116 / 135
第二章 高校三年生編
第115話 井上若葉は伝えたい
しおりを挟む
「付き合いたい。……でも、恋人らしいことはしたくない」
そう言われて、私は複雑な心境だった。
付き合うという方に意識を向けてくれたのは嬉しいけど、恋人らしいことができないことには寂しい気持ちがある。
私も恋人になって色々としたいって考えたから、告白したんだから。
……でも、嬉しくもあった。
「そっか。……そうだよね」
「ああ。付き合うっていうのも正直難しいとは思ってる。だから、それ以上のことをしたら俺は止めれなくなってしまう」
虎徹は優しい。
自分の譲れないところがあっても、私の意見も尊重してくれる。
最初に断ったのだって、私のことを考えてくれたから。
――まあ、それは私の望む形じゃなかったけど。
今までずっと一緒にいて、私のことを守ってくれて、私のことを考えてくれる人なんて、虎徹以外いないって思っている。
虎徹以上の人がいたとしても、私は虎徹のことが好き。
それはどうなっても変わらないと思う。
見かけによらずにこんなに優しい虎徹のことを、私は好きになってしまったのだから。
「虎徹、ありがとう。私、虎徹のこと好きだから我慢する」
「ああ」
「でも、十八歳になったら……いや、高校を卒業したら、ちょっとだけでも許してくれない?」
「……えっ?」
「確かに高校生の間は何かあったら責任は取れないけど、大学生になってからなら問題はないから」
恋人になるなら……ここだけは譲れなかった。
「それに、不安だから……っていうのが一番大きいんだ。口で好きだって言われても、やっぱり不安になっちゃうし、私より素敵な子なんていっぱいいるから」
「俺にとって若葉以上の人はいない」
「そう言ってくれるなら嬉しい。……でも、さっきも虎徹が言ったけど、これからはわからない。だからちょっとだけ、私が虎徹の彼女だっていう証拠を欲しいんだ」
別に大きなことは求めない。
さっき虎徹が言った『恋人らしいことはしたくない』っていうのは矛盾しちゃうけど、やっぱり少しだけでも恋人らしいことを求めてしまう。
わがままかもしれないけど、ずっと何もないっていうのは、やっぱり辛くなっちゃうから。
「それとも……私には魅力ないかな?」
「魅力しかないからキツイんだよ」
虎徹はそう言いながら顔を真っ赤にしている。
そんな虎徹が可愛いと思ってしまうのは、私だけでいい。
普段はカッコよくて、こんなかわいい表情をする虎徹の魅力に他の女の子が気付いちゃったら困るから。
「ねえ虎徹」
「なんだ?」
「虎徹は自分の気持ちが重いって言ったけど、私も重いよ? さっきも言ったけど、十年以上好きだったの」
「お、おう……」
「私も今までの関係が崩れるのは怖いし、ずっと我慢してた。……でも、その好きが溢れちゃって我慢できなくなったの。それに、虎徹にだったら何されても許す自信があるから」
私がそう言うと、虎徹は明らかに動揺していた。
好きな相手からそんなことを言われたら、気持ちが高ぶってしまう。
……少なくとも、私なら我慢できなくなっちゃう。
だから私はもう我慢ができなかった。
言い訳を考えながら、私は虎徹を抱きしめた。
「ちょっ――」
「今までもおんなじことしてたじゃん?」
「しょ、正面からはないだろ!」
突然の行動に、虎徹は両手の行き場を失っている。抱き返してもらいたいけど、今の虎徹はそんなことをしてくれるわけはないって知ってる。
でも、私の方から抱きしめることはできる。
「これから、よろしくね!」
「……ああ。恋人として今までと変わらずよろしく」
話はまとまったようだ。
良かった……と思いながらも、俺は一つの疑問があった。
――俺たちいらなかったのでは?
そう思いながらも、逃げようとしていた虎徹にとっては監視の意味もあったのかもしれない。
花音と双葉は虎徹の気持ちを理解したようで、何も言わなかった。
……いや、理解できないような気持ちでも、理解できないからこそ否定もしなかったのだ。
この二人は、そういう人たちだ。
「なんかあれだね。形はちょっと変わってるけど、二人が好き合ってるって羨ましいな」
「そうですねぇ……。でも、花音先輩なら相手くらいすぐできるんじゃないですか?」
「うーん……、ここまで思える人ってのはなかなか……。それを言うなら双葉ちゃんの方こそどうなの?」
「私は好きな人いるんで、その人に想われたいです。だから若葉先輩の気持ちはわかるなぁ」
「「……えっ!?」」
あっさりとしすぎていて、俺も花音もスルーしそうになっていた。
しかし、意外……というのは失礼かもしれないが、バスケ一筋の双葉にそんな相手がいるとは思っていなかったのだ。
「あっ……」
口を滑らようで、双葉は口を隠した。
ただ、もう遅い。
「……まあ、別にいっか。実はいるんですよ、好きな人。今までは恥ずかしかったので隠してましたけど」
双葉そう白状すると、聞きつけた若葉が反応した。
「なになに!? 双葉ちゃん好きな人いるの?」
「わっ……。いますけど、内緒ですね」
「気になるなぁ」
すっかり元気を取り戻した若葉はそう言いながら双葉に抱き着いている。
望んでいた形とは少し違っても、長年の恋が実ったのだ。
嬉しそうに笑う若葉を見て俺はほっとしていた。
話題はすでに双葉のことになっており、女子三人はガールズトークに勤しんでいる。
「颯太」
「虎徹、よかったな。おめでとう」
「……おう」
照れくさそうな表情をしている虎徹。
男のこんな表情は需要はないが、虎徹のこんな表情は若葉がらみでしか見れないため新鮮だ。
「これも颯太のおかげだ。ありがとう」
「俺は何もしてないよ。特に今日なんか見てただけだし」
「昨日に話さなかったら決心はつかなかったし、今日だって本当は逃げたくなったよ。だからいてくれるだけでありがたかった」
「……そうか」
あまり感情表現をしない友達にここまでストレートに言われると、流石に男相手でも照れてしまう。
「まあ、颯太も頑張れよ。何かあったら相談乗るから」
「そうだなぁ。また好きな人でもできたら相談しようかな」
「……はあ?」
俺の言葉に、虎徹は呆れたような訝ひげな目をしてくる。
「……いや、いいや」
「なんだよ?」
虎徹は意味深なことを言いながら俺の肩を叩く。
どういうことかはわからないが、虎徹はそれ以上何も言わなかった。
何はともあれ、親友二人の関係が進展した。
完全に望む形ではなかったものの、近い形で収束したことに俺は安心していた。
そう言われて、私は複雑な心境だった。
付き合うという方に意識を向けてくれたのは嬉しいけど、恋人らしいことができないことには寂しい気持ちがある。
私も恋人になって色々としたいって考えたから、告白したんだから。
……でも、嬉しくもあった。
「そっか。……そうだよね」
「ああ。付き合うっていうのも正直難しいとは思ってる。だから、それ以上のことをしたら俺は止めれなくなってしまう」
虎徹は優しい。
自分の譲れないところがあっても、私の意見も尊重してくれる。
最初に断ったのだって、私のことを考えてくれたから。
――まあ、それは私の望む形じゃなかったけど。
今までずっと一緒にいて、私のことを守ってくれて、私のことを考えてくれる人なんて、虎徹以外いないって思っている。
虎徹以上の人がいたとしても、私は虎徹のことが好き。
それはどうなっても変わらないと思う。
見かけによらずにこんなに優しい虎徹のことを、私は好きになってしまったのだから。
「虎徹、ありがとう。私、虎徹のこと好きだから我慢する」
「ああ」
「でも、十八歳になったら……いや、高校を卒業したら、ちょっとだけでも許してくれない?」
「……えっ?」
「確かに高校生の間は何かあったら責任は取れないけど、大学生になってからなら問題はないから」
恋人になるなら……ここだけは譲れなかった。
「それに、不安だから……っていうのが一番大きいんだ。口で好きだって言われても、やっぱり不安になっちゃうし、私より素敵な子なんていっぱいいるから」
「俺にとって若葉以上の人はいない」
「そう言ってくれるなら嬉しい。……でも、さっきも虎徹が言ったけど、これからはわからない。だからちょっとだけ、私が虎徹の彼女だっていう証拠を欲しいんだ」
別に大きなことは求めない。
さっき虎徹が言った『恋人らしいことはしたくない』っていうのは矛盾しちゃうけど、やっぱり少しだけでも恋人らしいことを求めてしまう。
わがままかもしれないけど、ずっと何もないっていうのは、やっぱり辛くなっちゃうから。
「それとも……私には魅力ないかな?」
「魅力しかないからキツイんだよ」
虎徹はそう言いながら顔を真っ赤にしている。
そんな虎徹が可愛いと思ってしまうのは、私だけでいい。
普段はカッコよくて、こんなかわいい表情をする虎徹の魅力に他の女の子が気付いちゃったら困るから。
「ねえ虎徹」
「なんだ?」
「虎徹は自分の気持ちが重いって言ったけど、私も重いよ? さっきも言ったけど、十年以上好きだったの」
「お、おう……」
「私も今までの関係が崩れるのは怖いし、ずっと我慢してた。……でも、その好きが溢れちゃって我慢できなくなったの。それに、虎徹にだったら何されても許す自信があるから」
私がそう言うと、虎徹は明らかに動揺していた。
好きな相手からそんなことを言われたら、気持ちが高ぶってしまう。
……少なくとも、私なら我慢できなくなっちゃう。
だから私はもう我慢ができなかった。
言い訳を考えながら、私は虎徹を抱きしめた。
「ちょっ――」
「今までもおんなじことしてたじゃん?」
「しょ、正面からはないだろ!」
突然の行動に、虎徹は両手の行き場を失っている。抱き返してもらいたいけど、今の虎徹はそんなことをしてくれるわけはないって知ってる。
でも、私の方から抱きしめることはできる。
「これから、よろしくね!」
「……ああ。恋人として今までと変わらずよろしく」
話はまとまったようだ。
良かった……と思いながらも、俺は一つの疑問があった。
――俺たちいらなかったのでは?
そう思いながらも、逃げようとしていた虎徹にとっては監視の意味もあったのかもしれない。
花音と双葉は虎徹の気持ちを理解したようで、何も言わなかった。
……いや、理解できないような気持ちでも、理解できないからこそ否定もしなかったのだ。
この二人は、そういう人たちだ。
「なんかあれだね。形はちょっと変わってるけど、二人が好き合ってるって羨ましいな」
「そうですねぇ……。でも、花音先輩なら相手くらいすぐできるんじゃないですか?」
「うーん……、ここまで思える人ってのはなかなか……。それを言うなら双葉ちゃんの方こそどうなの?」
「私は好きな人いるんで、その人に想われたいです。だから若葉先輩の気持ちはわかるなぁ」
「「……えっ!?」」
あっさりとしすぎていて、俺も花音もスルーしそうになっていた。
しかし、意外……というのは失礼かもしれないが、バスケ一筋の双葉にそんな相手がいるとは思っていなかったのだ。
「あっ……」
口を滑らようで、双葉は口を隠した。
ただ、もう遅い。
「……まあ、別にいっか。実はいるんですよ、好きな人。今までは恥ずかしかったので隠してましたけど」
双葉そう白状すると、聞きつけた若葉が反応した。
「なになに!? 双葉ちゃん好きな人いるの?」
「わっ……。いますけど、内緒ですね」
「気になるなぁ」
すっかり元気を取り戻した若葉はそう言いながら双葉に抱き着いている。
望んでいた形とは少し違っても、長年の恋が実ったのだ。
嬉しそうに笑う若葉を見て俺はほっとしていた。
話題はすでに双葉のことになっており、女子三人はガールズトークに勤しんでいる。
「颯太」
「虎徹、よかったな。おめでとう」
「……おう」
照れくさそうな表情をしている虎徹。
男のこんな表情は需要はないが、虎徹のこんな表情は若葉がらみでしか見れないため新鮮だ。
「これも颯太のおかげだ。ありがとう」
「俺は何もしてないよ。特に今日なんか見てただけだし」
「昨日に話さなかったら決心はつかなかったし、今日だって本当は逃げたくなったよ。だからいてくれるだけでありがたかった」
「……そうか」
あまり感情表現をしない友達にここまでストレートに言われると、流石に男相手でも照れてしまう。
「まあ、颯太も頑張れよ。何かあったら相談乗るから」
「そうだなぁ。また好きな人でもできたら相談しようかな」
「……はあ?」
俺の言葉に、虎徹は呆れたような訝ひげな目をしてくる。
「……いや、いいや」
「なんだよ?」
虎徹は意味深なことを言いながら俺の肩を叩く。
どういうことかはわからないが、虎徹はそれ以上何も言わなかった。
何はともあれ、親友二人の関係が進展した。
完全に望む形ではなかったものの、近い形で収束したことに俺は安心していた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる