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第二章 高校三年生編
第115.5話 わかばちゃんはからかいたい!
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若葉と付き合い始めた翌日。
今日は颯太や本宮と家で勉強をし、二人は夕方に帰ったため俺は部屋でくつろいでいた。
夏休みは時間がある。
油断をしてしまえばいつの間にか終わってしまうが、いくら受験生とはいえ根の詰めすぎは良くない。
俺は昼間に集中して勉強したこともあって、夕飯までの時間はベッドに転がりながらマンガを読んでゆっくりとしていた。
そんな時だ。
「ん? なんだ?」
玄関のチャイムが鳴り、母さんが出ていく声が聞こえる。
ただの来客だ。
玄関口で話しているかと思えば、少ししてから玄関のドアが閉まり、それでも話し声が聞こえている。
客人を家に入れたということだ。
俺は不思議に思いながらも、読んでいたマンガに意識を戻す。
しかし、それはたった数秒で終わりを告げる。
「虎徹ー!」
勢いよく部屋のドアを開けながら、若葉が俺の部屋に入ってきた。
今日は部活だったはずだが私服だ。わざわざ着替えてきたのだろう。
そんなことを考えていると、若葉は部屋に入ってきた勢いそのままに、俺の上にダイブしてくる。
「うおっ!」
咄嗟にマンガを手放すと、若葉は俺の胸辺りに顔を埋める。
少しばかり煩悩と戦うことにはなったが、見事勝利した俺は声を上げた。
「お、おい、何してんだ!?」
「え? なんとなく?」
そう言って顔だけをこちらに向ける若葉。
この体勢からの若葉の視線に、俺は不覚にもドキッとしてしまう。
倒したはずの煩悩が、さらに強敵となって帰ってきた。
「こ、こういうのは無しって言っただろ?」
「いつものことじゃない?」
そう言い返されると、確かに納得してしまう。
今考えてみると好意からくるものがあったのかもしれないが、若葉は元からスキンシップが多かった。
その男子が羨むような胸を押し付けてくることはなかったが、俺に対してはこういうボディタッチも普通なのだ。
気を許している颯太にもここまでではないとはいえ、肩を叩いたり頭を触ったりくらいのことはしているほど、若葉はパーソナルスペースが狭かった。
「あれ? もしかして虎徹は意識しちゃってるのかなぁ?」
明らかにからかっているようにニヤニヤとする若葉。
正直この表情は腹が立つ。
「うぜぇ……」
「わ、酷っ! 彼女に対してうざいは酷いよ!」
「自業自得だろ……」
いくら彼氏彼女だろうと、うざいものはうざい。
もちろんそれだけで嫌いになったり別れたりということも考えなければ、そのうざさが可愛いとも思ってしまうのが惚れた弱みというやつだろう。
しかし、うざいものはうざいのだ。
「あんたたち何してんのー?」
俺と若葉がそんなやり取りをしているところをばっちりと見ていた母さんは、意味深なにやけ顔をして俺の部屋の前に立っていた。
――終わった。
「え? 何? やっと付き合ったの?」
「うん! 昨日から!」
「だから今日、颯太と花音が帰った後でも来たって感じか?」
「そうだよ!」
……そうじゃなくてもしょっちゅう来るが。
「おー、じゃあ詳しく話を聞かしてもらおうかな! 若葉、今日ご飯食べてく?」
「食べてく!」
若葉と母さんは仲が良い。
まるで友達のように話すのだ。
無邪気な笑顔を浮かべる若葉と、息子の恋愛話に興味津々な母さん。
今日の夜ご飯は、俺が公開処刑されるのが確定だ。
「なあ若葉」
「どうしたの?」
「うちで急にご飯食べるって、若葉の家のご飯はどうするんだ?」
「んー……、帰ったら食べるか、明日も部活だからお弁当に入れてもらうかにしよっかな?」
つまり、用意されてはいるということだ。
「俺、若葉んちで食べてくる」
そう言って俺は上に乗っている若葉をどかし、家から出ようとするが上手くいくはずもない。
若葉と母親から辱めを受けながら、憐みの目で見てくる父さんに、無言で励まされていた。
「あっ、虎徹。うちの家族にも報告したからね」
「お、おう」
別れるつもりは毛頭もないため問題はない。
しかし、付き合って一日でお互いの家族に知られたのことは、枕に顔を埋めて悶えたくなるほど恥ずかしかった。
いつの間にか、両親公認になっていたのだ。
今日は颯太や本宮と家で勉強をし、二人は夕方に帰ったため俺は部屋でくつろいでいた。
夏休みは時間がある。
油断をしてしまえばいつの間にか終わってしまうが、いくら受験生とはいえ根の詰めすぎは良くない。
俺は昼間に集中して勉強したこともあって、夕飯までの時間はベッドに転がりながらマンガを読んでゆっくりとしていた。
そんな時だ。
「ん? なんだ?」
玄関のチャイムが鳴り、母さんが出ていく声が聞こえる。
ただの来客だ。
玄関口で話しているかと思えば、少ししてから玄関のドアが閉まり、それでも話し声が聞こえている。
客人を家に入れたということだ。
俺は不思議に思いながらも、読んでいたマンガに意識を戻す。
しかし、それはたった数秒で終わりを告げる。
「虎徹ー!」
勢いよく部屋のドアを開けながら、若葉が俺の部屋に入ってきた。
今日は部活だったはずだが私服だ。わざわざ着替えてきたのだろう。
そんなことを考えていると、若葉は部屋に入ってきた勢いそのままに、俺の上にダイブしてくる。
「うおっ!」
咄嗟にマンガを手放すと、若葉は俺の胸辺りに顔を埋める。
少しばかり煩悩と戦うことにはなったが、見事勝利した俺は声を上げた。
「お、おい、何してんだ!?」
「え? なんとなく?」
そう言って顔だけをこちらに向ける若葉。
この体勢からの若葉の視線に、俺は不覚にもドキッとしてしまう。
倒したはずの煩悩が、さらに強敵となって帰ってきた。
「こ、こういうのは無しって言っただろ?」
「いつものことじゃない?」
そう言い返されると、確かに納得してしまう。
今考えてみると好意からくるものがあったのかもしれないが、若葉は元からスキンシップが多かった。
その男子が羨むような胸を押し付けてくることはなかったが、俺に対してはこういうボディタッチも普通なのだ。
気を許している颯太にもここまでではないとはいえ、肩を叩いたり頭を触ったりくらいのことはしているほど、若葉はパーソナルスペースが狭かった。
「あれ? もしかして虎徹は意識しちゃってるのかなぁ?」
明らかにからかっているようにニヤニヤとする若葉。
正直この表情は腹が立つ。
「うぜぇ……」
「わ、酷っ! 彼女に対してうざいは酷いよ!」
「自業自得だろ……」
いくら彼氏彼女だろうと、うざいものはうざい。
もちろんそれだけで嫌いになったり別れたりということも考えなければ、そのうざさが可愛いとも思ってしまうのが惚れた弱みというやつだろう。
しかし、うざいものはうざいのだ。
「あんたたち何してんのー?」
俺と若葉がそんなやり取りをしているところをばっちりと見ていた母さんは、意味深なにやけ顔をして俺の部屋の前に立っていた。
――終わった。
「え? 何? やっと付き合ったの?」
「うん! 昨日から!」
「だから今日、颯太と花音が帰った後でも来たって感じか?」
「そうだよ!」
……そうじゃなくてもしょっちゅう来るが。
「おー、じゃあ詳しく話を聞かしてもらおうかな! 若葉、今日ご飯食べてく?」
「食べてく!」
若葉と母さんは仲が良い。
まるで友達のように話すのだ。
無邪気な笑顔を浮かべる若葉と、息子の恋愛話に興味津々な母さん。
今日の夜ご飯は、俺が公開処刑されるのが確定だ。
「なあ若葉」
「どうしたの?」
「うちで急にご飯食べるって、若葉の家のご飯はどうするんだ?」
「んー……、帰ったら食べるか、明日も部活だからお弁当に入れてもらうかにしよっかな?」
つまり、用意されてはいるということだ。
「俺、若葉んちで食べてくる」
そう言って俺は上に乗っている若葉をどかし、家から出ようとするが上手くいくはずもない。
若葉と母親から辱めを受けながら、憐みの目で見てくる父さんに、無言で励まされていた。
「あっ、虎徹。うちの家族にも報告したからね」
「お、おう」
別れるつもりは毛頭もないため問題はない。
しかし、付き合って一日でお互いの家族に知られたのことは、枕に顔を埋めて悶えたくなるほど恥ずかしかった。
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