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「実は、その……最初は一目惚れだったんです」

「…………え?!」

「初めてフィオを見た時、妖精姫のようなその可憐な美しさと可愛らしさに、思わず見惚れてしまったのです。それをジルベールに目撃されていたようで、後日君を婚約者だと言って紹介された時は、正直とても悔しかったのをよく覚えています」

そういえばあの時、ジルベール様がやけにベタベタとしてこられていたのよね。本当に気持ち悪くて仕方なかったわ。

まさかそれが、エルに嫌がらせをするためだったなんて。ジルベール、本当にどこまでもつまらない男だったのね。

「それにフィオの事は、レイスからよく聞かされていたのですよ。俺の可愛い自慢の妹だと、色々な話を聞かせてもらってとても楽しかったし、すごく興味をそそられました」

「え、お兄様からですか?!」

気さくなお兄様は、誰とでもすぐに打ち解けてしまわれる。でも、変なことを言ってないわよね?!

「はい。それと同時に、ジルベールの遊び癖の悪さもよく愚痴られていました。あんな男に嫁がないといけない、フィオが不憫で仕方ないと」

「そうだったのですね」

復讐のために、ジルベール様はあえて泳がせておいたのよね。
婚約者としての務めだけはきちんとこなしつつ、その一方で私は自分を磨き、人脈を築き、人としての価値を高める事に集中していた。
何故かあの方は、私が自分に惚れ込んでいるのだと勝手に勘違いをされていた。
私が褒められる度に、それは自分に相応しくあるためなのだと言いまわっていたようだし。

大方あの婚約破棄宣言も、泣きついて来た私を寛大に許してあげる優しい俺様を演出したかっただけなんじゃないかとも思った。
激しい女遊びも、私に嫉妬して欲しかったのかしら?

終わったことだもの、考えるだけ時間の無駄ね。

「不遇な状況に置かれても、ひたむきに頑張る君の姿にとても好感が持てました。もし共に歩むなら、フィオのような方がいいと思ったのです。そうして一度気持ちを自覚してしまうとダメですね。君以外の方が女性に見えなくなってしまいました。だから、君にジルベールの事で相談を持ちかけられた時は、とても嬉しかったのですよ」

「エル……」

「私が、何としても貴方を弟の毒牙から解放してさしあげたいと思いました。それくらいしか、私に出来ることはありませんでしたからね」

「ではあの時、私を正妻に迎えたいと仰っていたのは……」

「貴方を手に入れたいがために口走ってしまった、ずるい下心です。ただあの時は、言った後にすごく後悔しました。最初にいう言葉を間違えてしまったなと……きちんと貴方を愛していると伝えた上で、求婚すべきであったなと」

「そうですね。あの時は、責任から好きでもない女を娶ろうとされるアズリエル様がとても気の毒だと思ったので……」

「やはり、そうですよね。そう思ってしまいますよね」

がっくりと肩を落としたエルに、私は明るく声をかける。

「でもあの当時、婚約者がジルベール様ではなくて、エルだったら良かったのにって、本当は思ってたんですよ」

「……えっ?! そ、それは本当ですか?!」

頬を赤面させながらも、真意を聞きたいと瞳を輝かせてこちらを見つめてくるエル。とてもモテるのに、こういうウブな所が可愛くて愛しい。

「ええ、本当ですよ」

その言葉で、エルは耳まで真っ赤になってしまった。この方はどうしてこんなに可愛いのだろうか。

「愛しています、エル。私を選んで下さって、ありがとうございます」

エルは両手で顔を覆って、プルプルと震えている。

「フィオ、反則です。可愛すぎます」

私からすると、そんなウブなエルの方が可愛くて仕方ないんだけどな。

「エル、私達もう夫婦になったのですよね?」

「はい。とても素晴らしい結婚式でしたね。フィオの花嫁姿、とても綺麗でしたよ」

「ありがとうございます。エルだって、すごく格好よかったですよ」

「貴方にそう言ってもらえると、嬉しい限りです」

エルと一緒にいると、本当に穏やかな時間をまったりと過ごせる。
優しい気持ちになれて、心が澄んでいく感じだ。
それも悪くない、悪くないんだけども!

今日は結婚初夜なのだ。
たまには紳士じゃないエルも見てみたい!

そっとエルのガウンの裾を握って引っ張る。

「そろそろ、あちらに行きませんか?」
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