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第5話 愛のバカンス
出し抜く者
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「わ、私は・・・・・・う、うん。弟みたいな感じかな。そう、だって直哉君って初だから、つい・・・・・・からかいたくなっちゃうんだよねぇ。あはははは」
咄嗟に思いついた『弟』という言葉。まだ自分の気持ちが整理されていない内に、直哉への感情を口にする事が出来なかった。
そんな亜子に沙織は特に突っ込んだ事を言う訳でもなく、優しい眼差しを向けていたのだった。
亜子が部屋に入ると直哉が先に戻っていたのだ。お風呂場での話を思い出し、直哉と話すどころか目を合わすことも出来ず、そのままベッドへと潜り込んでしまったのだ。
その日の夜、トイレに行こうとベッドから起き上がった直哉が部屋を出ると、部屋のドアノブに手をかけようとしている葵とばったり出くわしてしまう。
「あっ・・・・・・え、えっと、うん、トイレに行こうとして・・・・・・間違えたのよ。そう、ただ間違えただけなの」
「・・・・・・トイレは反対側なんだけど・・・・・・」
すぐバレる嘘で言葉に詰まってしまう葵。二人の間に無言の時間ができ、その気まずさを払拭すべく葵は意を決して直哉に話があると伝えたのだ。
「葵さん、どこまで行くの?結構歩いた気がするんだけど」
「もう少しだから。確かこの辺りだったはずなんだけど・・・・・・。あっ、ここだわ」
月明かりが照らす道を進み、暗闇に沈む海が見える砂浜で葵はそこに腰を下ろしたのだ。
「直哉、私の事・・・・・・少し知って欲しいと思ったの。みんなの前じゃなくて、直哉だけに知って貰いたくて」
「え?分かったよ。葵さんの事聞かせてよ」
「私ね・・・・・・実は、幼い頃に両親に捨てられたの。それで、施設でずっと育てられたんだ」
葵の悲しげな顔が月明かりに照らされ、直哉は静かに葵の隣りに寄り添う様に座ったのだ。
「施設でもずっと一人だったの。何でこんな苦しい思いをしなくちゃって、両親を心の底から恨んだわ。でもね、たまたま街でスカウトされて、そこで誓ったんだ。どんな事をしても、有名になって両親に復讐してやるって」
星空を見上げながら話す葵を、直哉は黙って聞いていたのだ。
「色んな人を利用して、切り捨ててようやく今の地位まで辿り着けたの。本当の自分とアイドルの自分を使い分けてね。ライバルになりそうな子を蹴り落とした事もあった、仕事を取る為なら何でもやったわ。でも安心してね?体は綺麗なままよ、誰にも触らせていないからね」
月の光が葵の瞳から零れそうな涙を照らし、辛そうな表情を浮かべるが葵は話しを続けたのだ。
「直哉もそんな人の一人だったはずなの。沙織を利用する為に、罠に掛けて・・・・・・そうすればもっと上に行けるそう思ってた。でも、大失態した上に・・・・・・その上こんな私でもそばにいてくれるって・・・・・・本当に嬉しかったの。こんな私でも必要としてくれるんだって」
直哉の方を振り向くと、砂浜に両手をつき直哉の顔に近づいたのだ。
「だからね、私は・・・・・・本当の私が好きなのは・・・・・・」
涙が瞳から零れながら、キスを迫る様な格好で直哉に迫ったのだ。二人の距離が後わずかになった時であった。
「全く・・・・・・遅いと思い様子を見に来てみたら・・・・・・」
沙織の顔が二人の間を引き裂き、突然の事で直哉は後退りをしてしまった。
「な、さ、沙織。ちっ、もうちょっとだったのに・・・・・・。本当、いい所で邪魔をするわね」
涙を吹き普段の口調で沙織に突っかかる葵に、沙織は満面の笑みを浮かべ・・・・・・。
「わざわざこの場所で告白だなんて、油断も隙もあったものじゃありませんわ。仕方がありません、やはり無人島一年生活を実現させるしか・・・・・・」
昼間に話した恋が成就する岩場の前で、沙織は真面目な顔をしポケットからスマホを取り出すと、どこかへ電話しようとしていたのだ。
慌てた葵は沙織がかける電話が繋がる前に、必死で止めようとしていた。それこそ、本気で泣くぐらい謝り続け、沙織は二度と出し抜かない事を葵に誓わせたのだった。
咄嗟に思いついた『弟』という言葉。まだ自分の気持ちが整理されていない内に、直哉への感情を口にする事が出来なかった。
そんな亜子に沙織は特に突っ込んだ事を言う訳でもなく、優しい眼差しを向けていたのだった。
亜子が部屋に入ると直哉が先に戻っていたのだ。お風呂場での話を思い出し、直哉と話すどころか目を合わすことも出来ず、そのままベッドへと潜り込んでしまったのだ。
その日の夜、トイレに行こうとベッドから起き上がった直哉が部屋を出ると、部屋のドアノブに手をかけようとしている葵とばったり出くわしてしまう。
「あっ・・・・・・え、えっと、うん、トイレに行こうとして・・・・・・間違えたのよ。そう、ただ間違えただけなの」
「・・・・・・トイレは反対側なんだけど・・・・・・」
すぐバレる嘘で言葉に詰まってしまう葵。二人の間に無言の時間ができ、その気まずさを払拭すべく葵は意を決して直哉に話があると伝えたのだ。
「葵さん、どこまで行くの?結構歩いた気がするんだけど」
「もう少しだから。確かこの辺りだったはずなんだけど・・・・・・。あっ、ここだわ」
月明かりが照らす道を進み、暗闇に沈む海が見える砂浜で葵はそこに腰を下ろしたのだ。
「直哉、私の事・・・・・・少し知って欲しいと思ったの。みんなの前じゃなくて、直哉だけに知って貰いたくて」
「え?分かったよ。葵さんの事聞かせてよ」
「私ね・・・・・・実は、幼い頃に両親に捨てられたの。それで、施設でずっと育てられたんだ」
葵の悲しげな顔が月明かりに照らされ、直哉は静かに葵の隣りに寄り添う様に座ったのだ。
「施設でもずっと一人だったの。何でこんな苦しい思いをしなくちゃって、両親を心の底から恨んだわ。でもね、たまたま街でスカウトされて、そこで誓ったんだ。どんな事をしても、有名になって両親に復讐してやるって」
星空を見上げながら話す葵を、直哉は黙って聞いていたのだ。
「色んな人を利用して、切り捨ててようやく今の地位まで辿り着けたの。本当の自分とアイドルの自分を使い分けてね。ライバルになりそうな子を蹴り落とした事もあった、仕事を取る為なら何でもやったわ。でも安心してね?体は綺麗なままよ、誰にも触らせていないからね」
月の光が葵の瞳から零れそうな涙を照らし、辛そうな表情を浮かべるが葵は話しを続けたのだ。
「直哉もそんな人の一人だったはずなの。沙織を利用する為に、罠に掛けて・・・・・・そうすればもっと上に行けるそう思ってた。でも、大失態した上に・・・・・・その上こんな私でもそばにいてくれるって・・・・・・本当に嬉しかったの。こんな私でも必要としてくれるんだって」
直哉の方を振り向くと、砂浜に両手をつき直哉の顔に近づいたのだ。
「だからね、私は・・・・・・本当の私が好きなのは・・・・・・」
涙が瞳から零れながら、キスを迫る様な格好で直哉に迫ったのだ。二人の距離が後わずかになった時であった。
「全く・・・・・・遅いと思い様子を見に来てみたら・・・・・・」
沙織の顔が二人の間を引き裂き、突然の事で直哉は後退りをしてしまった。
「な、さ、沙織。ちっ、もうちょっとだったのに・・・・・・。本当、いい所で邪魔をするわね」
涙を吹き普段の口調で沙織に突っかかる葵に、沙織は満面の笑みを浮かべ・・・・・・。
「わざわざこの場所で告白だなんて、油断も隙もあったものじゃありませんわ。仕方がありません、やはり無人島一年生活を実現させるしか・・・・・・」
昼間に話した恋が成就する岩場の前で、沙織は真面目な顔をしポケットからスマホを取り出すと、どこかへ電話しようとしていたのだ。
慌てた葵は沙織がかける電話が繋がる前に、必死で止めようとしていた。それこそ、本気で泣くぐらい謝り続け、沙織は二度と出し抜かない事を葵に誓わせたのだった。
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