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番外編(アズリエル視点)

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受け取った被害報告書を見て、父上はとても怒っておられた。

「ジルベールはどこだ?! すぐに連れてこい!」

「恐れながら陛下、ジルベール様は朝からお出掛けになりました」

「すぐに連れ戻せ!」

「はっ! 直ちに捜索へ向かわせます」

どの愛人に会いに行ったのか、はたまた渡り歩いているのか。一度出掛けると数日は帰ってこないジルベールを探すのは、難航しそうだ。

「フィオラ嬢、今まで我が愚息が本当に迷惑をかけた。誠に申し訳ない。ジルベールには責任をとらせ、王族としての地位を廃嫡しようと思う。そこでジルベールとの婚約は、解消という事でよろしいだろうか?」

「はい、陛下」

「だがしかし、こんなにも優秀な令嬢を手放すのは本当に惜しいのう。そうじゃアズリエル。お前がフィオラ嬢と婚約をしたらどうだろうか?」

「ち、父上?! 急に何を!」

「それはいい考えですね、陛下。私としましても、親しくさせて頂いているアズリエル殿下になら、大事な妹を任せても安心だと考えております」

「レイ! お前まで何を!」

ほら、いけよと目配せをしてくるレイ。
突然の事で、気の利いた台詞の一つも浮かばない。しかし、この千載一遇のチャンスを逃すのは勿体ない。

「フィオラ嬢。責任をとって、貴方を私の正妻として迎えさせて頂きたいのですが、いかがでしょうか?」

しまった!
伝えたかったのは、そんな事ではない。
昔から貴方に好意を抱いていたと、何で言えなかったんだ。

これでは……困ったように微笑むフィオラ嬢の姿から、答えを聞かなくても分かってしまう。父上に言われ、弟の尻拭いで無理して私が彼女を娶ろうとしているように感じてしまうだろう。
優しいフィオラ嬢は、そんな理由でされた求婚などに応えるわけがない。

「私には身に余る光栄ですが、申し訳ありません。アズリエル様にはきっと、もっと相応しい方がおられると思いますので」

「そうですか……とても、残念です。もし何か困った事があれば、是非またご相談下さい」

「はい、ありがとうございます。それでは陛下、アズリエル様、失礼致します」

遠ざかるフィオラ嬢の背中を見つめながら、彼女はあんなにも華奢で小柄な女性だったのかと初めて気づいた。
社交界で見てきたフィオラ嬢の気品溢れる姿や凛とした佇まいから感じる風格から、とても強い女性だと勘違いしていたがそうではない。今までどんな思いでジルベールの婚約者としてその務めをはたしてきたのか。兄であるレイに負担をかけないよう気丈に振舞わざるを得なかったのかもしれない。

レイから聞いた話だと、前公爵は愛人に溺れ家庭を顧みない人だったと聞く。その上、その娘であるリリアナ嬢にジルベールは熱をあげていた。それでもレイや公爵夫人と共に、公爵家を守るために必死に耐えてきたのだとしたら。気が休まる暇もなかったのではないだろうか。
やっとジルベールという重荷から解放された所へ、私は……最低だな。自分の事ばかりでいっぱいになって、彼女の気持ちさえ考えていなかった。
私が今フィオラ嬢のために出来る事は、ジルベールを彼女の前から一刻も早く遠ざける事だけかもしれないな。

だがその日、ジルベールは帰ってこなかった。そして翌日、建国記念日を祝うパーティー会場へリリアナ嬢を同伴して現れたのだ。

ジルベールとその同伴者をすぐに会場からつまみだそうとした私と父上を、フィオラ嬢は止めた。

「折角の建国記念を祝うパーティーなのです。祝いの場に水を指すのはよくありませんし、終わるまではそっとしておくのはいかがでしょうか?」

「だがしかし……」

「それにもしジルベール様が何か問題を起こされたら、私にも考えがございます。その時は、少々ギャフンと言わせてもよろしいでしょうか? 今までのお返しをしたいのです」

フィオラ嬢から、強い覚悟のようなものを感じた。

「父上、フィオラ嬢の言うとおりにしましょう。何かあればすぐ駆けつけれるように、我々は警備を厳重にしておきますので」

「わかった。このパーティーまでは、ジルベールを普通に参加させるとしよう」

「ありがとうございます。陛下、アズリエル様」

こうして、建国記念を祝うパーティが始まった。
ジルベール達は父上の口上を退屈そうに眺め、パーティが始まれば連れの女性とダンスを楽しみ、ビュッフェでお腹を満たしと満喫しているようだった。このまま何事もなく過ぎてくれればと思っていたが、事件が起こった。
パーティの終盤、後は自由に解散して帰るだけとなった頃──

「フィオラ、お前との婚約を破棄する! そして俺は、お前の妹であるリリアナ・ロバーツ公爵令嬢と新たに婚約する!」

声高々にそう宣言するジルベールの姿があった。もう婚約は解消されているというのに、何とも愚かな……

「ええ、どうぞ」

にこやかに言葉を返すフィオラ嬢。そこから、彼女の快進撃が始まったのだった。
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