21 / 150
三年生と一年生④ 決意と覚悟
しおりを挟む
八番の珠姫の打席、巧は緊張した面持ちで彼女の打席を見守る。
今までは代打か、先日スタメンだった試合でも四番とプレッシャーを感じる場面での打席が多かった。しかし、今回は八番と下位打線。上位に繋ぐ九番でもなく、ツーアウトランナー一塁と一点入ればラッキーくらいのそのまでプレッシャーのかからない場面だ。
初球からいきなりスイングしていく。高めのストレート、それも完全なボール球にも関わらず手を出してしまった。打撃フォームもいつも通り崩れている。
「ゆっくり、落ち着いて」
巧はネクストバッターズサークルから声をかける。珠姫はうなずき、黒絵に向き直った。
二球目、黒絵ちゃんが振りかぶる。指先からボールが放たれてこの辺りに終着するのだろうというのはわかっている。しかし体が思ったように動かない。
緊張して強張った体と崩れたバッティングフォームが、振り抜こうとしているポイントからずれた位置にバットを振らせようとする。
そこじゃない。
私の思考がそう指示しても体とバットは言うことを聞いてくれずに空を切る。
「ストライク!」
もうツーストライクだ。そう考えるとさらに体が強張る。
黒絵ちゃんが三球目を私に対して投げる動作を行う。
ボールが指先から放たれたと同時に、大怪我を負った時のデッドボールがフラッシュバックする。
毎球毎球、このイメージが頭から離れない。
肘が折れる感触、さらに追い討ちをかけるように冷たい金属バットに肘が打ち付けられる感触、どう足掻いてもこの感触からは逃れられない。
なんとかバットに当てなければ。そう思いなんとか手首を捻りボールをバットに当てるものの、結果はセカンドゴロ。一塁に向かうが、こんな打球じゃ間に合うはずもない。
この苦しみを味わいながらも私は選手であることを諦めきれない。野球から離れたくないからマネージャー兼任選手として縋り付いている。
私がどれだけ苦しんでも野球は手放したくない。勉強も特別できるわけじゃない、他に特技があるわけでもない、私には野球しかなかったから。
そして怪我で苦しんで野球から離れようとした後輩がいる。藤崎巧くん。私は彼に見せなければならない。どれだけ苦しくても野球は素晴らしいものだと。
そして苦しみながらも野球に戻ってきたことを後悔させてはならない。あなたの選択は間違っていなかった、私が野球でそれを示さなければならない。
私はこのグラウンドに立ち続ける。
転んでも立ち上がり続ける。
だって私は野球を愛しているから。
今までは代打か、先日スタメンだった試合でも四番とプレッシャーを感じる場面での打席が多かった。しかし、今回は八番と下位打線。上位に繋ぐ九番でもなく、ツーアウトランナー一塁と一点入ればラッキーくらいのそのまでプレッシャーのかからない場面だ。
初球からいきなりスイングしていく。高めのストレート、それも完全なボール球にも関わらず手を出してしまった。打撃フォームもいつも通り崩れている。
「ゆっくり、落ち着いて」
巧はネクストバッターズサークルから声をかける。珠姫はうなずき、黒絵に向き直った。
二球目、黒絵ちゃんが振りかぶる。指先からボールが放たれてこの辺りに終着するのだろうというのはわかっている。しかし体が思ったように動かない。
緊張して強張った体と崩れたバッティングフォームが、振り抜こうとしているポイントからずれた位置にバットを振らせようとする。
そこじゃない。
私の思考がそう指示しても体とバットは言うことを聞いてくれずに空を切る。
「ストライク!」
もうツーストライクだ。そう考えるとさらに体が強張る。
黒絵ちゃんが三球目を私に対して投げる動作を行う。
ボールが指先から放たれたと同時に、大怪我を負った時のデッドボールがフラッシュバックする。
毎球毎球、このイメージが頭から離れない。
肘が折れる感触、さらに追い討ちをかけるように冷たい金属バットに肘が打ち付けられる感触、どう足掻いてもこの感触からは逃れられない。
なんとかバットに当てなければ。そう思いなんとか手首を捻りボールをバットに当てるものの、結果はセカンドゴロ。一塁に向かうが、こんな打球じゃ間に合うはずもない。
この苦しみを味わいながらも私は選手であることを諦めきれない。野球から離れたくないからマネージャー兼任選手として縋り付いている。
私がどれだけ苦しんでも野球は手放したくない。勉強も特別できるわけじゃない、他に特技があるわけでもない、私には野球しかなかったから。
そして怪我で苦しんで野球から離れようとした後輩がいる。藤崎巧くん。私は彼に見せなければならない。どれだけ苦しくても野球は素晴らしいものだと。
そして苦しみながらも野球に戻ってきたことを後悔させてはならない。あなたの選択は間違っていなかった、私が野球でそれを示さなければならない。
私はこのグラウンドに立ち続ける。
転んでも立ち上がり続ける。
だって私は野球を愛しているから。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる