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第十章「ヴァイリスの至宝」(5)

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 それからしばらくのことは、色々ありすぎて、はっきりとは覚えていない。

 翌日に首都アイトスにある冒険者ギルド本部に出頭して、ヴァイリス王国の偉い人たちや本部のギルドマスターと支部長、ソフィアさんの前で今回の件の仔細を報告。
 やっと開放されたかと思ったら、あの日の夜の冒険に参加した全員がヴァイリスの国王、エリオット陛下と謁見することになるということで、士官学校の講師たちにこぞって王宮での礼儀作法を嫌というほど叩き込まれ、国王陛下と謁見、全員が勲章を授与された。

 ……この時のことはいずれ、じっくり思い返すことにしよう。

 「士官学校の爆笑王」とその仲間たちがユリーシャ王女殿下をお救いしたという噂はあっという間に地元に広がり、しばらくは街を上げての大騒ぎ。まともに外に出られないほどで、キムやルッ君、花京院やジョセフィーヌ、ユリたちは喜んでたけど、メルやアリサ、あとミヤザワくんには恨まれた。
 偽ジルベールはそんな状況でも普段とまったく変わらなかった。さすがだ。

 あと、真ジルベールから刺すような視線を感じることが、以前より多くなった。 

 数日が過ぎて、イグニア市の喧騒が少し落ち着いてきた頃。
 特別に有給休暇をもらっていたものの、長い間空けていて申し訳なくなったので冒険者ギルドイグニア第二支部にこっそり顔を出すと……。

 見たことのない冒険者の集団が僕を待ち構えていた。

「来たぞ!! 連行しろ!!」
「っ……!」

 危険を察知して僕が引き返すよりも早く、暗殺者のように真っ黒な衣装に身を包んだ男が僕の後ろに回り込み、僕に麻袋のようなものをかぶせた。

 そのまま複数の冒険者達に運ばれ、僕が連行されたのは……。

「イグニアの爆笑王にかんぱーい!!!」
『『『かんぱーい!!』』』

 青白い光沢を放つ 魔法金属ミスリルの鎧を身にまとった、見るからに高名な剣士風の冒険者が音頭を取ると、他の冒険者たちがそれにならった。
 
 ユリーシャ王女の捜索と救出の緊急依頼のために各地から集結していた、銀星シルバースタークラス以上の冒険者たちだった。

「それにしてもスゲェよな。おめぇは大したもんだぜ」

 ギムという名の、ものすごいアゴヒゲのドワーフの戦士がジェルディク産の麦酒ビールをあおりながら、僕の背中をバシバシと叩いた。

「冒険者を長くやっているとね、たまにキミのような面白い子に出会えるのよ。だから冒険者稼業はやめられない」

 真紅のマントに黒い光沢で輝く革鎧がものすごいかっこいいショートカットの剣士のおねぇさんはミスティさん。なんと、金星ゴールドスター冒険者らしい。

「まったくだ。君ほどユニークな逸材は見たことがないけどね!」

 さっき音頭を取った蒼い髪の剣士が言った。
 名前はアルバートさん。まるで物語の主人公みたいなイケメンだ。
 ちなみに彼も金星ゴールドスター冒険者。

「知略に長けただけでなく、豪胆さ、勇敢さも兼ね備えている。卒業したらぜひ我が隊に入れ。歓迎するぞ」

 そう言って、僕の肩を離さないぞとばかりにガッシリ掴んでいるのはヴェーラさん。
 ヴァイリスでは珍しい褐色の肌にダークグレーの髪をサイドから頭頂部までびっしりと編み込んで、お団子にして強めにまとめ上げているこの人は、なんと冒険者ではなくアヴァロニア教皇庁に属する聖堂騎士団テンプルナイツの人だ。
 切れ長の目と官能的なぽってりとした唇がとてもセクシーで、聖堂騎士団の証である銀色の胸甲(ブレストプレート)からは、猛禽類のようにしなやかな筋肉が見え隠れしている。

「いやいや、教皇庁に連れてっちゃマズいだろ! うんこだぞ、うんこ! この小僧はうんこを燃やしてヴァイリスの宰相様と王国が誇る近衛兵、それに死霊術師ネクロマンサーまでいぶし出したんだぜ? 異端審問にかけられちまう」

 そう言って一同をどっと笑わせたのはサムライといわれる、修練を積んだごく一部の剣士にのみその技が習得できる職業の銀星シルバースター冒険者、サカイさん。
 東方のセリカという国で作られる「着物」という服を着て、上に「羽織」と呼ばれる上着を重ねて、帯に「刀」という武器を差している。
 うんこうんこ言って豪快に笑っているけど、本気を出したらむちゃくちゃ強そうだ。

「それより、聞いたゼ? お前、あの「天下無双」のロドリゲスの足に斧ぶん投げてケガさせたんだって?」

 そう言ってきたのは、ニンジャという、これまた珍しい職業のクロキリシマさん。
 サカイさんの相棒で、冒険者ギルドで一瞬で僕の背後にまわった人だ。

「ぎゃはははは! マジかよ! オレたちもあのおっさんにずいぶんしごかれたもんだよなぁ?」
「あの人、戦場で一度も傷を負ったことがないんじゃなかったか?」

 サカイさんが爆笑して、アルバートさんが身を乗り出した。

 冒険者たちの手柄を横からかっさらう形になって気まずいと思ったんだけど、そんなことを気にしている人は誰一人としていなかった。……少なくとも、その場には。

 それよりも、僕たちのあの夜の出来事や、これまでの学校でのことをいかに聞き出して酒のさかなにしようかと、僕に飲ませながら根掘り葉掘り朝まで聞いてきて、翌日の授業は午後まで二日酔いで動けなかった。

 ……冒険者の体力おそるべし。

 そういえば、夜が更けてきた頃にいくつか大事な話をしてもらった気がするけど、今はあまり思い出せそうもない。
 この時のこともきっと、またゆっくり思い返す日がくるだろう。
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