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第079話 好事魔……再び

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 ぽけぽけーっと気を抜きながらリサさんと待つ事しばし。

 精霊さん達はもらったどら焼きを完食し、甘味を崇める踊りに余念がない。

 周囲では超高速盆踊りが展開しており、視界がちらつく事この上ない。

 出来れば、見えない場所でやってほしいななんて思うのはわがままでしょうか?

 と、そろそろ精霊さん達の狂宴を制止しようかなと思う頃に、扉が開く音。

 顔を向けると、人を食ったような笑みのダリーヌさん。

 ダメ、その顔。

 子供とかが見たら泣いちゃう。

 ステイ。

「万事抜かりなく」

 おっとこ前な一言から、報告は始まった。

 領主サイド、総料理長。

 前回持っていったクッキーに関して。

 上流階級のお茶会に試験的に出してみたが。

 すこぶる評判が良いのでありったけを希望する旨を頂いたようなのだが。

 じゃーん。

 新作をお見舞いするのだ!!

 って感じで、ダリーヌさんのきつい一発が決まり、KO。

 悶絶する総料理長から急遽呼び出された家令もTKOに持ち込み、チャンピオンベルトを奪取。

 違う。

 あまりの事態に判断がつかないという裏方全権を担う家令から、急遽領主自らが呼び出されるという椿事に展開したという。

 あ、ちなみに領主様。

 どうも近々大きな宴席があるそうで。

 冬場になると、王様サイドからご褒美を毎年もらうそうで。

 一年の総計と合わせて、ボーナス支給みたいなものかなと。

 そのご用意が忙しく、たまたま館に居合わせたそうで。

 やっぱり経営者というのはどこも忙しそうだなと思った次第です。

 で、どら焼きを食べた領主様。

 こちらも悶絶したようで。

 まぁ、内陸ですし、雪がちらつくような地域。

 サトウダイコンでもなければ、砂糖なんてありつける訳もなく。

 さて、この物騒なブツをどうすべかという話になりまして。

 まずは、この甘味の素を欲しいという話。

 こちらは想定問答通り。

 レシピとして甘味を確立しているので材料だけでは望む味にならないと牽制して勝利。

 というのも、この世界。

 レシピは何ものにも侵されない神聖不可侵な対象でして。

 もし権力者が権力に任せてレシピを奪い取ったりしたら、もう。

 速攻奪われた方は周辺にその情報をばらまく訳です。

 そうしたら、その権力者の権威なんて地に落ちます。

 力づくったって、人の口に戸は建てられない訳ですし。

 王都辺りに話が伝わったら、超大事になるそうです。

 改易程度で済めば御の字。

 結構な有力者でもざんばらりんだそうです。

 商業主義の国なので、その辺だけは徹底されているそうです。

 そうしないと、誰も開発なんてしなくなっちゃいますから。

 で、次はどら焼きさんをありったけ生産して納品して欲しいという話。

 こちらに関してはダリーヌさんと打ち合わせた通り、是非是非という事で。

 些末事からの盾になってもらう事を契約の上、無事話はまとまりましたとさ。

 で、最後がちょっと厄介。

 ここ最近立て続けに新商品を打ち出している私に一回会いたいという話。

 これに関しては興味を持つだろうなと思っていたので、村の立ち上げに忙しいので今は無理という線でまとめてもらう事に。

 同じ経営者なら、分かってくんろという感じで攻めつつ、どら焼きの納品に差し支えるかもと微妙にジャブを放つと下がってもらえた次第です。

 という訳で、基本的には想定問答内で片付いて万々歳。

 どちゃりっとカウンターに置かれたクッキーの時を上回るサイズと重量の革袋にも万々歳。

 リサさんと一緒に諸手を上げて喜びを表しましたとさ。

 功労者ダリーヌさんとお別れし、リサさんと一緒に馬車乗り場へとてちてち移動。

 フレッド君及びハッサム君の生活費用に関しては十分補えていますし、材料等の買い付け費用も回っています。

 村の稼働だけで資金も回る目途はつきましたし。

 そろそろもう少し住人を増やしても大丈夫そうですねなんて、盛り上がりながら道を歩いておりましたところ。

 好事魔多し。

 あれ、このフレーズ。

 前にも使った記憶がありますよ?

 そんな事を考えながら、魔と対峙する羽目になりました。
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