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強豪の意地 選抜vs光陵
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ノーアウト二、三塁の場面から飛び出した巧のスリーランホームランによって、得点差はさらに広がった。
五回表で五対〇。大きな点差が開いていた。
このまま選抜メンバーチームが一気に試合を持っていく展開だった。しかし……、
「琥珀、一個ずつ取っていこう」
キャッチャーの魁は、ホームからそう声をかける。そしてそれに続くように他の選手も、「良い球きてるよ!」「打って返そう」などと声をかけている。
以前の合宿では大きな失点などはなかったとはいえ、明らかにチームの雰囲気が変わっている。一人一人が自分のプレーをするだけだったチームが、チームメイトのことを気遣い声をかけている。普通のことかもしれないが、たったそれだけのことで雰囲気が変わっていた。
明鈴もチームの雰囲気は変わっている。光がキャプテンとなったことで、より一層チームが他の選手のことを考えるようになった。それは恐らく夜空が一人でチームを引っ張り、支えていたからだ。今は光が全員を支えて全員が光を支えている。ただ、光陵ほどの変化ではない。
光陵は琥珀が中心のチームだ。神代先生はそう考えており、チームの全員はそのことを理解しているだろう。だからこそ琥珀が変わったことによって、チーム全体が変わったのだ。そう巧は考えていた。
そしてその変化は決して小さなものではない。チームメイトの声によって、琥珀の顔付きは打たれたピッチャーの顔付きをしていなかった。
巧にホームランを打たれた琥珀だったが、まるでそんな事実がなかったかのように崩れない。
続く晴、智佳、由真の三人をキッチリと抑えると、光陵の攻撃を迎えた。
打たれたことでランナーがいなくなり、スッキリしたというのはあるだろうが、五点差となる大きな失点のはずだ。それでも光陵の選手たちは負けることなど一ミリも考えていない。
諦めたらそこでもう勝つ道は閉ざされてしまう。諦めなければ勝てるわけではないが、諦めてしまえば勝てないのだ。
そんな光陵に対抗するように、選抜メンバーチームも動いた。
調子を上げているとはいえ、四回を投げた秀も流石に疲れはあるだろう。そしてピッチャーができる選手は他に三人いる。そのため監督を務める佐伯先生はここで交代の選択をした。
「久世さん、ナイスピッチお願いします」
「藤崎くんも後ろ頼んだよ。慣れないからってミスっても言い訳しないでね」
「ミスらないところに打たせてください」
巧がマウンドに行って声をかけると、琉華は煽るようにそう返した。そのため巧も煽り返す。
試合を通して会話が増えているため、年齢や立場が近い巧と琉華は軽口を叩くようになっていた。
琉華は公式戦ではピッチャーとしての登板はなかったが、練習試合では投げていた。野手のレギュラー兼投手の控えということになる。
そんな琉華がマウンドに上がったが、サードを守っていた琉華の守備が代わったということは、他も代わるということだ。
守備の変更があり、現在の守備位置は、
ピッチャー久世琉華
ライト本田珠姫
サード藤崎巧
ファースト仲村智佳
センター佐久間由真
レフト平河秀
となっている。
智佳を本職のファーストに入れると、試す意味も込めてか珠姫をライトに回し、足の速い由真がセンターへと入った。
珠姫は中学時代に外野を守ったことはあるため経験があるにはあるが、その時は怪我前の左投げの時だ。右投げとなってからは以前の合宿中に一度守ったことと、練習でたまに入るくらい。幅を広げるためにも、良い経験にはなるだろう。
そして巧はサードをたまに守ることはあったが、多くはない。基本的にはピッチャー、ショート、センターが多く、サードやセカンド、ライト、レフトを守っていたのは中学一、二年生の先輩がいた時がほとんどだった。稀にメインでしている選手が負傷交代をした際に、控えまで出切っている時くらいだが、それも多いものではなかった。
もちろん不安がないわけではない。ここ最近は守備練習をほとんどしておらず、センターでの守備も経験や選手時代の感覚に頼っているため、経験の浅いサードの守備となれば不安で仕方ない。だからこそ、ミスのないように心がけなければいけない。難しいことであれば、できないと最初から諦めるのではなく、むしろミスがないように心がけなければいけない。
巧は守備位置に就くと息を吐く。他のポジションと同じように体をリラックスさせ、体を軽く動かすのだ。
琉華が投球練習を終え、魁が打席に入る。
ピッチャーの代わりどころとなる初球を魁は見送りストライクとなったが、二球目はタイミングを外すチェンジアップが外れてボール球となる。
そして三球目のストレートもやや低く外れ、ボールとなった。
カウントは進み四球目、甘く入ったカーブを叩いた。
打球は三遊間。巧は打球へと果敢に飛びつくが、その打球にグラブが触れることはなく、レフト前へと転がった。
「ナイスバッティング!」
光陵ベンチは反撃したいこの回、先頭打者の魁が出塁したことによって盛り上がっていた。
しかし、まだノーアウト一塁の状況だ。この後打席に入る実里次第ではゲッツーに終わることもあれば、続いたとしても無得点で終わることだってある。結果は確定するまでどう転ぶかわからない。
ただ、光陵にも甲子園に出場するチームという意地がある。
実里は初球から積極的に振りに行くが、高めのストレートを空振りワンストライクとなる。そして二球目のタイミングを外すカーブには手が出ず見送り、その球はストライクとなった。
しかし、実里は意地を見せる。三球目のストレートを捉えると、ライト前に運んだ。
ファーストランナーの魁は打球を見ながら二塁を回ると、三塁へと到達する。
ノーアウトでランナー一、三塁。外野フライでもそれなりの深さがあれば一点、内野ゴロでも場合にはよるが一点となる。ゲッツーとなったとしても一点だ。
不安定なピッチャーの立ち上がりで立て続けにヒットを放たれ、選抜メンバーはノーアウトでピンチとなってしまう。
一失点は仕方がないかもしれない。点差が開いているため、終盤に差し掛かる中盤の終わりとなる五回ではあるが、一点であればまだ余裕はある。
しかし、二点、三点と打線が繋がれば、一気に逆転される可能性だってあった。
試合が動くかもしれないこの状況。
打席に入るのは、投手としても野手としても控えながら、その実力はレギュラークラスに匹敵する二年生、甲子園も経験している土屋護だ。
五回表で五対〇。大きな点差が開いていた。
このまま選抜メンバーチームが一気に試合を持っていく展開だった。しかし……、
「琥珀、一個ずつ取っていこう」
キャッチャーの魁は、ホームからそう声をかける。そしてそれに続くように他の選手も、「良い球きてるよ!」「打って返そう」などと声をかけている。
以前の合宿では大きな失点などはなかったとはいえ、明らかにチームの雰囲気が変わっている。一人一人が自分のプレーをするだけだったチームが、チームメイトのことを気遣い声をかけている。普通のことかもしれないが、たったそれだけのことで雰囲気が変わっていた。
明鈴もチームの雰囲気は変わっている。光がキャプテンとなったことで、より一層チームが他の選手のことを考えるようになった。それは恐らく夜空が一人でチームを引っ張り、支えていたからだ。今は光が全員を支えて全員が光を支えている。ただ、光陵ほどの変化ではない。
光陵は琥珀が中心のチームだ。神代先生はそう考えており、チームの全員はそのことを理解しているだろう。だからこそ琥珀が変わったことによって、チーム全体が変わったのだ。そう巧は考えていた。
そしてその変化は決して小さなものではない。チームメイトの声によって、琥珀の顔付きは打たれたピッチャーの顔付きをしていなかった。
巧にホームランを打たれた琥珀だったが、まるでそんな事実がなかったかのように崩れない。
続く晴、智佳、由真の三人をキッチリと抑えると、光陵の攻撃を迎えた。
打たれたことでランナーがいなくなり、スッキリしたというのはあるだろうが、五点差となる大きな失点のはずだ。それでも光陵の選手たちは負けることなど一ミリも考えていない。
諦めたらそこでもう勝つ道は閉ざされてしまう。諦めなければ勝てるわけではないが、諦めてしまえば勝てないのだ。
そんな光陵に対抗するように、選抜メンバーチームも動いた。
調子を上げているとはいえ、四回を投げた秀も流石に疲れはあるだろう。そしてピッチャーができる選手は他に三人いる。そのため監督を務める佐伯先生はここで交代の選択をした。
「久世さん、ナイスピッチお願いします」
「藤崎くんも後ろ頼んだよ。慣れないからってミスっても言い訳しないでね」
「ミスらないところに打たせてください」
巧がマウンドに行って声をかけると、琉華は煽るようにそう返した。そのため巧も煽り返す。
試合を通して会話が増えているため、年齢や立場が近い巧と琉華は軽口を叩くようになっていた。
琉華は公式戦ではピッチャーとしての登板はなかったが、練習試合では投げていた。野手のレギュラー兼投手の控えということになる。
そんな琉華がマウンドに上がったが、サードを守っていた琉華の守備が代わったということは、他も代わるということだ。
守備の変更があり、現在の守備位置は、
ピッチャー久世琉華
ライト本田珠姫
サード藤崎巧
ファースト仲村智佳
センター佐久間由真
レフト平河秀
となっている。
智佳を本職のファーストに入れると、試す意味も込めてか珠姫をライトに回し、足の速い由真がセンターへと入った。
珠姫は中学時代に外野を守ったことはあるため経験があるにはあるが、その時は怪我前の左投げの時だ。右投げとなってからは以前の合宿中に一度守ったことと、練習でたまに入るくらい。幅を広げるためにも、良い経験にはなるだろう。
そして巧はサードをたまに守ることはあったが、多くはない。基本的にはピッチャー、ショート、センターが多く、サードやセカンド、ライト、レフトを守っていたのは中学一、二年生の先輩がいた時がほとんどだった。稀にメインでしている選手が負傷交代をした際に、控えまで出切っている時くらいだが、それも多いものではなかった。
もちろん不安がないわけではない。ここ最近は守備練習をほとんどしておらず、センターでの守備も経験や選手時代の感覚に頼っているため、経験の浅いサードの守備となれば不安で仕方ない。だからこそ、ミスのないように心がけなければいけない。難しいことであれば、できないと最初から諦めるのではなく、むしろミスがないように心がけなければいけない。
巧は守備位置に就くと息を吐く。他のポジションと同じように体をリラックスさせ、体を軽く動かすのだ。
琉華が投球練習を終え、魁が打席に入る。
ピッチャーの代わりどころとなる初球を魁は見送りストライクとなったが、二球目はタイミングを外すチェンジアップが外れてボール球となる。
そして三球目のストレートもやや低く外れ、ボールとなった。
カウントは進み四球目、甘く入ったカーブを叩いた。
打球は三遊間。巧は打球へと果敢に飛びつくが、その打球にグラブが触れることはなく、レフト前へと転がった。
「ナイスバッティング!」
光陵ベンチは反撃したいこの回、先頭打者の魁が出塁したことによって盛り上がっていた。
しかし、まだノーアウト一塁の状況だ。この後打席に入る実里次第ではゲッツーに終わることもあれば、続いたとしても無得点で終わることだってある。結果は確定するまでどう転ぶかわからない。
ただ、光陵にも甲子園に出場するチームという意地がある。
実里は初球から積極的に振りに行くが、高めのストレートを空振りワンストライクとなる。そして二球目のタイミングを外すカーブには手が出ず見送り、その球はストライクとなった。
しかし、実里は意地を見せる。三球目のストレートを捉えると、ライト前に運んだ。
ファーストランナーの魁は打球を見ながら二塁を回ると、三塁へと到達する。
ノーアウトでランナー一、三塁。外野フライでもそれなりの深さがあれば一点、内野ゴロでも場合にはよるが一点となる。ゲッツーとなったとしても一点だ。
不安定なピッチャーの立ち上がりで立て続けにヒットを放たれ、選抜メンバーはノーアウトでピンチとなってしまう。
一失点は仕方がないかもしれない。点差が開いているため、終盤に差し掛かる中盤の終わりとなる五回ではあるが、一点であればまだ余裕はある。
しかし、二点、三点と打線が繋がれば、一気に逆転される可能性だってあった。
試合が動くかもしれないこの状況。
打席に入るのは、投手としても野手としても控えながら、その実力はレギュラークラスに匹敵する二年生、甲子園も経験している土屋護だ。
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