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第089話 腕相撲

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 森の薄い場所に陣取り、偵察を頑張っていた豪族さんの村の人達。

 精霊さんの話では、お腹を鳴らしながらイライラしていたそうなので、大分可哀そうだと思う。

 偵察に行ってこいと言われて、裏社会の人に案内されて、あるかないかも分からない村に、見つかると駄目だからと馬も使わず、森沿いに隠れながら、五日以上もかけて歩いてきたら。

 村の周りには長城が築かれていて、中の様子も確認出来ず、ただただ炊事の煙の量で人の数を判断しつつ、美味しそうな匂いに燻されて、ぐーぐーお腹を鳴らしながらとぼとぼまた帰る。

 状況を描写するだけで悲惨だなと。

 ちなみに精霊さん曰く、あんまり村でも美味しいものを食べていないようで。

 成功の暁には、腹いっぱい食べて、悪い事を沢山しようと決心していたそうなのですよ。

 もうね、貧すれば鈍するというか、思考が完全に野盗の類いと一緒です。

 これだから、蛮族は。

 というか、今まさに蛮族ムーヴをしているのは、うちの村の面々なのですが……。

「飲んでらっしゃいますか!!」

 陽気に肩を叩きながら、何度も同じ事を聞いてくるのは領軍の司令官さん。

 飲める口っぽかったので、いっきいっきと進めていると、陽キャにチェンジしちゃいました。

 まぁ、長城があるので一日や二日、お酒が苦手な人が梯子を外す簡単な仕事をしていれば持ちこたえますが。

 中々、酔っ払いが量産される哀れな狩られる予定の村というのもシュールなもので。

 あ、向こうでは領軍の人と村の人が腕相撲大会とか開催しています。

 いや、元々は力比べって変形のモンゴル相撲みたいな感じだったのですが。

 固い地面の上で、バックドロップとかバックブリーカーとかを炸裂させているのを見て肝が冷えた次第でして。

 おいおい、そんなショーマンシップどころか生き死にがかかるデスマッチ、お金も取らずに爆誕させるの止めて下さいと。

 どう考えても、戦争の前にけが人が出ます。

 という訳で、懇々と説き伏せて、新たな文化である腕相撲を編み出した訳です。

 で、こいつなんですが。

 結構村の人に好評でして。

 いや、技術の出る相撲ですと、村の人ってほぼ軍籍の人に勝てないんです。

 だって、そのために訓練していますから。

 ヤッパを無くしたからって敵が見捨ててくれる訳もなく。

 徒手空拳でも人を無力化する術というのは大事でして。

 特にこの世界なんて、魔法がありますので。

 軽装主体という事もあり、地面を武器にしている人は多いのです。

 で、翻って腕相撲なのですが。

 こいつも技術は色々ありますが、基本は腕っぷしの強さ如何で決まります。

 となると、結構村の人も善戦するんです。

 というか、どちらかというと村の人の方が勝率良い感じですね。

 これも理由がありまして。

 軍というのは効率良く、団体行動と対象を無力化する術を学ぶのがお仕事なのです。

 力を強くするのが目的ではありませんし、どちらかというと非力な人を基準にしてカリキュラムを組むくらいの世界です。

 翻りまして、村の人。

 固い地面は我らが仇。

 鍬だけが友達さって感じで、腕力むっきむきな人ばっかりでして。

 効率的な鍬の使い方というのは実際にあるのですが、やっぱり腕っぷしで大地をねじ伏せる方が楽なのです。

 結論といたしましては、単純な腕っぷしに関しては軍の人よりも農業や林業を営んでいる側の方が有利なのです。

 という訳で、技術の軍人さんが虚々実々の駆け引きをかますのに対し、パワーイズジャスティスの村の人が受けて立つ、熱い接戦を繰り広げている訳で。

 はい。

 もうね。

 村は熱狂の坩堝です。

 ちなみにね。

 腕って、結構簡単にぽきっといくんですわ。

 腕相撲の時って、筋肉優位なので拍子と角度によっては素晴らしく綺麗に関節が一つ増えます。

 というか、何で戦争前に、飲み会で怪我してますか!!

 でも、息抜きさせないと蛮族ムーヴされても大変なので、禁止も出来ず。

 変形モンゴル相撲より怪我が少ない事を喜びながら、さっさと酔い潰して寝かしてしまう作戦にシフトすることにしました。

 早く、豪族の村の人達、攻めて来て下さい!!

 このままだと、同士討ちで滅びそうです!!
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