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37、初めての錬金術②
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集中して火属性の魔力を錬金釜にそそぐ。大きくゆっくりかき混ぜるように魔力を送り続けると、次第に透明だった水が赤く染まった。
「それくらいで大丈夫ですよ。魔法水を馴染ませている間に、材料を倉庫から持ってきましょう」
「はい、先生」
りんごのケーキに必要な材料は、りんごと小麦粉とミルク。小麦粉は保冷庫からすぐに持ってこれるけど、りんごは木から採取して、ミルクはバッファローからの収穫品だから、どうにかして絞らないといけない。
まずはりんごを収穫するためにリムル平原にやってきたものの……予想以上に高い所にしか実がない!
とてもじゃないが、背伸びしても私の身長では届かない距離だ。はしごや長い棒でもあればいいのだけれど、そんな運よく平原に模したマジックフィールドにあるわけもない。
セシル先生なら簡単に届く距離だ。頼めば取ってくれるだろう。でもそれでは意味がない。いつまでも隣国の皇太子である先生が私に付き添ってくれるわけもない。自分でやらなければ意味がないのだ。
りんごの木から少し離れ、集中力を高めるためにゆっくりと深呼吸をする。
腰につけたベルトホルダーに手を伸ばしてシャイニングロッドを取った私は、りんごの枝の付け根を狙って魔法攻撃を仕掛ける。
すかさず落ちてくるりんごをキャッチすべく下に回り込んで、何とか手にいれる事ができた。少し多めに収穫して次の場所へ。
次はバッファローが出てくる平原へとやって来た。ミルクを絞らせてくれそうなバッファローがいないか探すけど、臆病な性格の彼等は私を見るとすぐに逃げてしまう。
確かゲームでは、序盤は無理やりフィールドのすみに追い込んで逃げ場のない状態で絞ってたんだよな。その後、毎日ブラッシングをしてあげて懐かせると、自分から寄ってきてくれるようになる。
しかし、何度もゲームをやりこんだ私は裏技を知っている。バッファローは、好物を与えることで、すぐに仲良くなれるのだ。
ここで、先ほど多めに収穫してきたリンゴの出番だ! かごからりんごを取り出して、バッファローにそっと差し出して地面におく。
「これをあげるから、少しだけミルクを分けてもらえないかな?」
甘いりんごの香りにつられてよってきた、一匹のバッファローに優しく声をかける。警戒しながらバッファローは、ゆっくりとりんごにかぶりつく。美味しかったようで、まだ物欲しそうにこちらを見ている。
「ほら、これもお食べ」
もうひとつりんごを差し出すと、嬉しそうに寄ってきて食べた。よしよしと頭を撫でてあげると、すりすりとこちらに頭を寄せてきた。ここまでくればこちらのものだ。
3つ目のりんごを食べさせている間に、ミルクを搾り取る。保存瓶にいれれば、出来立てほやほや新鮮なミルクの完成だ。
「リオーネ、バッファローの好物をよくご存知でしたね」
「はい、これは前世の知識からです」
「フフフ、頼もしいですね」
これで全ての材料がそろった。いよいよ錬金術のスタートだ!
「では、材料を全て錬金釜の中へ。そして出来上がりのアイテムをイメージして、丁寧に火属性の魔力を注いで下さい」
先生に言われた通りに、材料を全て豪快に錬金釜にイン!
赤いスライムのような魔法水に、材料が飲み込まれていく。全てが沈んだところで、錬金釜に両手をかざしてゆっくりと魔力を注いでいく。
錬金術は究極のエコ魔法だ。素材の1つも無駄にせずしっかりと再利用するのだ。先生が作ってくれたりんごのケーキをイメージしながら、気がつけば「おいしくなーれ!」と呟いていた。
私の願いに呼応するかのように、魔法水がコポコポと音をたて、錬金釜の中心に光の粒子のようなものが集まっていく。次第に形作られたその光りは、ゆっくりと浮上した。
「さぁ、触れてみて下さい」
落ちないように両手をそっと下に添えると、丸いりんごのケーキが姿を現した。
先生が作ってくれたものに比べると、少しペチャンコのような気もする。しかし、漂う甘い香りはりんごのケーキそのものだ。
「初めてにしては上出来ですよ。リオーネ、まずは鑑定してみましょう」
先生に言われた通りアナライズしてみると──
「微小程度の回復効果と書かれています」
りんごのケーキの本来の回復効果は小程度だったはずだ。つまり品質が悪いということだろう。
「きちんと最初から効能がついているなんて、初めてにしてはかなり上出来ですよ。リオーネ、自信を持って下さい」
「そうなのですか?」
「初めは錬金術のレベルや熟練度も低いから、中々高品質のものは作りづらいのです。錬金術のレベルを上げていけば自然と良いものが作れるようになっていきますので、この調子で頑張りましょう!」
「はい、先生!」
◇
それから半年、私は先生の授業が終わった後にりんごのケーキを作り続けた。すると、『高品質のりんごのケーキ』を作れるようになった。
そうして一つずつアイテムを制覇していき、他の属性レベルも上げていった。
財力チートなアトリエと、素材採取マスターの先生のおかげで、アトリエ内だけで効率的にレベル上げが出来た。
マジックフィールドの倉庫で素材を集めながら戦闘訓練を積む。採取した素材を合成してアイテムを作る。ひたすらそれの繰り返し。まさに無心だった。
古の属性は数をこなすのみだという先生の教えの元、昼から夜までアトリエにこもって頑張った。実際外へ素材採取に行ってくれてたのは先生だから、本当に頭が上がらない。
そうして頑張ったおかげで錬金術のレベルも25まで上がり、作れるレシピも増えた。りんごのケーキほど高品質の物はあまり作れないけれど、普通の品質のアイテムなら作れる。そんな時──
「トムさん、大丈夫ですか?!」
庭から派手な音がして、叫び声が聞こえてきた。
「それくらいで大丈夫ですよ。魔法水を馴染ませている間に、材料を倉庫から持ってきましょう」
「はい、先生」
りんごのケーキに必要な材料は、りんごと小麦粉とミルク。小麦粉は保冷庫からすぐに持ってこれるけど、りんごは木から採取して、ミルクはバッファローからの収穫品だから、どうにかして絞らないといけない。
まずはりんごを収穫するためにリムル平原にやってきたものの……予想以上に高い所にしか実がない!
とてもじゃないが、背伸びしても私の身長では届かない距離だ。はしごや長い棒でもあればいいのだけれど、そんな運よく平原に模したマジックフィールドにあるわけもない。
セシル先生なら簡単に届く距離だ。頼めば取ってくれるだろう。でもそれでは意味がない。いつまでも隣国の皇太子である先生が私に付き添ってくれるわけもない。自分でやらなければ意味がないのだ。
りんごの木から少し離れ、集中力を高めるためにゆっくりと深呼吸をする。
腰につけたベルトホルダーに手を伸ばしてシャイニングロッドを取った私は、りんごの枝の付け根を狙って魔法攻撃を仕掛ける。
すかさず落ちてくるりんごをキャッチすべく下に回り込んで、何とか手にいれる事ができた。少し多めに収穫して次の場所へ。
次はバッファローが出てくる平原へとやって来た。ミルクを絞らせてくれそうなバッファローがいないか探すけど、臆病な性格の彼等は私を見るとすぐに逃げてしまう。
確かゲームでは、序盤は無理やりフィールドのすみに追い込んで逃げ場のない状態で絞ってたんだよな。その後、毎日ブラッシングをしてあげて懐かせると、自分から寄ってきてくれるようになる。
しかし、何度もゲームをやりこんだ私は裏技を知っている。バッファローは、好物を与えることで、すぐに仲良くなれるのだ。
ここで、先ほど多めに収穫してきたリンゴの出番だ! かごからりんごを取り出して、バッファローにそっと差し出して地面におく。
「これをあげるから、少しだけミルクを分けてもらえないかな?」
甘いりんごの香りにつられてよってきた、一匹のバッファローに優しく声をかける。警戒しながらバッファローは、ゆっくりとりんごにかぶりつく。美味しかったようで、まだ物欲しそうにこちらを見ている。
「ほら、これもお食べ」
もうひとつりんごを差し出すと、嬉しそうに寄ってきて食べた。よしよしと頭を撫でてあげると、すりすりとこちらに頭を寄せてきた。ここまでくればこちらのものだ。
3つ目のりんごを食べさせている間に、ミルクを搾り取る。保存瓶にいれれば、出来立てほやほや新鮮なミルクの完成だ。
「リオーネ、バッファローの好物をよくご存知でしたね」
「はい、これは前世の知識からです」
「フフフ、頼もしいですね」
これで全ての材料がそろった。いよいよ錬金術のスタートだ!
「では、材料を全て錬金釜の中へ。そして出来上がりのアイテムをイメージして、丁寧に火属性の魔力を注いで下さい」
先生に言われた通りに、材料を全て豪快に錬金釜にイン!
赤いスライムのような魔法水に、材料が飲み込まれていく。全てが沈んだところで、錬金釜に両手をかざしてゆっくりと魔力を注いでいく。
錬金術は究極のエコ魔法だ。素材の1つも無駄にせずしっかりと再利用するのだ。先生が作ってくれたりんごのケーキをイメージしながら、気がつけば「おいしくなーれ!」と呟いていた。
私の願いに呼応するかのように、魔法水がコポコポと音をたて、錬金釜の中心に光の粒子のようなものが集まっていく。次第に形作られたその光りは、ゆっくりと浮上した。
「さぁ、触れてみて下さい」
落ちないように両手をそっと下に添えると、丸いりんごのケーキが姿を現した。
先生が作ってくれたものに比べると、少しペチャンコのような気もする。しかし、漂う甘い香りはりんごのケーキそのものだ。
「初めてにしては上出来ですよ。リオーネ、まずは鑑定してみましょう」
先生に言われた通りアナライズしてみると──
「微小程度の回復効果と書かれています」
りんごのケーキの本来の回復効果は小程度だったはずだ。つまり品質が悪いということだろう。
「きちんと最初から効能がついているなんて、初めてにしてはかなり上出来ですよ。リオーネ、自信を持って下さい」
「そうなのですか?」
「初めは錬金術のレベルや熟練度も低いから、中々高品質のものは作りづらいのです。錬金術のレベルを上げていけば自然と良いものが作れるようになっていきますので、この調子で頑張りましょう!」
「はい、先生!」
◇
それから半年、私は先生の授業が終わった後にりんごのケーキを作り続けた。すると、『高品質のりんごのケーキ』を作れるようになった。
そうして一つずつアイテムを制覇していき、他の属性レベルも上げていった。
財力チートなアトリエと、素材採取マスターの先生のおかげで、アトリエ内だけで効率的にレベル上げが出来た。
マジックフィールドの倉庫で素材を集めながら戦闘訓練を積む。採取した素材を合成してアイテムを作る。ひたすらそれの繰り返し。まさに無心だった。
古の属性は数をこなすのみだという先生の教えの元、昼から夜までアトリエにこもって頑張った。実際外へ素材採取に行ってくれてたのは先生だから、本当に頭が上がらない。
そうして頑張ったおかげで錬金術のレベルも25まで上がり、作れるレシピも増えた。りんごのケーキほど高品質の物はあまり作れないけれど、普通の品質のアイテムなら作れる。そんな時──
「トムさん、大丈夫ですか?!」
庭から派手な音がして、叫び声が聞こえてきた。
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