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第二章 高校三年生編

第95話 綾瀬碧は遊びたい!

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「ごめん、待った?」

「やっほ、青木くん。今来たところだよ」

 普通なら逆のやり取りをしつつ、俺は綾瀬との待ち合わせ場所である駅に到着した。
 俺も十五分前に着いているはずだが、綾瀬はそれよりも先に待っていた。

「じゃあ、行こっか」

 その声によって、俺たちは電車に乗り、移動した。



 今日の目的地は遊園地。電車に揺られてからバスに乗り換え、一時間程度の場所にある。

 体育祭の後、綾瀬は俺の教室に来て、連絡先を交換した。
 それからたまに連絡を取り合うことがあり、いつの間にか二人で遊びに行くこととなった。

 ただ、俺もまったく乗り気でないわけでもない。
 学年では花音が注目を浴びすぎているが、綾瀬も顔立ちはかなり整っている。どちらかと言えば美少女と言える部類だ。
 そして、連絡を取っていてわかったが、俺たちは結構気が合う。
 俺は今はしておらず、綾瀬も最近引退した。お互いにスポーツが好きということで話が合う。

 少し強引なところはあるものの、基本的に綾瀬は穏やかな性格をしているため話していて心地が良い。

 そんな綾瀬と出かけるのだ。
 仲良くなりたいという気持ちはあった。

「やっぱり人多いねー」

「半分くらいはプールの客だと思うけどな」

「そっかー。プール行きたかったなぁ……」

「あはは……」

 俺は綾瀬の言葉に苦笑いをした。

 この遊園地はプールや大型のアウトレットモールが併設されているため、どちらかといえばそちらの方が有名だ。
 プールで遊んでから遊園地や買い物に行く人も多い。

 七月中旬にもなればプールを利用する客は多く、最初は綾瀬もプールに誘ってきた。
 ただ、初めて遊ぶ相手……しかも女子とプールというのはハードルが高く、それは流石に断った。

 それに、夏休みに入ってから花音や虎徹、若葉とここのプールに来る予定だ。
 なんと言えばいいのかわからないが、この夏にプールに行くのは四人で、と思っていた。
 言葉にするのは難しい。それでも、綾瀬とではなく、四人で行きたいと思ったのだ。

 俺たちは入場券とフリーパスを買い、遊園地に入園した。
 そしてまず最初に向かったのが……、

「ねえ青木くん、あそこ行きたい!」

「お、おう……」

 綾瀬が指差したのは、この遊園地の目玉でもあるジェットコースターだ。
 ぐるぐると回り、地面スレスレのコースを滑車する。
 なんと言っても、約100メートルの高さからの急降下が一番の絶叫ポイントで、約2500メートルと世界一を謳うコースを走るのが、このジェットコースターのウリだった。

「初っ端から飛ばすなぁ……」

「遊園地って言ったらジェットコースターじゃない? 小さい頃くらいしか来たことなかったし、その時は乗れなかったから乗ってみたかったんだよね」

「マジか……」

 友達と遊ぶにしても、案外遊園地は選ばない。
 俺も実は、こうして友達と遊園地に来るのは初めてだ。

 県内の他の遊園地は子供向けに作られているところがほとんどで、この遊園地の場合は併設されているプールのイメージが強い。
 そのため遊園地に行くなら、……遊園地というよりもテーマパークになるが、旅行ついでに夢の国や映画の国に行く人の方が圧倒的に多かった。

 お淑やかな見た目をしている綾瀬だが、陸上部というだけあって活発なところもあるらしい。
 ジェットコースターを見る目は輝いていた。

「……よし、行くか」

「やった」

 俺は決心し、ジェットコースターに向かって一歩歩みを進める。

 ジェットコースター……というよりも絶叫系はあまり得意ではないのだ。



「……大丈夫?」

「……なんとか。綾瀬は?」

「……私もなんとか」

 ジェットコースターに乗った後、俺たちは二人とも気分が悪くなった。
 それもそのはず、いきなり一番ハードと言えるアトラクションに乗ったのだ、『静』の状態から『動』になれば、身体も気持ちも追いつかない。

「楽しかったけど、一回でいいやって思った。少なくとも今日は」

「……もう一回乗ったら吐く自信あるよ」

「そんな自信、いらないから……」

 ベンチで一休みしつつ、俺たちは話をする。

「そういえば、最初はゆったりしたアトラクションから慣らしてった方がいいって、なんかのアニメで見た」

「言われてみるとそうかも。陸上でも準備運動とかアップとか、何もしないで試合はキツいし」

「スポーツで例えるとわかりやすいな。バスケもそうだし」

 準備をせずに動いても大丈夫な人はいるが、キツイことには変わりない。
 お互いにスポーツをしていたため、この辺りは共通認識だ。
 顔を見合わせて苦笑いする。

「ところで、青木くんってアニメ好きなの?」

「まあ、好きかな。虎徹……あ、藤川ね。虎徹に勧められて見始めたんだけど、結構面白いよ」

「そうなんだぁ。私は有名なものくらいしか見ないんだけど、青木くんはガッツリ見てる感じ?」

「ガッツリ……なのかな? 好きなマンガとかがアニメになったら見ることは多いけど、ほとんどは虎徹に勧められてだし。見ない人からしたら見てる方だとは思う」

 アニメが好き。
 人によっては隠したいことだ。
 現に花音は隠れオタクで、クラスでも本性を見せ始めた今もなおオタクということを隠している。

 ただ俺は、初めはアニメを見ることに抵抗もあったものの、笑えるアニメやほっこりするアニメ、泣けるアニメなど、アニメもバカにはできないことを知ったことで抵抗なく見ている。
 徐々に染められたこともあり、オタクということを隠そうと思わなかった。
 また、あくまでもライトなオタクということもあって、知られたところで何のダメージもない。

 しかし、オタクを毛嫌いしている人がいるのも事実だ。

「幻滅した?」

 俺は様子を窺うように尋ねる。

 だが綾瀬は、「ん? 別に?」とあっけらかんとしていた。

「趣味で人の価値なんて、犯罪でもない限りは変わらないよ。のめり込みすぎて人生がダメになるのは良くないけど、否定するつもりはないかな」

 ……綾瀬のことが眩しく見えた。

 やはり、この子は性格が良い。
 俺の周りの人は性格が良い人しかいないような気がしてたまらない。
 無意識のうちに、そういう人としか関わらないようにしているだけかもしれないが。

「さてと……」

 綾瀬はそう言い、立ち上がる。

「青木くん。そろそろ大丈夫かな? せっかく来たんだし、休憩ばっかりだともったいないし」

「そうだなぁ。そろそろ行こうか」

 話しているうちに、ジェットコースターでの気分の悪さも和らいでいる。

「次は……軽めにコーヒーカップでも乗るか」

「そうだねっ!」

 俺たちは遊園地にほとんど来ない。
 だからこそ知らなかった。
 ゆるく楽しむなら、コーヒーカップは良いと考えて乗ったのだ。

 しかし回しすぎて、またグロッキーになるのは、この時の俺たちは知るよしもなかった。
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