上 下
117 / 135
第二章 高校三年生編

第115.5話 わかばちゃんはからかいたい!

しおりを挟む
 若葉と付き合い始めた翌日。
 今日は颯太や本宮と家で勉強をし、二人は夕方に帰ったため俺は部屋でくつろいでいた。

 夏休みは時間がある。
 油断をしてしまえばいつの間にか終わってしまうが、いくら受験生とはいえ根の詰めすぎは良くない。

 俺は昼間に集中して勉強したこともあって、夕飯までの時間はベッドに転がりながらマンガを読んでゆっくりとしていた。

 そんな時だ。

「ん? なんだ?」

 玄関のチャイムが鳴り、母さんが出ていく声が聞こえる。
 ただの来客だ。

 玄関口で話しているかと思えば、少ししてから玄関のドアが閉まり、それでも話し声が聞こえている。
 客人を家に入れたということだ。
 俺は不思議に思いながらも、読んでいたマンガに意識を戻す。

 しかし、それはたった数秒で終わりを告げる。

「虎徹ー!」

 勢いよく部屋のドアを開けながら、若葉が俺の部屋に入ってきた。
 今日は部活だったはずだが私服だ。わざわざ着替えてきたのだろう。

 そんなことを考えていると、若葉は部屋に入ってきた勢いそのままに、俺の上にダイブしてくる。

「うおっ!」

 咄嗟にマンガを手放すと、若葉は俺の胸辺りに顔をうずめる。
 少しばかり煩悩と戦うことにはなったが、見事勝利した俺は声を上げた。

「お、おい、何してんだ!?」

「え? なんとなく?」

 そう言って顔だけをこちらに向ける若葉。
 この体勢からの若葉の視線に、俺は不覚にもドキッとしてしまう。
 倒したはずの煩悩が、さらに強敵となって帰ってきた。

「こ、こういうのは無しって言っただろ?」

「いつものことじゃない?」

 そう言い返されると、確かに納得してしまう。

 今考えてみると好意からくるものがあったのかもしれないが、若葉は元からスキンシップが多かった。
 その男子が羨むような胸を押し付けてくることはなかったが、俺に対してはこういうボディタッチも普通なのだ。
 気を許している颯太にもここまでではないとはいえ、肩を叩いたり頭を触ったりくらいのことはしているほど、若葉はパーソナルスペースが狭かった。

「あれ? もしかして虎徹は意識しちゃってるのかなぁ?」

 明らかにからかっているようにニヤニヤとする若葉。
 正直この表情は腹が立つ。

「うぜぇ……」

「わ、酷っ! 彼女に対してうざいは酷いよ!」

「自業自得だろ……」

 いくら彼氏彼女だろうと、うざいものはうざい。
 もちろんそれだけで嫌いになったり別れたりということも考えなければ、そのうざさが可愛いとも思ってしまうのが惚れた弱みというやつだろう。

 しかし、うざいものはうざいのだ。

「あんたたち何してんのー?」

 俺と若葉がそんなやり取りをしているところをばっちりと見ていた母さんは、意味深なにやけ顔をして俺の部屋の前に立っていた。

 ――終わった。

「え? 何? やっと付き合ったの?」

「うん! 昨日から!」

「だから今日、颯太と花音が帰った後でも来たって感じか?」

「そうだよ!」

 ……そうじゃなくてもしょっちゅう来るが。

「おー、じゃあ詳しく話を聞かしてもらおうかな! 若葉、今日ご飯食べてく?」

「食べてく!」

 若葉と母さんは仲が良い。
 まるで友達のように話すのだ。

 無邪気な笑顔を浮かべる若葉と、息子の恋愛話に興味津々な母さん。
 今日の夜ご飯は、俺が公開処刑されるのが確定だ。

「なあ若葉」

「どうしたの?」

「うちで急にご飯食べるって、若葉の家のご飯はどうするんだ?」

「んー……、帰ったら食べるか、明日も部活だからお弁当に入れてもらうかにしよっかな?」

 つまり、用意されてはいるということだ。

「俺、若葉んちで食べてくる」

 そう言って俺は上に乗っている若葉をどかし、家から出ようとするが上手くいくはずもない。
 若葉と母親から辱めを受けながら、憐みの目で見てくる父さんに、無言で励まされていた。

「あっ、虎徹。うちの家族にも報告したからね」

「お、おう」

 別れるつもりは毛頭もないため問題はない。
 しかし、付き合って一日でお互いの家族に知られたのことは、枕に顔を埋めて悶えたくなるほど恥ずかしかった。

 いつの間にか、両親公認になっていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...