上 下
75 / 106

第075話 麦は偉大です

しおりを挟む
 えっちらおっちら袋を抱えて向かうのは浴場となります。

 厳密には、浴場の横に倉庫を作ろうかなと。

 精霊さん、よろしくお願いします。

 がががっと建築された豆腐建築ですが。

 こちら、温度管理を徹底するためだけに作ってみました。

 浴場の傍は熱が漏れて暖かかったので、ここに建てただけです。

 で、その目的とは。

 ざらざらと袋から薬研に取り出しますのは、手塩にかけて育てた麦芽を乾燥させたもの。

 こいつをさくさくと潰していきます。

 何を作るのか?

 答えは麦汁です。

 お米があれば、水飴といきたいところですが。

 現在手元にありませんので。

 お手軽に作る事が出来る甘味と言えば、水飴や麦汁。

 まぁ、麦汁には他にも利用手段があるのですが。

 それはまた今度という事で。

 お家の中で密かに育てたモヤシのひょろい感じの麦芽さんですが、乾燥させると思ったよりあっさりと崩れます。

 こいつに七十度よりもちょっと低い感じのお湯を投入し、後はその温度をキープです。

 精霊さんに甘いものを作るお仕事だと伝えると、きらきらを通り越した鋭い目つきで我も我もと寄ってきます。

 でもそんなに大きな甕じゃないので人数はいらないかなと思っていたら、緊急会議が招集され喧々諤々の話し合いが行われる次第に。

 結果一人の精霊さんが勝ち抜いたらしく、愛おしそうに甕に抱き着きます。

 そんなモーションが必要なのかと思いながらも、取り敢えず帰宅。

 そして、就寝。

 一晩が明け、倉庫の扉を開けると。

 そこには溢れかえらんばかりの精霊さん達が密集しておりまして。

 千切っては投げを繰り返し、目的のブツまで達しました。

 しっかり抱き着いている精霊さんを剥がそうとすると、いやいやと涙目で訴えるので。

 そのまま甕の封印を解きます。

 その瞬間、ふわっと香るアルコール臭にも似た揮発香。

 匂いとしては甘酒からこなっぽさを除いたような匂いでしょうか。

 ちょみっと採取して、ぺろり。

 生の穀物由来のあくっぽい苦みとえぐみの奥に、甘さを感じます。

 という訳で、麦芽糖の完成です。

 これはサトウキビやテンサイから採れるショ糖の三割程度の甘さですが。

 自然由来の甘さしか知らなければ十分だと考えます。

 ちなみに、果糖はショ糖よりも七割ほど甘いのですが。

 果物に含まれる果糖の配合量を考えれば、こんな形で直接摂取出来る麦芽糖の方が強く甘みを感じます。

 で、こちらを湯煎して煮詰まらせる事によって甘みを強くしたいのですが。

 精霊さんにお願いしようとすると、みんなが向けてくる何かを期待した眼差し。

「次の工程を終わらせた方が、もっと甘いですよ?」

 私の一言で、超高速きびきび動作にチェンジです。

 さくさくとタライを用意し、精霊さんがくつくつと沸騰させっぱなしの中に甕をとぽん。

 後は、水分量が減るのを待ちます。

 しかし麦汁なんて子供の頃、母に水飴と一緒に作ってもらった懐かしい味です。

 父の趣味で、自家製ビールなんて作っていたせいか、そういうのに触れられたのは良い思い出だと感じますね。

 と、水分が揮発するにつれて甘い香りが漂い出します。

 ふわふわと豆腐建築から漏れ出したのか。

 ノックの音が響くので、誰何するとリサさん。

「美味しそうな匂いがしたから……」

 ちょっと恥ずかしそうな顔で入ってくるリサさんと一緒に、甕の中身をかき混ぜます。

 水分を精霊さん達に飛ばしてもらえば、固形の麦芽糖が手に入ったんじゃね?

 そう気づいたのは、ねっとりとした薄い茶色の液体が完成したタイミングでしたとさ。

 まぁ、過ぎた事は良いという事で。

 実食です!!
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...