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第四章
もらった丸薬1
しおりを挟む会合後、九郎と食事をして西会館をでる。ほそ長い石段をふり返れば、すっかり太陽は沈み西空へ藍色のカーテンが降ろされている。肌寒い風が吹き、下から登って来た九郎にうながされ石段をのぼる。
帰宅すると烏が訪ねてきた。仕事でトラブルがあって九郎はそのまま烏の屋敷へ向かった。
リラックスした月読は冷蔵庫を物色して手頃なサイズのボトルを発見した。鮮やかなブルーボトルの日本酒とグラスをたずさえ腰をおろす。涼しげな江戸切子へ酒を注げば微かに発砲していた。口当たりのよい酒はグイグイすすみ、快然とした酔いに包まれる。
「つまんねえもの……か……」
先日の丙の言葉を思い出し呟く。小さな気泡がグラスの底からゆっくり上って表面で弾けた。九郎以外の男ならさっさと関係を持っていたかもしれない、小さな頃より良く知る間柄だからこそ余計な感情が湧く。大きな溜息を吐いた月読は、気分を仕切り直すため肴でも探そうと膝をついて立ち上がった。
棚から何かがポトリと落ちる。
「ん……?」
手に取ると透明なパウチに数個の丸い小玉が入っている。
座卓で眺めていたら、烏の屋敷でおっさん妖精から渡された物を保存していたと思いだした。小豆サイズの丸薬は秋菊の花弁を思わせる淡い黄色、少なくとも毒薬では無いだろうと思い、指で摘んで舐めてみた。
甘い味と薄荷に似た爽やかな香り、思い切って舌へのせれば和三盆みたいにふわりと溶ける。奇しくも美味しかった為もう1つ口へ入れた。柔らかい甘さをのこし綿菓子のように舌のうえで消える。薬としての効果はわからないけど、全部食べるのは勿体無い気がして数個残して棚へもどす。
妙に満足して酒を飲みはじめると、丸薬の事はすっかり忘れてしまった。
月読は空の瓶とグラスを片付け、脱衣所へ向かう。風呂からあがり肌触りのいい寝巻を身につけ、洗面台で歯磨きをして漱ぐ。顔を拭いてるとき軽い眩暈が起こった。全身は熱く痺れる感覚が腹の奥へ湧きあがる。
「…………っ……? 」
洗面台の鏡を見れば頬は赤みを帯び、敏感になった肌は衣服が擦れるだけでもブルリとすくむ。困惑して原因を考えていたら、さっきの丸薬が頭を過ぎった。
――――まさか、あれか?
蛇口をひねって指を喉へ突っこみ吐き出そうとしたが無駄だった。下肢の中心へ集まった熱で血管が脈打つ、足の付け根に隠された部分は息づいて硬さをもった。
「ウソだろ……? 」
へたり込んだ月読は深呼吸して鎮めようとした。水で冷やそうと考えつき、洗面台へ手をついて立ちあがったとき背後から声がした。間の悪いことに九郎が帰宅した。驚いた彼はそばへ駆け寄り、大丈夫かと抱き起こされ身体へ触れられた。敏感になった肌は熱をもち、触れられた部分が疼く。
「やめろ……触るな……」
弱弱しく九郎を押し返す。だが姿勢を保てずしなだれかかった。
「明……? 」
訝しんだ長い指が頬へ触れて、上を向かされる。
ちょっとした動きで敏感になった肌は震える。頭の許容量は感覚でいっぱいになり、思考が麻痺したように鈍くなる。月読は立ちあがり風呂場へ行こうとしたが抱き留められ、手のひらで顔を包まれた。
「風でも引いたのか? 顔が赤いな……」
手のひらを当てた九郎は体温を測るようにおでこ同士をくっ付ける。鼻先が彼の顔をかすめて月読の心音は聞こえそうなほど波打った。悪寒とは別のゾクゾク感が身体を伝い、触れるだけでも反応してしまう。
「大丈夫……少々飲みすぎたよ……もう寝る」
下肢の変化を覚られたくなくてこの場を逃れようとした。どうにか言葉を紡いだ月読は、覚束なく立ち上がったものの九郎に引き寄せられる。気がつけば背中と膝裏へ腕を回され、持ち上げられていた。
「あっ!? 九郎っ……おい、やめろって! 」
大の男がお姫様抱っこされた恥ずかしさ、身体に起こった如何わしい反応にジタバタとあがいた。しかし九郎は微動だにせず、月読を抱えて寝室へと運んだ。
寝室の畳へ下ろされ、九郎は収納棚から出した布団を敷いている。酷いありさまだが朝までにはどうにかなるだろう。月読が敷かれた布団まで這って移動していると九郎は近づいて再び抱きあげた。
「……っ! 」
肌を掠るだけで甘い痺れが起こり、手が脇腹へ当たり身体は戦慄く。布団へ降ろされバレないように布団へ潜ろうとしたら九郎は腕を離さない、鋭くなった眼差しがこちらを見ている。
「お前これは――――明、何を飲んだ!? 」
「ちが……ん、はっ……う……」
あやしい薬を飲んだと勘繰られていた。月読は説明するため口を開くけれど、言葉は出なくて代わりに吐息がもれる。そんなつもりは無いのに腕が触れるたび身悶えた。
なにか言いかけて止めた九郎はとつぜん唇を奪う。熱く濡れた舌が唾液を絡めとって這い、粘膜を擦るうごきに恍惚となる。唇が離れたとき物足りなさを感じ、追いかけて重ねあわせた。気持ちのいい感覚に支配されて夢中で九郎へ絡める。
唾液がツウと糸を引いて離れ、満足した吐息をもらすと黒い双眸が見つめていた。
躊躇いなく浴衣の帯をほどかれ、恍惚に蕩けていた思考は肌寒さで我に返った。九郎の腕をつかんだけど力は入らない、露わになった際どい褌パンツは中から押し上げられて恥ずかしい形が浮き彫りになっていた。布が湿り気を帯び、羞恥で裾を閉じようとしたけれど九郎に阻まれた。
「なにを飲んだんだ? 言え、あきら! 」
「う、ぐっ……! あぁ――っ」
尋問するような低い声が耳元でささやき、月読のものは布ごしに握られて微かな痛みに顔をしかめる。その痛みさえ快感にそえられて興奮を増し、もはや答えるどころではなく切ない吐息しか出てこない。
陰茎を強く握っていた手は緩められ、やわやわと扱いて刺激を与えてくる。体へ電流が走って背中がしなった。しかし九郎の腕に留められ、それ以上逃げることも適わない。
「やっ、はっ――あぅっ! 」
下肢の中心へ集まった快感に堪えられない声をあげる。
陰茎を握った手が殊更大きく動き、月読は身体をビクンと跳ねさせた。布の中へ生温かな液体が飛び散りぐったりと脱力する。だらしなく開けた口へ舌が侵入して深く口づけられた。
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