上 下
49 / 68
閑話

シヴィルのひとりごと6「僕のやせい」

しおりを挟む


「シヴィル! 」

「あちゃあ~、見つかった~」

 顔が判別できないように、ずっとヘルメットをかぶってカモフラージュしてたが逆効果ぎゃくこうかだった。いまは読み書きのお時間、不自然ふしぜんな銀のヘルメットがいなくて気づかれてしまった。

いそいで残りのパンを詰めこんだ僕は、口を動かしながらツァルニに勉強部屋へ連行された。

 ため息を吐きわたされた粘土板ねんどばんと向きあう。ホワイトボードはないけれど、文字を書いた木の板をかかげたツァルニは懇切こんせつていねいに教えてくれる。よゆうの笑みを浮かべてみたものの、数分後には他の兵士らと同様あたまを抱えてうなった。



 さっきまで食べてたのを目撃されて、昼の時間もサボった分の復習をさせられる。ツァルニは食べてないのに時間をけずってまで僕につきあう。

(マジメだねぇ~)

 あいかわらず不愛想ぶあいそうな表情、この男の顔がくずれる事はあるのだろうか。マジメくさったその表情を引きがしてみたい、胸の奥でよく分からない衝動がむくむくときおこる。

彼を見ているとイラつく。期待をせおって努力すればむくわれると信じてる表情、それとも僕になんか目もくれず目的へ向かって歩いていく姿が気に入らないのかもしれない。これはウィリアムのころから持っていたねじくれた心、奥底にすむ悪魔。

 僕のなかのオオカミが牙をく。

 理性が働いてた向こうの世界じゃあらわれもしなかった本性。



 **********

 どうして行動に移してしまったのか理解できない。遅くまで酒を飲んで自分の部屋へ帰ってる途中とちゅうだった。まっくらやみの廊下を息をひそめて歩き、たどり着いたのは彼の部屋。

深夜なのに部屋のランプはいていて、ツァルニはベッドで書物を読んでる。僕は影から忍びよって馬乗りになった。闇の不意打ふいうちなら勝てそうな気がする。

「シヴィル!? 」

 おどろいた声が部屋へひびき、僕は唇のはしを上げて笑った。冊子を落としたツァルニを押さえつけると抵抗にあい、しばらくいがつづいた。

「アンタさ、もともとこの地方の部族なんだって? 犬みたいに帝国のヤツらの言うこと聞いててくやしくないの? 」

 上から押さえつけ、ナイフで切りつけるように言葉で傷をつけてえぐる。どんな反応をするのか楽しみで口元の笑いがおさえられない、鏡があったらさぞ悪魔のみを浮かべているのだろう。

暗い愉悦ゆえつにひたり至近距離しきんきょりから見つめた。顔は触れるほど近く、おたがいのあらい息づかいがつたわる。

「……帝国が入ってきたのは、俺の生まれるまえだ。良ししもあるし、拒否をしめす者もいる。すくなくとも俺は文化と教育が入ってきて世界が広がったと思ってる」

 ツァルニはどうじなかった。僕に馬のりになられた状態でもひたむきに答える。光りを反射する目がまっすぐにし、こっちが攻撃してるのに矢でぬかれた気分だ。

上半身を引くとツァルニの姿がランプに照らされた。息があがって上気じょうきした彼は、みだれた服の胸元を上下させている。

 僕は息をみこみ、あることに気づいた。

――――息子が反応してる。

 ツァルニを見下ろしたまま時は止まり、考えようとしたけど度数の高いワインをいっぱい飲んだ頭はまわらない。



(あれれ?? えーい、ままよ!! )



 彼のチュニックをめくって、ぼんやり見えるパンツを引き下ろそうとした。

 部屋が暗くて思うようにいかず、僕の手はゴソゴソといまわる。そのあいだに反撃にでたツァルニがあっというまに体勢をくつがえし蹴とばされる。さらには筋肉質な腕で首をかためられ、さいごにげんこつを喰らった。

 もちろん手加減てかげんはなし。

 石床のうえへ正座せいざさせられ、そこからたっぷり2時間は説教された。僕がやったことは酔っぱらいの強硬で片づけられた。

 ツァルニのガードは固くなり、僕の若い体の血潮ちしおを発散させるため訓練やランニングの周回がふえた。

 山の見張みはとうまで馬なしで走れなんて、あんまりだ! 



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

おとぎ話の結末

咲房
BL
この世界の何処かにいる〈運命の番〉。 だが、その相手に巡り会える確率はゼロに等しかった。だからこそ、その相手との出会いは現代のおとぎ話と囁かれており、番のいないαとΩの憧れである。 だが、その出会いを相手に嫌悪されたら、Ωはどうすればいい? 吹き荒れる運命と心を裏切る本能にどうやって抗えばいい? はたして、愛は運命を超えることが出来るのだろうか── これは、どこにでもいる平凡な男の子が掴む、本当の愛、本当の世界、本当の未来のお話です。 どうぞ彼と一緒に現代のおとぎ話の行く末を見守って下さい。 尚、素晴らしい表紙はeast様に描いて頂いてます。east様、ありがとうございます!

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...