ヴァンパイア皇子の最愛

花宵

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第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!

37、吸血鬼になってしまった少年を救え!

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「来月はいよいよ建国祭ですね。とても楽しみです!」
「きっと今年は大盛り上がりする事でしょうね。アリシアのおかげで」
「私のおかげ?」
「建国祭の趣旨は初心を忘れないこと。愛を重んじるこの国では、大切な人に日頃の感謝と愛を伝えるお祭りの日なのですよ」
「そ、そうだったのですか?!」

 リフィエル様とそんな話をしていた時、ポータブルコールがなった。

『はい、アリシアです』
『こちらフォルネウスだ。アリシア、すまないが至急騎士団訓練場まで来てもらえないだろうか?』
『討伐任務からお帰りになっていたのですね! すぐに向かいます!』

 リフィエル様に至急の連絡が入ったことをお伝えして、私は訓練場に急いだ。心なしか、フォルネウス様の声に焦りが混じっていたような気がする。急がなくては!

「ウヴッ! ガウッ! ガーッ!」
「うお! そんなに暴れるんじゃねぇ!」

 訓練場につくとガブリエル様の肩の上で、手足を縛られて自由に動けない子供の吸血鬼が唸り声をあげて暴れていた。

「お待たせしました」
「急に呼び出しですまない、アリシア」
「いえ、それよりもフォルネウス様、血が! リバース!」

 全身赤い血で真っ赤に染まったフォルネウス様の姿を見て、私は思わず回帰魔法を唱えた。

「怪我はしてないから大丈夫だ、ありがとう。汚れた原因はこれだよ」

 フォルネウス様の手にはブラッドボトルが握られている。

「見ての通り、彼が暴れるから飲ませる事が難しくてこうなったのだ」
「あの子は……」

 まだ十歳にも満たないであろう吸血鬼の少年の目は血走り、唸り声をあげている。

「討伐の最中に、蒼の吸血鬼に噛まれてしまった人間の少年だ。幸いあまり血を吸われてはいないのだが、自我を失い吸血衝動が抑えられないようで、やむを得ず縛っておるのだ」

 奇声を上げながら、目の前の私達に襲いかからんと少年は暴れるばかりだった。

「アリシア。君を呼んだのは、彼に回帰魔法をかけてみて欲しいからなんだ。もしかすると、今ならまだ彼を人間に戻せるかもしれないと思ってね」
「分かりました、やってみます」

『リバース』

 暴れる吸血鬼の少年に回帰魔法をかけると、少しずつ理性を取り戻し始めた。

「あれ、僕……ここで一体何を……え?! どうして縛られてるの?! それにこの床に散乱した赤いものって……うっ、気持ち悪い……」
「どうやら、成功したようだな。坊主、自分の名前は言えるか?」

 汚れてない床に少年をおろして、縛っていた縄をほどきながらガブリエル様が尋ねた。

「僕はルシアン。おじさんは……僕を助けてくれた討伐隊のおじさん?」
「駆けつけるのが遅くなってすまねぇな」

 ガブリエル様は、ルシアン君の頭を撫でてあげた。

「僕は……吸血鬼に噛まれて……あれ、噛まれた跡がない」
「安心しろ、ルシアン。お前を治してくれたのは、ここに居る奇跡の聖女アリシア様だ」

 ちょっと、ガブリエル様?!
 ルシアン君が目を輝かせてこちらを見ている。

「聖女様が僕を治してくれたの?! ありがとうございます!」

 後ろでぐっと親指を突き立てるガブリエル様に、苦笑いするしかなかった。

「若、俺はルシアンを村まで送ってくる」
「ああ、頼んだぞ」

 ガブリエル様はドラゴンに変身すると、その背中にルシアン君を乗せて飛んでいった。

「アリシア、体に負担はかかってないか?」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
「それなら良いのだが、君のおかげで救える命が増えそうだ」
「ルシアン君みたいに吸血鬼になったばかりの方なら、私の回帰魔法で何とか治せそうですね」
「ああ、これはすごい事だ! 更なる被害を出さないために、今まではその場で始末するしかなかったが、これからはそんな被害にあった者達を救えるかもしれない。アリシア、君は両国の希望だ。まさに、奇跡の聖女だよ」
「私でお役に立てるのなら、精一杯頑張ります!」


 それから蒼の吸血鬼の被害にあって吸血鬼と化してしまった人々を救うべく、討伐隊が被害者を連れ帰るようになった。
 眠らせて連れて来られた彼等に回帰魔法をかけて治療し、リグレット王国へ帰還させる。そうして治療を施し数週間が経った頃――

「若様とアリシア様に面会の許可を頂きたいと、国境門にギルテッド公爵家のご子息クロードと名乗る方がお越しになっております。こちらはクロード様からの預かった物です」

 今日の仕事を始めようとした所へ、そう言って伝令兵が訪ねてきた。

「ギルテッド公爵家?」

 どうしよう、リグレット王国の事なのに貴族の事情が分からない。思わず心の声が口に出ていたようで、フォルネウス様が説明して下さった。

「ギルテッド公爵家は、リグレット王国でこちらに面した領地を治めている領主の家門だよ」
「そんな事も知らずに申し訳ありません」
「アリシアの住んでいたベリーヒルズ村とはかなり距離が離れているから、知らなくても無理はないよ。気にすることはない」

 そう言ってフォローしてくれるフォルネウス様は、やっぱり優しい。
 でも皇太子妃になるのだもの、いつまでもその優しさに甘えてちゃいけないわ。フォルネウス様に恥をかかせたくないもの。
 ハイグランド帝国の事だけじゃなくて、リグレット王国の事もしっかり理解しておかないといけないわね。後でリフィエル様に相談してみよう。

「確かにこれは、ギルテッド公爵家の家門を示す記章だ。どうやら急を要するようだな。話を聞こう。今すぐクロード卿をお連れしろ」
「はっ! かしこまりました」
「アリシア、俺達も移動しよう」

 え、どこに? っていう疑問を口にするより早く、フォルネウス様は私を横抱きにするとバルコニーから飛んだ。辿り着いたのはレッドクロス城の屋上だった。
 その数分後、クロード様が到着なされた。どうやら先程の伝令兵が背中に乗せて飛んできたらしい。
 私とクロード様は、乱れた息を整えるのに必死だった。いきなり空を飛ぶのは初めてじゃないのに、未だに慣れない。初めて空を飛んだであろうクロード様は、驚きで目が点になっていた。
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