【R18】黒豹と花嫁

みちょこ

文字の大きさ
上 下
8 / 19

8話※

しおりを挟む

「ふふ、くすぐったい」

 くすくすと小さな声で笑うハルに、耳の毛繕いをふと止める。
 本来であれば一人で眠るためのベッド。加えて俺が十数年使ってきた中古ものだ。ハルと俺が少し動くだけで気の軋む音が部屋に響き渡る。

 今までは俺が寝ている間にハルがベッドに忍び入ることは数え切れないほどあったが、二人揃ってはい寝るぞというのは初めてだった。
 側から離れないようにしろと俺が言ったもんだから、一緒に寝てもいいんだよねとハルがすがってきたのが原因だ。まぁ、ハルを一人にしておくのは心許ないし、糞犬ローベルトから身を守るためには仕方がない。

 そう、仕方がないからこうしているんだ。

「んだよ。嫌ならやめるぞ」

「いや、やめないで」

 俺の背中に腕を回し、ふるふると首を横に振るハル。面倒だと息を吐き出してみたものの、ハルは上目遣いでねだるように俺を見つめたままだ。寝た振りをしても顔を近付けて喉の奥を鳴らしてくるもんだから、ちょっとした悪戯で蟀谷こめかみ辺りを舐めてやった。

「ひゃっ、だめっ」

「いつもお前が俺にやってることだろうが」

 そのままカプッと頬を甘噛みすると、ハルはまた妙な声を漏らした。嫌なら離れればいいのに、俺に抱きついたまま抵抗するハルはやはりおかしい。
 まぁ、逃げても逃がすつもりはないけどな。

「すっ、すざく。わざとそんな触り方してる?」

「何のことだよ」

 今度は耳の生え際をくすぐるように舐め、牙の先を擦るように滑らせる。
 頬を赤くしていくハルをもっと虐めてやろうと、流れるように首筋に近づこうとしたが、別の柔らかな感触が唇に押し当てられた。

「……ふ、ふふっ」

 目の前にある瞼を閉じたハルの顔。わずかに尖ったハルの鼻先は俺の鼻の先端で潰れ、小さな口は俺の下唇に宛てがわれている。一体、何が可笑しいのか、くすくすと笑いながら唇を押しつけるハル。どうやらこれで止めているつもりらしい。

 透かさずハルの腰を片腕で抱き、小さな身体に覆い被さった。

「んっ」

 ハルの声に艶やかさが滲む。

 唇を強く押し当てると、ハルの吐息が漏れた。かすかに開いた唇を舌でなぞると、伏せられた睫毛が震えた。ハルの唇は酷く甘く、柔らかい。ずっとずっと、触れていたいと思うほどに。

「す、ざく」

 触れ合わせた唇の隙間から溢れる声。
 うっすらと上気した頬、涙で滲んだ瞳。
 いつも笑って明るく振る舞うハルからは想像もつかない姿。

 名残惜しむように下唇を優しく噛んで顔を話すと、ハルがぽつりと呟いた。

「すざく、わたし、はじめて……」

「っ!」

 ガンッ、と頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。

 分かってはいたのか。知識がまったくないわけではなかったのか。

 もちろん、ハルが初めてだということは理解している。になったら、ハルが行為自体を知らなくて戸惑っても、自分が上手く誘導すればいいと思っていた。

 衝撃と熱で頭が眩み、思わず歯を食い縛る。

「……大丈夫だ。お前は何も考えるな」

 どこでそんな知識を得たんだとか、どこまで把握しているんだとか、邪な想像を振り払い、ハルにまた口づけようとした──が、今度は手を握られて遮られた。

「スザクは初めて?」

「は?」

「初めて?」

「そっ」

 そんなわけねーだろ!

 と、返しそうになった言葉を呑み込み、ハルの口を半ば無理やり塞いだ。「質問に答えて」と訴えようとした唇の隙間から自らの舌を捩じ込み、逃げ惑う舌を絡める。

 二年前にハルと出会ってからは一度も女は抱いていない。別に処理なんて自分ですれば問題はなかったし、他の女の匂いを嗅がれてハルに妙な顔をされるのも面倒だった。

 それに惚れた女を抱くのは初めてだよ。
 死んでも言わねえけどな。

「スザク……」

 最初こそ躊躇っていたものの、固まっていたハルの舌がゆっくりと動き出した。ちょん、と舌先に控えめに触れてきたハルの舌を根本から這うように舐め、念入りに愛撫してやる。
 ひだに沿って、粘膜から唾液を染み込ませるように、これが俺の身体の一部から滲み出たものだと分からせるように。

 一つに繋がった唇の隙間から、舌と舌が唾液をかき乱す淫靡な音が漏れていく。慣れない口づけに息が上がっていくハルを煽ろうと、思い切り舌をじゅるりと吸い上げた。

「んっ、んんっ」

 薄目で覗いたハルの顔が熟れた果実のように染まり、腰がぶるりと痙攣する。ぷはっ、と肺に溜め込んでいたのであろう甘い息がハルの口から漏れ、透明な糸を繋いで唇が離れた。
 なぜかハルは恥ずかしげに顔を逸らし、下半身を庇うように膝を折り曲げる。疑問に思いながらも両脚を開こうとしたが、「だめっ!」と下唇を噛まれた。仕返しにその状態のままハルの上唇を甘噛みし返す。

「なんだよ。止めんな」

「ひゃ、だ、だみぇ、なんか、ぬれちゃってるかひゃ、さわひゃないでっ」

「気にしねぇよ。ばーか」

 呂律の回っていないハルに若干の愛おしさを抱きつつ、唇を離して耳を口内に咥え込む。舌を絡め合っていたときと同じように唾液で濡らし、丹念に愛でた。毛が湿った耳は別の生き物のようにぷるぷると震えている。一瞬、怖がっているのではないかとも思ったが、左右に揺れている尻尾を見て安堵した。

 どうやら本気で嫌がっているわけではないらしい。

「んっ」

 もう片方の耳も同様に舐め尽くし、唇を首筋へと滑らす。白い肌に吸い付いては、唇を離し。ハルが俺の名を何度も口にするのを聞きながら、さりげなくハルの太腿の間に手を滑らすと、指先がじわりと濡れた感触に覆われた。

 ハルが抵抗を見せた原因は愛液これか。
 漏らしたところで嫌がるかよ。さわれんのはハル限定だがな。

「あっ、ああっ、スザク、あっ」

 首に腕を回したまま可愛い声を漏らすハルの首に蝶形の証を残し、下着の中へ手を滑らせる。体液の滲んだ秘部に指を当てると、粘液がとろりと垂れて伝った。
 口吸いだけでこうなるもんなのか。
 ハルは尻尾や表情に感情を出すだけでなく身体の内側まで正直だ。

「スザク……スザ、ク……スザ……ク……」

 ハルは何度も何度も甘ったるい声で俺の名を呼ぶ。小さい子供ガキにするように俺の頭を撫でる。これまで生きてきて誰に対しても抱くことのなかった感情が込み上げ、堪らずハルにもう一度口づけようとしたそのとき。

 熱を孕んだハルの瞳から光と色が失われた。



「ローベルトさ、ま」


 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18・完結】結婚はしません、お好きにどうぞ

poppp
恋愛
【8/9完結しました】 ・・・ 若く美しい女性ばかりを愛人として囲っていると噂のチビデブハゲのオジサマと結婚する事になった伯爵令嬢のイヴリン。 しかし伯爵家で継母に冷遇されていたイヴリンは、チビデブハゲのオジサマの優しい雰囲気と言葉に一目惚れ。 オジサマの愛人の一人になる覚悟で、手っ取り早く処女を捨てる事を決意し、仮面舞踏会(この場合はいわば、やり目パーティー)に参加する。 一方で、親の決めた相手との結婚を前に、初夜で失敗しないためにと、童貞を捨てる決意をした辺境伯子息のアギットは、隣国の仮面舞踏会に参加することに。 そんな二人が出会い、お互いの初めてを済ませるが… ※ 1話毎のタイトル変更 ※ メインタイトル変更  旧題:【R18】いいえ、私の結婚相手 はチビデブハゲだけど優しいオジサマのはずです! ※ ゆるふわ設定 ※ R15よりのR18 ※ 不定期更新 ※ 誤字脱字ご了承願います ※ たまにAI画像あり

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

落ちこぼれ魔法少女が敵対する悪魔の溺愛エッチで処女喪失する話

あらら
恋愛
魔法使いと悪魔が対立する世界で、 落ちこぼれの魔法少女が敵側の王子様に絆されて甘々えっちする話。 露出表現、人前でのプレイあり

【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました

桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて… 小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。 この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。 そして小さな治療院で働く普通の女性だ。 ただ普通ではなかったのは「性欲」 前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは… その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。 こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。 もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。 特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...