獣耳男子と恋人契約

花宵

文字の大きさ
上 下
3 / 186
第一章 獣耳男子と恋人契約

いつもと違う日常(挿絵あり)

しおりを挟む
「何してるの?」

 教室内に低くて透き通った声が響いて、視線が一斉に声のするドアに集まる。
 そこに立っていたのは、女子にモテモテの転校生。

 嫌な場面を目撃されてしまった。
 乱入されなければ、後十分もすれば解放されたのに。

「ねぇ、そこで何してるの?」

 私を押さえつけてた女子たちは急いで手を離した。

「楽しくおしゃべりしていただけよ。結城君も一緒にどう?」

 主犯格の桃井美香が、聞いたこともないような猫なで声で転校生に詰め寄った。
 他の女子達もうっとりとした眼差しで彼のまわりに群がっていく。

「悪いけど、僕は一条さんに用があるから」

 転校生が桃井達を相手にせず一直線にこちらへ歩いてきたせいで、笑顔の能面が剥がれ落ちた彼女達の鋭い視線が私を突き刺す。


 学園内で私の名前を呼ばれたの、いつ以来だろう? それに、何故私の名前を知っているんだろうか。
 転校してきたばかりで浮いた私の存在が異様に悪目立ちし、そのせいで逆に名前を覚えられてしまったのかもしれない。

「もう大丈夫だから、安心して」

 転校生は私の目線の高さまでしゃがむと、琥珀色の綺麗な瞳で私を捉えてふわりと優しく微笑んだ。



 男の人に使う言葉じゃないけど、『なんて綺麗な人』だと思った。

 異国の血が流れている彼は、絹糸のような銀髪に、雪のように白い肌と端正な顔立ちをしている。
 まるで、絵本の中から飛び出してきた王子様のようだ。

「怪我をしているね、保健室へ行こう」

 私の腕から流れている血を見て、彼は眉を下げて悲しそうに表情を曇らせた。そしてポケットから取り出したハンカチを、何の躊躇いもなく私の傷口に巻こうとする。

「そんな事したらハンカチが汚れます!」
「君に使ってもらえるなら、このハンカチも本望だよ」

 (この人は、何を言っているの?)

 言葉の意味を理解出来ないまま、腕は綺麗にハンカチで巻かれてしまった。
 呆然としていた私に、彼は「ごめんね」と謝った後、床に座ったままだった私の身体を優しく横向きに抱き上げる。

 所謂、お姫様抱っこというやつで。

 突然の事にフリーズする私の思考。
 宙に浮いた身体の感覚がむずかゆくて、足がブラブラと揺れて落ち着かない。
 その様子をポカンとした様子で見つめる桃井達を気にとめる事もなく、転校生はただ普通に長い足を動かして、私を抱えたまま教室から出て行ってしまった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 【連載中】は、短時間で読めるように短い文節ごとでの公開になります。 (お気に入り登録いただけると通知が行き、便利かもです) その後、誤字脱字修正や辻褄合わせが行われて、合成された1話分にタイトルをつけ再公開されます。 (その前に、仮まとめ版が出る場合もある、かも、しれない、可能性) 物語の細部は連載時と変わることが多いので、二度読むのが通です。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

あやかし古都の九重さん~京都木屋町通で神様の遣いに出会いました~

卯月みか
キャラ文芸
旧題:お狐様派遣します~京都木屋町通一之船入・人材派遣会社セカンドライフ~ 《ワケあり美青年に見初められ、お狐様の相談係になりました》 失恋を機に仕事を辞め、京都の実家に帰ってきた結月。仕事と新居を探していたある日、結月は謎めいた美青年と出会った。彼の名は、九重さん。小さな派遣事務所を営んでいるという。「仕事を探してはるんやったら、うちで働いてみませんか?」思わぬ好待遇に惹かれ、結月は彼のもとで働くことを決める。けれどその事務所を訪れるのは、人間界で暮らしたい悩める狐たちで――神使の美青年×お人好し女子のゆる甘あやかしファンタジー!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...