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第067話 漆はかぶれちゃうのよ?

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 はい。

 本日もフィーバーナイトが繰り広げられようとしていますが。

 私達はお暇です。

 精霊さん達は名残惜しいのか、明滅を始めてますが。

 居残り組と分かれるようです。

 リサさんも残りたそうに上目遣いだったのですが。

「ダリーヌさんに寝不足で会いたいですか?」

 と問うと、煩悶の末、頷いたので。

 宿屋さんにゴーです。

 てくてく。

 すっきり睡眠の後、明け方に宿で朝食を摂り、ちょっと休憩後てくてくと。

「おぅ。来たさね」

 朝から元気なダリーヌさんにご挨拶。

 取りあえず近況の確認からだが。

 民芸コンロさん。

 旅に出る人から非常に評価が高いそうで。

 野営の際に毎度毎度薪材が入手出来るとは限らず。

 この寒い最中にテントも張らずに凍死しかけながら毛布に包まって移動する人もいる訳で。

 そんな人にとっては暖を取るというのは命を賭けるのと同じ事という塩梅。

 どうもダリーヌさん。

 広く意見を聞きたいがために、有料で貸し出しというスタイルを取ったらしいのだけど。

 みんな買い取りたいという矢の催促だそうで。

 やっぱり、野宿の際に調理が手軽に出来るのはクォリティーオブライフの向上に寄与するようで。

 特に寒い夜、温かいものをお腹に入れて眠ると疲労回復の度合いが全然違うと。

 これ、体が熱を発するにしてもエネルギーが必要なので温まるまで体力を消費するのだけど、食事がそれを補う形となる。

 やっぱり、温かいものは偉大だなと改めて感じ入った次第です。

 しかし、ここはダリーヌさん。

 商売の鬼というのは非情なもので。

 貸出品を回収して、今度は下町の女性陣にテストを依頼するそうで。

 やめたげてー。

 寒さに喘ぐ行商人さんのライフはゼロよと思うのだけど、今まで生き残ってたんだから甘えるなとのお言葉。

 便利なものを得てみて、失った時に真価が分かるんだって薄笑いで語るダリーヌさん怖い。

 女性陣に関しては、家での調理に使わせたいとの事で。

 この時期、薪代が高騰しがちなので。

 下町の方では、数軒が共同して竈を使って光熱費を浮かせるんだとか。

 ただ、働きに出ている人は蚊帳の外になりがちで。

 帰ってきてから持ち帰りの冷えた屋台ものを食べている光景なんかをよく見かけるそうで。

 そういう人間に民芸コンロで温め直しを体験して欲しいのがダリーヌさんの思惑。

 ちょっとした調理も出来るので、自炊経験も上がるし、花嫁修行にも最適だとか。

 こう考えると、庶民の暮らしをよく見ているなと改めて思う。

 魔道具は生活を豊かにするものだけど、それは観察の産物なのだなと。

 さすダリって感じ。

 と、心の中で褒め殺しながら、私も作ったものを取り出し、ほいと渡す。

「ほぉ……。えらく上等に仕上げたさね……」

 民芸コンロに関してだが、フレッド君に気合を入れてもらい、木のケースを作ってもらった。

 こいつを美しく磨くまでがフレッド君のお仕事。

 後は、私が。

 昔、国内での漆生産を復活させるNGOの経理に出向していた時に教わった、漆づくり。

 これなんですが、森の中で精霊さんが毒じゃないけど近づくなって類いのものが結構ありまして。

 その中に、明らかに漆っぽい性質のものをリサさんから聞き出しまして。

 これだと。

 生漆を採取し、練りに練って、精霊さんに乾燥を依頼し。

 鉄を精霊さんに説明し、それを鉄粉にして練り込み、練りに練って、水気を飛ばし。

 やっとこ出来た黒漆を塗って仕上げた逸品です。

 つるりとした表面に光沢のある黒が渋く、料理の皿の下においても自己主張しない美しさです。

 眇めつつ眺めていたダリーヌさんが、こくりと頷き。

「どれだけ作れるさね?」

 との、無情な問いかけ。

 漆の生産量なんて嵩が知れています。

 精霊さんに分離を頼んでも、そう量は取れないと思います。

 こちらの世界の漆モドキもそこまで生産性が良いとは思えなかったからですが。

 それを伝えた時の、邪悪な笑み。

 私とリサさん、再びドン引きですよ?

「現物が出回らないんじゃ、釣り上げられるさね……」

 ダリーヌさんの呟きに、ひぇぇっと震えあがっていると、いつものようにててーっと駆けだすお姿。

 へたりと座り込み、見送るしかなかった私達ですが。

 どうか、心痛が激しくなるような事態を招かないで欲しいな。

 そんな虚しい願いを胸に籠めつつ、ぱたりと扉を閉めたのでした。
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