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第十三章 激化する呪い
のぞきは立派な犯罪です
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翌日、とうとう呪印がⅦの数字を刻み呪いの折り返し地点までやってきた。
朝からどんな災いが降りかかってくるのか緊張して構えていたが、これといって大した事は起きない。
今更ながらに、シロはやはり歩く魔除けのお守りみたいだと関心させられる。
思わず両手を合わせてパンパンと叩いて拝んでいると、眉間に皺を寄せかなり不服そうな眼差しを向けられてしまった。
「拝んでも何も出ないぞ」
「いいの、何かご利益がありそうっていう単なる気持ちの問題だから」
「そんな気持ちより、もっと愛情を寄越せ」
「霊力足りてないの?」
「いや、さっき十分補充して貰ったけど?」
そう言ってニヤリと不敵に笑うシロに、先程の出来事を思い出して私は顔に熱を帯びるのを感じていた。
最近カナちゃんと三人で行動することが多いから、昼の補充は中々タイミングが難しい。
カナちゃんの目の前でやるわけにもいかず、人目を盗んでやるのだが……シロはかなりそれを楽しんでいるように見える。
わざと壁に押し付けて逃げ場を無くした状態でしたり、カナちゃんがすぐ傍に居るのに見ていない内に不意打ちでしてきたりと、毎回違うパターンで迫ってくる。
さっきなんて……だめだ思い出すだけで顔から火が出そうだ。
「桜、お前は背徳感煽られる方が興奮するみたいだな」
昼休みの終わり頃、教室へ戻る途中の廊下でシロにそう耳打ちされて思わず私は声を荒げてしまった。
「急に何て事言い出すの!」
昨日はシロの傍にいると落ち着いたのに、妖艶な眼差しで見つめられるとどうも心が落ち着かない。
前を歩いていたカナちゃんが不思議そうにこちらを振り返って尋ねてくる。
「桜、急にどないしたん?」
「え、いや、な、なんでも、ございませぬ」
「ごさいませぬって、いつからお前武士になったんや」
かといってカナちゃんに話しかけられても変に意識してしまって、まともに会話が出来なくなってしまった。
目が会った瞬間、私が視線を逸らしてしまうから、カナちゃんの苦笑いが聞こえてきて申し訳ない気持ちで一杯になる。
このままじゃいけないって分かってるけど、どうすれば前のように普通に接する事が出来るのか分からないでいた。
「桜、次体育よ。早く行かないとヤバイわ、今日準備当番よ」
教室へ着くなり美香が少し慌てた様子で話しかけきて、『準備当番』という単語を聞いた瞬間、私の心にも一気に焦りの感情がわく。
準備当番とは通常四人で構成され、授業が始まる前までにすぐに授業ができる状態まで用具の準備をしておかなければならない当番のことだ。
もし先生が来るまでに準備が終わっていなかった場合、連帯責任ということでクラスの女子全員に問答無用でグラウンド五周を余儀なくされる。
それは例えるなら一キロのマラソンで、ウォーミングアップには丁度いいから私は別に構わない。
しかし、クラス中の女子から非難の嵐が殺到。そのため、準備当番の日だけは皆早めに着替えて授業に望むのだ。
ちなみに今日の授業は確か、女子はバドミントン。ネットを張ってラケットとシャトルを準備しておかなければならない。
急いで体操服を机まで取りに行った私は、シロとカナちゃんに別れを告げて美香と一緒に更衣室へと向かう。
一階にある女子更衣室の前まで来たのはいいんだけど……
「ちょっと結城君、貴方どこまで付いてくるつもり? 男子更衣室はさっき通り過ぎた向こう側よ?」
後ろから付いてきたシロへ、すかさず美香がツッコミを入れた。
「俺から離れると桜が危険だ。それに案ずるな、お前の貧相な胸には興味ない」
シロ……心配してくれるのは嬉しいけど、これ以上その姿でコハクの評判を下げる行為は慎んで欲しい。
最近『暗黒王子』から『暗黒変態王子』に通り名が変わろうとしているんだよ。
そして余計な一言で美香を怒らせるのも止めてくれ。
「イケメンだから何でも許されるなんて思ったら大間違い、のぞきは立派な犯罪よ!」
「くっ、この女……」
美香に激しい剣幕で正論をつかれ、たじろぐシロ。そこへ後ろから追いかけてきたカナちゃんが二人を止めに入る。
その手には二人分の体操着が握られており、シロのお世話係ぶりがかなり板についている姿を目の当たりにした。
ほんと面倒見いいんだよな……家事も気配りも出来て、多少黒い部分はあるけどルックスもいい。
何より彼の人気の秘訣は、一度記憶した人の名前を忘れない事だろう。声をかけられると瞬時に名前で呼び掛けて挨拶をする。
そして持ち前の甘いマスクと軽快なトークで女の人の心を鷲掴み。『浪花の貴公子』の異名に恥じないその立ち振舞いで、右肩上がりでファン増加中だ。
「シロ、お前何してんねや。俺達も行くで。体育館は結界張ったから大丈夫やて」
「いい所に! 西園寺君、この変態早く連れてって」
「ああ、まかせとき」
「こら、離せ! 何をする! 桜ぁあ!」
カナちゃんに引きずられるようにして、男子更衣室へ連行されるシロを眺めながら『ごめん、でも女子更衣室の中までは流石に無理だよ』と心の中で念じておいた。
隣からは呆れたようなため息が聞こえてきて、美香の中でシロの株がさらに大暴落したのが容易に見てとれた。
朝からどんな災いが降りかかってくるのか緊張して構えていたが、これといって大した事は起きない。
今更ながらに、シロはやはり歩く魔除けのお守りみたいだと関心させられる。
思わず両手を合わせてパンパンと叩いて拝んでいると、眉間に皺を寄せかなり不服そうな眼差しを向けられてしまった。
「拝んでも何も出ないぞ」
「いいの、何かご利益がありそうっていう単なる気持ちの問題だから」
「そんな気持ちより、もっと愛情を寄越せ」
「霊力足りてないの?」
「いや、さっき十分補充して貰ったけど?」
そう言ってニヤリと不敵に笑うシロに、先程の出来事を思い出して私は顔に熱を帯びるのを感じていた。
最近カナちゃんと三人で行動することが多いから、昼の補充は中々タイミングが難しい。
カナちゃんの目の前でやるわけにもいかず、人目を盗んでやるのだが……シロはかなりそれを楽しんでいるように見える。
わざと壁に押し付けて逃げ場を無くした状態でしたり、カナちゃんがすぐ傍に居るのに見ていない内に不意打ちでしてきたりと、毎回違うパターンで迫ってくる。
さっきなんて……だめだ思い出すだけで顔から火が出そうだ。
「桜、お前は背徳感煽られる方が興奮するみたいだな」
昼休みの終わり頃、教室へ戻る途中の廊下でシロにそう耳打ちされて思わず私は声を荒げてしまった。
「急に何て事言い出すの!」
昨日はシロの傍にいると落ち着いたのに、妖艶な眼差しで見つめられるとどうも心が落ち着かない。
前を歩いていたカナちゃんが不思議そうにこちらを振り返って尋ねてくる。
「桜、急にどないしたん?」
「え、いや、な、なんでも、ございませぬ」
「ごさいませぬって、いつからお前武士になったんや」
かといってカナちゃんに話しかけられても変に意識してしまって、まともに会話が出来なくなってしまった。
目が会った瞬間、私が視線を逸らしてしまうから、カナちゃんの苦笑いが聞こえてきて申し訳ない気持ちで一杯になる。
このままじゃいけないって分かってるけど、どうすれば前のように普通に接する事が出来るのか分からないでいた。
「桜、次体育よ。早く行かないとヤバイわ、今日準備当番よ」
教室へ着くなり美香が少し慌てた様子で話しかけきて、『準備当番』という単語を聞いた瞬間、私の心にも一気に焦りの感情がわく。
準備当番とは通常四人で構成され、授業が始まる前までにすぐに授業ができる状態まで用具の準備をしておかなければならない当番のことだ。
もし先生が来るまでに準備が終わっていなかった場合、連帯責任ということでクラスの女子全員に問答無用でグラウンド五周を余儀なくされる。
それは例えるなら一キロのマラソンで、ウォーミングアップには丁度いいから私は別に構わない。
しかし、クラス中の女子から非難の嵐が殺到。そのため、準備当番の日だけは皆早めに着替えて授業に望むのだ。
ちなみに今日の授業は確か、女子はバドミントン。ネットを張ってラケットとシャトルを準備しておかなければならない。
急いで体操服を机まで取りに行った私は、シロとカナちゃんに別れを告げて美香と一緒に更衣室へと向かう。
一階にある女子更衣室の前まで来たのはいいんだけど……
「ちょっと結城君、貴方どこまで付いてくるつもり? 男子更衣室はさっき通り過ぎた向こう側よ?」
後ろから付いてきたシロへ、すかさず美香がツッコミを入れた。
「俺から離れると桜が危険だ。それに案ずるな、お前の貧相な胸には興味ない」
シロ……心配してくれるのは嬉しいけど、これ以上その姿でコハクの評判を下げる行為は慎んで欲しい。
最近『暗黒王子』から『暗黒変態王子』に通り名が変わろうとしているんだよ。
そして余計な一言で美香を怒らせるのも止めてくれ。
「イケメンだから何でも許されるなんて思ったら大間違い、のぞきは立派な犯罪よ!」
「くっ、この女……」
美香に激しい剣幕で正論をつかれ、たじろぐシロ。そこへ後ろから追いかけてきたカナちゃんが二人を止めに入る。
その手には二人分の体操着が握られており、シロのお世話係ぶりがかなり板についている姿を目の当たりにした。
ほんと面倒見いいんだよな……家事も気配りも出来て、多少黒い部分はあるけどルックスもいい。
何より彼の人気の秘訣は、一度記憶した人の名前を忘れない事だろう。声をかけられると瞬時に名前で呼び掛けて挨拶をする。
そして持ち前の甘いマスクと軽快なトークで女の人の心を鷲掴み。『浪花の貴公子』の異名に恥じないその立ち振舞いで、右肩上がりでファン増加中だ。
「シロ、お前何してんねや。俺達も行くで。体育館は結界張ったから大丈夫やて」
「いい所に! 西園寺君、この変態早く連れてって」
「ああ、まかせとき」
「こら、離せ! 何をする! 桜ぁあ!」
カナちゃんに引きずられるようにして、男子更衣室へ連行されるシロを眺めながら『ごめん、でも女子更衣室の中までは流石に無理だよ』と心の中で念じておいた。
隣からは呆れたようなため息が聞こえてきて、美香の中でシロの株がさらに大暴落したのが容易に見てとれた。
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