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ALS・筋萎縮性側索硬化症でもプロレスラーになれますか?新人レスラー安江の五倫五常
「控室」
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「控室」
6月19日、日曜日の午前六時。梅雨の合間の晴天となった、中央公園に稀世と安江の姿があった。ランニングが終わり、いつものルーチンの「スクワット」、「スクラッチ」、「レスラーブリッジ」をこなし、ストレッチに入っていた。
「安江ちゃん、昨日はよく寝れた?」
「はい、思いのほかよく寝られました。結衣ちゃんのお母さんが明日に退院が決まったんで、結衣ちゃんと寝るのも、今日までですから、昨晩は一緒にいろいろ話しました。」
「えー、どんな話してんの?「恋バナ」とか?」
「さ、さすがにそれは無いですねぇ…。今日の試合の話とか、結衣ちゃんが一昨日から書き始めたマンガの話とかですね。稀世姉さんや直さんも出てくるんですよ。」
「へーえ、できたら私も読ませてもらおうかな。ちょっと美人に書いてもらえるように「結衣画伯」に賄賂を贈っとかなあかんなぁ。」
「うぷぷ、大丈夫ですよ。結衣ちゃんの漫画に出てくる女の子はみんな「美人」か「かわいい」かのどっちかですから。」
「直さんも?「美人」なん?それとも「かわいい」なん?」
「だーかーらー、女の「子」って言ってるじゃないですか。直さんだけは、「見た目そのまま」です。笑っちゃいますよねー、子供はよく見てるなって。
幼稚園児の描くマンガの中で「わし」って言うんですよ。まあ、「ニコニコ防衛ガールズ」の「隊長」の役ですから、メインキャラでよく出てくるんですよ。
あと、商店街の人たちもたくさん出てくるんで楽しくなりそうです。」
「で、悪者は出てくんの?「なっちゃん」と「陽菜ちゃん」くらいか?」
「もー、ひどいこと言わないでくださいよ。キャラ設定の「絵」では、今日の対戦相手のふたりに似てましたね。」
「じゃあ、今日は絶対勝たんと、「主人公」が変わってしまうな。」
「ははは。はい、絶対に勝ちましょう!」
ふたりは芝生の上で笑った。(ちょっと、心配してたけど、安江ちゃん、いい感じでほぐれてるな。いつも通りの力を出してくれたら大丈夫そうやな。)稀世は、スポーツドリンクを口に含むと、安江に聞いた。
「この一週間、体育館二階の道場に通ってたらしいやん。何か、身についたんかな?」
「はい、ひとつだけですけど、実戦で使えるところまで何とか持ってこれました。「相手のパワーを活かして、「利」に繋げる。」今日、出す機会があるかどうかわかりませんが…。いかんせん「付け焼き刃」なので。」
「せやな。無理して出す必要もあれへんし、いつも通りやって行こな。今日は、メインイベントやから、昼前からファイナルの五時まで変に緊張せえへんようにな。
今日の会場は、ラクタブドームのサブアリーナでうちの主催やから、まりあさん、「安江ちゃんの初タイトル獲得の後押しや!」って言って利益度外視で商店街のみんなにチケットばらまいてたから、商店街、こども食堂、キリン幼稚園、市民サロン、そしてニコニコプロレスのファンで会場はいっぱいやで。
大応援団がついてるから格好ええとこ見せんとな!杉田君には私らの青コーナーのリング最前列のチケット渡してるからな。安江ちゃん、試合に勝って、サプライズでリング上から「愛の告白」ってどうや?テレビも入るし、うけるでなぁ!ひゅーひゅー!」
「もう、茶化さないでくださいよ。告白はともかく、今日、こうして落ち着いた気持ちで試合に挑めるのは杉田君のおかげですから、「彼」の前で格好悪いことできませんよね。」
「あー。いま、さりげに「彼」って言ったな!やっぱりできてんねやろ。一緒に夜景見に行って「チュー」くらいはしたんとちゃうんか?ほれ、お姉さんに正直に話してみ!」
と稀世は安江の脇腹をこそばした。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、やめてくださいよ。キスなんかまだまだ先ですよ。「間接キッス」くらいです…。」
「えっ、どの「関節」にキスしたん?「肘」か?「膝」か?「首筋」か?それとも安江ちゃんがされたんか?なかなかあんたらエロイな…。」
「もう、バカバカバカっ!変なこと言わないでくださいよ。一緒にペットボトルのお茶飲んだだけですよ。」
「はー、残念。相変わらず中学生みたいな関係やなぁ…。早よ、前にあげた巾着使ったてや。中の「ゴム」にカビが生えてまうやん。」
「生・え・ま・せ・んー!もう変なことばっかり言わないでくださいよ。さあ、ぼちぼち戻って朝ごはんの準備しないとだめですよ。ひまちゃんも三朗兄さんもお腹空かせて待ってますよ。」
と安江は立ち上がった。(私の緊張ほぐそうと思って…、稀世姉さん、このひと月半、本当にありがとうございました。そして、「明日以降」もよろしくお願いします。)と安江は思ったが、稀世にそんな気はなく、単純に杉田とのこと聞き出したかっただけであった。
午後三時、ラクタブドームサブアリーナのニコニコプロレスの控室は、次々と訪問客が訪れた。「稀世が三朗と一緒になってから縁のあった人すべてが来たのでは。」と思うくらいいろんな人が稀世と安江に「頑張れよ!」、「頑張ってね!」と応援しに来てくれていた。
夢洲テロ事件と稀世のビザ発給で世話になった、イケメン知事もお忍びで応援に来てくれた。「試合着に「いのちの輝きくん」入れてくださってありがとうございます。来年の開催の後押しになります。」と「大阪万博2025」と「いのちの輝きくん」のステッカーをたくさん持ってきてくれていた。稀世は、(「ゲロゲロ君」のステッカーもらって喜ぶ奴なんかおるんか?イケメン知事の感覚も私には、よおわからんなぁ…。)と思ったが口には出さなかった。
粋華からは、オンラインで激励のメッセージが来た。粋華は、これからMSG(マジソン・スクエア・ガーデン)でセミファイナルで自身のタイトルの防衛戦があるとのことだった。タブレットの画面越しに
「安江ちゃん、師匠から聞いたよ。2884ある合気道の技の中で、「小手返し」を選んだんは、最適やと思うで。もちろん師匠のアドバイスもあったんやろうけど、一週間でマスターしたのは立派なもんやわ。まあ、私の次にやけどな。
先週の事件のことは、稀世から聞いた。あいつらちょっと行儀悪いとこあるから、成敗したれや!師匠直伝の「小手返し」を一発、リング中央で決めて、最後は柔道の締め技でギブアップとって、溜飲下げさせたれな!もちろん、締め落として失禁させたるくらいでもかめへんでなぁ。
うまく私がすんなり勝てば、夏子と陽菜にオンラインであんたと稀世の試合を送ってくれって言ってるから、ニューヨークから応援したるからな。せいぜい、「稀世に足引っ張られんよう」リードしたってな。
あと、うちの旦那からいろいろ聞いてる件は、勝った後で聞かせてな、ムフフ。」
と粋華らしい励ましを受けた。
竹さんも坂井も応援に来てくれた。舩阪、武藤、笹井夫妻、檜夫妻と次々に激励に来た。キリン幼稚園の護身術教室の園児たちも手作りの応援グッズをもって控室に駆けつけた。控室が一気ににぎやかになった。明日香と結衣は手作りの応援うちわを手に持ち、きれいに「キラキラビーズ」で「きよちゃん」、「やすえちゃん」とデコったお揃いの赤と青の鉢巻きを巻いていた。
「絶対勝ってね!」、「応援してるからね!」
と稀世と安江にハグをした。
ひまわりを抱っこした直と三朗、そして西沢夫婦と岩本夫婦と杉田が控室にやってきた。三朗は、差し入れの寿司桶を持ってきている。
「今日まで、稀世さんと安江ちゃんの試合のためにいろいろとありがとうございました。差し入れは、皆さんで食べてください。」
と桶をテーブルに置くと、
「三朗兄さん、ゴチになりまーす!」
と言って、夏子と陽菜がいきなりラップをはがし、桶に手を入れると
「お前らふたりは後や!招待客優先やろが!」
と直に拳骨を食らった。杉田が、こそこそっと、安江に「頑張ってくださいね。精一杯応援してますから。」と言ってるところを稀世に見つかり、はやし立てられた。みんな大きな声を出して笑った。安江もリラックスしているように見える。
控室にある会場のモニターを見るとニコニコ商店街の人たちで青コーナーサイドは満席になっている。モニターがズームでカメラを流し、観客席を映すと商店街メンバー、こども食堂、市民サロンの人たちが座っている。前列はキリン幼稚園の園児たちが思い思いに団扇を振っている。
決勝戦の試合予定時間の一時間前、ニコニコプロレスでは恒例となった夏子による「大阪スポーツ」の星占いがマッサージを受ける稀世と安江に読み上げられる。
「なっちゃん、キチンと今日の日付の新聞やろな?」
稀世が念を押す。いつぞやの爆弾解体事件の日のことがあり、未だに夏子の信用は薄いままである。
「稀世姉さん、大丈夫ですよ。さすがに大スポでも日付に憶測や嘘はあれへんでしょう。じゃあ、読み上げますよ!
稀世姉さんのおとめ座は「仲間を信じるが吉。ラッキーカラーは赤。ラッキーナンバーは「3」です。相棒は「愛弟子の安江」、稀世姉さんのイメージカラーの「赤」、そして勝利の「3」カウントでフォール勝ちって、ドンピシャやないですか。
安江のおうし座は「限界を超えたところに光がある。ラッキーカラーは「青」。ラッキーナンバーは「5」やて。まあ、死ぬ気で頑張って、コスチュームは「青」、安江のラッキーナンバーも「5」。まあ、なかなかええんとちゃう?」
(ん、悪くない内容やな。安江ちゃんのラッキーナンバーと星占いのラッキーナンバーの「5」がかかってるし、ファイナルは午後の「5」試合目。これは「吉兆」やな。ナイスなっちゃん!)稀世はちょっと心の中で夏子を褒めた。しかし、次の瞬間、陽菜が口をはさんだ。
「なっちゃん、稀世姉さん、安江、相手タッグもパンフレットのプロフを見たら「おうし座」と「おとめ座」なんですよ。ユニフォームも、「赤」と「青」ベースですしねぇ、結局は「お星さま」の力やなくて、「実力勝負」ってことですね。」
皆、夏子に向かってため息をついた。
「なんじゃそりゃ。どっちも同じって…。いや、きずなの強さも、応援の多さもこっちが上や。安江ちゃん、今日も勝つで!」
稀世が気合を入れた。(「今日は」じゃなくて「今日も」か…。稀世姉さんらしいな。私は、精一杯やるだけや。最期まできちんと動いてね、私の左腕と左足!)安江も両ほほを平手でたたき気合を入れた。
「五分後、メインイベント入場開始です。選手の皆さまは準備お願いします。」
場内呼び出しがかかった。
「さあ、出番やで!勝って来いよ!勝ったら、今日は私のおごりでパーティーや!」
まりあがふたりに発破をかけた。
6月19日、日曜日の午前六時。梅雨の合間の晴天となった、中央公園に稀世と安江の姿があった。ランニングが終わり、いつものルーチンの「スクワット」、「スクラッチ」、「レスラーブリッジ」をこなし、ストレッチに入っていた。
「安江ちゃん、昨日はよく寝れた?」
「はい、思いのほかよく寝られました。結衣ちゃんのお母さんが明日に退院が決まったんで、結衣ちゃんと寝るのも、今日までですから、昨晩は一緒にいろいろ話しました。」
「えー、どんな話してんの?「恋バナ」とか?」
「さ、さすがにそれは無いですねぇ…。今日の試合の話とか、結衣ちゃんが一昨日から書き始めたマンガの話とかですね。稀世姉さんや直さんも出てくるんですよ。」
「へーえ、できたら私も読ませてもらおうかな。ちょっと美人に書いてもらえるように「結衣画伯」に賄賂を贈っとかなあかんなぁ。」
「うぷぷ、大丈夫ですよ。結衣ちゃんの漫画に出てくる女の子はみんな「美人」か「かわいい」かのどっちかですから。」
「直さんも?「美人」なん?それとも「かわいい」なん?」
「だーかーらー、女の「子」って言ってるじゃないですか。直さんだけは、「見た目そのまま」です。笑っちゃいますよねー、子供はよく見てるなって。
幼稚園児の描くマンガの中で「わし」って言うんですよ。まあ、「ニコニコ防衛ガールズ」の「隊長」の役ですから、メインキャラでよく出てくるんですよ。
あと、商店街の人たちもたくさん出てくるんで楽しくなりそうです。」
「で、悪者は出てくんの?「なっちゃん」と「陽菜ちゃん」くらいか?」
「もー、ひどいこと言わないでくださいよ。キャラ設定の「絵」では、今日の対戦相手のふたりに似てましたね。」
「じゃあ、今日は絶対勝たんと、「主人公」が変わってしまうな。」
「ははは。はい、絶対に勝ちましょう!」
ふたりは芝生の上で笑った。(ちょっと、心配してたけど、安江ちゃん、いい感じでほぐれてるな。いつも通りの力を出してくれたら大丈夫そうやな。)稀世は、スポーツドリンクを口に含むと、安江に聞いた。
「この一週間、体育館二階の道場に通ってたらしいやん。何か、身についたんかな?」
「はい、ひとつだけですけど、実戦で使えるところまで何とか持ってこれました。「相手のパワーを活かして、「利」に繋げる。」今日、出す機会があるかどうかわかりませんが…。いかんせん「付け焼き刃」なので。」
「せやな。無理して出す必要もあれへんし、いつも通りやって行こな。今日は、メインイベントやから、昼前からファイナルの五時まで変に緊張せえへんようにな。
今日の会場は、ラクタブドームのサブアリーナでうちの主催やから、まりあさん、「安江ちゃんの初タイトル獲得の後押しや!」って言って利益度外視で商店街のみんなにチケットばらまいてたから、商店街、こども食堂、キリン幼稚園、市民サロン、そしてニコニコプロレスのファンで会場はいっぱいやで。
大応援団がついてるから格好ええとこ見せんとな!杉田君には私らの青コーナーのリング最前列のチケット渡してるからな。安江ちゃん、試合に勝って、サプライズでリング上から「愛の告白」ってどうや?テレビも入るし、うけるでなぁ!ひゅーひゅー!」
「もう、茶化さないでくださいよ。告白はともかく、今日、こうして落ち着いた気持ちで試合に挑めるのは杉田君のおかげですから、「彼」の前で格好悪いことできませんよね。」
「あー。いま、さりげに「彼」って言ったな!やっぱりできてんねやろ。一緒に夜景見に行って「チュー」くらいはしたんとちゃうんか?ほれ、お姉さんに正直に話してみ!」
と稀世は安江の脇腹をこそばした。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ、やめてくださいよ。キスなんかまだまだ先ですよ。「間接キッス」くらいです…。」
「えっ、どの「関節」にキスしたん?「肘」か?「膝」か?「首筋」か?それとも安江ちゃんがされたんか?なかなかあんたらエロイな…。」
「もう、バカバカバカっ!変なこと言わないでくださいよ。一緒にペットボトルのお茶飲んだだけですよ。」
「はー、残念。相変わらず中学生みたいな関係やなぁ…。早よ、前にあげた巾着使ったてや。中の「ゴム」にカビが生えてまうやん。」
「生・え・ま・せ・んー!もう変なことばっかり言わないでくださいよ。さあ、ぼちぼち戻って朝ごはんの準備しないとだめですよ。ひまちゃんも三朗兄さんもお腹空かせて待ってますよ。」
と安江は立ち上がった。(私の緊張ほぐそうと思って…、稀世姉さん、このひと月半、本当にありがとうございました。そして、「明日以降」もよろしくお願いします。)と安江は思ったが、稀世にそんな気はなく、単純に杉田とのこと聞き出したかっただけであった。
午後三時、ラクタブドームサブアリーナのニコニコプロレスの控室は、次々と訪問客が訪れた。「稀世が三朗と一緒になってから縁のあった人すべてが来たのでは。」と思うくらいいろんな人が稀世と安江に「頑張れよ!」、「頑張ってね!」と応援しに来てくれていた。
夢洲テロ事件と稀世のビザ発給で世話になった、イケメン知事もお忍びで応援に来てくれた。「試合着に「いのちの輝きくん」入れてくださってありがとうございます。来年の開催の後押しになります。」と「大阪万博2025」と「いのちの輝きくん」のステッカーをたくさん持ってきてくれていた。稀世は、(「ゲロゲロ君」のステッカーもらって喜ぶ奴なんかおるんか?イケメン知事の感覚も私には、よおわからんなぁ…。)と思ったが口には出さなかった。
粋華からは、オンラインで激励のメッセージが来た。粋華は、これからMSG(マジソン・スクエア・ガーデン)でセミファイナルで自身のタイトルの防衛戦があるとのことだった。タブレットの画面越しに
「安江ちゃん、師匠から聞いたよ。2884ある合気道の技の中で、「小手返し」を選んだんは、最適やと思うで。もちろん師匠のアドバイスもあったんやろうけど、一週間でマスターしたのは立派なもんやわ。まあ、私の次にやけどな。
先週の事件のことは、稀世から聞いた。あいつらちょっと行儀悪いとこあるから、成敗したれや!師匠直伝の「小手返し」を一発、リング中央で決めて、最後は柔道の締め技でギブアップとって、溜飲下げさせたれな!もちろん、締め落として失禁させたるくらいでもかめへんでなぁ。
うまく私がすんなり勝てば、夏子と陽菜にオンラインであんたと稀世の試合を送ってくれって言ってるから、ニューヨークから応援したるからな。せいぜい、「稀世に足引っ張られんよう」リードしたってな。
あと、うちの旦那からいろいろ聞いてる件は、勝った後で聞かせてな、ムフフ。」
と粋華らしい励ましを受けた。
竹さんも坂井も応援に来てくれた。舩阪、武藤、笹井夫妻、檜夫妻と次々に激励に来た。キリン幼稚園の護身術教室の園児たちも手作りの応援グッズをもって控室に駆けつけた。控室が一気ににぎやかになった。明日香と結衣は手作りの応援うちわを手に持ち、きれいに「キラキラビーズ」で「きよちゃん」、「やすえちゃん」とデコったお揃いの赤と青の鉢巻きを巻いていた。
「絶対勝ってね!」、「応援してるからね!」
と稀世と安江にハグをした。
ひまわりを抱っこした直と三朗、そして西沢夫婦と岩本夫婦と杉田が控室にやってきた。三朗は、差し入れの寿司桶を持ってきている。
「今日まで、稀世さんと安江ちゃんの試合のためにいろいろとありがとうございました。差し入れは、皆さんで食べてください。」
と桶をテーブルに置くと、
「三朗兄さん、ゴチになりまーす!」
と言って、夏子と陽菜がいきなりラップをはがし、桶に手を入れると
「お前らふたりは後や!招待客優先やろが!」
と直に拳骨を食らった。杉田が、こそこそっと、安江に「頑張ってくださいね。精一杯応援してますから。」と言ってるところを稀世に見つかり、はやし立てられた。みんな大きな声を出して笑った。安江もリラックスしているように見える。
控室にある会場のモニターを見るとニコニコ商店街の人たちで青コーナーサイドは満席になっている。モニターがズームでカメラを流し、観客席を映すと商店街メンバー、こども食堂、市民サロンの人たちが座っている。前列はキリン幼稚園の園児たちが思い思いに団扇を振っている。
決勝戦の試合予定時間の一時間前、ニコニコプロレスでは恒例となった夏子による「大阪スポーツ」の星占いがマッサージを受ける稀世と安江に読み上げられる。
「なっちゃん、キチンと今日の日付の新聞やろな?」
稀世が念を押す。いつぞやの爆弾解体事件の日のことがあり、未だに夏子の信用は薄いままである。
「稀世姉さん、大丈夫ですよ。さすがに大スポでも日付に憶測や嘘はあれへんでしょう。じゃあ、読み上げますよ!
稀世姉さんのおとめ座は「仲間を信じるが吉。ラッキーカラーは赤。ラッキーナンバーは「3」です。相棒は「愛弟子の安江」、稀世姉さんのイメージカラーの「赤」、そして勝利の「3」カウントでフォール勝ちって、ドンピシャやないですか。
安江のおうし座は「限界を超えたところに光がある。ラッキーカラーは「青」。ラッキーナンバーは「5」やて。まあ、死ぬ気で頑張って、コスチュームは「青」、安江のラッキーナンバーも「5」。まあ、なかなかええんとちゃう?」
(ん、悪くない内容やな。安江ちゃんのラッキーナンバーと星占いのラッキーナンバーの「5」がかかってるし、ファイナルは午後の「5」試合目。これは「吉兆」やな。ナイスなっちゃん!)稀世はちょっと心の中で夏子を褒めた。しかし、次の瞬間、陽菜が口をはさんだ。
「なっちゃん、稀世姉さん、安江、相手タッグもパンフレットのプロフを見たら「おうし座」と「おとめ座」なんですよ。ユニフォームも、「赤」と「青」ベースですしねぇ、結局は「お星さま」の力やなくて、「実力勝負」ってことですね。」
皆、夏子に向かってため息をついた。
「なんじゃそりゃ。どっちも同じって…。いや、きずなの強さも、応援の多さもこっちが上や。安江ちゃん、今日も勝つで!」
稀世が気合を入れた。(「今日は」じゃなくて「今日も」か…。稀世姉さんらしいな。私は、精一杯やるだけや。最期まできちんと動いてね、私の左腕と左足!)安江も両ほほを平手でたたき気合を入れた。
「五分後、メインイベント入場開始です。選手の皆さまは準備お願いします。」
場内呼び出しがかかった。
「さあ、出番やで!勝って来いよ!勝ったら、今日は私のおごりでパーティーや!」
まりあがふたりに発破をかけた。
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