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第二章 高校三年生編

第115話 井上若葉は伝えたい

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「付き合いたい。……でも、恋人らしいことはしたくない」

 そう言われて、私は複雑な心境だった。

 付き合うという方に意識を向けてくれたのは嬉しいけど、恋人らしいことができないことには寂しい気持ちがある。
 私も恋人になって色々としたいって考えたから、告白したんだから。

 ……でも、嬉しくもあった。

「そっか。……そうだよね」

「ああ。付き合うっていうのも正直難しいとは思ってる。だから、それ以上のことをしたら俺は止めれなくなってしまう」

 虎徹は優しい。
 自分の譲れないところがあっても、私の意見も尊重してくれる。
 最初に断ったのだって、私のことを考えてくれたから。
 ――まあ、それは私の望む形じゃなかったけど。

 今までずっと一緒にいて、私のことを守ってくれて、私のことを考えてくれる人なんて、虎徹以外いないって思っている。
 虎徹以上の人がいたとしても、私は虎徹のことが好き。
 それはどうなっても変わらないと思う。

 見かけによらずにこんなに優しい虎徹のことを、私は好きになってしまったのだから。

「虎徹、ありがとう。私、虎徹のこと好きだから我慢する」

「ああ」

「でも、十八歳になったら……いや、高校を卒業したら、ちょっとだけでも許してくれない?」

「……えっ?」

「確かに高校生の間は何かあったら責任は取れないけど、大学生になってからなら問題はないから」

 恋人になるなら……ここだけは譲れなかった。

「それに、不安だから……っていうのが一番大きいんだ。口で好きだって言われても、やっぱり不安になっちゃうし、私より素敵な子なんていっぱいいるから」

「俺にとって若葉以上の人はいない」

「そう言ってくれるなら嬉しい。……でも、さっきも虎徹が言ったけど、これからはわからない。だからちょっとだけ、私が虎徹の彼女だっていう証拠を欲しいんだ」

 別に大きなことは求めない。
 さっき虎徹が言った『恋人らしいことはしたくない』っていうのは矛盾しちゃうけど、やっぱり少しだけでも恋人らしいことを求めてしまう。

 わがままかもしれないけど、ずっと何もないっていうのは、やっぱり辛くなっちゃうから。

「それとも……私には魅力ないかな?」

「魅力しかないからキツイんだよ」

 虎徹はそう言いながら顔を真っ赤にしている。

 そんな虎徹が可愛いと思ってしまうのは、私だけでいい。
 普段はカッコよくて、こんなかわいい表情をする虎徹の魅力に他の女の子が気付いちゃったら困るから。

「ねえ虎徹」

「なんだ?」

「虎徹は自分の気持ちが重いって言ったけど、私も重いよ? さっきも言ったけど、十年以上好きだったの」

「お、おう……」

「私も今までの関係が崩れるのは怖いし、ずっと我慢してた。……でも、その好きが溢れちゃって我慢できなくなったの。それに、虎徹にだったら何されても許す自信があるから」

 私がそう言うと、虎徹は明らかに動揺していた。
 好きな相手からそんなことを言われたら、気持ちが高ぶってしまう。
 ……少なくとも、私なら我慢できなくなっちゃう。

 だから私はもう我慢ができなかった。
 言い訳を考えながら、私は虎徹を抱きしめた。

「ちょっ――」

「今までもおんなじことしてたじゃん?」

「しょ、正面からはないだろ!」

 突然の行動に、虎徹は両手の行き場を失っている。抱き返してもらいたいけど、今の虎徹はそんなことをしてくれるわけはないって知ってる。
 でも、私の方から抱きしめることはできる。

「これから、よろしくね!」

「……ああ。恋人としてよろしく」



 話はまとまったようだ。
 良かった……と思いながらも、俺は一つの疑問があった。

 ――俺たちいらなかったのでは?

 そう思いながらも、逃げようとしていた虎徹にとっては監視の意味もあったのかもしれない。
 花音と双葉は虎徹の気持ちを理解したようで、何も言わなかった。
 ……いや、理解できないような気持ちでも、理解できないからこそ否定もしなかったのだ。
 この二人は、そういう人たちだ。

「なんかあれだね。形はちょっと変わってるけど、二人が好き合ってるって羨ましいな」

「そうですねぇ……。でも、花音先輩なら相手くらいすぐできるんじゃないですか?」

「うーん……、ここまで思える人ってのはなかなか……。それを言うなら双葉ちゃんの方こそどうなの?」

「私は好きな人いるんで、その人に想われたいです。だから若葉先輩の気持ちはわかるなぁ」

「「……えっ!?」」

 あっさりとしすぎていて、俺も花音もスルーしそうになっていた。
 しかし、意外……というのは失礼かもしれないが、バスケ一筋の双葉にそんな相手がいるとは思っていなかったのだ。

「あっ……」

 口を滑らようで、双葉は口を隠した。
 ただ、もう遅い。

「……まあ、別にいっか。実はいるんですよ、好きな人。今までは恥ずかしかったので隠してましたけど」

 双葉そう白状すると、聞きつけた若葉が反応した。

「なになに!? 双葉ちゃん好きな人いるの?」

「わっ……。いますけど、内緒ですね」

「気になるなぁ」

 すっかり元気を取り戻した若葉はそう言いながら双葉に抱き着いている。

 望んでいた形とは少し違っても、長年の恋が実ったのだ。
 嬉しそうに笑う若葉を見て俺はほっとしていた。

 話題はすでに双葉のことになっており、女子三人はガールズトークに勤しんでいる。

「颯太」

「虎徹、よかったな。おめでとう」

「……おう」

 照れくさそうな表情をしている虎徹。
 男のこんな表情は需要はないが、虎徹のこんな表情は若葉がらみでしか見れないため新鮮だ。

「これも颯太のおかげだ。ありがとう」

「俺は何もしてないよ。特に今日なんか見てただけだし」

「昨日に話さなかったら決心はつかなかったし、今日だって本当は逃げたくなったよ。だからいてくれるだけでありがたかった」

「……そうか」

 あまり感情表現をしない友達にここまでストレートに言われると、流石に男相手でも照れてしまう。

「まあ、颯太も頑張れよ。何かあったら相談乗るから」

「そうだなぁ。また好きな人でもできたら相談しようかな」

「……はあ?」

 俺の言葉に、虎徹は呆れたようないぶかひげな目をしてくる。

「……いや、いいや」

「なんだよ?」

 虎徹は意味深なことを言いながら俺の肩を叩く。
 どういうことかはわからないが、虎徹はそれ以上何も言わなかった。

 何はともあれ、親友二人の関係が進展した。
 完全に望む形ではなかったものの、近い形で収束したことに俺は安心していた。
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