上 下
27 / 106

第027話 世界の言葉

しおりを挟む
 蛍火のように小さな光がふよふよと舞う中。

 宴は最高潮を迎える。

 暮れなずむ黄昏。

 光と闇の狭間の時。

 村を飾り付けていたオブジェクト達が集められ、厳かに火がかけられる。

 徐々に大きくなる炎、徐々に陰りゆく太陽。

 最後の残照が地の果てに沈み消えゆく時、焚火は大きく盛りを迎えた。

 世界の音が消え、ただセディスさんの言葉が朗々と響く。

 古い、古い、神代と呼ばれる頃の奉納の言葉。

 昨年の実りに感謝を、来年の豊作を嘆願する。

 謡うように節と抑揚をつけた祈りは、心を打ち、どこか陶酔を感じさせる。

 ふわふわと夢現ゆめうつつの境が曖昧になった頃、そうっと両手を伸ばしたセディスさんが最後の言葉を発する。

「神に感謝を」

 静かに、厳かに、力強く。

 心の中にすぅっと入り込むような心持ち。

 その刹那、精霊さん達が炎に集まり、天高く上がっていく。

 細かった光の柱は徐々に太さを増していく。

 すわ焚火のサイズを超えると思った瞬間、ぱぁっと花火のように弾け、すぅっと消えていった。

 その瞬間、世界がぶるりと身震いをし、言葉を刻む。

『-詩篇発動ショギョウムジョウ- そも全ては移ろいゆくもの。揺籃の眠り経て、再びの実りを』

 世界が軋むように言祝ぎの声をあげた。

 ざわざわと騒ぎ出す、村人達。

 状況が分からない私は、リサさんに問うてみる。

「あれは、女神様の声と言われているの」

 どうもあの声は、超自然現象として語り継がれている類いのもののようで。

 聞くべき人にしか聞こえないらしい。

 一定の正しい行いをすると、聞こえるそうで、一種の祝福、奇跡として扱われるそうだ。

 個人的には、駄女神の声じゃねぇな、とか。

 ゲームのシステムメッセージみたいだなとか不謹慎な事を考えていた訳だが。

 村人にとっては、神の祝福、奇跡の一端だ。

 しかも、内容は来年の実りを約束するもの。

 考えるまでもなく、場は再度盛り上がる。

 本当だったら、暗くなってきたから宴会はお開き。

 明日からまた頑張りましょう。

 では、解散となる予定だったのだが……。

『あげていくの』

『よー、わっつぁっぷ』

『のーみゅーじっく、のーらいふ!!』

 バイブスが上がった精霊さん達は、ハウスの照明よろしく瞬き、夜の闇を駆逐している。

 焚火の周囲では、再び杯が乾され、歌声が響き始める。

 あぁ、これ、夜通しのパターンですね?

 並んで座るリサさんの微笑みを眺めながら、長い夜の始まりに苦笑を浮かべてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ
ファンタジー
 鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。  菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。  まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。  そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。 「私も異世界に行けるの?」 「……行きたいなら、別にいいけど」 「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」  半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。  そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?  これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。

ミニゴブリンから始まる神の箱庭~トンデモ進化で最弱からの成り上がり~

リーズン
ファンタジー
〈はい、ミニゴブリンに転生した貴女の寿命は一ヶ月約三十日です〉  ……えーと? マジっすか? トラックに引かれチートスキル【喰吸】を貰い異世界へ。そんなありふれた転生を果たしたハクアだが、なんと転生先はミニゴブリンだった。 ステータスは子供にも劣り、寿命も一ヶ月しかなく、生き残る為には進化するしか道は無い。 しかし群れのゴブリンにも奴隷扱いされ、せっかく手に入れた相手の能力を奪うスキルも、最弱のミニゴブリンでは能力を発揮できない。 「ちくしょうそれでも絶対生き延びてやる!」 同じ日に産まれたゴブゑと、捕まったエルフのアリシアを仲間に進化を目指す。 次々に仲間になる吸血鬼、ドワーフ、元魔王、ロボ娘、勇者etc。 そして敵として現れる強力なモンスター、魔族、勇者を相手に生き延びろ! 「いや、私はそんな冒険ファンタジーよりもキャッキャウフフなラブコメスローライフの方が……」 予想外な行動とトラブルに巻き込まれ、巻き起こすハクアのドタバタ成り上がりファンタジーここに開幕。 「ダメだこの作者私の言葉聞く気ねぇ!?」 お楽しみください。 色々な所で投稿してます。 バトル多め、題名がゴブリンだけどゴブリン感は少ないです。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...