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第七章 すれ違う歯車
無知って罪よね
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土曜日の朝、待ち合わせに遅れないように私が準備をしていたら、姉がコーディネートした服を持ってきてくれた。
「いつもありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして~それより、桜。あんた今からコハク君とデート?」
「いや、文化祭に必要な写真撮るために、コハクとカナちゃんと待ち合わせしてるの」
「カナちゃんって、この前家に連れ込んでたあの奏君?」
「連れこんでたって……まぁ、そうだけど」
「二人の男を手駒にするなんて、桜も随分成長したわね」
「もう! 誤解になる言い方は止めて。カナちゃんとはただの幼馴染みだよ」
「可哀想にね、昔からあの子……あんたの事ずっと見てたのに報われないわね」
「え、お姉ちゃん知ってたの?」
「そんなん見てたらすぐ分かるわよ。あんた鈍感だから、奏君に無邪気にお風呂一緒に入ろうとか誘っててちょっと笑えたけど……無知ってほんと罪よね」
姉の言葉に私は絶句した。
まさか、そんなに前からカナちゃんが私の事を好きだったなんて。
カナちゃんが湯船の隅っこから動かなかったのはそのためだったのか。
そんな彼に私は何をした……背中流してだの、もっとこっちにおいでよだの引っ張って……挙げ句の果てには……ッ!
だめだ、思い出すと恥ずかしすぎる。
今から会わなければいけないのに、どうしよう……今はカナちゃんの顔、まともに見れる気がしない。
準備を終えて家を出ると、コハクが外で待っていた。
「おはよう、コハク。わざわざ来てくれたんだ」
今日は聖奏公園で待ち合わせなのに、わざわざ迎えに来てくれるとは思わなかった。コハクってこういう所かなり律儀なんだよな。
「おはよう、桜。最近いつも西園寺君が一緒だからね……少しでも、君と二人で過ごしたくて」
私の家から公園まで十分。
その時間を二人で過ごすために、わざわざ家を早く出て迎えに来てくれたんだ。
申し訳ない気持ちも強いけど、その優しさがすごく嬉しく感じる。
「コハク……今度、二人でどこか遊びにいこう? 病院で交わした約束も、結局まだ果たせてないし」
「もちろん、桜とならどこに行っても楽しいからね」
私の誘いにコハクは嬉しそうに微笑んで了承してくれて、来週の休みにデートの約束を取り付けた。
それから私達は、公園まで仲良く手を繋いで歩き出す。
コハクはいつも車道側を歩き、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
考えてみると昇降口や教室に入る時、ドアなどは彼が開けて私を先に通してくれるし、さりげないエスコートが上手い。
そして道中は「桜は今日も可愛いね」とニコニコと笑顔で私を見つめ、「その髪型も似合うね」と、変化があるとすぐに気付いてくれる。
しどろもどろにお礼を言ってその度に顔が赤くなる私を、彼はまた嬉しそうに目を細めて見つめるのだ。
最初はからかわれてると思ってたけど、最近はそうじゃないって分かってきた。
だから私は彼の瞳を見つめ返して、「コハクはいつも格好いいね」と笑顔で褒める。
そうすると、彼は白い頬を赤く染めて私から顔を背けて正面を向く。
その容姿なら耳にタコができそうなくらい聞きなれた言葉だと思うけど、案外コハクも照れ屋な所があるらしく、そうやって可愛らしい反応を返してくれる。
私は彼のそんな横顔を眺めるのが好きだ。
周囲から見るとバカップルだと思われそうだが、コハクとならそう思われても構わない。
そんな事を考えていると、待ち合わせの聖奏公園に着いた。
時計台の前には女性の人だかりが出来ており、もしかしなくても奴の仕業だろう。
「奏様~今日お店に出られますか?」
「ごめんな、今日は用事あって出られへんわ」
「今度、私に似合うアクセ選んでもらえませんか?」
「ええで、またおいで」
「はい! 行きます!」
「キャーずるい私も!」
「はいはい、そこ喧嘩せぇへん。また店においで、一人ずつちゃんと選んでやんで」
「はいっ! ありがとうございますぅ」
こうやって改めて見ると、カナちゃんって本当にモテるんだな。
夏休みに遊んだ時、彼が待ち合わせから離れた場所に潜んでいたのも、公園から急いで走り去ったのもきっと、目立ちすぎるからだとその時気づいた。
集団の中には私より綺麗な人も一杯いて、それなのに何故……私に好きだと言ってくれたのか。
気持ちに応える事は出来ないと告げはしたけど、中途半端に縛り付けているような今の現状に少し心が痛む。幼馴染みとしての友人関係を完璧に絶ったら、カナちゃんはあきらめてくれるのだろうか。その関係を壊したくない私のエゴが、彼の幸せを遠ざけているのだとしたら……
「桜……どうしたの? 泣きそうな顔してる」
気が付くと、コハクに心配そうに顔を覗き込まれていた。
「え……? ううん、何でもないよ」
慌てて私が否定すると、「西園寺君のこと、気になる?」とコハクが悲しそうに笑って尋ねてきた。
「そ、そんな事ないよ! 相変わらずだなって思ってるだけで!」
その時、集団の群れから私達に気付いたカナちゃんが出てきた。
「桜~コハッ君~遅刻やで~」
女性集団にちゃっかりと文化祭の宣伝をしながら彼女達に別れを告げ、カナちゃんはこちらに近付いてきた。
「遅刻したお二方には罰ゲームやで。二人でショートコントやって」
「何その突然の無茶ぶり」
「ええやん、どうせ二人仲良う歩いてきたんやろ? 独り身で寂しい友人に笑いの一つぐらいくれたってバチは当たらんで」
冗談だと分かってはいるが、その言葉が妙に胸に突き刺さる。
「じゃあまず、西園寺君が手本見せてよ」
コハクが笑顔で無茶ぶりをカナちゃんに押し付けると、「しゃーないのう。桜ちょっとこっちに来い。作戦会議や」と言って得意気に引き受けたカナちゃんが、私の手をぐいっと引っ張った。
突然の事にバランスを崩した私は、倒れそうな所をカナちゃんに抱き止められる。
顔を上げると至近距離にカナちゃんの端正な顔があって「すまん、大丈夫か?」と心配そうに声をかけられ視線が交錯した瞬間、頭を駆け巡る『無知ってほんと罪よね』という姉の言葉。
私の顔は一気に熱を帯び、羞恥に耐えきれず「大丈夫!」と言って急いで彼から離れた。
「お、おぅ……ならええねんけど」
そう呟いたカナちゃんの顔も心なしか赤くなっていた。
しばしの沈黙が流れ、「始めようか」と呟かれたコハクの言葉を契機に、私達はそのまま写真撮影を開始する事にした。
「いつもありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして~それより、桜。あんた今からコハク君とデート?」
「いや、文化祭に必要な写真撮るために、コハクとカナちゃんと待ち合わせしてるの」
「カナちゃんって、この前家に連れ込んでたあの奏君?」
「連れこんでたって……まぁ、そうだけど」
「二人の男を手駒にするなんて、桜も随分成長したわね」
「もう! 誤解になる言い方は止めて。カナちゃんとはただの幼馴染みだよ」
「可哀想にね、昔からあの子……あんたの事ずっと見てたのに報われないわね」
「え、お姉ちゃん知ってたの?」
「そんなん見てたらすぐ分かるわよ。あんた鈍感だから、奏君に無邪気にお風呂一緒に入ろうとか誘っててちょっと笑えたけど……無知ってほんと罪よね」
姉の言葉に私は絶句した。
まさか、そんなに前からカナちゃんが私の事を好きだったなんて。
カナちゃんが湯船の隅っこから動かなかったのはそのためだったのか。
そんな彼に私は何をした……背中流してだの、もっとこっちにおいでよだの引っ張って……挙げ句の果てには……ッ!
だめだ、思い出すと恥ずかしすぎる。
今から会わなければいけないのに、どうしよう……今はカナちゃんの顔、まともに見れる気がしない。
準備を終えて家を出ると、コハクが外で待っていた。
「おはよう、コハク。わざわざ来てくれたんだ」
今日は聖奏公園で待ち合わせなのに、わざわざ迎えに来てくれるとは思わなかった。コハクってこういう所かなり律儀なんだよな。
「おはよう、桜。最近いつも西園寺君が一緒だからね……少しでも、君と二人で過ごしたくて」
私の家から公園まで十分。
その時間を二人で過ごすために、わざわざ家を早く出て迎えに来てくれたんだ。
申し訳ない気持ちも強いけど、その優しさがすごく嬉しく感じる。
「コハク……今度、二人でどこか遊びにいこう? 病院で交わした約束も、結局まだ果たせてないし」
「もちろん、桜とならどこに行っても楽しいからね」
私の誘いにコハクは嬉しそうに微笑んで了承してくれて、来週の休みにデートの約束を取り付けた。
それから私達は、公園まで仲良く手を繋いで歩き出す。
コハクはいつも車道側を歩き、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
考えてみると昇降口や教室に入る時、ドアなどは彼が開けて私を先に通してくれるし、さりげないエスコートが上手い。
そして道中は「桜は今日も可愛いね」とニコニコと笑顔で私を見つめ、「その髪型も似合うね」と、変化があるとすぐに気付いてくれる。
しどろもどろにお礼を言ってその度に顔が赤くなる私を、彼はまた嬉しそうに目を細めて見つめるのだ。
最初はからかわれてると思ってたけど、最近はそうじゃないって分かってきた。
だから私は彼の瞳を見つめ返して、「コハクはいつも格好いいね」と笑顔で褒める。
そうすると、彼は白い頬を赤く染めて私から顔を背けて正面を向く。
その容姿なら耳にタコができそうなくらい聞きなれた言葉だと思うけど、案外コハクも照れ屋な所があるらしく、そうやって可愛らしい反応を返してくれる。
私は彼のそんな横顔を眺めるのが好きだ。
周囲から見るとバカップルだと思われそうだが、コハクとならそう思われても構わない。
そんな事を考えていると、待ち合わせの聖奏公園に着いた。
時計台の前には女性の人だかりが出来ており、もしかしなくても奴の仕業だろう。
「奏様~今日お店に出られますか?」
「ごめんな、今日は用事あって出られへんわ」
「今度、私に似合うアクセ選んでもらえませんか?」
「ええで、またおいで」
「はい! 行きます!」
「キャーずるい私も!」
「はいはい、そこ喧嘩せぇへん。また店においで、一人ずつちゃんと選んでやんで」
「はいっ! ありがとうございますぅ」
こうやって改めて見ると、カナちゃんって本当にモテるんだな。
夏休みに遊んだ時、彼が待ち合わせから離れた場所に潜んでいたのも、公園から急いで走り去ったのもきっと、目立ちすぎるからだとその時気づいた。
集団の中には私より綺麗な人も一杯いて、それなのに何故……私に好きだと言ってくれたのか。
気持ちに応える事は出来ないと告げはしたけど、中途半端に縛り付けているような今の現状に少し心が痛む。幼馴染みとしての友人関係を完璧に絶ったら、カナちゃんはあきらめてくれるのだろうか。その関係を壊したくない私のエゴが、彼の幸せを遠ざけているのだとしたら……
「桜……どうしたの? 泣きそうな顔してる」
気が付くと、コハクに心配そうに顔を覗き込まれていた。
「え……? ううん、何でもないよ」
慌てて私が否定すると、「西園寺君のこと、気になる?」とコハクが悲しそうに笑って尋ねてきた。
「そ、そんな事ないよ! 相変わらずだなって思ってるだけで!」
その時、集団の群れから私達に気付いたカナちゃんが出てきた。
「桜~コハッ君~遅刻やで~」
女性集団にちゃっかりと文化祭の宣伝をしながら彼女達に別れを告げ、カナちゃんはこちらに近付いてきた。
「遅刻したお二方には罰ゲームやで。二人でショートコントやって」
「何その突然の無茶ぶり」
「ええやん、どうせ二人仲良う歩いてきたんやろ? 独り身で寂しい友人に笑いの一つぐらいくれたってバチは当たらんで」
冗談だと分かってはいるが、その言葉が妙に胸に突き刺さる。
「じゃあまず、西園寺君が手本見せてよ」
コハクが笑顔で無茶ぶりをカナちゃんに押し付けると、「しゃーないのう。桜ちょっとこっちに来い。作戦会議や」と言って得意気に引き受けたカナちゃんが、私の手をぐいっと引っ張った。
突然の事にバランスを崩した私は、倒れそうな所をカナちゃんに抱き止められる。
顔を上げると至近距離にカナちゃんの端正な顔があって「すまん、大丈夫か?」と心配そうに声をかけられ視線が交錯した瞬間、頭を駆け巡る『無知ってほんと罪よね』という姉の言葉。
私の顔は一気に熱を帯び、羞恥に耐えきれず「大丈夫!」と言って急いで彼から離れた。
「お、おぅ……ならええねんけど」
そう呟いたカナちゃんの顔も心なしか赤くなっていた。
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