26 / 199
第十章「ヴァイリスの至宝」(5)
しおりを挟む
5
それからしばらくのことは、色々ありすぎて、はっきりとは覚えていない。
翌日に首都アイトスにある冒険者ギルド本部に出頭して、ヴァイリス王国の偉い人たちや本部のギルドマスターと支部長、ソフィアさんの前で今回の件の仔細を報告。
やっと開放されたかと思ったら、あの日の夜の冒険に参加した全員がヴァイリスの国王、エリオット陛下と謁見することになるということで、士官学校の講師たちにこぞって王宮での礼儀作法を嫌というほど叩き込まれ、国王陛下と謁見、全員が勲章を授与された。
……この時のことはいずれ、じっくり思い返すことにしよう。
「士官学校の爆笑王」とその仲間たちがユリーシャ王女殿下をお救いしたという噂はあっという間に地元に広がり、しばらくは街を上げての大騒ぎ。まともに外に出られないほどで、キムやルッ君、花京院やジョセフィーヌ、ユリたちは喜んでたけど、メルやアリサ、あとミヤザワくんには恨まれた。
偽ジルベールはそんな状況でも普段とまったく変わらなかった。さすがだ。
あと、真ジルベールから刺すような視線を感じることが、以前より多くなった。
数日が過ぎて、イグニア市の喧騒が少し落ち着いてきた頃。
特別に有給休暇をもらっていたものの、長い間空けていて申し訳なくなったので冒険者ギルドイグニア第二支部にこっそり顔を出すと……。
見たことのない冒険者の集団が僕を待ち構えていた。
「来たぞ!! 連行しろ!!」
「っ……!」
危険を察知して僕が引き返すよりも早く、暗殺者のように真っ黒な衣装に身を包んだ男が僕の後ろに回り込み、僕に麻袋のようなものをかぶせた。
そのまま複数の冒険者達に運ばれ、僕が連行されたのは……。
「イグニアの爆笑王にかんぱーい!!!」
『『『かんぱーい!!』』』
青白い光沢を放つ 魔法金属の鎧を身にまとった、見るからに高名な剣士風の冒険者が音頭を取ると、他の冒険者たちがそれに倣った。
ユリーシャ王女の捜索と救出の緊急依頼のために各地から集結していた、銀星クラス以上の冒険者たちだった。
「それにしてもスゲェよな。おめぇは大したもんだぜ」
ギムという名の、ものすごいアゴヒゲのドワーフの戦士がジェルディク産の麦酒をあおりながら、僕の背中をバシバシと叩いた。
「冒険者を長くやっているとね、たまにキミのような面白い子に出会えるのよ。だから冒険者稼業はやめられない」
真紅のマントに黒い光沢で輝く革鎧がものすごいかっこいいショートカットの剣士のおねぇさんはミスティさん。なんと、金星冒険者らしい。
「まったくだ。君ほどユニークな逸材は見たことがないけどね!」
さっき音頭を取った蒼い髪の剣士が言った。
名前はアルバートさん。まるで物語の主人公みたいなイケメンだ。
ちなみに彼も金星冒険者。
「知略に長けただけでなく、豪胆さ、勇敢さも兼ね備えている。卒業したらぜひ我が隊に入れ。歓迎するぞ」
そう言って、僕の肩を離さないぞとばかりにガッシリ掴んでいるのはヴェーラさん。
ヴァイリスでは珍しい褐色の肌にダークグレーの髪をサイドから頭頂部までびっしりと編み込んで、お団子にして強めにまとめ上げているこの人は、なんと冒険者ではなくアヴァロニア教皇庁に属する聖堂騎士団の人だ。
切れ長の目と官能的なぽってりとした唇がとてもセクシーで、聖堂騎士団の証である銀色の胸甲(ブレストプレート)からは、猛禽類のようにしなやかな筋肉が見え隠れしている。
「いやいや、教皇庁に連れてっちゃマズいだろ! うんこだぞ、うんこ! この小僧はうんこを燃やしてヴァイリスの宰相様と王国が誇る近衛兵、それに死霊術師まで燻し出したんだぜ? 異端審問にかけられちまう」
そう言って一同をどっと笑わせたのは侍といわれる、修練を積んだごく一部の剣士にのみその技が習得できる職業の銀星冒険者、サカイさん。
東方のセリカという国で作られる「着物」という服を着て、上に「羽織」と呼ばれる上着を重ねて、帯に「刀」という武器を差している。
うんこうんこ言って豪快に笑っているけど、本気を出したらむちゃくちゃ強そうだ。
「それより、聞いたゼ? お前、あの「天下無双」のロドリゲスの足に斧ぶん投げてケガさせたんだって?」
そう言ってきたのは、ニンジャという、これまた珍しい職業のクロキリシマさん。
サカイさんの相棒で、冒険者ギルドで一瞬で僕の背後にまわった人だ。
「ぎゃはははは! マジかよ! オレたちもあのおっさんにずいぶんしごかれたもんだよなぁ?」
「あの人、戦場で一度も傷を負ったことがないんじゃなかったか?」
サカイさんが爆笑して、アルバートさんが身を乗り出した。
冒険者たちの手柄を横からかっさらう形になって気まずいと思ったんだけど、そんなことを気にしている人は誰一人としていなかった。……少なくとも、その場には。
それよりも、僕たちのあの夜の出来事や、これまでの学校でのことをいかに聞き出して酒の肴にしようかと、僕に飲ませながら根掘り葉掘り朝まで聞いてきて、翌日の授業は午後まで二日酔いで動けなかった。
……冒険者の体力おそるべし。
そういえば、夜が更けてきた頃にいくつか大事な話をしてもらった気がするけど、今はあまり思い出せそうもない。
この時のこともきっと、またゆっくり思い返す日がくるだろう。
それからしばらくのことは、色々ありすぎて、はっきりとは覚えていない。
翌日に首都アイトスにある冒険者ギルド本部に出頭して、ヴァイリス王国の偉い人たちや本部のギルドマスターと支部長、ソフィアさんの前で今回の件の仔細を報告。
やっと開放されたかと思ったら、あの日の夜の冒険に参加した全員がヴァイリスの国王、エリオット陛下と謁見することになるということで、士官学校の講師たちにこぞって王宮での礼儀作法を嫌というほど叩き込まれ、国王陛下と謁見、全員が勲章を授与された。
……この時のことはいずれ、じっくり思い返すことにしよう。
「士官学校の爆笑王」とその仲間たちがユリーシャ王女殿下をお救いしたという噂はあっという間に地元に広がり、しばらくは街を上げての大騒ぎ。まともに外に出られないほどで、キムやルッ君、花京院やジョセフィーヌ、ユリたちは喜んでたけど、メルやアリサ、あとミヤザワくんには恨まれた。
偽ジルベールはそんな状況でも普段とまったく変わらなかった。さすがだ。
あと、真ジルベールから刺すような視線を感じることが、以前より多くなった。
数日が過ぎて、イグニア市の喧騒が少し落ち着いてきた頃。
特別に有給休暇をもらっていたものの、長い間空けていて申し訳なくなったので冒険者ギルドイグニア第二支部にこっそり顔を出すと……。
見たことのない冒険者の集団が僕を待ち構えていた。
「来たぞ!! 連行しろ!!」
「っ……!」
危険を察知して僕が引き返すよりも早く、暗殺者のように真っ黒な衣装に身を包んだ男が僕の後ろに回り込み、僕に麻袋のようなものをかぶせた。
そのまま複数の冒険者達に運ばれ、僕が連行されたのは……。
「イグニアの爆笑王にかんぱーい!!!」
『『『かんぱーい!!』』』
青白い光沢を放つ 魔法金属の鎧を身にまとった、見るからに高名な剣士風の冒険者が音頭を取ると、他の冒険者たちがそれに倣った。
ユリーシャ王女の捜索と救出の緊急依頼のために各地から集結していた、銀星クラス以上の冒険者たちだった。
「それにしてもスゲェよな。おめぇは大したもんだぜ」
ギムという名の、ものすごいアゴヒゲのドワーフの戦士がジェルディク産の麦酒をあおりながら、僕の背中をバシバシと叩いた。
「冒険者を長くやっているとね、たまにキミのような面白い子に出会えるのよ。だから冒険者稼業はやめられない」
真紅のマントに黒い光沢で輝く革鎧がものすごいかっこいいショートカットの剣士のおねぇさんはミスティさん。なんと、金星冒険者らしい。
「まったくだ。君ほどユニークな逸材は見たことがないけどね!」
さっき音頭を取った蒼い髪の剣士が言った。
名前はアルバートさん。まるで物語の主人公みたいなイケメンだ。
ちなみに彼も金星冒険者。
「知略に長けただけでなく、豪胆さ、勇敢さも兼ね備えている。卒業したらぜひ我が隊に入れ。歓迎するぞ」
そう言って、僕の肩を離さないぞとばかりにガッシリ掴んでいるのはヴェーラさん。
ヴァイリスでは珍しい褐色の肌にダークグレーの髪をサイドから頭頂部までびっしりと編み込んで、お団子にして強めにまとめ上げているこの人は、なんと冒険者ではなくアヴァロニア教皇庁に属する聖堂騎士団の人だ。
切れ長の目と官能的なぽってりとした唇がとてもセクシーで、聖堂騎士団の証である銀色の胸甲(ブレストプレート)からは、猛禽類のようにしなやかな筋肉が見え隠れしている。
「いやいや、教皇庁に連れてっちゃマズいだろ! うんこだぞ、うんこ! この小僧はうんこを燃やしてヴァイリスの宰相様と王国が誇る近衛兵、それに死霊術師まで燻し出したんだぜ? 異端審問にかけられちまう」
そう言って一同をどっと笑わせたのは侍といわれる、修練を積んだごく一部の剣士にのみその技が習得できる職業の銀星冒険者、サカイさん。
東方のセリカという国で作られる「着物」という服を着て、上に「羽織」と呼ばれる上着を重ねて、帯に「刀」という武器を差している。
うんこうんこ言って豪快に笑っているけど、本気を出したらむちゃくちゃ強そうだ。
「それより、聞いたゼ? お前、あの「天下無双」のロドリゲスの足に斧ぶん投げてケガさせたんだって?」
そう言ってきたのは、ニンジャという、これまた珍しい職業のクロキリシマさん。
サカイさんの相棒で、冒険者ギルドで一瞬で僕の背後にまわった人だ。
「ぎゃはははは! マジかよ! オレたちもあのおっさんにずいぶんしごかれたもんだよなぁ?」
「あの人、戦場で一度も傷を負ったことがないんじゃなかったか?」
サカイさんが爆笑して、アルバートさんが身を乗り出した。
冒険者たちの手柄を横からかっさらう形になって気まずいと思ったんだけど、そんなことを気にしている人は誰一人としていなかった。……少なくとも、その場には。
それよりも、僕たちのあの夜の出来事や、これまでの学校でのことをいかに聞き出して酒の肴にしようかと、僕に飲ませながら根掘り葉掘り朝まで聞いてきて、翌日の授業は午後まで二日酔いで動けなかった。
……冒険者の体力おそるべし。
そういえば、夜が更けてきた頃にいくつか大事な話をしてもらった気がするけど、今はあまり思い出せそうもない。
この時のこともきっと、またゆっくり思い返す日がくるだろう。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
トルサニサ
夏笆(なつは)
ファンタジー
大陸国家、トルサニサ。
科学力と軍事力で隆盛を誇るその国民は、結婚も人生の職業も個人の能力に依って国家が定める。
その場合の能力とは、瞬間移動や物体移動などのことをいい、トルサニサ軍は、その特化した能力を最大引き出す兵器を有し、隣国との争いを続けて来た。
そのトルサニサ軍、未来のエース候補が揃う士官学校はエフェ島にあり、その島の対面にはシンクタンクもあるため、エフェ島はエリートの象徴の島となっている。
士官候補生のサヤは、そんな士官学校のなかで、万年二位の成績を収めることで有名。
それを、トップのナジェルをはじめ、フレイアたち同期に嘆かれるも、自身は特に気にすることもない日々。
訓練と学習の毎日のなかで、学生たちは自分と国の未来を見つめていく。
シンクタンクの人間、テスとの出会い、街のひとを巻き込んだ収穫祭。
そのなかで、サヤとナジェルは互いに惹かれていく。
隣国との争い、そしてその秘密。
ナジェルと双璧を成すアクティスの存在。
そうして迎える、トルサニサ最大の危機。
最後に、サヤが選ぶ道は。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる