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第063話 とれとれぴちぴちかに
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明けての朝。
山脈から吹きさらす寒風が湖面の暖かな空気に触れ。
もやを生み出しながら上昇していく幻想的な風景。
はぁっと息を吐くと白い軌跡を描き、ふわふわと飛んでいく。
冷え込んだ、朝。
リサさんと一緒に、湖に立つ。
目的?
鰻筌の回収です。
想定出来るあらゆる場所に沈めてきたので、結構な重労働になりそうだなと。
寒いし男手の方が良いと伝えたのだけど、頑として一緒に作業をするというリサさん。
その気持ちを胸に、ちゃぽりと足を沈める。
勿論、お風呂の準備は万端なので、無理をしないように頑張ります。
まずは、岸近くの岩の間に設置したものから攻めていきます。
ここは、隠れ住む生き物が入っていたら勝ちかなと思っていたのですが。
ざぱりと、水を滴らせながら上がってきた鰻筌。
水を抜くと、かさかさと軽い音が聞こえる。
リサさんと目を合わし、にこりと微笑み合う。
いきなり、獲物が入ってそうな予感。
仕掛けを解体し、桶に開けてみると……。
ざらざらと、結構な大きさのカニもどきが落ちてくる。
サワガニと言えば、赤ちゃんの手くらいの大きさしか知らないけど。
これは、シャンハイガニくらいの大きさがある。
味噌汁に入れたら、絶対に美味しいやつだなと確信出来てしまう自分が切ない。
精霊さんの毒チェックも合格し、逃げないように封印の上、他も上げていく。
漏れなく獲物が入っていた鰻筌はどれもパンパンで、いきなり桶が足りないハプニングが。
一緒に釣りに来ていた男性陣に頼んで、樽を転がしてきてもらう。
それくらいの獲物の量だ。
次は、川との合流ポイント。
流水の部分は、魚の類が入っていればと思っていたが……。
案の定、いつものアユもどきもいるし、一回り以上大きい黒々としたイワナみたいなのもびちびちと入っている。
こりゃ、大量だなとずしっとどころではない重さの鰻筌を担いで、人造池へ。
村の人が使うので、規模を大きくしたのですが……。
全然足りない予感。
二、三個の鰻筌の段階で、水が六、魚が四みたいな状況になりまして。
「精霊さーん……」
ごごごっと、拡張を致しました。
遠浅な感じで、水場が続くだけなのですが。
偉く広大になったなと、見回して思うのです。
夏場は子供の格好の遊び場になりそうですね。
そんな事を考えながら、えっちらおっちら。
鰻筌を全て回収した頃には、昼近くになっていました。
唇を紫に染めているリサさんと一緒に、さくっとお風呂に浸かり、生き返ります。
そして、訪れる。
メインイベント。
カニです。
茹でガニ?
ちっちっちっ。
サワガニ系サイキョーは蒸しです。
旨味をぎゅっと濃縮したカニを期待しながら。
大きな土鍋の上にザルを置いてカニをセットオン!!
大きな土鍋で蓋をしたら、精霊さんお願いします!!
しゅごーっと蒸気が漏れる中、じょじょに美味しそうな匂いが混じり始めます。
時は正に昼食時。
周囲で固唾を飲んで見守っている男衆も生唾ものです。
頃合いを見計らい、ぱかりと御開帳。
もわっと膨れ上がる濃密な湯気のベールの奥には、赤い姿をあられもなく晒しています。
おぉぉっと地揺れを思わせる、どよめきの中。
まずは、リサさんと一緒に試食です。
パキパキと解体し、リサさんにパス。
流石のナイフ捌きで、さりんさりんと殻を削ぎ、白と紅の混じった艶やかな身を露わにしていきます。
最後にぱかりと頭を開けて、実食です。
一番太い足をリサさんと一緒に、ぱくり。
蒸すとびしょびしょになると思っている人がいますが、逆なのです。
蒸気に当たると、水分は内包されながら表面から潤みつつ熱が入るのです。
カニ独特の繊維を歯に感じながら、むちりっと噛みついた瞬間。
ぶしゅっと水風船が弾けたと思わんばかりの熱い奔流。
舌の上に、濃厚なあちゅあちゅカニジュースが溢れます。
目を白黒させると、リサさんも同じく。
はふはふと呼吸しながら、バンバン地面を叩き、我慢の子。
口の中と鼻はカニでいっぱいです。
吐く息がカニです。
濃い濃い汁が口中を蹂躙しまくり、ほのかに落とした塩がその旨味をぱっきりと輪郭づけて、どうだと推してきます。
うーひゃー。
うめー。
もうね、言葉になんかなりません。
二人して、無言ではむはむと。
周囲なんて、視界から消えています。
最後の方で残った細めの足肉。
こいつを、カニミソに浸けて……。
蒸しているので、半固形化していますね……。
これは、そのままで……。
はむっ。
その刹那、前頭葉の辺りにびりりっと電流が走ります。
『このこさは!!』
『のうこう!!』
『あっしゅく!!』
一緒に食べていた精霊さんの叫びに、同意の頷きを返すのがやっとです。
カニミソなんて、何度も食べているし。
どれも一緒でしょ?
違います。
獲れたて新鮮なカニ、それもシャンハイガニ系列のカニミソ。
やつは別物です。
臭みは全くなく。
濃厚にして重厚。
カニの旨味の全てを凝縮して、尚も足りない何かを補いつつ、圧縮した奇跡のなにか。
池田菊苗先生、旨味という概念を見つけてくださってありがとうございます。
この滋味と豊かな広がりを表現する術は、先生なくしては無理でした。
それほどの圧倒的な世界。
リサさんも興奮気味の表情で、微かに涙を浮かべています。
ばしばしとお互いを叩き合い、笑いあいながら、こそぐようにカニミソを食べ終え。
しばし、放心。
凄いな、カニ。
何も言葉が出てこない。
ぽけーっとエクトプラズムを出している二人を。
周りの男性陣は気もそぞろに眺める事しか出来ないのでした。
山脈から吹きさらす寒風が湖面の暖かな空気に触れ。
もやを生み出しながら上昇していく幻想的な風景。
はぁっと息を吐くと白い軌跡を描き、ふわふわと飛んでいく。
冷え込んだ、朝。
リサさんと一緒に、湖に立つ。
目的?
鰻筌の回収です。
想定出来るあらゆる場所に沈めてきたので、結構な重労働になりそうだなと。
寒いし男手の方が良いと伝えたのだけど、頑として一緒に作業をするというリサさん。
その気持ちを胸に、ちゃぽりと足を沈める。
勿論、お風呂の準備は万端なので、無理をしないように頑張ります。
まずは、岸近くの岩の間に設置したものから攻めていきます。
ここは、隠れ住む生き物が入っていたら勝ちかなと思っていたのですが。
ざぱりと、水を滴らせながら上がってきた鰻筌。
水を抜くと、かさかさと軽い音が聞こえる。
リサさんと目を合わし、にこりと微笑み合う。
いきなり、獲物が入ってそうな予感。
仕掛けを解体し、桶に開けてみると……。
ざらざらと、結構な大きさのカニもどきが落ちてくる。
サワガニと言えば、赤ちゃんの手くらいの大きさしか知らないけど。
これは、シャンハイガニくらいの大きさがある。
味噌汁に入れたら、絶対に美味しいやつだなと確信出来てしまう自分が切ない。
精霊さんの毒チェックも合格し、逃げないように封印の上、他も上げていく。
漏れなく獲物が入っていた鰻筌はどれもパンパンで、いきなり桶が足りないハプニングが。
一緒に釣りに来ていた男性陣に頼んで、樽を転がしてきてもらう。
それくらいの獲物の量だ。
次は、川との合流ポイント。
流水の部分は、魚の類が入っていればと思っていたが……。
案の定、いつものアユもどきもいるし、一回り以上大きい黒々としたイワナみたいなのもびちびちと入っている。
こりゃ、大量だなとずしっとどころではない重さの鰻筌を担いで、人造池へ。
村の人が使うので、規模を大きくしたのですが……。
全然足りない予感。
二、三個の鰻筌の段階で、水が六、魚が四みたいな状況になりまして。
「精霊さーん……」
ごごごっと、拡張を致しました。
遠浅な感じで、水場が続くだけなのですが。
偉く広大になったなと、見回して思うのです。
夏場は子供の格好の遊び場になりそうですね。
そんな事を考えながら、えっちらおっちら。
鰻筌を全て回収した頃には、昼近くになっていました。
唇を紫に染めているリサさんと一緒に、さくっとお風呂に浸かり、生き返ります。
そして、訪れる。
メインイベント。
カニです。
茹でガニ?
ちっちっちっ。
サワガニ系サイキョーは蒸しです。
旨味をぎゅっと濃縮したカニを期待しながら。
大きな土鍋の上にザルを置いてカニをセットオン!!
大きな土鍋で蓋をしたら、精霊さんお願いします!!
しゅごーっと蒸気が漏れる中、じょじょに美味しそうな匂いが混じり始めます。
時は正に昼食時。
周囲で固唾を飲んで見守っている男衆も生唾ものです。
頃合いを見計らい、ぱかりと御開帳。
もわっと膨れ上がる濃密な湯気のベールの奥には、赤い姿をあられもなく晒しています。
おぉぉっと地揺れを思わせる、どよめきの中。
まずは、リサさんと一緒に試食です。
パキパキと解体し、リサさんにパス。
流石のナイフ捌きで、さりんさりんと殻を削ぎ、白と紅の混じった艶やかな身を露わにしていきます。
最後にぱかりと頭を開けて、実食です。
一番太い足をリサさんと一緒に、ぱくり。
蒸すとびしょびしょになると思っている人がいますが、逆なのです。
蒸気に当たると、水分は内包されながら表面から潤みつつ熱が入るのです。
カニ独特の繊維を歯に感じながら、むちりっと噛みついた瞬間。
ぶしゅっと水風船が弾けたと思わんばかりの熱い奔流。
舌の上に、濃厚なあちゅあちゅカニジュースが溢れます。
目を白黒させると、リサさんも同じく。
はふはふと呼吸しながら、バンバン地面を叩き、我慢の子。
口の中と鼻はカニでいっぱいです。
吐く息がカニです。
濃い濃い汁が口中を蹂躙しまくり、ほのかに落とした塩がその旨味をぱっきりと輪郭づけて、どうだと推してきます。
うーひゃー。
うめー。
もうね、言葉になんかなりません。
二人して、無言ではむはむと。
周囲なんて、視界から消えています。
最後の方で残った細めの足肉。
こいつを、カニミソに浸けて……。
蒸しているので、半固形化していますね……。
これは、そのままで……。
はむっ。
その刹那、前頭葉の辺りにびりりっと電流が走ります。
『このこさは!!』
『のうこう!!』
『あっしゅく!!』
一緒に食べていた精霊さんの叫びに、同意の頷きを返すのがやっとです。
カニミソなんて、何度も食べているし。
どれも一緒でしょ?
違います。
獲れたて新鮮なカニ、それもシャンハイガニ系列のカニミソ。
やつは別物です。
臭みは全くなく。
濃厚にして重厚。
カニの旨味の全てを凝縮して、尚も足りない何かを補いつつ、圧縮した奇跡のなにか。
池田菊苗先生、旨味という概念を見つけてくださってありがとうございます。
この滋味と豊かな広がりを表現する術は、先生なくしては無理でした。
それほどの圧倒的な世界。
リサさんも興奮気味の表情で、微かに涙を浮かべています。
ばしばしとお互いを叩き合い、笑いあいながら、こそぐようにカニミソを食べ終え。
しばし、放心。
凄いな、カニ。
何も言葉が出てこない。
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周りの男性陣は気もそぞろに眺める事しか出来ないのでした。
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