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第4章 ワースとインティス防衛戦
第24話 出発と伝言ゲーム
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あれから4日が過ぎた。
その日の早朝、すでに第2部隊全戦力、数にして10万の戦力が王城前に集結していた。
「これより、ワースへ出発する! なお、先日も伝えた通り、アソート突撃隊長はハダクト統治の任があるため不参加だ。代わりとして、アドにその任を任せている。では出発!!」
国王オリバムが見送る中、クリスの掛け声とともに全軍がゆっくりと移動を始める。
ワースまでの距離はリヴェリーまでとさほど差はない。しかし今回は相手が4大国の一角ということと、大人数での移動でもあるので、残党討伐の時より多めに移動日を設けている。十分な休憩をとりながら移動するためだ。しかし長旅になり過ぎても疲れがたまってしまうだけなので、そこは参謀の腕の見せ所となる。
「確か今回は10日かけて移動するんですよね」
「あぁでもあの予定なら9日で着きそうじゃないか?」
「それは俺も思ったんだけどな、単に予備の日にちじゃないのか? 遅れた時の保険的な」
「ん~でもシダ参謀に限って計算ミスがあると思うか?」
「……」
「……」
「考えられん」
「だよな……」
兵士たちは、作戦発表時の内容に今更疑問を持ち始めていた。しかし、誰もシダがミスをしているとは思わないようだ。
移動は順調に進み、9日後。午後6時。
「あれ? もー着いたんじゃないか?」
「だよな。この山を下ったら国境のはずだし」
感の悪い兵士たちが少し騒ぎ出す。
山を登りきり、これから下りに差し掛かるというところで部隊は一時停止をした。すると、先頭のクリスが振り返り後ろに指示を出し始めた。
「これより34時間完全休養とする。明後日の午前4時、この山を一気に駆け下りある程度のところまでを占拠、今後の侵略の拠点とする! いいか! 敵に位置を特定されるわけにはいかない。静かに休養を取るように。騒ぐものは……殺す。以上だ。では一旦解散!!」
シダの作戦は戦では基本中の基本である明け方攻めだった。小細工なしに攻め入る理由は2つ。相手国の都市、つまり最重要拠点からはこれから攻める場所は遥かに遠くにある。情報が漏れたとしても対応に時間がかかるためだ。もう一つは、小細工が通用する相手ではないからだ。
クリスからの指示はあったが、これはあくまで確認。作戦会議の段階で中隊以上の指揮官には連絡済みだった為、9日後の今日このタイミングで自分の隊に伝えるようにしていた。そうでもしなければ10万もの行列に一つの指示を出すだけでも何時間かかることが……しかも伝言ゲームのように言っていることが変わってしまっては大変だ。
まぁそんなアホなことはしないのだが……普通は。
「なぁ、一つ後ろのやつにこう伝えてくれ! 今から34時間、明後日の0400まで完全休養とする。各自、敵に見つからないように静かに過ごすように。って! あ、ちゃんと小さい声で伝えろよ! 最後まで伝わったら教えてくれ! 俺が確認してやろう」
普通はしない。シダを除いて。
(結局、シダの隊の最後の人にはこう伝わった。居間から34度のお湯を明後日0400までに完全共有すること。だけど、各自は見つかってはならない。だった。見つからないように共有とか、無理ゲーだろ……伝言ゲーム後、シダはちゃんと指示を出しましたとさ)
山の中には、洞穴を利用した建物というには至らないが、休憩できるポイントがいくつかあり、皆はそこで休養を取った。
そして、2日後の午前3時50分。
まだ日の出ていない、霧のかかった山の中に、10万もの兵士が武器を構えて潜んでいた。
「現在時刻0350。これより各部隊で作戦の最終確認を行い、10分後、朝日とともに出陣する!」
「「「「「はっ!」」」」」
クリスの部隊はメイン部隊だ。先陣を切るだけあって指揮もしっかりしている。
シダは……どうやら真面目にやっているようだ。他の部隊も最終確認が終わり、いよいよその時が来た。
霧と山の向こうから、白く輝く太陽が上がる。
「出陣ーーー!!!」
その日の早朝、すでに第2部隊全戦力、数にして10万の戦力が王城前に集結していた。
「これより、ワースへ出発する! なお、先日も伝えた通り、アソート突撃隊長はハダクト統治の任があるため不参加だ。代わりとして、アドにその任を任せている。では出発!!」
国王オリバムが見送る中、クリスの掛け声とともに全軍がゆっくりと移動を始める。
ワースまでの距離はリヴェリーまでとさほど差はない。しかし今回は相手が4大国の一角ということと、大人数での移動でもあるので、残党討伐の時より多めに移動日を設けている。十分な休憩をとりながら移動するためだ。しかし長旅になり過ぎても疲れがたまってしまうだけなので、そこは参謀の腕の見せ所となる。
「確か今回は10日かけて移動するんですよね」
「あぁでもあの予定なら9日で着きそうじゃないか?」
「それは俺も思ったんだけどな、単に予備の日にちじゃないのか? 遅れた時の保険的な」
「ん~でもシダ参謀に限って計算ミスがあると思うか?」
「……」
「……」
「考えられん」
「だよな……」
兵士たちは、作戦発表時の内容に今更疑問を持ち始めていた。しかし、誰もシダがミスをしているとは思わないようだ。
移動は順調に進み、9日後。午後6時。
「あれ? もー着いたんじゃないか?」
「だよな。この山を下ったら国境のはずだし」
感の悪い兵士たちが少し騒ぎ出す。
山を登りきり、これから下りに差し掛かるというところで部隊は一時停止をした。すると、先頭のクリスが振り返り後ろに指示を出し始めた。
「これより34時間完全休養とする。明後日の午前4時、この山を一気に駆け下りある程度のところまでを占拠、今後の侵略の拠点とする! いいか! 敵に位置を特定されるわけにはいかない。静かに休養を取るように。騒ぐものは……殺す。以上だ。では一旦解散!!」
シダの作戦は戦では基本中の基本である明け方攻めだった。小細工なしに攻め入る理由は2つ。相手国の都市、つまり最重要拠点からはこれから攻める場所は遥かに遠くにある。情報が漏れたとしても対応に時間がかかるためだ。もう一つは、小細工が通用する相手ではないからだ。
クリスからの指示はあったが、これはあくまで確認。作戦会議の段階で中隊以上の指揮官には連絡済みだった為、9日後の今日このタイミングで自分の隊に伝えるようにしていた。そうでもしなければ10万もの行列に一つの指示を出すだけでも何時間かかることが……しかも伝言ゲームのように言っていることが変わってしまっては大変だ。
まぁそんなアホなことはしないのだが……普通は。
「なぁ、一つ後ろのやつにこう伝えてくれ! 今から34時間、明後日の0400まで完全休養とする。各自、敵に見つからないように静かに過ごすように。って! あ、ちゃんと小さい声で伝えろよ! 最後まで伝わったら教えてくれ! 俺が確認してやろう」
普通はしない。シダを除いて。
(結局、シダの隊の最後の人にはこう伝わった。居間から34度のお湯を明後日0400までに完全共有すること。だけど、各自は見つかってはならない。だった。見つからないように共有とか、無理ゲーだろ……伝言ゲーム後、シダはちゃんと指示を出しましたとさ)
山の中には、洞穴を利用した建物というには至らないが、休憩できるポイントがいくつかあり、皆はそこで休養を取った。
そして、2日後の午前3時50分。
まだ日の出ていない、霧のかかった山の中に、10万もの兵士が武器を構えて潜んでいた。
「現在時刻0350。これより各部隊で作戦の最終確認を行い、10分後、朝日とともに出陣する!」
「「「「「はっ!」」」」」
クリスの部隊はメイン部隊だ。先陣を切るだけあって指揮もしっかりしている。
シダは……どうやら真面目にやっているようだ。他の部隊も最終確認が終わり、いよいよその時が来た。
霧と山の向こうから、白く輝く太陽が上がる。
「出陣ーーー!!!」
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