獣耳男子と恋人契約

花宵

文字の大きさ
上 下
135 / 186
第十一章 与えられる試練

ショッピングモールの中心で愛を叫ぶ

しおりを挟む
「待って、クレハ! ありがとう……教えてくれて、本当にありがとう……っ」
「お礼を言われる筋合いはないよ。僕は契約を最後まで執行したに過ぎない」
「……契約?」
「君達を後ろからずっと心配そうに見てた彼女とのね。生前の記憶を利用させてもらう代わりに、試練にクリア出来た場合のみ、僕は彼女が君達に託した思いを伝える。その契約を執行しただけ」

 クレハは面倒臭そうに顔だけこちらに向けると、ため息混じりに説明してくれた。

「美希がいるの?!」
「もう成仏したよ。やっと肩の荷がおりたんだろうね……嬉しそうに、笑ってたよ」

 今まで心配で私達の事をずっと見守っててくれたんだ。

 ありがとう、美希。いつまでも心配かけてごめんね。きちんと前を向いて歩んでいくよ、貴女の分まで。美希がもういいよって言うくらい、たくさん武勇伝作るから……面倒臭がらずにちゃんと聞いてね?

「ありがとう、クレハ。本当に……ありがとう」
「虫酸が走るから、そう何度もお礼言うの止めてもらえる? たまたま今回君達は合格したけど、次はそうはいかないよ。せいぜい怯えながら生活するといい」

 捨て台詞を残して去ろうとするクレハを、私はまたもや引き止めた。もう一つだけ、彼に教えなければならない大切な事を伝えるために。

「待って……貴方は、何処に帰るの?」
「何処でもいいでしょ別に。君に関係ないよ」
「優菜さんが、貴方の帰りを待ってるよ。すごく心配して探してる。だから……」

 私の言葉を最後まで聞くことなく、クレハは黒いオーラに包まれ姿を消した。

「あの性悪狐……根は案外悪い奴じゃないのかもしれないわね。契約なんて言ってたけど、律儀にそれを守ってる所とか、いまいち悪になりきれてない」

 先程までクレハが居た場所を眺めながら美香がポツリと呟いた。

「やっぱり、美香もそう思う?」
「相手を痛め付けたいなら、やり方がぬるいのよ。希望の芽を残してる時点で、論外よ」
「なんか美香が言うと説得力あるね」
「それはどういう意味かしら?」
「ごめんごめん、深い意味はないよ」
「まぁいいわ。美希を利用された事には腹が立つけど、感謝しないといけないわね。あの子の気持ち、教えてくれた事には」
「そうだね……」

 クレハが居なければ、知ることは出来なかった。美希の抱えていたものも、その想いも。そして、美香が隠していた心のわだかまりも。

「ねぇ、美香」
「何かしら?」
「私の幸せの中には、美香の幸せも含まれてるの。だから一人で抱え込まないで、何かあったら相談してね」
「桜……分かったわ。ありがとう」

 私の言葉に、美香は嬉しそうに口元に笑みを浮かべて頷いてくれた。

「それじゃあ、行こうか」
「そうね。もうコンテストまであまり時間がないことだし、第二ステージ突破のため、頑張るわよ!」

 その後、幻術空間から抜け出した私達は、元居たショッピングモールへと戻ってきた。
 相変わらず女子のサークルが目の前にあるのだが、あれからどれくらい時間が経ったのか分からない。

 その時、げんなりとした様子のシロとカナちゃんがそこから出てきた。

「もう二度と、アンケートなんか答えてやらねぇ……」
「同感や。あかん、あれはあかんわ……」

 話を聞くと、どうやらあれからみっちり百問のアンケートに答えさせられたらしい。途中で止めようとしても、解放してもらえず軽く一時間以上あの場に居たようだ。

「桜、目が赤い……それにこの匂い……まさか、またクレハに会ったのか?」

 その時、私の顔を覗き込むようにしてシロが話しかけてきた。

「あ……うん。美香と一緒に第二の試練を……」

 私の言葉を聞くやいなや、振り返ってある場所を確認したシロ。

「あの野郎! また罠にはめやがったな!」

 視線の先を追うと先程までアンケートをお願いしていた猛者が居ない。それどころか、設置されていた看板も机も何もかもが消えている。

 なるほど、あれもクレハの罠だったというわけか。

「怪我はないか? 変なことされてないか? 俺がついていながらすまない……」

 悲しそうに顔を歪めたシロは、人目も憚らず私の身体をぎゅっと抱き締めた。
 ふわりと鼻孔をくすぐる甘いシャンプーの匂いにひどく安心感を覚えるが、周りから聞こえるヒソヒソとした話し声に私はある事を思い出す。

 ここは、人がごったがえすショッピングモールであることを。

「シロ、大丈夫、大丈夫だから……今は離してもらえないかな?」

 周りの視線がグサグサと突き刺さるのを感じ慌てて離れようとするが……

「嫌だ、絶対離さねぇ! 少しでも目離すとお前、すぐ拐われる……こうでもしてねぇと、不安でどうにかなりそうなんだよ……っ!」

 さらに抱き締める手の力をシロが強めてしまい、脱出不可能になってしまった。

 微かに震えるシロの身体から、本当に心配してくれたことが分かる。口数が減っていたのも、行き交う人を睨んでいたのも、いつクレハが仕掛けてくるか心配で、常に気を張っていたからだとその時気付かされた。

「ごめんね心配かけて。どこにも行かないよ、もし拐われても帰ってくるから。ちゃんと貴方の元に。だから……」

 お願いだから今はその手を離して下さい、切実に……っ!
 シロが大きな声で叫んだせいで、視線が集まり晒し者状態になっている。

 恥ずかしすぎて意識飛びそうだよ……

 その時、私の心の声が聞こえたかのようにカナちゃんが助け船を出してくれた。

「仲ええのは分かるけど、そろそろ行くで。お前ら悪目立ちし過ぎやて」
「見せつけてんだ、邪魔すんな」
「はいはい、せやかてあんまり過度やと逆に嫌われんで。見てみぃ、桜の顔。茹でダコ通り越して危険なとこまできとんで……って、おい! 桜?」

 ありがとう、カナちゃん……でも、できればもう少し早く声をかけて欲しかった……

 その後、軽く意識を飛ばして目覚めた私は、予定が大幅に狂ったとご立腹の美香から、日が暮れるまでみっちりと、スパルタ式ファッション講座を受けたのだった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒やしのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

御神楽《怪奇》探偵事務所

姫宮未調
キャラ文芸
女探偵?・御神楽菖蒲と助手にされた男子高校生・咲良優多のハチャメチャ怪奇コメディ ※変態イケメン執事がもれなくついてきます※ 怪奇×ホラー×コメディ×16禁×ラブコメ 主人公は優多(* ̄∇ ̄)ノ

キャベツの妖精、ぴよこ三兄弟 〜自宅警備員の日々〜

ほしのしずく
キャラ文芸
キャベツの中から生まれたひよこ? たちのほっこりほのぼのLIFEです🐥🐤🐣

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...