獣耳男子と恋人契約

花宵

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第十三章 激化する呪い

呪いの力、なめてました

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 それから急いで着替えを済ませた私達は、授業の準備に取りかかった。
 何とか間に合い普通に授業が始まったのは良かったけど、シャトルの劣化が進んでいるようでサーブの度に次々と壊れていく。

「今日の準備当番は……一条! すまないが、外の用具倉庫から新品のシャトルを持ってきてくれ」

 それを見かねた体育の先生が、試合を終えた私にお願いしてきた。 
 この先生は今日の準備当番が誰かをきちんと把握しており、手が空いている当番の生徒にはすかさず雑用を押し付けてくる。

「はい、分かりました」

 用具倉庫は学園の隅に位置し、そこへ用がなければ誰も近寄らない少し離れた所にある。

 正直あまり気は進まないが、正当な理由なく先生の言い付けを断ると、ネチネチと理由を聞かれ面倒だ。
 迂闊に結界の外に出たくはないが、急いで行って戻ってくればそうそう災いなんて起こらないだろう、ここは学園内なんだから。

「桜、大丈夫? 私も一緒に……」
「ならぬ! 桃井、お前は次試合だ。コートに戻れ。シャトルは軽い、一条だけで十分だ」

 その時、美香が心配して駆け寄ってくるも先生に止められた。『大丈夫だよ』と目配せをして、私はそのまま体育館を後にする。

 玄関で靴に履き替えて外に出ると今にも雨が降りだしそうな程、空には雲が広がっていた。
 グラウンドからは男子がサッカーをしている声が聞こえるが、この分だと途中で体育館半分占拠されそうだな。

 早いとこ済ませてしまおうと、中々年季の入った木造の用具倉庫まで走って、かんぬきを抜いて中へ入る。
 今時、木造のかんぬき式の扉なんて時代の流れに逆行しすぎだよ。

 そういえば、学園の七不思議の一つにこの用具倉庫に纏わるものがあったような……いやいや、今はそんな事どうでもいい。この不気味な雰囲気にのまれたら負けだ。

 気を取り直してシャトルを探していると、ギィという錆びた金具のこすれる音が後ろから聞こえてくる。振り向いた瞬間、バタンと激しい音がして扉が閉まった。
 慌てて開けようと駆け寄るが、いくら押しても開かない。
 うっすらと見える扉の隙間から外を見ると、外側からかんぬきを通され鍵をかけられてしまったようだ。

「そこに誰か居るんでしょ? お願い、開けて!」
「いい気味、あんた本当何様のつもり? 学園の人気者二人を独り占めして、美香にも取り入って。しばらくそこで頭でも冷やしてれば?」

 クスクスと笑い声を残して、遠ざかる数人の足音。誰かは分からないけど、嘲笑の混じった声に、私の事が嫌いだっていう感情だけはよく伝わってきた。

 窓一つない用具倉庫内は薄暗く、あまり使われていないせいでひどく埃っぽくてかび臭い。入り口の扉からもれてくる僅かな光だけが、辺りを探る頼りだった。

 その時、ポツポツと雨が降ってくる音が聞こえてきて、とうとう降りだしてしまった。思わずため息をつく間にも、次第に雨はひどくなってきて

──ピチャン

 頬に冷たい水の感触を感じ上を見ると、どうやら雨漏りしてきているようだ。しかも一ヶ所だけではなく、複数から同じ音が聞こえてくる。
 建て直したがいいんじゃないかと思っていると、どこからか煙たいにおいが漂ってきた。

──ジリジリジリ

 嫌な音が聞こえてきてそちらに顔を向けると、天井から滴る水の下で園芸用生石灰と書かれた袋が燃えている。

 石灰って海苔とかに入ってる乾燥剤の中身。まさか雨漏りの水に反応して発熱するなんて。 
 禁水って書かれてる理由をこんなに時に知りたくはなかった……って呑気に眺めてる場合じゃない! 早く何とかしないと!

 これ以上閉鎖空間で煙を吸うのは危険だと判断し、咄嗟に口元を体操着の袖で覆う。
 炎のおかげで少し明るくなった倉庫内を見渡して、被せて火を消せそうなものがないか探した。

 古い得点板に壊れた卓球台、先の取れたグランド整地用のレーキにボールカゴにはサッカボールが入っていて、その横にはライン引きの器具と積み重ねられたカラーコーン……それだ!

 すかさずカラーコーンを一つとって、火の上に置いて消火にあたる。火は空気がないと燃えない、これで塞げば大丈夫だと安心したのも束の間、火の勢いが増してへにゃりと曲がって溶けていく。

 やばい。呪いの力なめてた。今まではシロが傍に居てくれたから、災厄から守られてたんだ。少し傍に居ないだけで、こんな不運が重なるなんて……

 火を消すのが無理だと悟った私は、扉を強く叩いたり蹴ったりして脱出を試みる。しかし太い棒のかんぬきはびくともせず、開ける事が出来なかった。
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