獣耳男子と恋人契約

花宵

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第二章 獣耳男子と偽恋生活

デートのお誘い

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 コハクと恋人のフリをして一週間が経った。
 彼と一緒に帰ることで、桃井達の放課後の課外授業は無くなった。桃井はあれから何も仕掛けてこない。むしろ、気遣って声をかけてくる様になった。
 クラスメイトも挨拶をしてきたり、中には軽く雑談してくる人までいる。

 それもきっと、コハクの影響なのだろう。
 彼は勉強もスポーツも出来て容姿もいい。誰にでも分け隔てなく接して、困っている人は積極的に助ける。
 しかし、無理なことや出来ない事はきっぱりノーと言える。いい意味でも悪い意味でも表裏のない素直な人だった。

 放課後になるとすぐに私の所へ来て、『帰ろう、桜』と手を差し出してくれる。朝も相変わらずで、毎日私の家まで迎えに来てくれる。

 コハクの恋人のフリはかなり徹底的なもので、それを目の当たりにした周囲からは羨望の眼差しが送られてくる。
 そんな彼が皆に、『一番は桜だから』と事あるごとに公言するものだから、皆も私を無下に出来ないのだろう。

 あれから、学園内でコハクが獣耳を出した事は一度もない。正直、私が居なくても充分ばれずに生活出来ると思う。
 そう考えると、私が彼の隣に居る必要はないのではないか……と考えずにはいられない。

 コハクほどの運動神経があれば、どこの部活からでも引っ張りだこだろう。
 本当は何か入りたい部活があるのかもしれない。友達と遊んで帰ったりしたいのかもしれない。
 だけど私が負担になって、彼がやりたい事が自由に出来ていないとしたら、申し訳なくて仕方がなかった。


***

 学園からの帰り道、いつものようにコハクに手を引かれ歩いていた。

「桜、明日何か用事ある?」
「クッキーと散歩」
「じゃあ明後日は?」
「クッキーと散歩」
「そうなんだね……」

 目に見て分かるほど顔に悲愴感を浮かべ、コハクはがっくりと肩を落とした。
 流石に見ていられなくて、理由を尋ねてみる。

「何か用事でもあるの? 人手が居るなら手伝うよ? いつもお世話になってるし」
「実はケンさんに遊園地の優待券を二枚貰ったんだけど、一緒にどうかなと思って」

 遊園地か……予想外のお誘いにフリーズすること数秒。二枚という事はつまり、コハクと二人で出かけるという事だろう。貴重な休みまでをも私に時間を割こうとしている……それは流石に申し訳なさすぎる。

「休みの日まで無理して恋人のフリしなくてもいいんだよ?」
「無理なんてしてないよ。僕は桜と一緒に行きたいんだ」

 休みの日まで私と一緒に居て楽しいのだろうか。少なくとも嫌なら誘ってくれたりはしないよね。そう考えたら無下にするのは忍びない。

 遊園地は楽しいし、一緒に行くのは別に構わない。むしろ楽しみだ。だけどそこで可愛い愛犬の姿が脳裏をよぎる。
 先週は雨だったから、満足にクッキーと散歩出来なかった。久しぶりの遠出をきっと楽しみにしているはずだ。一日遊園地で遊んだらクッキーは寂しい思いをするだろう。それならば……

「明日、お昼からでもいいかな? その、クッキーも散歩を楽しみにしてて……朝はお散歩させてあげたいの」
「じゃあ明日、一時ぐらいに桜の家に迎えに行ってもいいかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう、桜! 明日、楽しみだな~」

 そう言って、コハクは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 本当に表情豊かな人だな。本人には言えないけど、その分かりやすい所がクッキーに似てるかもしれない。
 ああ、だから一緒に居て楽しいのかな。その笑顔につられて、私も自然と楽しくなってくる。
 遠足前の子供のように、その日はドキドキして眠れなかった。
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