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第2章「災害ボランティア編」
「コスモアイル羽咋」
しおりを挟む「コスモアイル羽咋」
4時45分。男の運転でガタガタになった道路を通り、短い距離を約30分かけて「コスモアイル羽咋」に到着した。屋外に設置展示された1996年にアメリカから100年間の無償貸与を受けたコスモアイル羽咋の顔ともいえるレッドストーン・ロケットは震度6の地震の中でも少しも傾くことなく、ピックアップトラックを迎えてくれた。
羽咋市の非常時の避難所になっている「コスモアイル羽咋」に地元の避難民が集まりかけていた。1990年代初頭に「UFO」での街おこしとして、当時の「スーパー公務員」の企画により設立した「コスモアイル羽咋」は宇宙科学資料館だけでなく、ユーフォニーホールや貸し会議室等がある。既に、羽咋市役所のジャンパーを着たスタッフが来場しており、避難民を誘導している。
屋内は停電しているが、吹きっさらしの屋外と比べると断然に安らぐのか、来たときは緊張でこわ張った人々の顔も少しずつほぐれていくのがわかる。
「ありがとう。助かりました。」マリーアが男に握手を求めると、男はジーンズのお尻で手をごしごしと拭くと
「4人の美人とひとりのイケメンと一緒できて俺も良かったよ。えぇっと日本では「旅の恥は掻き捨て」じゃなくて、「旅は道づれ世は情け」って言うんだったかな?カラカラカラ。ところであんた金髪で碧眼だけど、日本人じゃないのか?他の4人は黒髪黒眼だけど知り合い?
あっ、失礼。レディーに尋ねる前にまずは自己紹介だよな。俺は、「ライス・ハントン」26歳。アメリカ空母「ロナルド・レーガン」の海軍パイロットさ。一昨日から70日の「バカンス中」だ。沖縄の嘉手納の生まれだから英語と同じくらい日本語も話せるんだ。」
気さくな笑顔で話しかけてくるライスにマリーアは、つい気が緩んで
「私達もバカンスよ。双子座星域から地球に来たばかりの4人姉妹と従者の5人なの。地震による磁場の急激な変化で重力制御ができなくなって「小型宇宙船」が海に墜落したところだったの。あなたが来てくれて凄く助かったわ!」
と本当のことを話した。
「おっ、あんた「関西人」だな?それもこんな時でも「笑い」を狙うのは、「京都」や「神戸」の人じゃなく「大阪」だな。「食い倒れ太郎」も「グリコの看板」もずっと笑顔だもんな。あっ、ちょっと待ってな!」
と言い残すと、走って青いジャンパーのスタッフの元に走っていった。
5分程でライスは戻ってきた。
「災害用備蓄品に「着替え」があればと思って聞いてきたんだけど、さすがに無いってことなんで、とりあえず「羽咋市」の作業用ツナギなら貸してくれるってことで借りてきた。風邪ひかないうちに着替えさせてもらってきな。
男物だけど新品の「Tシャツ」と美人姉妹には申し訳ないが「ボクサーパンツ」は俺からのお見舞いだよ。この寒い中、ノーパン…、おっと美人に対して失礼。「下着レス」よりはましだろ。
空母に帰ったら、「能登で「大阪人の宇宙人に俺の「パンツ」やって助けたんだぜ。UAPの動画を流出させた奴を越えただろ!」って自慢させてもらうよ。カラカラカラ。着替えたら温かい「たこ焼き」は無理だけど、コーヒーを沸かしておくから戻っておいで。」
ライスが話しながら、防水バッグから「シャツ」と「パンツ」を出しながら話していると
「えっ、今、誰か「たこ焼き」って言った?私も食べる食べる!」
とそれまで意識のなかったピヨがチャプローの腕の中で目を覚ました。
午後4時56分から6時39分までの間に大きめの余震が8回あった。その後、暫くの間、大きな余震は起こらなかった。
ピックアップトラックの横にテントを張り、ライスがキャンプ用コンロを出し手持ちのミネラルウォーターと日本のインスタントラーメンと蟹の缶詰を出し、5人に順番に
「はいよ!おまたせー!能登名物の「蟹ラーメン」だ。しっかりと温まってよ。あっ、すまん!蟹は「ロシア産」だったわ。カラカラカラ。」
と笑顔で夜食を振舞ってくれた。
ナチュコは蟹ラーメンをすすりながらライスに尋ねた。
「ライスさんはこんな状況なのになんで笑っていられるの?」
「俺たち、海軍パイロットにしたらこんなもんキャンプさ。敵国に墜落したなら焦るけど、ここは「友好国」の日本。背後から銃で撃たれる心配はないし、何と言っても「4人の美人」と「ひとりのイケメン」が一緒の「ハーレム」だからな。カラカラカラ。」
と切り出して、アメリカ海軍のパイロットは海軍学校に入校すると最初に交戦時の「不時着」の際の「サバイバル術」を学ぶと説明された。「ベトナム」、「アフガニスタン」、「イラク」等で敵地内で撃墜された先輩パイロットの「生の体験談」を聞いてきているので、「ノープロブレムさ。」と笑った。
墜落したパイロットはその場にあるものでとにかく味方に救助されるまで「生き続ける」ことが任務だという。具体的なサバイバル術を説明する中、この避難所でも使えるテクニックがいくつかあげられ、「お互い、「漂流者」と「旅行者」。今、この状況で日本の土地の上で寝させてもらうんだから、キャンプ場代替わりに明日の朝からでもみんなで「ボランティア」でもするか!」と前向きな言葉が並んだ。
乾いた着替えとコーヒーと6人で回し食いした「蟹ラーメン」で体も温まり、ピヨたちも自然と笑顔も出てくるようになり、話し声も笑い声も大きくなってきた時、
「ごるぁ!市役所の人間が避難民を放り出して何くつろいでんのよ!」
と若い女の子が怒鳴り込んできた。
驚いたナチュコがライスの腕にしがみついて、鬼の形相の女の子に文句を言い返した。
「何言ってんのよ!私達も地震の被害者なのよ!それに私達は市役所の人間じゃないし!」
女の子は「私は、羽咋市社会福祉協議会の「香箱誠子」!市役所の人じゃなきゃ何なのよ。この状況に外人相手にナンパなんかしてるんじゃないわよ!」と誠子はナチュコの胸ぐらをつかんだ。
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ライスがそれまでの経緯を説明すると、状況を把握した誠子は真っ赤になってナチュコに深々と頭を下げて丁寧に詫びた。
「ごめんなさい。でも、事情を知らない人から見ると勘違いして、気分を害する人もいると思うし…。ちょっと遠慮してもらえませんか?家が倒壊して、着の身着のままでこちらに来られてる人もいますし、道路が寸断されてしまっていることで食料援助も来る見込みがないんですよ。
みんなお腹がすくと気も立ってきますから…。私も要介護者をここに避難させてきて、初めて食事のことに気がついた次第で…。停電してるんで、自動販売機も使えないんで困ってるんですよ。」
するとピヨとチャプローが顔を合わせて同時に頷いた。
「誠子さん、ここの避難者に飲食関係のお店やってる人いないか確認できませんか?スーパーやコンビニでも飲食店でも構いません。もしいたら、ライスさん、車を出してください。食材を買い入れさせてもらえれば「チャプちゃん」と私達でみんなに温かい食事を作りますから。」
「僕もピヨさんと同じ気持ちです。見たところお年寄りも多いみたいですし…。さすがに冷え込んできてますから少しでも温かいものを提供できれば皆さんも少しは気が安らぐでしょうから手伝わせてください。」
二人の言葉に誠子も納得し、一緒に避難所になっているホールに向かった。
幸い、避難者の中に地元のスーパーの経営者がいた。店内の在庫は社会福祉協議会で買い取ることとなった。停電で「冷凍庫」、「冷蔵庫」の商品はダメになるのがわかっていたので状況を鑑みて無償提供を申し入れてくれた。それ以外の日持ちする商品については仕入れ値での購入で話がつくと、店長を助手席に乗せ、ピヨとチャプローと誠子を寒空の荷台に乗せるとライスは街に向けて車を走らせた。
繰り返す震度5クラスの余震が続いたことで、来るときにはまだ大丈夫だった道路に多くの落ちた瓦が広がっていた。
スーパーに到着すると店長とチャプローが発泡スチロールの保冷箱に材料を仕分けしていった。誠子から
「3日に分けて提供できますか?今掴んでる情報からすると、北部への道はほぼ分断されてるようです。南からの道も確認はとれていませんが期待できないみたいなんです。羽咋市以上に、輪島や珠洲は混乱していますし、金沢市内や富山も被害が出てるようです。ですからこの三が日の援助物資が全くなかったとしてもやっていけるように考えてください。
コスモアイル羽咋以外にもこの周辺だけでも10か所の避難所がありますのでそこも考慮願います。」
と言われ、冷蔵物の保冷剤として冷凍物を入れ、外気温は0度ほどまで下がることから冷蔵庫室の建物の窓を全開にして、チャプローは残された食材量を考慮し「ざっくり」とその場でメニューを考えた。(とりあえずは、すぐに作れる暖かいものがええやろ…。肉、魚は明日にでも一斗缶を使って「燻製」にして日持ちさせるか…。後は、水を無駄にしない工夫が必要やな…。)
「まずは、今日は時間がないんで「雑炊」でもしましょう。幸いサラダ油の一斗缶が廃棄されずにたくさん残ってましたのでライスさんが言ってた緊急時の代用調理具として鍋代わりにしましょか。18リットルあれば一度に60人前ほど作れますからね。雑炊なら生米と具材と調味料とミネラルウォーターでできますから。
そして一斗缶で炊けば毛布にくるめば保温できますし、缶ごとコスモアイルで炊いたものを他の避難所に持っていくこともできますしね。この冷気で冷めてしまうおむすびよりいいんじゃないでしょうか?あと、飲み物は全品役所で買い付けてください。お茶なんかは飲むだけでなく「茶粥」や「スープ」にも使えますからね。」
調理用具に関しては、店長と話をして厨房で使っていた包丁やまな板を借り受けることになった。断水による「水不足」に備え、洗い物を減らすために紙皿、割り箸に加えて、プラスチック、発泡スチロールのトレイとそれに被せる大量のビニール袋とラップ材を持ち出した。
停電した1800リットルの冷凍冷蔵庫3台から必要分を取り出すと、ピヨが「力仕事は私に任せといて!」と双子座星域の格闘チャンピオンの怪力を活かし積極的に荷物をピックアップトラックに運んだ。厨房で使っていたプロパンガスのボンベを一人で担ぐピヨにライスと誠子は驚いた。
あっという間に荷物はトラック一杯になった。ペットボトル飲料の箱を積み込めるだけ積むと5人はコスモアイル羽咋に戻った。時刻は9時を過ぎていたが、昼ごはん以降、何も口にしていない被災者はおとなしく炊き出しを待った。小一時間かけて野菜と魚介類中心の雑炊が炊きあがった。
「まずは子供さんからでーす!乳児用ミルクも離乳食も用意がありますので赤ちゃんを連れたお母さんも集まってくださーい!
続いて、おじいちゃん、おばあちゃんの順番になりまーす!出来上がり次第、声をかけますからしばらくおとなしく待っててくださいねー!」
ピヨとマリーアは誠子と一緒に寒さ厳しい暖房の無い避難所内を大声でまわった。チャプローはナチュコ、ピナと一緒に調理に入った。避難者の多くは「ピヨ」達の着ている「羽咋市」と背中に入ったツナギを見て「市役所のスタッフ」と思われたようで、「市役所さんありがとう!」と配食の都度、5人の宇宙人は声を掛けられた。(バカンスの予定がとんでもないことになってしもたけど、こんな状況でもみんなの笑顔が見られるっていうのは幸いやったな。)とピヨは思った。
配食は周辺の避難所への移送配達も含めて午前1時過ぎまでかかった。1分の休憩も無く戦場の最中のような5時間だった。
「ナッちゃん、ピナちゃんお疲れ様。マリーアさん、ピヨさん、チャプローさん、ライスさんも一息ついて下さい。
観光に来られた皆さんのボランティアで私が助けられちゃいました。皆さんの労をねぎらわせてください。この状況で不謹慎ですけど、これは私からのお礼です。私一人では何もできませんでしたから…。せっかくなので羽咋の「旨いもの」を味わってください。元々、家に帰って飲むつもりだったんですけど…。羽咋市大町で作られている私「一推し」のお酒です!」
と誠子はカバンから御祖酒造の「遊穂」を取り出した。
「UFOで来られたっていう皆さんにはこのお酒がお似合いでしょ!「遊穂」、「遊穂う」、「UFO」ってね!ケラケラケラ。」
と楽しそうに誠子が笑うと、みんなつられて笑った。
日本では「お酒は20歳から」という事で、17歳のナチュコとピナは「遊穂」の「香り」を楽しむだけであったが、他のメンバーは誠子の行為に甘え、焚火を囲みながら「遊穂」に舌鼓を打った。あっという間に「遊穂」の一升瓶は空になった。時計の時刻は午前2時を示していた。
「じゃあ、明日は朝の6時起床で炊き出しに入るで。まあ話したいことは山ほどあるやろうけど今日はここまでにしとこな。」
とマリーアが締めると誠子は避難所となっているコスモアイルの建物に戻り、四人の王女はテントで横になり、チャプローとライスは運転席と助手席で眠りについた。
(お父さん、心配してるやろな…。でも、連絡の手段もあれへんし…。サンダーくんに会えたら何か考えも浮かぶかな?もう大きな余震が起これへんかったらええねんけどな…。あぁ、それにしてもこの10時間でいろんなことがあったなぁ…。少し疲れたかな…。チャプちゃん、おやすみ…。)いろいろと考えながら、力仕事の軽い疲れと「遊穂」のかすかな酔いでピヨは深い眠りに落ちて行った。
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