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第十二章 断罪者と救済者
童心に返って遊びましょう
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それから私達はカナちゃんの案内のもと、近くの小学校までやってきた。グラウンドの中心まで足を進めた所で、目的の場所にやっと到着したようだ。
「ここで何するの?」
ため息混じりに尋ねるクレハに、振り返ったカナちゃんは先ほど自動販売機で買ったカフェオレの缶を差し出した。
「クレハ、とりあえずこれ全部飲んで。話はそこからや」
「何で僕が……」
「その量一気に飲み干せそうなんお前しかおらんねん。別に何も仕込んでへんよ。たのむわ」
渋々といった様子で、クレハはプルタブに手をかけて缶を開けた。それに口をつけた瞬間──
「クレハ選手が今、カフェオレを飲み始めました! 一気に缶を傾けて、お、早い早い、いけるか? このまま一気にいけるか?」
カナちゃんが満面の笑みを浮かべてその様子を実況し始めた。
クレハは思わず口から吹き出しそうになるのを堪え、ジト目で彼を睨むが、若干涙目なせいかいまいち迫力がない。
「……うるさいから黙っててもらえる?」
「へいへいじゃあ何も喋らん。黙っとく」
どこ吹く風といわんばかりに、口笛を吹いて素知らぬ顔をしたカナちゃん。
クレハがまた缶を口につけたのを見計らって、今度は無言でじっとその様子を眺めている。視線だけで穴が開くんじゃないかってくらい執拗に。
「……じっと見られても気が散るんだけど」
さすがにその視線に耐えれなくなったクレハは、かなり不機嫌そうに彼を再び睨む。
すると、その睨みに臆する事なく、カナちゃんはとんでもない事を口にした。
「いやー改めて見ると、お前も結構童顔やな思うて。コハッ君の方が上に見えるわ」
「余計なお世話だよ!」
ニコニコと人当たり良い笑顔を浮かべてつっかかるカナちゃんに、クレハの怒りのボルテージはみるみる上昇。
測定器があれば、きっとMAXから針が振り切れているだろう。
しかし、それでも怒りを沈め、律儀にカフェオレを飲んでいるクレハは意外と大人かもしれない。
それにしても……相変わらず、カナちゃんは根回しが上手いな。
もうすでに始まっているのだ。
勝負のために、相手の心理を乱す戦いが。
「なぁなぁ、クレハ。お前、年いくつ?」
「……君達よりは間違いなく上だよ」
「そうなんか、てっきり年下かと思うてたわ。若く見られるってええな。俺等とおっても何の違和感もあらへんで」
「君も、相当僕に喧嘩売るのが好きらしいね?」
「喧嘩? 嫌やわ、そんな物騒なことせぇへんわ。ゲーム本気でするための前準備やて」
クレハが青筋を立て、頬をピクピクさせているのも気にせず、カナちゃんは適度な大きさの石を拾うと、地面に直径30cmぐらいの円を描いた。
「そろそろ飲み終わったやろ? その缶貸して」
怒りをぶつけるようにクレハが勢いよく投げた缶を、「おおきに~」とカナちゃんは余裕でキャッチする。
地面を平らに整えて缶を円の中心に置いて立ち上がると、缶に足をかけ無邪気な笑みを浮かべてカナちゃんは口を開く。
「ほんなら童心に返って、皆で缶けりでもしようや!」
私達以外誰も居ないグラウンドがシンと静まり返った後、カァカァとカラスの鳴く声がむなしく響いた。
何となく予想はしてたけど、クレハと優菜さんは『缶けり』という言葉がどうもピンときていないようだ。
「あれ、缶けり知らへんの? あの有名なかくれんぼと鬼ごっこのコラボ遊戯、心理をついた絶妙な攻防戦!」
「知ってるわけないでしょ」
「ごめんなさい、やったことない」
クレハは軽く鼻であしらい、優菜さんは申し訳なさそうに謝る。
そんな二人の姿を見て、掴みに失敗したと軽くショックを受けているカナちゃん。
これはいかん流れだと、すかさず私はフォローに回った。
「だ、大丈夫だよ! ルールは簡単だから! 最初に一人鬼を決めて、その鬼が隠れた子を見つけていくゲームなの。最初に缶を子が蹴り飛ばして、鬼がそれを元の場所に戻し十秒数えるまでに、子は鬼に見つからないように隠れる。鬼は子を見つけたら『○○みーつけた』って言って缶を踏むことで、その子を捕獲できる。捕獲された子は鬼のそばで待機。そうやって全員捕まえられたら鬼の勝ち。最初に捕まった子が次の鬼になる。逆に子は鬼に捕まらないように缶を蹴り飛ばす事が出来たら勝ち。捕まった子も解放されて、鬼は継続でまた最初から始めるの」
一通り説明をすると、クレハが馬鹿にしたような薄笑いを浮かべて口を開いた。
「下らない、ただの子供の遊びじゃない」
しかし、その一言がカナちゃんの闘志に火をつけてしまったようだ。
「言うたな、クレハ。その甘い認識、変えさせたるわ! 最初は俺が鬼やるから、お前がこの缶蹴り飛ばしいや。それがスタートの合図やで。隠れる範囲はこのグラウンド内で、校舎より向こうはなしやからな!」
辺りを見回し、ある程度隠れられそうな場所の目星をつける。
サッカーゴールより先は身を隠せそうな遊具も建物もない。
実質的な範囲は、あの、サッカーゴールより手前までだろう。
「優菜さん、ルール大丈夫ですか?」
「とりあえず、奏にばれずに缶を蹴ればいいんだよね?」
「そうです! とりあえず最初は身を隠して鬼に居場所がばれないよう気を付けて下さい。そこからは、隙をついて一緒に缶を狙いましょう」
優菜さんがふんわりと優しく笑って大きく頷いてくれた。その何気ない動作でさえ、可愛すぎて思わず目を奪われる。
彼女のほんわかした雰囲気に心が癒されるのを感じていると、斜め方向から鋭い視線が突き刺さってきた。
視線を辿ると癒された心が荒みそうになる。あえて今はスルーしておこう。
「あ~それからクレハ、シロとちゃうねんから反則はなしやで」
屋上でのバドピンポンの時みたいに妖術でズルをしないように、カナちゃんはクレハに釘をさす。
「愚問だね。そんな事しなくても負ける気しないよ」
「ほな、開始の合図派手に頼むで」
「なるべく遠くに蹴ってね、クレハ」
「分かってるよ」
面倒臭そうに呟いたクレハが缶の前に立ち、ゲームの火蓋が切られた。
「ここで何するの?」
ため息混じりに尋ねるクレハに、振り返ったカナちゃんは先ほど自動販売機で買ったカフェオレの缶を差し出した。
「クレハ、とりあえずこれ全部飲んで。話はそこからや」
「何で僕が……」
「その量一気に飲み干せそうなんお前しかおらんねん。別に何も仕込んでへんよ。たのむわ」
渋々といった様子で、クレハはプルタブに手をかけて缶を開けた。それに口をつけた瞬間──
「クレハ選手が今、カフェオレを飲み始めました! 一気に缶を傾けて、お、早い早い、いけるか? このまま一気にいけるか?」
カナちゃんが満面の笑みを浮かべてその様子を実況し始めた。
クレハは思わず口から吹き出しそうになるのを堪え、ジト目で彼を睨むが、若干涙目なせいかいまいち迫力がない。
「……うるさいから黙っててもらえる?」
「へいへいじゃあ何も喋らん。黙っとく」
どこ吹く風といわんばかりに、口笛を吹いて素知らぬ顔をしたカナちゃん。
クレハがまた缶を口につけたのを見計らって、今度は無言でじっとその様子を眺めている。視線だけで穴が開くんじゃないかってくらい執拗に。
「……じっと見られても気が散るんだけど」
さすがにその視線に耐えれなくなったクレハは、かなり不機嫌そうに彼を再び睨む。
すると、その睨みに臆する事なく、カナちゃんはとんでもない事を口にした。
「いやー改めて見ると、お前も結構童顔やな思うて。コハッ君の方が上に見えるわ」
「余計なお世話だよ!」
ニコニコと人当たり良い笑顔を浮かべてつっかかるカナちゃんに、クレハの怒りのボルテージはみるみる上昇。
測定器があれば、きっとMAXから針が振り切れているだろう。
しかし、それでも怒りを沈め、律儀にカフェオレを飲んでいるクレハは意外と大人かもしれない。
それにしても……相変わらず、カナちゃんは根回しが上手いな。
もうすでに始まっているのだ。
勝負のために、相手の心理を乱す戦いが。
「なぁなぁ、クレハ。お前、年いくつ?」
「……君達よりは間違いなく上だよ」
「そうなんか、てっきり年下かと思うてたわ。若く見られるってええな。俺等とおっても何の違和感もあらへんで」
「君も、相当僕に喧嘩売るのが好きらしいね?」
「喧嘩? 嫌やわ、そんな物騒なことせぇへんわ。ゲーム本気でするための前準備やて」
クレハが青筋を立て、頬をピクピクさせているのも気にせず、カナちゃんは適度な大きさの石を拾うと、地面に直径30cmぐらいの円を描いた。
「そろそろ飲み終わったやろ? その缶貸して」
怒りをぶつけるようにクレハが勢いよく投げた缶を、「おおきに~」とカナちゃんは余裕でキャッチする。
地面を平らに整えて缶を円の中心に置いて立ち上がると、缶に足をかけ無邪気な笑みを浮かべてカナちゃんは口を開く。
「ほんなら童心に返って、皆で缶けりでもしようや!」
私達以外誰も居ないグラウンドがシンと静まり返った後、カァカァとカラスの鳴く声がむなしく響いた。
何となく予想はしてたけど、クレハと優菜さんは『缶けり』という言葉がどうもピンときていないようだ。
「あれ、缶けり知らへんの? あの有名なかくれんぼと鬼ごっこのコラボ遊戯、心理をついた絶妙な攻防戦!」
「知ってるわけないでしょ」
「ごめんなさい、やったことない」
クレハは軽く鼻であしらい、優菜さんは申し訳なさそうに謝る。
そんな二人の姿を見て、掴みに失敗したと軽くショックを受けているカナちゃん。
これはいかん流れだと、すかさず私はフォローに回った。
「だ、大丈夫だよ! ルールは簡単だから! 最初に一人鬼を決めて、その鬼が隠れた子を見つけていくゲームなの。最初に缶を子が蹴り飛ばして、鬼がそれを元の場所に戻し十秒数えるまでに、子は鬼に見つからないように隠れる。鬼は子を見つけたら『○○みーつけた』って言って缶を踏むことで、その子を捕獲できる。捕獲された子は鬼のそばで待機。そうやって全員捕まえられたら鬼の勝ち。最初に捕まった子が次の鬼になる。逆に子は鬼に捕まらないように缶を蹴り飛ばす事が出来たら勝ち。捕まった子も解放されて、鬼は継続でまた最初から始めるの」
一通り説明をすると、クレハが馬鹿にしたような薄笑いを浮かべて口を開いた。
「下らない、ただの子供の遊びじゃない」
しかし、その一言がカナちゃんの闘志に火をつけてしまったようだ。
「言うたな、クレハ。その甘い認識、変えさせたるわ! 最初は俺が鬼やるから、お前がこの缶蹴り飛ばしいや。それがスタートの合図やで。隠れる範囲はこのグラウンド内で、校舎より向こうはなしやからな!」
辺りを見回し、ある程度隠れられそうな場所の目星をつける。
サッカーゴールより先は身を隠せそうな遊具も建物もない。
実質的な範囲は、あの、サッカーゴールより手前までだろう。
「優菜さん、ルール大丈夫ですか?」
「とりあえず、奏にばれずに缶を蹴ればいいんだよね?」
「そうです! とりあえず最初は身を隠して鬼に居場所がばれないよう気を付けて下さい。そこからは、隙をついて一緒に缶を狙いましょう」
優菜さんがふんわりと優しく笑って大きく頷いてくれた。その何気ない動作でさえ、可愛すぎて思わず目を奪われる。
彼女のほんわかした雰囲気に心が癒されるのを感じていると、斜め方向から鋭い視線が突き刺さってきた。
視線を辿ると癒された心が荒みそうになる。あえて今はスルーしておこう。
「あ~それからクレハ、シロとちゃうねんから反則はなしやで」
屋上でのバドピンポンの時みたいに妖術でズルをしないように、カナちゃんはクレハに釘をさす。
「愚問だね。そんな事しなくても負ける気しないよ」
「ほな、開始の合図派手に頼むで」
「なるべく遠くに蹴ってね、クレハ」
「分かってるよ」
面倒臭そうに呟いたクレハが缶の前に立ち、ゲームの火蓋が切られた。
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