112 / 135
第二章 高校三年生編
第111話 藤川虎徹は。
しおりを挟む
「……よう」
「おう、お疲れ」
俺はいつも学校に行く時に待ち合わせに使っているコンビニに行く。
すでに虎徹は待っており、ビニール袋を片手に下げていた。
「虎徹もお疲れ」
お互いにバイト終わりに待ち合わせをしていた。
バイトが終わってから一度家に戻り、あらかじめ用意してあった荷物を持って俺は家を出た。
そのため二十一時半と遅い時間だが、俺たちは虎徹の家に向かった。
「颯太、どんどん食べな!」
「あ、ありがとうございます」
藤川家の食卓に混ざり、俺は夕食を食べていた。
友達の親と話すのは、どうしても緊張してしまう。
何度も顔を合わせてはいるが、慣れる気配はない。
虎徹母はよく話しかけてくれるが、父親の方は寡黙で厳かな雰囲気をまとっており、話しづらいのだ。
その雰囲気は虎徹と似たところはあるが、大人相手ではどうも勝手が違う。
「あ、これ美味しいです?」
「お、嬉しいこと言ってくれるね。ほらほら、いっぱい食べな」
虎徹母は嬉しそうに笑っている。
それを見た父はムッとした表情で俺の方に視線を向けていた。
虎徹の両親は仲が良い。結婚してすぐに虎徹が生まれたため、もう二十年近くになるはずだが、ラブラブだと聞いている。
――まさか俺に嫉妬してる!?
ただ、美味しいのは本当で、つい口から洩れてしまった。
こじゃれたわけではなく、男子が好みそうな食卓で、テーブルの真ん中には唐揚げが大量に盛られている。
そして白米とサラダに味噌汁とシンプルかつ食欲をそそるメニューだ。
虎徹母は大雑把でガサツなところがある……と虎徹から聞いているが、こうやってご飯をご馳走になるたびに俺は、そんなことはないと思っていた。
「……それで、今日はどうかしたのか?」
虎徹父は食事の手を止めると突然口を開き、そう尋ねてきた。
呼ばれた側とはいえ、急に泊まることになったのは迷惑だっただろうか。
「すいません、急に来てしまって」
「い、いや、そんなことはない」
動揺したような態度の虎徹父に、俺は首を傾げた。
どうも迷惑という様子ではなさそうだ。
「父さん、言葉足らずなんだよ。……急に来たから何かあったのかって心配してるだけだ」
――そういうことか。
虎徹父は小さく頷いており、どうやら虎徹の言う通りらしい。
「まあ、どっちかって言うと俺が颯太に相談があって呼んだんだ」
虎徹がそう言うと、虎徹父は「そうか」と言い、止めていた手を動かし始めた。
……関心がないというよりも、息子を信頼しているということだろう。
その後も談笑は続く。
食事を終えると、俺は先にお風呂をいただいた。
「ゲームしようぜ」
「……お、おう」
俺が風呂をもらって交代に虎徹が風呂に入る。
そして部屋に戻ってくるなり、そんなことを言い始める。
――話はしないのか?
そう思ったが、急かすものでもない。俺は虎徹に応じ、コントローラーを手にする。
俺たちのゲームは静かに白熱する。
「それは卑怯だぞ」
「テクニックだ。卑怯もクソもない」
虎徹はシステム外のコンボ技を決め、俺の操作するキャラにダメージを蓄積させる。
外に飛ばされながらもなんとかフィールド復帰しようとしたが、その最中に強力な攻撃を加えられ、俺は会えなく場外へと吹き飛んだ。
虚しくも、『ゲームセット』というアナウンスが響く。
「負けた負けた」
俺はコントローラーを手放し、両手を挙げて負けた意思表示をする。
虎徹はゲームがうまいのだ。
俺も勝てはするが、本気になった虎徹に勝つのは至難の業だ。
コントローラーを手放したため、ちょうどいいタイミングだ。
「なあ虎徹。そろそろ良くないか?」
「……ああ、そうだな」
俺がそう言うと虎徹は観念したかのようにコントローラーを手放した。
そしてゲーム機本体を操作して電源を切り、テレビモニターをオフにする。
「とりあえずどこから話せばいいのか……」
「そうだな、話したいことを話してくれればいいけど、虎徹の気持ちはどうなんだ?」
……虎徹の気持ち。
それは当然若葉に対する気持ちだが、簡単に言葉にできるものではないのか俯いて黙ったままだ。
「虎徹はさ、前に『今の関係が好き。友達関係がいい』って言ってたよな? それは本当なのか?」
何度も聞いてきたことだが、俺は改めて問いただす。
今まで虎徹は、若葉と付き合うということを考えようとしていなかったことは知っている。
ただ、当の本人の若葉にはもちろん、俺にも言えないことがあってもおかしくはない。
少なくとも、何か思うところがなければ、今のような状態にはなっていないだろう。
「……それは話さないといけないな。ただ、先に聞かせてほしいんだが、若葉の方から相談とかはなかったのか?」
「なかったよ」
虎徹と若葉……二人のことを一番知っているのは俺だという自負はある。
もしかしたら花音には何か話しているのかもしれないと思ったが、告白現場を目撃してしまった際の反応を見るにそれもないと言える。
告白をすることを考えていたのなら、タイミングやシチュエーションなどを相談してもおかしくはない。
花火の最中に告白するにしても、事前に相談があれば俺たちが目の前で目撃することもなかっただろう。
しかし、今更ながら思い当たる節はあった。
何度か若葉の様子がいつもと違うことには気が付いていた。
特に直近で言えば、夏祭りで場所取りをする時にどこか様子がおかしく、俺に何かを言おうとしていた。もしかしたら俺に一言、相談でもしようとしてきたのかもしれない。
また、それ以外でも虎徹に対しての態度が度々おかしかったことは、今になって思い当たる。
そんなことがあっても、俺は気付けなかった。
ただ、もしお互いから相談をされていたら、俺は難しい立ち位置だっただろう。
そう考えると、虎徹にしても若葉にしても、俺にも花音にも何も言わなかったのは納得がいく。
俺たちに気を遣い、自分で解決しようとしていたのだから。
「……虎徹。若葉のこと、どう思ってるんだ?」
俺は改めて尋ねると、虎徹はため息を吐いた。
そして、「誤魔化しても仕方ないか」と言うと続けて言った。
「俺はさ……、若葉のことが好きなんだ」
「おう、お疲れ」
俺はいつも学校に行く時に待ち合わせに使っているコンビニに行く。
すでに虎徹は待っており、ビニール袋を片手に下げていた。
「虎徹もお疲れ」
お互いにバイト終わりに待ち合わせをしていた。
バイトが終わってから一度家に戻り、あらかじめ用意してあった荷物を持って俺は家を出た。
そのため二十一時半と遅い時間だが、俺たちは虎徹の家に向かった。
「颯太、どんどん食べな!」
「あ、ありがとうございます」
藤川家の食卓に混ざり、俺は夕食を食べていた。
友達の親と話すのは、どうしても緊張してしまう。
何度も顔を合わせてはいるが、慣れる気配はない。
虎徹母はよく話しかけてくれるが、父親の方は寡黙で厳かな雰囲気をまとっており、話しづらいのだ。
その雰囲気は虎徹と似たところはあるが、大人相手ではどうも勝手が違う。
「あ、これ美味しいです?」
「お、嬉しいこと言ってくれるね。ほらほら、いっぱい食べな」
虎徹母は嬉しそうに笑っている。
それを見た父はムッとした表情で俺の方に視線を向けていた。
虎徹の両親は仲が良い。結婚してすぐに虎徹が生まれたため、もう二十年近くになるはずだが、ラブラブだと聞いている。
――まさか俺に嫉妬してる!?
ただ、美味しいのは本当で、つい口から洩れてしまった。
こじゃれたわけではなく、男子が好みそうな食卓で、テーブルの真ん中には唐揚げが大量に盛られている。
そして白米とサラダに味噌汁とシンプルかつ食欲をそそるメニューだ。
虎徹母は大雑把でガサツなところがある……と虎徹から聞いているが、こうやってご飯をご馳走になるたびに俺は、そんなことはないと思っていた。
「……それで、今日はどうかしたのか?」
虎徹父は食事の手を止めると突然口を開き、そう尋ねてきた。
呼ばれた側とはいえ、急に泊まることになったのは迷惑だっただろうか。
「すいません、急に来てしまって」
「い、いや、そんなことはない」
動揺したような態度の虎徹父に、俺は首を傾げた。
どうも迷惑という様子ではなさそうだ。
「父さん、言葉足らずなんだよ。……急に来たから何かあったのかって心配してるだけだ」
――そういうことか。
虎徹父は小さく頷いており、どうやら虎徹の言う通りらしい。
「まあ、どっちかって言うと俺が颯太に相談があって呼んだんだ」
虎徹がそう言うと、虎徹父は「そうか」と言い、止めていた手を動かし始めた。
……関心がないというよりも、息子を信頼しているということだろう。
その後も談笑は続く。
食事を終えると、俺は先にお風呂をいただいた。
「ゲームしようぜ」
「……お、おう」
俺が風呂をもらって交代に虎徹が風呂に入る。
そして部屋に戻ってくるなり、そんなことを言い始める。
――話はしないのか?
そう思ったが、急かすものでもない。俺は虎徹に応じ、コントローラーを手にする。
俺たちのゲームは静かに白熱する。
「それは卑怯だぞ」
「テクニックだ。卑怯もクソもない」
虎徹はシステム外のコンボ技を決め、俺の操作するキャラにダメージを蓄積させる。
外に飛ばされながらもなんとかフィールド復帰しようとしたが、その最中に強力な攻撃を加えられ、俺は会えなく場外へと吹き飛んだ。
虚しくも、『ゲームセット』というアナウンスが響く。
「負けた負けた」
俺はコントローラーを手放し、両手を挙げて負けた意思表示をする。
虎徹はゲームがうまいのだ。
俺も勝てはするが、本気になった虎徹に勝つのは至難の業だ。
コントローラーを手放したため、ちょうどいいタイミングだ。
「なあ虎徹。そろそろ良くないか?」
「……ああ、そうだな」
俺がそう言うと虎徹は観念したかのようにコントローラーを手放した。
そしてゲーム機本体を操作して電源を切り、テレビモニターをオフにする。
「とりあえずどこから話せばいいのか……」
「そうだな、話したいことを話してくれればいいけど、虎徹の気持ちはどうなんだ?」
……虎徹の気持ち。
それは当然若葉に対する気持ちだが、簡単に言葉にできるものではないのか俯いて黙ったままだ。
「虎徹はさ、前に『今の関係が好き。友達関係がいい』って言ってたよな? それは本当なのか?」
何度も聞いてきたことだが、俺は改めて問いただす。
今まで虎徹は、若葉と付き合うということを考えようとしていなかったことは知っている。
ただ、当の本人の若葉にはもちろん、俺にも言えないことがあってもおかしくはない。
少なくとも、何か思うところがなければ、今のような状態にはなっていないだろう。
「……それは話さないといけないな。ただ、先に聞かせてほしいんだが、若葉の方から相談とかはなかったのか?」
「なかったよ」
虎徹と若葉……二人のことを一番知っているのは俺だという自負はある。
もしかしたら花音には何か話しているのかもしれないと思ったが、告白現場を目撃してしまった際の反応を見るにそれもないと言える。
告白をすることを考えていたのなら、タイミングやシチュエーションなどを相談してもおかしくはない。
花火の最中に告白するにしても、事前に相談があれば俺たちが目の前で目撃することもなかっただろう。
しかし、今更ながら思い当たる節はあった。
何度か若葉の様子がいつもと違うことには気が付いていた。
特に直近で言えば、夏祭りで場所取りをする時にどこか様子がおかしく、俺に何かを言おうとしていた。もしかしたら俺に一言、相談でもしようとしてきたのかもしれない。
また、それ以外でも虎徹に対しての態度が度々おかしかったことは、今になって思い当たる。
そんなことがあっても、俺は気付けなかった。
ただ、もしお互いから相談をされていたら、俺は難しい立ち位置だっただろう。
そう考えると、虎徹にしても若葉にしても、俺にも花音にも何も言わなかったのは納得がいく。
俺たちに気を遣い、自分で解決しようとしていたのだから。
「……虎徹。若葉のこと、どう思ってるんだ?」
俺は改めて尋ねると、虎徹はため息を吐いた。
そして、「誤魔化しても仕方ないか」と言うと続けて言った。
「俺はさ……、若葉のことが好きなんだ」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・
白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。
その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。
そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる