上 下
73 / 106

第073話 しんきんぐ・くっきんぐ・しっきん

しおりを挟む
 開発と言いますのも。

 ハンドクリームさんが下賜品になっているようなので、その内陳腐化しちゃうなと。

 ここいらで太い顧客を長く骨抜きにするものは無いかなと考えた次第なのです。

 でも、中々精霊さんの力を借りずに恒常的に生産出来るものというのは少なくて。

 蒸留酒とかはかなり熱いんですが、ハッサム君にあまり負担をかけたくないのでもう少し先かなと。

 いや、ランビキを精霊さんに作ってもらって細々と生産するのも良いのですが。

 現状の果実酒ですら希少価値ですし。

 どちらかといえば、麦の生産をこのまま伸ばしてエールからアルコールを抽出するくらいを狙わないと男性陣に吊るされそうです。

 ただでさえ、目の前に酒があるのに飲めないという状況なのに。

 あぁ、それに関しては。

 秋の果実で作ったお酒。

 早いものはそろそろぷくぷくとし出しておりまして。

 某解禁が話題のワイン的に飲めちゃうものもあるのです。

 ただ、どうせ飲んだって生産性が上がる訳じゃないし、仕事を頑張れと女性陣が。

 こう、びしばしとお尻を叩く訳で。

 次は春祭りかねという感じの話になっている次第です。

 ここで、私が果実酒を素材に酒を造るとか言い始めたら、暴動間違いなしですよ。

 量は確実に減っちゃいますからね。

 ぶるぶるです。

 という訳で、もっと簡単で持続性があるものを……。

 なんて、秋の収穫物。

 ナッツ類とドライフルーツをぽりぽり、くにゅくにゅ食べながら考えていたのですが。

 やっぱり考え事をすると糖分は必須だななんて思っていたのですが。

 あぁ、この無尽蔵ともいえる、森の恵みを加工すればいいんでね?

 なんて思いついた次第で。

 粉は収穫分があります。

 乳に類いするものも大豆っぽいのがあるので、豆乳で代用可能です。

 油も新鮮な植物油がわんさか。

 問題は砂糖が無いのですが……。

 ここは素朴な干し果実の甘さで食べてもらいますか。

 そんな感じで、ててーっと走り回って素材を確保。

 お菓子作りは計量が大事なので、按分だけは合わせて加工、加工。

 果実に関しては糖度が高いものをチョイス。

 ナッツもマカダミアナッツみたいな油分の多いものを選択してみます。

 混ぜて、砕き、搾り、混ぜ、砕き、混ぜ……。

 頑張って、調理、調理です。

 最後に薄く生地を伸ばして整形したら、竈にインです。

 いやぁ、ちょっと前にどうしてもピザが食べたくなりまして。

 精霊さんと一緒に、ピザ窯を作ってみたのですが。

 これが良い感じでして。

 精霊炉の仕様をそのまま持ってきてますから、名付けて精霊ピザ竈ですね。

 こちらを予熱し、生地をイーン。

 わくわくしながら待つ事、数分。

 チーンという感じで、蓋を開けるとローストされたナッツとドライフルーツの香ばしくも甘く馨しい香り。

 ここまで甘い香りって、この世界に来てから初めてだななんて、振り返った瞬間。

 そこには、鈴生りの精霊さん達。

 みんなお口から、よだれだらだらなんですが。

 えと、匂いを嗅いだら辛抱堪らん?

 まぁ、下手したら世界初ですからね。

 ちょっと冷まして馴染ませている間に、村でお仕事していたリサさんをお呼びします。

 ご相伴とリサさん特性のお茶をお願いしようかなと。

 ふんわりと香気高い湯気が上がる、アフタヌーンのお茶。

 テーブルには、焼きあがったクッキーが山を成しています。

 それぞれ手に持ちまして、実食です。

 はむっと噛んだ瞬間、乳化させた豆乳とナッツ油にざっくり入れた粉が功を奏したのか。

 さくりと軽快な触感と共に歯が入ります。

 濃いナッツの香りが口に広がり、咀嚼を始めるとくちっとしたドライフルーツの感触。

 熱を加えた所為か、干した時とはまた違った濃い甘みが舌先に強く感じられます。

 そしてころっとしたナッツ類のかりっとした食感。

 甘みを強調させるために入れた塩が良いアクセントとなり、素朴ながらも味わい深い、野趣あふれる逸品になっています。

 ふと、我に返って前を見ると……。

 リサさんに至っては、頬を抑えたまま蹲っています。

 何事かと思ったのですが……。

 訳はなく。

 強い甘味で両頬が痛くなったと。

 そうか、砂糖が無い世界というのは、この甘味で強烈なのかと。

 素朴とか、そういうレベルじゃないんだね。

 そんな事を考えながら、欠片を分け分けした精霊さん達を覗き込むと……。

『あひゃひゃひゃひゃひゃ……』

『しこーのいっぴん』

『きゅーきょくのかんみ』

 そんな親子喧嘩しそうな感想はちょっと嫌ですが。

 壊れたように転がったまま、笑い続けるものも居て、ちょっと怖いです。

 結論といたしましては、明日への活力に他ならないので偶に作ってくんろって感じでした。

 個人的には、そこまでかと思うのですが。

 リサさんと居並ぶ精霊さん達のキラキラアイズには勝てないので、頑張ります。

 ちなみに、残ったものを村人さん達にもお裾分けしたのですが……。

 うら若き女性達の手前、言うのはあれなのですが……。

 失禁物だったそうで。

 日頃果物慣れしているリサさんを基準としましたが、間違っていました。

 でも、本当にこれで甘味と言えるのだろうか……。

 そこはかとなく心配です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです

もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。 ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。 ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...