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第五章
リハビリちゅう2
しおりを挟む「今日、予定空いてるか? 」
道場からもどり朝食をすませた後で九郎が自主訓練に誘った。休日でダラダラしようと柔らかクッションへ身を預けた月読は不服そうに顔をあげる。暇なのがバレてタンスから出した白衣を目の前へ置かれた。
山門へ到着すると烏達がたむろしている。
「九郎様、月読様、おはようございます」
白猪の挨拶が聞こえた。彼らは日曜日の朝だと言うのに部活のごとく山駆けを行う。烏の休みは定期ではない、平日働いている者も参加できるよう訓練日を週末にも振り分けている。
山を駆け下りてきた三宅が、勢いのままダダダと突っこんできた。
「おお~い! やっぱ白衣は目立つなぁ! 」
朝から元気いっぱいの三宅は、初夏に似合う満面の笑みを浮かべた。走ってきた三宅を受けとめ挨拶を交わしていると、白猪が九郎へそっと耳打ちしていた。さっきまでここに居た千隼の事を報告している。御山に来て間もない千隼の顔を知っている者は限られているが、流石烏の情報網と言ったところか。
「月読、知ってるか? 男の良さは身長じゃあ無いんだぜ!! 」
あちらへ聞き耳を立てていたら、胸元でゆれるポニーテールは自己啓発本でも読んだ台詞を喋った。熱心にアピールする三宅の髪で手遊びをしていたら怒っている声がする。なんとも喜怒哀楽の激しい兄弟子だ。報告を終えた白猪が苦笑を浮かべていたので返した。
三宅が山へ登っていくのを見送り、九郎のあとを追って森の奥へ足を踏みいれる。烏達の喧騒も遠くなり、禁足地の近くに高い崖が現れた。ワイヤーを設置して人を引きあげ下ろす訓練を行う。重すぎると負担が掛かり軽ければ訓練にならない、月読の体重がちょうど良かったみたいだ。
上から垂らされたロープをベルトのフックへ引っかける。身体の力を抜くように指示され、ダラリとした状態で抱えられ引き上げられた。何もしなくても人力エレベーターで上下するちょっとしたアトラクション、片や九郎は額に汗を浮かべている。革製の手袋がロープを握るたび、ギシリギシリと音を立てた。
九郎に比べ多少軽いとはいえ、成人男性の平均をオーバーする男を崖で運ぶのは至難の業。何時そんな場面に出くわすか分からないため、烏はケガ人の救助などを想定した訓練もしている。そうこうしてる内こんどは斜面を下りて杉林の立ちならぶ場所へ到着した。九郎は太い幹へ固定したロープを垂らし、装着して月読を引き上げながら木を登る。
高い所から斜面を見渡せば、ふもとまで樹齢の高い杉林がつづき壮観だ。
しかし復路で悲劇は起こった。
ロープで固定された月読は、九郎と向かい合わせに密着したままゆっくり下っていた。腿の付け根へ巻いたベルトがずれて調整するため足を動かしたら、九郎の腿へまたがる体勢になってあろう事か急所が当たる。思わず前かがみになり、急所を離そうと藻掻いた。
「危ないから動くな」
九郎から釘を刺され、仕方なく力を抜く。高度を下げるたび、ググッと腿が押しつけられて局部へ刺激が与えられる。意識したくはないけれどロープの細かな振動まで伝わる。九郎の入院もあって禁欲生活が長く続いたせいか意思に背いて反応した。
首を横へ振り、なるべく下半身を意識しないよう別の事を頭に思い浮かべる。
「……ぁっ……」
呼吸に混ざって小さな声が出た。体勢を整えるため留まったとき強く股間を押し上げられた。さっきより身体が密着して九郎の腿へ体重がかかり、隙間なく張り付いた腿に何度も刺激される。血液があつまり膨張した月読のものは、少しの刺激でも敏感に感じ取る。
「ちょ……っと、ま……て」
「どうした? 」
九郎はロープを持つ手を止めてこちらを見つめた。まさか勃起したものが当たるから止まってくれとも言えなくて言葉を濁す。移動は再開され、震動が下肢へ伝わる。九郎は体調不良だとでも勘違いした様子で、殊更ゆっくり下りはじめた。やわらかく触れる腿に喘ぐ声を噛み殺し、ややうつむいて目を伏せる。
当たる感触で身体の芯が跳ねた。ほんの数メートルの道のりは長く、月読は地面へ着く前に達してしまった。抑えていた体はビクリとふるえ、恥じらいは頬を染め熱くなる。
ようやく地面へ足が着いたが時すでに遅し。月読は立つことが出来ずしがみ付き、木の幹で背を支えて姿勢を保った。荒く呼吸していると耳元で九郎の声がする。
「明」
大丈夫だと、辛うじて頷く月読の口へ九郎の唇が重なった。幹へ押しつけられ、舌が侵入して粘膜が絡みあう。
「……んん……はっ……」
視線を上げると、真っ黒い双眸が間近にあった。若干意地の悪い笑みを浮かべた男に気づいた時、抗議の声はふたたび唇で塞がれた。搦めとられた舌が解放され、月読は眼前の男を睨みつけた。下穿きの中は自身の吐きだした液体でヌタヌタとして不快ささえある。
「すまない、あまりにイイ顔をするものだから我慢できなかった」
月読の目尻へ滲んだ涙を九郎が口付けで吸いとって瞼へ唇をよせる。九郎の腕に抱かれて、烏の呼ぶ声が近づくまでそのままくっ付いていた。
呼びにきた烏が先行して促がされるように歩き出す。月読は吐露した液体の冷えた感触に顔をしかめて足を止める。ふり向いた九郎が腕を伸ばし、引き寄せられて耳元で低い声がする。
「歩きにくいなら、俺が抱えようか? 」
「いらぬっ、この意地悪め! 」
意地悪な手をぺチとはたき落とした月読は、九郎を追い抜き早足でズンズン先へ進んだ。
昼間あのような出来事があったせいで身体が落ちつかず、唸った月読は寝返りを打つ。微睡んでいると下肢へなにか触れた。
「う……ん……」
足もとに気配がして、目を瞑っているのに黒い男がいるのが分かる。黒い男に下肢を弄られて膝を抱えられた。ヒヤリとした空気が尻のあたりを通りぬけ、硬い物がグイっと挿し入れられた。黒い男が覆いかぶさり、尻へ侵入していた。
「あっ……」
黒い男は腰を動かしはじめ、硬い物が抜き挿しされる。内側の粘膜を擦って甘い快感が下半身にわく。男の動きに合わせて揺さぶられた。
「はっ……ああっ……っ」
身体を動かそうとしても金縛りみたいに動かない。黒い男は喘いだ口を吸って塞ぐ、月読の背中がしなり弓のように反った。
「んん……くっ……あうっ」
浴衣の前を広げられて尖った乳首を吸われた。男の腰の動きは激しくなり、身体の奥へ熱い滾りを吐き出される感覚がした。月読は膝を開かれあられもない格好で小刻みにふるえ脱力した。
薄く目をあけると部屋は暗く、しっかり布団をかぶり着衣にも乱れはない。じつに淫靡な夢だった。奥へ残っている快楽の名残に身じろぎながら大きく息を吐く。
淫夢は3日ほど続いた。
「……ふっ……」
身体を弄られ、うつ伏せで尻を犯される。硬いものに貫かれて逃げるが、男は追いかけきて奥深くまで突きあげられ月読はうめいた。肉悦に疼き、呼吸するたび喘いで黒い男を深々と受け入れる。
熱くドロリとした液体を最奥へ吐きだされ身体の力が抜けた。しかし男は腰をふたたび動かし始める。月読は力をふり絞り、腕をふって払うと男は霞のように霧散した
「はぁ……」
知った男の匂いに埋もれ、月読は夢の中でまた眠りについた。
***************
「いってきまーす」
元気よく玄関を飛びだす千隼を見送る。
眠たさで欠伸した月読は加茂の仕事メールをチェックしていた。隣の部屋から歩いてきた九郎は真横へ腰をおろし、慣れた手つきで月読の腰を引きよせる。いつもならもうちょっと時間をかけて差を縮めるのに今日は早い。
脱力してもたれ掛かり涼しい顔で画面を操作する。めずらしく抵抗もしない男を九郎は間近から眺め、こめかみへキスをする。月読は画面を見つつ、さり気なく口をひらいた。
「九郎、最近変わった夢を見ていないか? 」
「…………いや、別に」
すこし間があり、隣の男は目を逸らした。眉根を寄せた月読はじっとり九郎を凝視する。
言いたいことがあるなら言えと九郎は溜息を吐いた。
「おかしな念を飛ばすな。ここ数日、それが私のところへ来てロクに眠れない」
いわゆる生霊という物なのだろう、強い思いがあり過ぎると無意識でも思いの相手へ念は飛ぶ。まさか屋敷内で飛ばされるとは思わなくて、寝室へ結界を張っていなかった。意識してないのならば本人に知らせ自覚させて念を止める。
寝床へ現れた黒い男の顔は分からない、けれども匂いや感触には覚えがあった。身体の内側へ入れられた物まで知っているとは言いたくない、月読は昨晩の夢を思いだしススッと隣の男から距離をとった。
九郎は無言でこちらを見つめる。しばらく思案している様子だったが、突然覆いかぶさってきた。月読は押し倒されて柔らかいクッションと九郎に挟まれる。
「馬鹿っ、やめろ!」
あっという間に唇を塞がれ、舌を絡めとられる。熱い舌は口内を動きまわり月読の舌を根元からなぞって擽った。粘膜を擦る舌の動きにゾクゾクした快感が生まれ、気付けば月読も侵入した舌へ吸いつき夢中で絡ませていた。
「よかったか? 」
ひとしきり口づけを堪能した九郎は覆いかぶさったまま囁く。低い声が鼓膜を揺らしブルリと身震いする。だがしかし、その言葉のふくみを察知した月読の眦は吊り上がった。刹那ゴツッと重たい音がして九郎の額が赤くなった。
鉄面皮の方が硬かったせいで、月読はおでこを手で押さえてうめく。
「……痛い」
「うるさい、この変態烏っ! 」
額を手で押さえながら、月読は身をひるがえしプイと身を背けた。へそを曲げた月読をなだめるのに時間が掛かり、九郎の禁欲期間も延びたのであった。
――――――――――
変態カラスというパワーワード。
お読み頂きありがとうございます。
千隼の行動については閑話「千隼の情報捜査ファイル」であきらかになってます。
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