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ALS・筋萎縮性側索硬化症でもプロレスラーになれますか?新人レスラー安江の五倫五常
「結衣ちゃん」
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「結衣ちゃん」
安江のニコニコ商店街での生活が始まった。直の住む「菅野電気店」の空き部屋を二部屋、間借りし、昼から夕方は、西沢米穀特設リング会場の市民サロンとこども食堂でボランティア、夜はBARまりあで働きだした。上品で人当たりの良い安江は、市民サロンとこども食堂では一気に人気者になった。BARまりあでも、商店街のおじさんたちのどうでもいい話に愛想よく付き合うので、安江目当ての客がかなりついた。
こども食堂では、子供の日のイベントで知り合った、結衣が特に懐いて、いつも「安江ちゃん」、「安江ちゃん」と後ろをついて回る。ちょこちょこ動き回る中で、よく転ぶのが少し気になったが、転んでも泣くことなく元気に起き上がる結衣に安江は優しく対応した。
ニコニコプロレスの練習にも参加するようになった。柔道で培った基礎体力は健在で、スクワットやスクラッチ、ブリッジ、ロープのぼりは、稀世についていける唯一の選手だった。稀世に蹴り技、飛び技を学び、見る見るうちにその技を吸収していった。(この子、すごい吸収力や。とにかく新技に対する取り込みセンスがすごい。すぐに私なんか追い抜かれてしまうわ。あぁ、これで、安江ちゃんの病気がなければ…。神様はなんて酷いことをするねん。ここに神様がおったら私がしばき倒したんのになぁ…。)稀世は、スパーリングをしながら神様を恨んだ。
「安江ちゃん、練習終わったら、今日のこども食堂は、うちの店が当番やから、向日葵寿司で晩御飯食べて、まりあさんのお店に出勤してな。」
「はい、ごちそうになります。私も三朗さんのお寿司のファンになりましたから。」
「ありがとう。でも、サブちゃんにちょっかい出したらあかんで。サブちゃんは、私とひまちゃんのものやからな。」
「はい、それは十分わかってますし、稀世姉さんと三朗兄さんの間には、紙一枚入り込む隙間なんか無いじゃないですか。ほんと、うらやましい理想の夫婦像ですよね。」
「うんうん、わかってればええねん。私にとっては、サブちゃんは「世界一の男性」や。まあ、サブちゃんは私の事を「宇宙一の嫁」って言ってくれるけどな。」
「ごちそうさまです。お寿司いただく前にもうおなか一杯になっちゃいますね。」
とふたりで笑った。
夕方五時に向日葵寿司に戻ると、凛と明日香と結衣がもう手伝いに来ていた。在宅の高齢者で食事を受け取りに来れない利用者の家に配食するためだった。三朗がコンビニ袋に四人前ずつパックに入れたお寿司を入れて、凛、明日香、結衣に渡した。
「稀世お姉ちゃん、安江お姉ちゃん、行ってきまーす!」
「じゃあ、車に気をつけて行ってきてねー。」
と見送った瞬間、結衣が転んで、袋の中の寿司を道路にぶちまけてしまった。「三朗お兄ちゃん、ごめんなさい。お寿司ダメにしちゃった。」と半べそをかく結衣を安江は優しく慰めてやった。
三朗が手際よく、四人前の寿司を作り直し、再び袋に入れて結衣に渡した。
「結衣ちゃん、走る必要はないから、ゆっくり持って行ってくれたらええで。」
「はーい、じゃあ、持って行ってくるわー。」
とかわいく返事をして、今度はゆっくりと店を出て行った。
「稀世姉さん、結衣ちゃん、よく転ぶけど、発達障害とかなんですか?」
「いや、全然そんなことないと思うけど。結衣ちゃん、去年は、幼稚園の運動会はリレー選手やったくらいやし、子供パルクールでもしっかりと演技してたで。私に似て、ちょっとあわてんぼうなところがあんのかな?さあ、今日は、うちの奢りやから、サブちゃんのお寿司味わっていってな。」
「はい、ごちそうになります。」
BARまりあは今日も安江目当てのおやじたちが屯(たむろ)していた。カウンター席に社会福祉協議会のST(作業療法士)の大原亮治が来店した。難しい顔をして、同僚のスタッフと水割りを飲んでいる。
聞くともなく耳に入ってきた話だと、どうやら結衣の話をしているようだった。
「すみません、つい耳に入ってしまったのですが、今の話ってキリン幼稚園の結衣ちゃんの話でしょうか?」
安江が大原に聞いた。安江は、結衣が若年性筋ジストロフィーを発症したことを聞いた。先日の子供の日のイベントで結衣と知り合い、こども食堂のボランティアで結衣になついてもらっている話を大原にした。大原が個人情報保護法の手前、大きい声では言えないが、こども食堂の関係者ということであれば、注意しておいてほしいことがあると前置きして、安江に話し始めた。
「結衣ちゃんは、今年の春に「よく転ぶようになった」って言ってお母さんがこども健康診断の時に相談してきたんや。発達障害があったわけやなかったんで、俺も気になって、色々とお母さんに結衣ちゃんの最近の状況について聞いたんやな。
ちょっと気にかかることがあって、念のため、門真総合病院で精密検査を進めたんよ。そうしたら、「筋ジストロフィー」やってことが分かったんや。
俺ら、作業療法士にできることは限られてるんで、今は、ビルトラルセン、ビルテプソを試しているんや。デコジェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の一割弱の患者に効果がある。それが効果があったらええねんけどな。」
「えっ、その薬って効果は一割弱しか望めないんですか?」
「いや、その考えはちゃうで。一割弱に効果があるんや。0%と9%は全然違う。ビルトラルセンとビルテプソは日進月歩の医療界で筋ジストロフィーには、最初の光なんや。若年性の筋ジストロフィーは、通常十五歳までは歩ける。三十~四十歳が寿命。
三~五歳で「転びやすい」、「走れない」で発症に気づくんや。五歳ごろ運動能力がピークで、十歳で車いす生活になるんが普通や。結衣ちゃんは進行が速い。新薬ができるまで、そして新治療法が確立するまで、「光」が必要なんや。俺ら、医療従事者も患者も患者の家族も「良くなる」ことを信じて頑張るんや。ALSと違って筋ジストロフィーは、先が期待できるんや。」
「一割弱の光…。ALSと違って…。」
熱心に説明する大原の言葉が安江の頭の中で繰り返された。(でも、ALSの私にはその光はない…。あるのは先の見えない闇だけ…。)
「あの、大原さん、結衣ちゃんと一緒にいるときは、何に気をつければいいんですか?素人の私にできることはありますか?できることがあるなら教えてください。」
「せやな、「無理して走らせへんこと。」が一番やな。お友達と鬼ごっことか制限するのは辛いんやけどなぁ。それと、この先、嚥下力の低下が予測されるんで、大きく、飲み込みにくいものは避けるようにこども食堂の人たちに言っておいてくれるといいかな?」
「嚥下力の低下って、具体的にはどんなことに気をつければいいんですか?」
「例えば、子どもにとったら噛み切りにくいようなもの。こども食堂やってくれてる向日葵寿司さんなんかやったら、お寿司で「イカ」の握りが出るって聞いたことあんねんけど、大人にとっては何でもない「イカ」が嚥下力の落ちた子供や高齢者には詰まって窒息したりする原因になることがあんねん。あと、大きい海苔なんかも事故例があるから、大きい手巻き寿司なんかも注意せなあかんな。
あと、お好み焼きがんちゃんでいくと「餅玉」は要注意やな。餅も結構怖い。まあ、どんな食事が出てるまでは、社協では把握できてないから、安江ちゃんの方で各店長にそんな話もあるって言っておいてくれると助かるかな。
「嚥下食」でネットたたけば、具体的なメニューや事故事例が出てるから、一回見てもらって。」
と丁寧にアドバイスをもらった。
早速、その日の晩、直の家に戻ると安江は「筋ジストロフィー」と「嚥下食」について調べた。若年性の筋ジストロフィーについては、大原から聞いた通りで、いずれ走れなくなり、車いす生活を強いられる結衣を自分に重ねて想像すると悲しくなった。
食事については、高齢者配食にも通じるところが多く、メモを取った。翌日、向日葵寿司の三朗には、ネタに隠し包丁を入れてもらうようにし、大きな手巻き寿司の海苔を口の中でほぐれやすい鰹節シートに変更してもらうことになった。
「へーえ、僕ら美味しいものを提供することしか考えてなかったけど、そういうことに気を遣わなあかんお客さんもおるってことやなぁ。安江ちゃん、ええ勉強になったわ。ありがとうな。」
と三朗に感謝された。
お好み焼きがんちゃんの徹三とさとみには、「お好み焼き」に加えて「もんじゃ焼き」のメニュー追加を提案した。安江は、徹三の前で、「もんじゃ」を作って見せた。
「今まで、東京の人は、あんな「ゲロ」みたいなもんよお食べよんな。って思ってたけど、これはこれでなかなかいけるな。安江ちゃん、ありがとう。メニューに取り入れて、具材も子供向けに研究するわな。」
と徹三とさとみは安江の行動を感心していた。
次の日、ニコニコプロレスの練習中に、凛が明日香と結衣を連れて見物に来た。凛が明日香と一緒に結衣に言った。
「今度の試合は、一緒に稀世お姉ちゃんの応援しよな!」
「ううん、私は安江お姉ちゃんのファンになんねん。いつか、私もプロレスラーになれるかな?」
と笑顔で返した。
「そうか、それもええかもな。いつかニコニコプロレスで「凛&結衣」のタッグ組もな。」
「あー、「明日香&結衣」チームもあり得るでなぁ。」
と三人でリング横の椅子に座ってはしゃいでいる。一瞬言葉に詰まる安江。稀世に(安江ちゃん、泣いたらあかん)とアイサインを送られる。稀世と安江が「一緒に頑張ろうな!」と三人に声をかけた。
後ほど、控室で安江が稀世に聞いた。
「あの時、わたし、結衣ちゃんにどう言えばよかったんでしょうか…。」
「そりゃ、速攻で「がんばろう!やろ。ラオス語で言ったら、「ぱにゃにゃんだ―!」やな。」
「でも、この先、結衣ちゃんは…。」
「治る可能性がゼロでなければ、前だけ見ていこうや。」
「はい、結衣ちゃんの場合はそうですね。でも、私は…。」
「可能性ってなんや?2年が5年になるのは当たり?それともはずれ?私の場合は、「余命半年」って言われて、告知を受けたその一晩だけは、凄い後ろ向きになってんけど、14時間後からはサブちゃんや直さん、まりあさん、商店街のみんなのおかげで、「前」だけ見るようになってん。「光に向かって歩けば影は見えない」ってな。」
「何があったんですか?」
「聞きたい?」
「はい。」
「じゃあ、直さんとまりあさんに許可とって、仕事早引けして今晩うちに泊まりにおいで。」
安江のニコニコ商店街での生活が始まった。直の住む「菅野電気店」の空き部屋を二部屋、間借りし、昼から夕方は、西沢米穀特設リング会場の市民サロンとこども食堂でボランティア、夜はBARまりあで働きだした。上品で人当たりの良い安江は、市民サロンとこども食堂では一気に人気者になった。BARまりあでも、商店街のおじさんたちのどうでもいい話に愛想よく付き合うので、安江目当ての客がかなりついた。
こども食堂では、子供の日のイベントで知り合った、結衣が特に懐いて、いつも「安江ちゃん」、「安江ちゃん」と後ろをついて回る。ちょこちょこ動き回る中で、よく転ぶのが少し気になったが、転んでも泣くことなく元気に起き上がる結衣に安江は優しく対応した。
ニコニコプロレスの練習にも参加するようになった。柔道で培った基礎体力は健在で、スクワットやスクラッチ、ブリッジ、ロープのぼりは、稀世についていける唯一の選手だった。稀世に蹴り技、飛び技を学び、見る見るうちにその技を吸収していった。(この子、すごい吸収力や。とにかく新技に対する取り込みセンスがすごい。すぐに私なんか追い抜かれてしまうわ。あぁ、これで、安江ちゃんの病気がなければ…。神様はなんて酷いことをするねん。ここに神様がおったら私がしばき倒したんのになぁ…。)稀世は、スパーリングをしながら神様を恨んだ。
「安江ちゃん、練習終わったら、今日のこども食堂は、うちの店が当番やから、向日葵寿司で晩御飯食べて、まりあさんのお店に出勤してな。」
「はい、ごちそうになります。私も三朗さんのお寿司のファンになりましたから。」
「ありがとう。でも、サブちゃんにちょっかい出したらあかんで。サブちゃんは、私とひまちゃんのものやからな。」
「はい、それは十分わかってますし、稀世姉さんと三朗兄さんの間には、紙一枚入り込む隙間なんか無いじゃないですか。ほんと、うらやましい理想の夫婦像ですよね。」
「うんうん、わかってればええねん。私にとっては、サブちゃんは「世界一の男性」や。まあ、サブちゃんは私の事を「宇宙一の嫁」って言ってくれるけどな。」
「ごちそうさまです。お寿司いただく前にもうおなか一杯になっちゃいますね。」
とふたりで笑った。
夕方五時に向日葵寿司に戻ると、凛と明日香と結衣がもう手伝いに来ていた。在宅の高齢者で食事を受け取りに来れない利用者の家に配食するためだった。三朗がコンビニ袋に四人前ずつパックに入れたお寿司を入れて、凛、明日香、結衣に渡した。
「稀世お姉ちゃん、安江お姉ちゃん、行ってきまーす!」
「じゃあ、車に気をつけて行ってきてねー。」
と見送った瞬間、結衣が転んで、袋の中の寿司を道路にぶちまけてしまった。「三朗お兄ちゃん、ごめんなさい。お寿司ダメにしちゃった。」と半べそをかく結衣を安江は優しく慰めてやった。
三朗が手際よく、四人前の寿司を作り直し、再び袋に入れて結衣に渡した。
「結衣ちゃん、走る必要はないから、ゆっくり持って行ってくれたらええで。」
「はーい、じゃあ、持って行ってくるわー。」
とかわいく返事をして、今度はゆっくりと店を出て行った。
「稀世姉さん、結衣ちゃん、よく転ぶけど、発達障害とかなんですか?」
「いや、全然そんなことないと思うけど。結衣ちゃん、去年は、幼稚園の運動会はリレー選手やったくらいやし、子供パルクールでもしっかりと演技してたで。私に似て、ちょっとあわてんぼうなところがあんのかな?さあ、今日は、うちの奢りやから、サブちゃんのお寿司味わっていってな。」
「はい、ごちそうになります。」
BARまりあは今日も安江目当てのおやじたちが屯(たむろ)していた。カウンター席に社会福祉協議会のST(作業療法士)の大原亮治が来店した。難しい顔をして、同僚のスタッフと水割りを飲んでいる。
聞くともなく耳に入ってきた話だと、どうやら結衣の話をしているようだった。
「すみません、つい耳に入ってしまったのですが、今の話ってキリン幼稚園の結衣ちゃんの話でしょうか?」
安江が大原に聞いた。安江は、結衣が若年性筋ジストロフィーを発症したことを聞いた。先日の子供の日のイベントで結衣と知り合い、こども食堂のボランティアで結衣になついてもらっている話を大原にした。大原が個人情報保護法の手前、大きい声では言えないが、こども食堂の関係者ということであれば、注意しておいてほしいことがあると前置きして、安江に話し始めた。
「結衣ちゃんは、今年の春に「よく転ぶようになった」って言ってお母さんがこども健康診断の時に相談してきたんや。発達障害があったわけやなかったんで、俺も気になって、色々とお母さんに結衣ちゃんの最近の状況について聞いたんやな。
ちょっと気にかかることがあって、念のため、門真総合病院で精密検査を進めたんよ。そうしたら、「筋ジストロフィー」やってことが分かったんや。
俺ら、作業療法士にできることは限られてるんで、今は、ビルトラルセン、ビルテプソを試しているんや。デコジェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の一割弱の患者に効果がある。それが効果があったらええねんけどな。」
「えっ、その薬って効果は一割弱しか望めないんですか?」
「いや、その考えはちゃうで。一割弱に効果があるんや。0%と9%は全然違う。ビルトラルセンとビルテプソは日進月歩の医療界で筋ジストロフィーには、最初の光なんや。若年性の筋ジストロフィーは、通常十五歳までは歩ける。三十~四十歳が寿命。
三~五歳で「転びやすい」、「走れない」で発症に気づくんや。五歳ごろ運動能力がピークで、十歳で車いす生活になるんが普通や。結衣ちゃんは進行が速い。新薬ができるまで、そして新治療法が確立するまで、「光」が必要なんや。俺ら、医療従事者も患者も患者の家族も「良くなる」ことを信じて頑張るんや。ALSと違って筋ジストロフィーは、先が期待できるんや。」
「一割弱の光…。ALSと違って…。」
熱心に説明する大原の言葉が安江の頭の中で繰り返された。(でも、ALSの私にはその光はない…。あるのは先の見えない闇だけ…。)
「あの、大原さん、結衣ちゃんと一緒にいるときは、何に気をつければいいんですか?素人の私にできることはありますか?できることがあるなら教えてください。」
「せやな、「無理して走らせへんこと。」が一番やな。お友達と鬼ごっことか制限するのは辛いんやけどなぁ。それと、この先、嚥下力の低下が予測されるんで、大きく、飲み込みにくいものは避けるようにこども食堂の人たちに言っておいてくれるといいかな?」
「嚥下力の低下って、具体的にはどんなことに気をつければいいんですか?」
「例えば、子どもにとったら噛み切りにくいようなもの。こども食堂やってくれてる向日葵寿司さんなんかやったら、お寿司で「イカ」の握りが出るって聞いたことあんねんけど、大人にとっては何でもない「イカ」が嚥下力の落ちた子供や高齢者には詰まって窒息したりする原因になることがあんねん。あと、大きい海苔なんかも事故例があるから、大きい手巻き寿司なんかも注意せなあかんな。
あと、お好み焼きがんちゃんでいくと「餅玉」は要注意やな。餅も結構怖い。まあ、どんな食事が出てるまでは、社協では把握できてないから、安江ちゃんの方で各店長にそんな話もあるって言っておいてくれると助かるかな。
「嚥下食」でネットたたけば、具体的なメニューや事故事例が出てるから、一回見てもらって。」
と丁寧にアドバイスをもらった。
早速、その日の晩、直の家に戻ると安江は「筋ジストロフィー」と「嚥下食」について調べた。若年性の筋ジストロフィーについては、大原から聞いた通りで、いずれ走れなくなり、車いす生活を強いられる結衣を自分に重ねて想像すると悲しくなった。
食事については、高齢者配食にも通じるところが多く、メモを取った。翌日、向日葵寿司の三朗には、ネタに隠し包丁を入れてもらうようにし、大きな手巻き寿司の海苔を口の中でほぐれやすい鰹節シートに変更してもらうことになった。
「へーえ、僕ら美味しいものを提供することしか考えてなかったけど、そういうことに気を遣わなあかんお客さんもおるってことやなぁ。安江ちゃん、ええ勉強になったわ。ありがとうな。」
と三朗に感謝された。
お好み焼きがんちゃんの徹三とさとみには、「お好み焼き」に加えて「もんじゃ焼き」のメニュー追加を提案した。安江は、徹三の前で、「もんじゃ」を作って見せた。
「今まで、東京の人は、あんな「ゲロ」みたいなもんよお食べよんな。って思ってたけど、これはこれでなかなかいけるな。安江ちゃん、ありがとう。メニューに取り入れて、具材も子供向けに研究するわな。」
と徹三とさとみは安江の行動を感心していた。
次の日、ニコニコプロレスの練習中に、凛が明日香と結衣を連れて見物に来た。凛が明日香と一緒に結衣に言った。
「今度の試合は、一緒に稀世お姉ちゃんの応援しよな!」
「ううん、私は安江お姉ちゃんのファンになんねん。いつか、私もプロレスラーになれるかな?」
と笑顔で返した。
「そうか、それもええかもな。いつかニコニコプロレスで「凛&結衣」のタッグ組もな。」
「あー、「明日香&結衣」チームもあり得るでなぁ。」
と三人でリング横の椅子に座ってはしゃいでいる。一瞬言葉に詰まる安江。稀世に(安江ちゃん、泣いたらあかん)とアイサインを送られる。稀世と安江が「一緒に頑張ろうな!」と三人に声をかけた。
後ほど、控室で安江が稀世に聞いた。
「あの時、わたし、結衣ちゃんにどう言えばよかったんでしょうか…。」
「そりゃ、速攻で「がんばろう!やろ。ラオス語で言ったら、「ぱにゃにゃんだ―!」やな。」
「でも、この先、結衣ちゃんは…。」
「治る可能性がゼロでなければ、前だけ見ていこうや。」
「はい、結衣ちゃんの場合はそうですね。でも、私は…。」
「可能性ってなんや?2年が5年になるのは当たり?それともはずれ?私の場合は、「余命半年」って言われて、告知を受けたその一晩だけは、凄い後ろ向きになってんけど、14時間後からはサブちゃんや直さん、まりあさん、商店街のみんなのおかげで、「前」だけ見るようになってん。「光に向かって歩けば影は見えない」ってな。」
「何があったんですか?」
「聞きたい?」
「はい。」
「じゃあ、直さんとまりあさんに許可とって、仕事早引けして今晩うちに泊まりにおいで。」
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