一坪から始まる新世界創造

文字の大きさ
上 下
35 / 51

第035話 オペレーションわらじべ長者

しおりを挟む
「えぇと、それって高く売れるのでしょうか……?」

「藁やろ? 解けるんちゃうの?」

 二人は懐疑的な方向性。

「いや、物を売りたいというよりも製法を売りたいというのが大きくて」

 村規模の商売に慣れたアイシャさんと、製造にかかりっきりで商売はあんまり気にしないエルディアさん。

 まずもって俺自身が気にしていたのは、ポーションを売るにしたって直販は無いなと。

 行きずりの小さな村なら良いけど、こんな大きな町でどれだけのポーションを売るのかと。

 しかも、高品質なポーションをぼっかんぼっかん出してたら、絶対に目を付けられる。

 そんな時に後ろ盾になってくれそうな商人とかがいればありがたいなと。

 目端が利く商人なら、草鞋の価値を分かってくれそうなので。

 というのも。

 縄を編むなら、蔓草でというのがこの世界。

 そこら中に長い蔓草が雑草として繁茂しているので、そちらを使うのがデフォ。

 藁なんて着火剤か防寒用途、家畜の飼料などにしか思われていない。

 そこに新たな用途を提示したら、金に換えられるんじゃないかなと。

 しかし、現状で資本の無い俺達がそれをするには無理で。

 出来れば、地位のある考えがシャープな人間に拾って欲しいなと。

 後、今後のバリアになって欲しい思惑を説明してみた。

「「んーん……」」

 結局二人には響かず、切なく一人でスライムさん達と戯れながら、藁を編むのでした。

 スラ蔵君が藁を叩くのに秀でた才能を持っていてくれて、助かったけど。

 にょいーんと体の一部分を伸ばして、器用に槌でとんとん。

 めっちゃ便利だ。

 という訳で、当面の生活費を稼ぐためにポーション片手にアイシャさんとエルディアさんは薬師のお店に。

 流石に日中なら女性二人でも歩けるそうで。

 そこは信用してみました。

 俺は夜なべをして編んだ草鞋を市場で売りに行くことに。

 話をしてみると常設の市場は売上税だそうで、単価と在庫の報告で良いとのこと。

 ちょろまかすのが出るんじゃないかと思ったが、それも織り込み済みらしく。

 少々は目を瞑るけど、大っぴらにやっていると周囲が告げ口するそうで。

 人の文化というのはどこも変わらんなと思いながら、市場の端っこの指定された場所にお店を構えるのだった。

「どうもです。本日はよろしくお願いします」

 残ったシカもどきの肉はジャーキーにして乾燥させていたのだけど。

 隣近所の出店の人に、挨拶がてら配り歩く。

 しがんでいた隣のおいちゃんが売り物かと聞いてくるので、ノーとは答えた。

 ジャーキーなんて確かに見たことないなと思いながら、草鞋売りを始めてみた。

 はい。

 半日ほど売っていましたが、反応なしです。

 呼び込みは禁止なので、説明だけに留めていたのですが。

 全っ然反応ナッシング。

 あかんのかぁと気落ちしながら、帰ってからの二人による嘲笑に耐える訓練をしていると、影が。

 顔を上げると、早い時間に来た兄ちゃんが立っている。

「どうなさいま……」

「これ、一揃え貰える?」

 と言われるので、渡すとちゃりんとお支払い。

 ちょっと狐に化かされたような気持で見ていると、その場で履き替えた兄ちゃんがとんとんと飛び跳ねて、スキップしながら去っていった。

「毎度あり?」

 口上は聞く人間が消えた後に、虚しく響いたとさ。

 そこからは、再度客すら寄らず、延々とお座りタイム。

 先鋭し過ぎたかと考えながら、宿屋に戻る事に。

 税金?

 売り上げを伝えたら、ぽんって肩を叩かれたのは良い思い出です。

「え……一つだけ……ですか?」

「あないに口上垂れとったのに?」

 二人が口撃してくるので拗ねてみようかなと思ったら、慌ててとりなしてくるのでエステ沼は深いのだなと。

「いや、言った通り売るのが目的ではないので」

 改めて方針を伝えると生暖かい目で見つめられたので、閉口して夕食に集中する。

 本日も夜なべして、量産に明け暮れました。

 とんとん、よじよじ。

 明けて、本日。

 もう既に用を済ませたアイシャさんとエルディアさんも店番に入るというので、一緒に市場へ。

 市場の場所取りの申請の時にちょっと羨ましそうに見つめられたのは、美少女二人のせいということで。

 本日も端っこに移動して、お隣さんやご近所にご挨拶。

 別の顔ぶれでしたが、ジャーキーの評判は良くてみんなにっこり。

 我々も夜なべして苦心した藁草履を並べて、販売開始。

 飽きたら店番を交代して、市場散策などをしつつ。

「冷やかしばっかりですね……」

「まったく相手にされてへんな……」

 全くその通りなので、ぐうの音も出ない。

 あれぇ? 戦術を間違えたかな……。

 若干不安を感じながらも、まだ慌てる時期ではないと泰然自若。

 すーんっと女性陣の文句を無視していますと。

「あぁ、ありました。この店です」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、昨日の兄ちゃんがぱりっとした格好で立っていた。

 その背後には、渋い老境に差し掛かった男性。

 餌にかかったのかなと思いつつ、にっこり微笑んでみる。

「いらっしゃいませ、商品をお探しですか?」

 アイシャさんの言葉に、男性が草鞋を手に取り、矯めつ眇めつ眺めている。

 ぼそぼそと兄ちゃんと話し合い、こくりと頷き合って。

「済まないが、主人。商売の話をしても良いだろうか?」

 兄ちゃんの言葉に、とりあえず首を傾げてみる。

「ここにある商品だけでは足りないので、指定数の納品をお願いしたいのだが」

 その言葉に目を丸くするアイシャさんとエルディアさん。

 勿論俺の返事は。

「無理です」

 ノーですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

処理中です...