96 / 135
第二章 高校三年生編
第95話 綾瀬碧は遊びたい!
しおりを挟む
「ごめん、待った?」
「やっほ、青木くん。今来たところだよ」
普通なら逆のやり取りをしつつ、俺は綾瀬との待ち合わせ場所である駅に到着した。
俺も十五分前に着いているはずだが、綾瀬はそれよりも先に待っていた。
「じゃあ、行こっか」
その声によって、俺たちは電車に乗り、移動した。
今日の目的地は遊園地。電車に揺られてからバスに乗り換え、一時間程度の場所にある。
体育祭の後、綾瀬は俺の教室に来て、連絡先を交換した。
それからたまに連絡を取り合うことがあり、いつの間にか二人で遊びに行くこととなった。
ただ、俺もまったく乗り気でないわけでもない。
学年では花音が注目を浴びすぎているが、綾瀬も顔立ちはかなり整っている。どちらかと言えば美少女と言える部類だ。
そして、連絡を取っていてわかったが、俺たちは結構気が合う。
俺は今はしておらず、綾瀬も最近引退した。お互いにスポーツが好きということで話が合う。
少し強引なところはあるものの、基本的に綾瀬は穏やかな性格をしているため話していて心地が良い。
そんな綾瀬と出かけるのだ。
仲良くなりたいという気持ちはあった。
「やっぱり人多いねー」
「半分くらいはプールの客だと思うけどな」
「そっかー。プール行きたかったなぁ……」
「あはは……」
俺は綾瀬の言葉に苦笑いをした。
この遊園地はプールや大型のアウトレットモールが併設されているため、どちらかといえばそちらの方が有名だ。
プールで遊んでから遊園地や買い物に行く人も多い。
七月中旬にもなればプールを利用する客は多く、最初は綾瀬もプールに誘ってきた。
ただ、初めて遊ぶ相手……しかも女子とプールというのはハードルが高く、それは流石に断った。
それに、夏休みに入ってから花音や虎徹、若葉とここのプールに来る予定だ。
なんと言えばいいのかわからないが、この夏にプールに行くのは四人で、と思っていた。
言葉にするのは難しい。それでも、綾瀬とではなく、四人で行きたいと思ったのだ。
俺たちは入場券とフリーパスを買い、遊園地に入園した。
そしてまず最初に向かったのが……、
「ねえ青木くん、あそこ行きたい!」
「お、おう……」
綾瀬が指差したのは、この遊園地の目玉でもあるジェットコースターだ。
ぐるぐると回り、地面スレスレのコースを滑車する。
なんと言っても、約100メートルの高さからの急降下が一番の絶叫ポイントで、約2500メートルと世界一を謳うコースを走るのが、このジェットコースターのウリだった。
「初っ端から飛ばすなぁ……」
「遊園地って言ったらジェットコースターじゃない? 小さい頃くらいしか来たことなかったし、その時は乗れなかったから乗ってみたかったんだよね」
「マジか……」
友達と遊ぶにしても、案外遊園地は選ばない。
俺も実は、こうして友達と遊園地に来るのは初めてだ。
県内の他の遊園地は子供向けに作られているところがほとんどで、この遊園地の場合は併設されているプールのイメージが強い。
そのため遊園地に行くなら、……遊園地というよりもテーマパークになるが、旅行ついでに夢の国や映画の国に行く人の方が圧倒的に多かった。
お淑やかな見た目をしている綾瀬だが、陸上部というだけあって活発なところもあるらしい。
ジェットコースターを見る目は輝いていた。
「……よし、行くか」
「やった」
俺は決心し、ジェットコースターに向かって一歩歩みを進める。
ジェットコースター……というよりも絶叫系はあまり得意ではないのだ。
「……大丈夫?」
「……なんとか。綾瀬は?」
「……私もなんとか」
ジェットコースターに乗った後、俺たちは二人とも気分が悪くなった。
それもそのはず、いきなり一番ハードと言えるアトラクションに乗ったのだ、『静』の状態から『動』になれば、身体も気持ちも追いつかない。
「楽しかったけど、一回でいいやって思った。少なくとも今日は」
「……もう一回乗ったら吐く自信あるよ」
「そんな自信、いらないから……」
ベンチで一休みしつつ、俺たちは話をする。
「そういえば、最初はゆったりしたアトラクションから慣らしてった方がいいって、なんかのアニメで見た」
「言われてみるとそうかも。陸上でも準備運動とかアップとか、何もしないで試合はキツいし」
「スポーツで例えるとわかりやすいな。バスケもそうだし」
準備をせずに動いても大丈夫な人はいるが、キツイことには変わりない。
お互いにスポーツをしていたため、この辺りは共通認識だ。
顔を見合わせて苦笑いする。
「ところで、青木くんってアニメ好きなの?」
「まあ、好きかな。虎徹……あ、藤川ね。虎徹に勧められて見始めたんだけど、結構面白いよ」
「そうなんだぁ。私は有名なものくらいしか見ないんだけど、青木くんはガッツリ見てる感じ?」
「ガッツリ……なのかな? 好きなマンガとかがアニメになったら見ることは多いけど、ほとんどは虎徹に勧められてだし。見ない人からしたら見てる方だとは思う」
アニメが好き。
人によっては隠したいことだ。
現に花音は隠れオタクで、クラスでも本性を見せ始めた今もなおオタクということを隠している。
ただ俺は、初めはアニメを見ることに抵抗もあったものの、笑えるアニメやほっこりするアニメ、泣けるアニメなど、アニメもバカにはできないことを知ったことで抵抗なく見ている。
徐々に染められたこともあり、オタクということを隠そうと思わなかった。
また、あくまでもライトなオタクということもあって、知られたところで何のダメージもない。
しかし、オタクを毛嫌いしている人がいるのも事実だ。
「幻滅した?」
俺は様子を窺うように尋ねる。
だが綾瀬は、「ん? 別に?」とあっけらかんとしていた。
「趣味で人の価値なんて、犯罪でもない限りは変わらないよ。のめり込みすぎて人生がダメになるのは良くないけど、否定するつもりはないかな」
……綾瀬のことが眩しく見えた。
やはり、この子は性格が良い。
俺の周りの人は性格が良い人しかいないような気がしてたまらない。
無意識のうちに、そういう人としか関わらないようにしているだけかもしれないが。
「さてと……」
綾瀬はそう言い、立ち上がる。
「青木くん。そろそろ大丈夫かな? せっかく来たんだし、休憩ばっかりだともったいないし」
「そうだなぁ。そろそろ行こうか」
話しているうちに、ジェットコースターでの気分の悪さも和らいでいる。
「次は……軽めにコーヒーカップでも乗るか」
「そうだねっ!」
俺たちは遊園地にほとんど来ない。
だからこそ知らなかった。
ゆるく楽しむなら、コーヒーカップは良いと考えて乗ったのだ。
しかし回しすぎて、またグロッキーになるのは、この時の俺たちは知るよしもなかった。
「やっほ、青木くん。今来たところだよ」
普通なら逆のやり取りをしつつ、俺は綾瀬との待ち合わせ場所である駅に到着した。
俺も十五分前に着いているはずだが、綾瀬はそれよりも先に待っていた。
「じゃあ、行こっか」
その声によって、俺たちは電車に乗り、移動した。
今日の目的地は遊園地。電車に揺られてからバスに乗り換え、一時間程度の場所にある。
体育祭の後、綾瀬は俺の教室に来て、連絡先を交換した。
それからたまに連絡を取り合うことがあり、いつの間にか二人で遊びに行くこととなった。
ただ、俺もまったく乗り気でないわけでもない。
学年では花音が注目を浴びすぎているが、綾瀬も顔立ちはかなり整っている。どちらかと言えば美少女と言える部類だ。
そして、連絡を取っていてわかったが、俺たちは結構気が合う。
俺は今はしておらず、綾瀬も最近引退した。お互いにスポーツが好きということで話が合う。
少し強引なところはあるものの、基本的に綾瀬は穏やかな性格をしているため話していて心地が良い。
そんな綾瀬と出かけるのだ。
仲良くなりたいという気持ちはあった。
「やっぱり人多いねー」
「半分くらいはプールの客だと思うけどな」
「そっかー。プール行きたかったなぁ……」
「あはは……」
俺は綾瀬の言葉に苦笑いをした。
この遊園地はプールや大型のアウトレットモールが併設されているため、どちらかといえばそちらの方が有名だ。
プールで遊んでから遊園地や買い物に行く人も多い。
七月中旬にもなればプールを利用する客は多く、最初は綾瀬もプールに誘ってきた。
ただ、初めて遊ぶ相手……しかも女子とプールというのはハードルが高く、それは流石に断った。
それに、夏休みに入ってから花音や虎徹、若葉とここのプールに来る予定だ。
なんと言えばいいのかわからないが、この夏にプールに行くのは四人で、と思っていた。
言葉にするのは難しい。それでも、綾瀬とではなく、四人で行きたいと思ったのだ。
俺たちは入場券とフリーパスを買い、遊園地に入園した。
そしてまず最初に向かったのが……、
「ねえ青木くん、あそこ行きたい!」
「お、おう……」
綾瀬が指差したのは、この遊園地の目玉でもあるジェットコースターだ。
ぐるぐると回り、地面スレスレのコースを滑車する。
なんと言っても、約100メートルの高さからの急降下が一番の絶叫ポイントで、約2500メートルと世界一を謳うコースを走るのが、このジェットコースターのウリだった。
「初っ端から飛ばすなぁ……」
「遊園地って言ったらジェットコースターじゃない? 小さい頃くらいしか来たことなかったし、その時は乗れなかったから乗ってみたかったんだよね」
「マジか……」
友達と遊ぶにしても、案外遊園地は選ばない。
俺も実は、こうして友達と遊園地に来るのは初めてだ。
県内の他の遊園地は子供向けに作られているところがほとんどで、この遊園地の場合は併設されているプールのイメージが強い。
そのため遊園地に行くなら、……遊園地というよりもテーマパークになるが、旅行ついでに夢の国や映画の国に行く人の方が圧倒的に多かった。
お淑やかな見た目をしている綾瀬だが、陸上部というだけあって活発なところもあるらしい。
ジェットコースターを見る目は輝いていた。
「……よし、行くか」
「やった」
俺は決心し、ジェットコースターに向かって一歩歩みを進める。
ジェットコースター……というよりも絶叫系はあまり得意ではないのだ。
「……大丈夫?」
「……なんとか。綾瀬は?」
「……私もなんとか」
ジェットコースターに乗った後、俺たちは二人とも気分が悪くなった。
それもそのはず、いきなり一番ハードと言えるアトラクションに乗ったのだ、『静』の状態から『動』になれば、身体も気持ちも追いつかない。
「楽しかったけど、一回でいいやって思った。少なくとも今日は」
「……もう一回乗ったら吐く自信あるよ」
「そんな自信、いらないから……」
ベンチで一休みしつつ、俺たちは話をする。
「そういえば、最初はゆったりしたアトラクションから慣らしてった方がいいって、なんかのアニメで見た」
「言われてみるとそうかも。陸上でも準備運動とかアップとか、何もしないで試合はキツいし」
「スポーツで例えるとわかりやすいな。バスケもそうだし」
準備をせずに動いても大丈夫な人はいるが、キツイことには変わりない。
お互いにスポーツをしていたため、この辺りは共通認識だ。
顔を見合わせて苦笑いする。
「ところで、青木くんってアニメ好きなの?」
「まあ、好きかな。虎徹……あ、藤川ね。虎徹に勧められて見始めたんだけど、結構面白いよ」
「そうなんだぁ。私は有名なものくらいしか見ないんだけど、青木くんはガッツリ見てる感じ?」
「ガッツリ……なのかな? 好きなマンガとかがアニメになったら見ることは多いけど、ほとんどは虎徹に勧められてだし。見ない人からしたら見てる方だとは思う」
アニメが好き。
人によっては隠したいことだ。
現に花音は隠れオタクで、クラスでも本性を見せ始めた今もなおオタクということを隠している。
ただ俺は、初めはアニメを見ることに抵抗もあったものの、笑えるアニメやほっこりするアニメ、泣けるアニメなど、アニメもバカにはできないことを知ったことで抵抗なく見ている。
徐々に染められたこともあり、オタクということを隠そうと思わなかった。
また、あくまでもライトなオタクということもあって、知られたところで何のダメージもない。
しかし、オタクを毛嫌いしている人がいるのも事実だ。
「幻滅した?」
俺は様子を窺うように尋ねる。
だが綾瀬は、「ん? 別に?」とあっけらかんとしていた。
「趣味で人の価値なんて、犯罪でもない限りは変わらないよ。のめり込みすぎて人生がダメになるのは良くないけど、否定するつもりはないかな」
……綾瀬のことが眩しく見えた。
やはり、この子は性格が良い。
俺の周りの人は性格が良い人しかいないような気がしてたまらない。
無意識のうちに、そういう人としか関わらないようにしているだけかもしれないが。
「さてと……」
綾瀬はそう言い、立ち上がる。
「青木くん。そろそろ大丈夫かな? せっかく来たんだし、休憩ばっかりだともったいないし」
「そうだなぁ。そろそろ行こうか」
話しているうちに、ジェットコースターでの気分の悪さも和らいでいる。
「次は……軽めにコーヒーカップでも乗るか」
「そうだねっ!」
俺たちは遊園地にほとんど来ない。
だからこそ知らなかった。
ゆるく楽しむなら、コーヒーカップは良いと考えて乗ったのだ。
しかし回しすぎて、またグロッキーになるのは、この時の俺たちは知るよしもなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる