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第48話『Q.紳士として必要なことは?』
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最悪だ。
テューの言葉を聞いて俺は悪い予感が当たったことを確信した。
地球のゲームでは大体そうだった。ああいう系の魔物は大抵最後に自爆をするんだ。分かっていたはずなのに。
いや、諦めるにはまだ早い。今ならまだ間に合うかもしれない。そうだ、爆発する前に倒すことさえできれば……あるいは阻止することもできるかもしれない。
だが今の俺の体では奴に攻撃を当てる前に爆発を終えてしまうだろう。そうなれば全滅は免れない。そんな時テューが俺を見ていることに気がついた。諦めた、しかしその瞳はまだ諦めきれず何かにすがっているように見えた。そしてそれが俺へ向けられたものだと気づいた時、何故だか力が湧いてくるような気がした。
「これは賭けだな……」
本来なら起き上がることすらできない状態の身体は不思議な力を得多様だった。無理やり叩き起こすことに成功すると、両手を胸の前にかざした。
「ほんと人って不思議だよな。自分のために頑張ろうと思ってもすぐ限界が来るのに、誰かのために頑張ろうと思ったら、限界なんていくらでも超えられるんだからな……」
魔法はイメージ。今の俺の気持ちを乗せて、それが発動する未来だけをイメージするんだ。
俺は瞼を閉じ、発動しようとしている魔法に集中する。爆発を止めるにはあれを凍らせるしかない。凍れ凍れ凍れ凍れ! どうやって凍らせればいい? 俺の、気持ち――
気合いだ! 気合いと根性だ! 根性で何とかするしかない。俺にはそれしかないんだから。
俺は力強く目を見開くと大きく肺に空気を吸い込み全力で詠唱を唱えた。
「凍れ凍れ! 凍てつき爆ぜろ! ブライニクル!!」
俺のイメージを精一杯乗せたその魔法は、グランドガントレスの身体をその倍はある体積の氷に包んだ。
「終わりダァァァァアアア!!」
俺は凍りついたグランドガントレスの眼球目掛け、右手の剣を力一杯投げ飛ばす。剣がグランドガントレスに届く直前、俺は拳を握った。
「ブレイク!」
氷はたちまち崩れ、俺の刃を易々と届かせた。剣は眼球に深く突き刺さると、自爆とは違う爆発が生じ周囲が黒い砂の霧に包まれる。そしてそれが晴れた時、巨大な岩の姿はなくそこには見たこともないほど大きな魔石がドロップしていた。
緊張の糸が切れた俺は倒れるようにその場へとへたり込んだ。
レイドメンバーの黄色い歓声によって度上げを受ける俺はすごくやりきった感に包まれていた。そして燃え尽きた炎のように完全に活力が失われていた。取り敢えず今は何もやる気が起きない。
俺たちはその後ドロップ品の魔石を持ち、拠点へと帰還するのだった。
俺はというと、体がピクリとも動かないのでテューの背中に乗せてもらった。
こうして俺たちの三日間に及ぶ強化合宿が幕を下ろした。
■■■
全ての課題を達成した俺たちは帰りの馬車で思う存分睡眠をとることができた。負傷が激しかった俺はまたしてもデイブォリット先生に治癒魔法をかけてもらっている。みんなの寝顔が見放題ですね。
はっ! つまり俺のメインヒロインであるユナの寝顔を見るチャンス!
そう。ここは馬車だ。行き同様パーティメンバーは同じ馬車に乗っているため、ユナは俺の斜め前に座り隣のティナの肩に頭を乗せてスヤスヤと寝ている。つまり覗き放題見放題。しかし、紳士たるもの淑女の寝顔を覗き見るなど……しかし男としてこの行為は当然のこと。誰もが憧れるシチュエーション。ついでにユナの乗せている肩がティナではなく俺だったらすでに意識が飛んでいるかもしれない。
そうこう考えているうちに治療は終了し、デイブォリット先生は次の負傷者の元へと向かった。
これで邪魔者は全て消えた。現在ユナとティナは深い眠りの中。ポールはいびきすらかいて寝ている。テューは……静かに寝ている。もしかすると寝たふりで、変なことをした俺をから買おうとしているのかもしれない。だが、そうなったとしてもユナの寝顔を俺は見たい。
頭の中で悪魔の俺が囁いた。
『男の前で女が無防備に寝ているんだ。何されたって文句は言えねぇよ! だいたい寝顔見るくらいどうって事ないって。減るもんじゃないし。何なら触っても気づかれねぇよ。どことは言わんがな。ガハハハハハ――』
しかし俺の頭の中にはもう一つの声が聞こえている。天使の声だ。
『紳士たるものそんなことはしてはいけません。いつ何時もレディーの喜ぶことを考え、そのほかの邪念は取り払わなくてはなりません。拒否権のない相手に好き放題するなど言語道断です。今ならまだ間に合う。お願いだから引き返して!』
引き返す。そう。俺の体はすでに立ち上がっている。向かう先は言うまでもあるまい。そっとそっと……そして俺は悲願を成し遂げた。天使の声は、届かなかった。
しかし、全てを無視したわけではない。流石に触るのはまずいと思ったのと、あとが怖いと思ったのと、何故だかやる気が起きない今の俺はこれ以上何をしようとも思えず、結局寝顔をチラッと見てみんなと同様に睡眠をとることとした。
あぁ。ユナの寝顔生ら可愛かったなぁ。
俺は数秒と経たずに眠りへと落ちていった。
この時、こっそりスマホでユナとティナの百合展開のような寝顔ツーショットを撮ったのは内緒である。
テューの言葉を聞いて俺は悪い予感が当たったことを確信した。
地球のゲームでは大体そうだった。ああいう系の魔物は大抵最後に自爆をするんだ。分かっていたはずなのに。
いや、諦めるにはまだ早い。今ならまだ間に合うかもしれない。そうだ、爆発する前に倒すことさえできれば……あるいは阻止することもできるかもしれない。
だが今の俺の体では奴に攻撃を当てる前に爆発を終えてしまうだろう。そうなれば全滅は免れない。そんな時テューが俺を見ていることに気がついた。諦めた、しかしその瞳はまだ諦めきれず何かにすがっているように見えた。そしてそれが俺へ向けられたものだと気づいた時、何故だか力が湧いてくるような気がした。
「これは賭けだな……」
本来なら起き上がることすらできない状態の身体は不思議な力を得多様だった。無理やり叩き起こすことに成功すると、両手を胸の前にかざした。
「ほんと人って不思議だよな。自分のために頑張ろうと思ってもすぐ限界が来るのに、誰かのために頑張ろうと思ったら、限界なんていくらでも超えられるんだからな……」
魔法はイメージ。今の俺の気持ちを乗せて、それが発動する未来だけをイメージするんだ。
俺は瞼を閉じ、発動しようとしている魔法に集中する。爆発を止めるにはあれを凍らせるしかない。凍れ凍れ凍れ凍れ! どうやって凍らせればいい? 俺の、気持ち――
気合いだ! 気合いと根性だ! 根性で何とかするしかない。俺にはそれしかないんだから。
俺は力強く目を見開くと大きく肺に空気を吸い込み全力で詠唱を唱えた。
「凍れ凍れ! 凍てつき爆ぜろ! ブライニクル!!」
俺のイメージを精一杯乗せたその魔法は、グランドガントレスの身体をその倍はある体積の氷に包んだ。
「終わりダァァァァアアア!!」
俺は凍りついたグランドガントレスの眼球目掛け、右手の剣を力一杯投げ飛ばす。剣がグランドガントレスに届く直前、俺は拳を握った。
「ブレイク!」
氷はたちまち崩れ、俺の刃を易々と届かせた。剣は眼球に深く突き刺さると、自爆とは違う爆発が生じ周囲が黒い砂の霧に包まれる。そしてそれが晴れた時、巨大な岩の姿はなくそこには見たこともないほど大きな魔石がドロップしていた。
緊張の糸が切れた俺は倒れるようにその場へとへたり込んだ。
レイドメンバーの黄色い歓声によって度上げを受ける俺はすごくやりきった感に包まれていた。そして燃え尽きた炎のように完全に活力が失われていた。取り敢えず今は何もやる気が起きない。
俺たちはその後ドロップ品の魔石を持ち、拠点へと帰還するのだった。
俺はというと、体がピクリとも動かないのでテューの背中に乗せてもらった。
こうして俺たちの三日間に及ぶ強化合宿が幕を下ろした。
■■■
全ての課題を達成した俺たちは帰りの馬車で思う存分睡眠をとることができた。負傷が激しかった俺はまたしてもデイブォリット先生に治癒魔法をかけてもらっている。みんなの寝顔が見放題ですね。
はっ! つまり俺のメインヒロインであるユナの寝顔を見るチャンス!
そう。ここは馬車だ。行き同様パーティメンバーは同じ馬車に乗っているため、ユナは俺の斜め前に座り隣のティナの肩に頭を乗せてスヤスヤと寝ている。つまり覗き放題見放題。しかし、紳士たるもの淑女の寝顔を覗き見るなど……しかし男としてこの行為は当然のこと。誰もが憧れるシチュエーション。ついでにユナの乗せている肩がティナではなく俺だったらすでに意識が飛んでいるかもしれない。
そうこう考えているうちに治療は終了し、デイブォリット先生は次の負傷者の元へと向かった。
これで邪魔者は全て消えた。現在ユナとティナは深い眠りの中。ポールはいびきすらかいて寝ている。テューは……静かに寝ている。もしかすると寝たふりで、変なことをした俺をから買おうとしているのかもしれない。だが、そうなったとしてもユナの寝顔を俺は見たい。
頭の中で悪魔の俺が囁いた。
『男の前で女が無防備に寝ているんだ。何されたって文句は言えねぇよ! だいたい寝顔見るくらいどうって事ないって。減るもんじゃないし。何なら触っても気づかれねぇよ。どことは言わんがな。ガハハハハハ――』
しかし俺の頭の中にはもう一つの声が聞こえている。天使の声だ。
『紳士たるものそんなことはしてはいけません。いつ何時もレディーの喜ぶことを考え、そのほかの邪念は取り払わなくてはなりません。拒否権のない相手に好き放題するなど言語道断です。今ならまだ間に合う。お願いだから引き返して!』
引き返す。そう。俺の体はすでに立ち上がっている。向かう先は言うまでもあるまい。そっとそっと……そして俺は悲願を成し遂げた。天使の声は、届かなかった。
しかし、全てを無視したわけではない。流石に触るのはまずいと思ったのと、あとが怖いと思ったのと、何故だかやる気が起きない今の俺はこれ以上何をしようとも思えず、結局寝顔をチラッと見てみんなと同様に睡眠をとることとした。
あぁ。ユナの寝顔生ら可愛かったなぁ。
俺は数秒と経たずに眠りへと落ちていった。
この時、こっそりスマホでユナとティナの百合展開のような寝顔ツーショットを撮ったのは内緒である。
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