」を置いて指でいじりながらビール飲みながら呟いた。
「直さん、こんな日くらいあんまり飲みすぎんといてくださいよ。大事な日なんですから…。」
三朗がたしなめるが「飲んだるんも供養の一つやろ。」と三朗の注意に取り合わない。稀世が黒のフォーマルワンピースでひまわりを抱っこして降りて来た。ひまわりも白いブラウスに黒いスカートを身に着けている。
「直さん、真珠のネックレスで失礼じゃないかな？」
「せやな、弘道君と良太郎君は地獄の始まりやからええんとちゃうか。あと満君もな。まああの三人にとっては「葬式」みたいなもんや。
　あの、真面目な弘道君があほの夏子のことをそこまで本気で好きやったとは気づけへんかったなぁ。結果的には残念やったけど、あの時は夏子と陽菜のおかげで弘道君も良太郎君も満君も撃たれずに済んだんやからな…。夏子も陽菜も最後に一つええことできてよかったやないか…。」
と再度ビールをあおった。

　「せやね、まあ今までいろいろとあったけど、やっぱりなっちゃんと陽菜ちゃんあってのニコニコ商店街やったもんな。なっちゃんと陽菜ちゃんが撃たれておれへんようになった後は、めっちゃ静かになってしもたもんな。こども食堂の子供らもみんなすごく寂しがってたで…。」
稀世が呟くと、夏子と陽菜の思い出話が続いた。
　実質的に門真工科高校卒業後の「やろうぜ会」復活のきっかけとなった「キリン幼稚園買収防御事件」、高校時代の宿敵のフォアローゼスの７名が豪華クルーザーに拉致され売り飛ばされる直前に奪還に成功した「フォアローゼス７名クルーズ船誘拐事件」、満が「やろうぜ会」に入るきっかけとなり、最終的には首相暗殺計画を阻止した「ハッカーＧＰ黒幕壊滅事件」と夏子と陽菜の関わった数々の事件での活躍を思い出しながら直が遠い目をして語った。
　その前で稀世と三朗が神妙な面持ちで頷きながら、二人の関わった出来事を思い出し、少し笑い、少し涙ぐみ、少し感心しながら聞いていた。
「まあ、今日でその気持ち振っ切って、最後にせんとな。そんでぼちぼち日常に戻っていくんやろな。あほ二人のこと思い出して話しとったらビール３本も空いてしもたがな…。稀世ちゃん、三朗、もうええ時間やな。式場に向かうか…。」
「そやそや、まあ、遅刻するんもなんやからぼちぼち行きましょか…。」

　綺麗に花段が飾られた西沢米穀特設リング会場に稀世家族と直が着いたのは式の開始予定時間の５分前だった。
　壁には「なっちゃん＆陽菜ちゃんありがとう」と横断幕が掛かっているのを見て「ふーん、ここまでしたらんでも良かったんとちゃうか？」と直がため息をついた。礼服を着た商店街のメンバーが次々と会場を訪れてきた。口々に夏子と陽菜のことを話題にしている。
　
　式の開始時間が来た。司会役の檜ひのき生花店の檜與平ひのき・よへいがマイクを握りリング上からみんなに語り掛け始めた。
「４９日前のカルト宗教教団「魂の解放」を解散させるも、蘇った教祖による凶弾に倒れたなっちゃんと陽菜ちゃんの勇気ある行動に大阪府民として二人に深く感謝の意を送らせていただきます。黙祷。」
　出席者全員が黙祷をささげた。
　
　「ご協力ありがとうございます。では、ただいまより式を始めさせていただきます。カメラをお持ちの皆様は準備の程、よろしくお願いいたします。
と檜が発声するとニコニコプロレスの若手選手や商店街の女性会員たちがスマホやデジカメを持ってリング前に集まった。
　会場の照明が落とされ、薄暗くなった西沢米穀特設リング会場の奥に設置されたニコニコプロレスのリングの青コーナーが突然スポットライトに照らされスモークが焚かれた。
　そのスポットライトの当たった煙の中から誰もが知るメジャー２次元アイドル初芽クミの人気アイテムである「ウエディングクミ」の真っ白なウエディングドレス姿でかわいいブーケを持った手を振る陽菜をお姫様抱っこして海上自衛隊夏服正装レプリカの良太郎が登場してきた。
　
　「いいよ、ご両人！」、「陽菜ちゃんこっち向いて微笑んで！」、「はい二人で視線ちょうだい！」といつもながらに景気のいい声を掛けながら、笹井写真館の笹井諄一ささい・じゅんいちが陽菜と良太郎の写真を撮りまくる。
　リング中央で、抱っこからリングマットに降りた陽菜と並んで立つ良太郎が会場の客に大きく手を振ると大きな拍手が会場を埋め尽くした。
　
　続いて点灯したスポットライトは赤コーナーを照らした。再び焚かれたスモークの中から右に警官正装の弘道、左にレンタルのタキシード姿の満と両腕を組んで真っ赤なウエディングドレス姿の夏子が登場した。大きな拍手が沸き上がり、フラッシュの嵐が巻き起こる。
　笹井は赤コーナー出口から「ひゅーひゅー！今日のなっちゃん最高！」、「よっ！天下一の美男美女の三人組！」、「弘道君、満君、なっちゃんを中心に少し立ち止まってこっちに微笑んで！」と写真を撮る。
　客席中央の奥では脚立の上から智がテレビ用の肩掛けムービーカメラを担いでレンズを向けている。その横でフォーマルドレスを着た彩雲が目頭にハンカチをあてている。
　
　「ただいまから、上坊良太郎君と仲田陽菜さん。そして篠原弘道君と坂川夏子さんそして相須満君の合同結婚式を開催いたします！皆さん、大きな拍手でお祝いくださーい！」
の檜のコールで今日一番の盛り上がりを迎えた。稀世も三朗、ひまわりと一緒に精一杯の拍手を送っている。

　良太郎と弘道が一歩前に出ると良太郎が檜からマイクを渡された。
「今日は私、上坊良太郎、そして仲田陽菜の結婚式にお越しいただき誠にありがとうございます。４９日前の事件では皆さんに大変な心配をおかけしましたが、元気に陽菜もニコニコ商店街に戻ってまいりました。今日はよろしくお願いします。」
　客席に一礼し良太郎は弘道にマイクを渡した。
「続きまして、篠原弘道です。私は、今日、坂川夏子さんと結婚します。日本の法律の問題がありますので、便宜上、私と夏子さんでの入籍となりますが、相須満君も事実婚としてこれから３人での夫婦生活を送らせていただきます。
　この四十数日、皆さんにはご心配をおかけしましたので、この間に何があったのかを仲間の穴吹智君がビデオを作成してくれましたので、私達、本人出演の「再現ビデオ」をまずはご覧ください！」
　弘道がマイクを檜に返すと、笹井がスイッチを入れ垂れ幕の前に白いスクリーンが降りて来た。会場の照明が落とされ、プロジェクターのスイッチが入れられると、「ニコニコ商店街の守護女神「夏子＆陽菜」の４９日のドキュメンタリー！」とのタイトルが大写しになった。

　再現ドラマが始まると西沢米穀特設リング会場の時間は４９日前の午後１時４０分にタイムリープした。
　再現ビデオは夏子、陽菜、弘道、良太郎は本人役。智はカメラに専念するため満と彩雲がいろんな役につくことになった。
　ビデオには白く四角い門真警察署が映し出された。冒頭で門真署の玄関前にレンタカーが急停車してそこから降りてきたのは「魂の解放」教団の教祖服に似せた宗教衣の彩雲だった。良太郎コレクションのカラシニコフＡＫ―４７のモデルガンを取り出し、大げさに前口上を述べる。
「よくも私の大事な王国「魂の解放」を解散に追い込みやがったなー！何が門真の守護神「やろうぜ会」だ！
　この世に神はひとり！唯一神「天宮城伊織」だけで十分なのじゃーっ！貴様らも今ここであの世に送ってやるぞー！あの世でわが王国に手を出したことを悔いるがよい！」

　「何！天宮城伊織はあの日、教団施設で死んだはず！それはニコニコ商店街の女神のひとり、この坂川夏子が見送ったのだから間違いはないはずや！」
夏子が教祖に反論する。すると教祖役の彩雲が高笑いして答える。
「カカカカ、バカな奴め！わらわはこうして生きておるわ！」
「あの世から蘇ったというの！そんなバカな！警察で遺体も確認されているはずなのに！」
陽菜がうなる。再び教祖役の彩雲が
「あの日、あの場所で死んだのは、わらわの双子の妹天宮城五鈴あまみやぎ・いすずじゃ！わらわの影武者として使ってやっておったにもかかわらず、司祭様を護れず、挙句の果てに警官隊との闘争のストップをわらわのふりをして信者共に命ずるなどもってのほかじゃ！わらわが急用で本国に戻っている間、留守を預けるようなことが無ければ貴様ら虫けらどもなど殲滅してやったものを！」
と毒を吐き夏子と陽菜に銃口を向ける。

　「天宮城伊織！貴様が「二重人格」と言われていた理由が分かったわ！攻撃的で鬼のような貴様と正反対の優しく母神の様な妹の二人がいたのだな！」
「それなら信者たちの言葉も納得がいくわ！悪の総本山の伊織と影武者の五鈴の二人がいたという事なのね！」
夏子と陽菜の解説的なセリフが続く。
「あぁ、その通りだ！できの悪い妹を持ったばかりにわらわの計画はめちゃくちゃだ！いずれは本家を乗っ取り、私が信者百万を超える教団の神となる予定でいたものを、貴様らのせいで台無しだ！
　わらわの計画をじゃました「天才ハッカー」の「上坊良太郎」と「相須満」、そして大阪府警を動かし教団を壊滅させた「篠原弘道」！貴様らだけは地獄に道連れにしてやるわ！覚悟するんだね！」
　教祖役の彩雲がモデルガンの引き金に指をかけるシーンが大写しになる。

　「まて！愛する弘道と満君の命は私、坂川夏子が護る！私の愛する者に指一本触れさせやしないよ！」
「そうよ、門真の守護女神として私、仲田陽菜も愛する良太郎を護るわ！やれるもんならやってごらんなさい！」
の二人のセリフの後、実際にはありもしなかった格闘シーンが映し出された。彩雲一人に夏子と陽菜の攻撃のシーンが続く。

　一方的にかっこよく彩雲演じる天宮城伊織に技を繰り出す夏子と陽菜。ふと夏子と陽菜が大写しになった。
「陽菜ちゃん、あれを使うわ！」
「よくってよ！なっちゃん、合体しましょう！」
と９０年代にヒットした有名アニメ・特撮映画監督の出世作のアニメシーンを真似たセリフの後に日髙のり子と佐久間レイの歌う「Fｌｙ　Hｉｇｈ」をＢＧＭに夏子が仰向けに寝そべり、陽菜がその両ひざをわきに抱え、ジャイアントスイングの体勢に入るまでを大げさなロボットの合体シーンの合成画像と効果音にノリの良いＢＧＭにのせて展開された。

　曲の盛り上がりでジャイアントスイングのスピードが上がり夏子と陽菜のユニゾン発声で
「喰らえー！愛と勇気の必殺技！夏子と陽菜のアイアンロータス改！」
と叫び派手なＣＧ加工で教祖役の彩雲が技を喰らってクルクルと回転しながら空を飛んでいくシーンで客席からは笑いが漏れた。
「大丈夫やった？弘道、満君！」、「ケガはない、良太郎？」と駆け寄る二人の背後に、飛んでいったはずの教祖がボロボロの恰好をして立ち、
「貴様ら全員死にやがれー！」
とライフル銃を乱射する。夏子と陽菜は３人の前に両手を広げ、立ちふさがり銃弾を浴びる。
　良太郎の仕掛けの着弾シーンは、数発の被弾だった実際と違い、夏子と陽菜の身体全面から何十発もの着弾を受けたかのように血しぶきが飛んだ。客席の出席者は息をのんだ。

　弾を打ち尽くし、焦る教祖に弘道が怒りの銃弾を両ひざと右肩に撃ち込んだ。そこからは、リアルと同じ流れとなり、弘道と良太郎の腕の中で夏子と陽菜は意識を失う。夏子と陽菜、そして弘道、良太郎のセリフに客席からむせび泣く声が漏れる。
　そして、救急隊員に扮した満と看護師役の彩雲が登場し、夏子と陽菜を病院に運ぶシーンが再現される。
　「６分後、門真市総合病院に到着した夏子と陽菜の緊急手術は４０時間以上にのぼった。夏子は腹部貫通銃創２か所に胸部、肩を射抜かれており、その銃創は動脈を傷つけていた。致死量と言われる全血液量の三分の一を超える出血で死の一歩手前だった。陽菜は右肺の貫通銃創により片肺は完全に収縮してしまい呼吸不全を起こし、胸部銃創は心臓をかすめていた。あと数センチずれていれば致命傷だった。」
とナレーションが人気の海外医療ドラマの手術シーンと重ねて入れられていた。

おまけ
ようやく一年越しのなっちゃんと陽菜ちゃんのウエディングドレス姿です！
裏ネタはまたそのうち(笑)！