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第21話『Q.筋肉痛は大丈夫ですか?』

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「筋肉痛は大丈夫かい?」

「うるせぇ! 自分の心配しやがれ」

 子供のような言い合いを一言ずつ交わした後、俺たちは深呼吸と共に精神を試合へと集中させた。
 模擬試合というのが頭の片隅にあったのだろう。大会本番のような時間と共に意識が鋭く研ぎ澄まされていくのではなく、気持ちが高ぶり、ワクワクが抑えられない。そんな感じがした。――早くやりたい。


「試合……開始!!」

 昨日よりも力強い開始の合図で試合が始まる。ここからはクラストップスリーを決める準決勝。激しい攻防が予想される。
 しかし、模擬試合開始から十秒。どちらも動こうとしなかった。
 観客席側がざわつき出す。

「攻めてこないのか?」

 先に口を開いたのは俺だった。今までの試合終了速度を鑑みるにテューはガツガツくるティナ型か、もしくは一撃で倒す型のどっちかだと思っていたが――どうやら後者のようだな。

「いやね、どうやったら面白い試合になるか考えてたんだけど、まだ決まってなくて」

「――面白い?」

 話しながらも、警戒を緩めない俺。しかし、正面に立つテューには緊張感のかけらも見られず、すでに勝ちを確信しているようなそぶりすら見える。
 ――なんだよ面白い試合って。本気で来いよ。

「よし。やっぱこれが一番面白いかな」

 そう言ってテューはついに歩き出した。俺は剣を右下段に構え、攻撃に備える。

「あれ……この動き、なんか見覚えが……」

 ゆっくりとした動作から急に速度を上げて突っ込んで来たテュー。そして上から力任せに振り下ろされる剣の雨。
 ――この戦い方、昨日戦った大男と一緒だ。ならきっと――。
 数撃の後、剣が地面に着く。その瞬間、剣が俺の左側から薙ぎ払われた。

 ――占めた。剣の速度は大男ほどじゃない。これなら前と同じやり方で――。
 俺の予想はズバリ的中した。剣を地面に突き刺し、それを盾にテューの攻撃を防ぐ。しかし、防いだはずの剣は気付けば反対側から振られていた。
 鈍い音ともに、視界が回転する。

「昨日の奴と一緒じゃ勝てないぜぇ?」

 遠くから嫌味ったらしい声が聞こえてくる。――面白いってそういうことかよ。
 俺は今の一撃だけで十メートルは飛ばされていた。恐らくHPも残りわずか……いや、ゼロかもしれない。痛みで意識が朦朧とする。どうやらまた肋骨に直撃したようだ。――うん。折れてるな。

「くっそ……」

 うつ伏せで倒れる俺に向かって地面に刺さっていた剣を投げ返してくるテュー。かかって来いと言わんばかりだ。
 俺は剣を杖の代わりにして起き上がる。

「さ! 続きをやろうぜ!」

 楽しそうなテューと死にそうな俺。すでに勝敗は決しているが……この感じだとコイツは今までの試合で一度も攻撃食らってないだろう。――まぁ一応確認してみるか。

「テューよ。お主は今回の模擬試合トーナメントにおいて、一度でも攻撃を食らったかな?」

「いやぁ?」

 猫の鳴き声のような返事が返ってくる。俺は確認を終えると、表情を一変させた。試合前の試合を楽しむと言う考えはもう捨て、テューに一矢報いることだけを考える。まだ諦めないぜ。

 ――せめて、一撃入れてからだ!

 俺は肋の激痛で今すぐにでも休みたい気持ちを押し殺し、今出せる全力の力で走り出した。そして間合いに入るなり剣を身体の左に、付きの構えを取り斜め下へと突っ込んだ。テューはそれを軽々しく避ける。俺の剣は勢いよく地面に突き刺さり、俺自身も急に止まることはできず、剣を置き去りにする。しかし俺は止まろうとはしなかった。――背後はガラ空きだ。

 気配がする。剣は右からか。つまり――予想通りだ。

「気づいてないと思ってたか?」

 俺は後ろのテューに向かいそう言葉を放つと、地面に刺さった剣を軸にテューの剣に向かってUターンし、遠心力も利用して剣を振った。


 テューは隠しているようだったが、試合が始まってから今だってずっと俺の不意の攻撃を警戒していた。あんなに舐めた態度を取っていても、そこはしっかりしているのだと感心した。その時、必ず左足を軸にしていた。つまり、テューの利き足は左だ。一瞬しか見れなかったが、さっきの攻撃の時も方向転換するときに左足が軸になっていた。
 ――さて、利き足が分かったところで俺が攻撃した後に反撃られるタイミングを少しでも送らせようとする場合どうすればいいだろうか。

 答えは――利き足とは逆の足に重心を置かせる――だ。

 俺がテューの右側突っ込めば、左足から右足に踏み込み、右足を蹴り左側に避けるだろう。俺の背後を狙った反撃をするには、避けた後右回転で方向転換し、右足を踏み切って次の動作に移ることになる。
 その場で左足を軸に回転する様に躱されたら左足重心スタートだって? それは無理な話だ。なんせ俺は左側に剣を構えている。そうやって避けると俺の体とぶつかってしまうのだ。

 テューは予想通りの動きをしてくれた。反撃のタイミングは少しは遅らせられたはずだ。あとは実力次第。俺の剣が速いか、それでもなおテューの剣が速いか……。
 すれ違いざま、テューは上から覆いかぶさるように、俺はしたからすくい上げるように、右から左へと剣を振る。勢いのせいか……はたまた攻撃を食らった衝撃のせいか……少し離れた場所で、互いを向きながら止まる。

 先に膝をついたのは――テューだった。そしてすぐ後、一矢報いた俺は、テューに捨て台詞を一言放ち、安堵の笑みと共に意識を失いその場に倒れた。

「へっ。一発入れてやったぜ……」
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