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第五章 灰の森へ

4-30 ウロボロス

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 魔女の館をぐるりと取り囲むように陣取っている、巨大な蛇。
 私たちは、二手に分かれてその蛇の周辺を探り、通れそうな道を探すことにしたのだった。

 チーム分けは、当然、私とウィル様とブラン。それから、シナモン様とクロム様だ。
 攻守のバランスを考えれば、男女別で分けても良かったのだが……シナモン様がそう提案すると、ウィル様のご機嫌が急降下したので、結局こうなった。

「ミア、足は疲れていない? 抱っこしてあげようか?」

「え、遠慮しますわ」

 きらきらの笑顔で尋ねてくるウィル様に、私はぶんぶんと手を振って断る。

「きゅう、きゅううー!」

「わっ。ブラン、お前には聞いてないぞ」

 私が断ったのを見て、すかさずブランはウィル様の腕の中に飛び込んだ。

「『おなかいっぱいで眠いから抱っこしてっ』とさ。まったく、仕方のない奴だな」

「ふふ。さっき人参を食べていたものね」

 そうは言っても、ウィル様は嫌そうなそぶりも見せず、ブランを片方の腕で抱えて苦笑している。
 ブランは気持ちよさそうに目を閉じた。ブランを見ていると、ここが危険な灰の森だということを忘れそうになってしまう。

「……それにしても、本当に大きな蛇ですね」

「ああ。こんな禿げ山に住んでいるのにこの巨体……一体、何を食べているんだろうな」

「ええ。それに、魔女はどうやって生活しているのかしら。心底、謎ですわ……」

 やはりこの大蛇も、先程の巨大鳥と同様に、魔女の使い魔なんだろうか。
 だとしたら、彼らの主たる魔女は、どれほどの力を秘めているのだろう。

「ん? あれは……」

「どうしました?」

「あそこ……見えるかい、ミア」

 ウィル様が指さす方を見ると、そこには――。

「……困りましたわね」

「ああ……参ったな。ただ、ひとまず危害はなさそうだし、ほぼ半周に近い場所だし……二人に連絡を入れて、待機しよう」

 私が頷くと、ウィル様は連絡用の魔道具を取り出し、シナモン様とクロム様に状況を報告。
 私たちは、近くにあった手頃な岩に腰掛けて、二人の到着を待つことにしたのだった。





 シナモン様たちとは、そんなに時間もかけずに合流することができた。

「それで……どうするんだ?」

「……見ての通り、通れそうにないからな」

 私たちがこうして困っているのは、大蛇が自らの尻尾を噛んでいるからである。

「――ウロボロス、か。当然、意味があるのだろうな」

 魔女の館を取り巻く蛇が、永遠を意味する輪、ウロボロスを形作っている。
 何らかの魔法的な意味があるのではないか、とウィル様は考えた。
 シナモン様とクロム様も、同じ考えのようだ。

「通るために、何らかの条件があるのではないか? これまでと同じように」

「そうかもしれない……が、この蛇、眠っているようだしな……」

 シナモン様の言うとおり、ここを通るための条件があるのかもしれない。
 けれど、大蛇は起きる気配もない。

「……ん?」

 私たちが呆然と蛇の頭を見ていると、クロム様が何かに気がついたようだ。
 眠っている蛇を起こさないように、警戒しながら蛇の頭部に近づいていく。

「気をつけて下さいよ」

「わかってる」

 小声でやりとりをして、クロム様は蛇のすぐそばまで忍び足で歩いて行く。
 クロム様はしゃがみこんで何かを確認すると、再び足音を殺して、私たちの方へと戻ってきた。

「……蛇の真下に、ちょっとした窪みがある。ここ以外にも、所々、陥没している場所があるようだぞ」

「窪みですか?」

「ああ。平らな土地ではなく、荒れ地になっているからな。もう一度よく探せば、人が通れる場所もあるんじゃないか?」

 クロム様の言うように、この辺りの土地はでこぼこしている。
 蛇が無駄に大きいので、窪地との間に隙間ができているかもしれない。
 だが、それはつまり――。

「……蛇の下をくぐりぬける、ということになりますよね」

「ああ、そうなるな」

 何かの拍子に、蛇が起きてしまったり、動いて体勢を変えたりしたら、最悪押しつぶされてしまうのではないだろうか。
 私はぶるりと身震いをした。

「なら、また二手に分かれて――」

「――いや、待て」

 ウィル様が提案しようとしたところで、シナモン様が片手を上げ、制止する。
 彼女は、蛇ではなく、上空を向いていた。
 つられて見上げると、先程まで所々に白い雲が浮かぶ晴天だったはずが、いつのまにか黒い雲が広がり始めていた。

 ゴロゴロゴロ……

 黒雲はあっという間に広がり、ついには、雷鳴も響き始める。

「……まずいな。雨雲か」

「いや、ただの雨雲ではない。この感じ……!」

 シナモン様は、腰を低く落とすと、腰の剣に手をかけた。

「――何か来るぞ! 伏せろ!」

 ゴォォォォ!

 轟音と共に強風が吹き荒れ、雨雲を割って、それ・・は私たちの前に姿を現したのだった。
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