夜空に星が流れるとき

浅黄幻影

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星に願いを

星に願いを(2)

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 光の玉が庭に現れたのはそれからその夜だった。いつものように夜空を眺めているとき、輝いていた星の中からひとつ、光がふわりと降りてきた。ぼくは声を上げてしまうかというほどに驚き、慌てて口を押さえた。もしかしたら、小さく声が出てしまっていたかもしれない。けれど光の玉には聞こえなかったらしく、反応することなく庭をふらふらあちこち飛び回っていた。
 それは間違いなく、墓地でぼくが見たものだった。ぼくは光の玉が何のためにあれほどふらふらと周囲を回っているのか気になり、窓から必死に眺めていた。何かを探しているようにも見えた。生物なのか、何かしらのものを探しているのか、それを見つけてどうするつもりなのか。ぼくは光の玉が、見つけたものを取り込んだり、魂などを抜き取るのではないかと戦慄した。
 光の玉の様子をぼくは見ていたけれど、移動していく光を追っていくのは難しかった。次第に死角に入っていく相手を見ようとガラスにへばりついてのぞき込んだけれど、ついに見えなくなってしまった。
「あー、どこかに行っちゃったかな」
 しばらく眺めていたけれど、もう光の玉は現れなかった。
 ぼくは諦めてベッドに戻って寝ることにした。

 けれど、振り向いた瞬間、部屋のなかに光の玉が浮かんでいることに気付いた。
「……!」
 ぼくは声にならない声を上げ、その場に尻餅をついた。ぼくはすぐにも自分は取り殺され、魂やら命やらを抜かれてしまうものだと思った。ガタガタ震えて後ずさりしようとしたけれど、後ろは壁でまったく一歩も退けなかった。
「驚かせてごめん。大丈夫、何もしないよ。ちょっとお願いがあるだけなんだ」
 光の玉は静止してそんな風にぼくに語りかけた。その声を聞いたぼくは、けれどすぐには理解できなかった。しばらくしてやっとことばの意味を理解して、ぼくも恐る恐る、ことばを返した。
「きみがしゃべっているのか。いったい、きみは」
 光の玉はすぐに答えてくれた。
「星の子だよ。この前の流れ星でここに落ちてしまったんだ。空に戻りたいんだけど、大切なものをなくして戻れないんだ」
 その丁寧な様子と落ち着いた光の動きにぼくは次第に落ち着いてきた。
「あの大きな流れ星か。いったい何をなくしたの?」
「きみが拾ったものだよ、あれがないと帰れないんだ」
 ぼくは昼間着ていた服のポケットを探った。墓地で拾ったガラス玉が出てきた。
「そう、それだよ!」
 光の玉はそう言って、くるりと宙を舞った。
「そうか……じゃあ、返すよ」
 ぼくはそう言って、ガラス玉を光の玉に差し出した。
「ごめん、このままじゃあ、受け取れないんだ。ちょっとだけ、きみに手伝って欲しい」
 それから、光の玉はぼくに詳しい事情を話してくれた。
「ぼくは星の船で空を旅していたんだ。でも、船があの山に不時着してしまった。船は地面に埋まってしまって、小さな星のぼくには掘り出せない。それに、どこに埋まっているのかきちんとした場所もわからないんだ。だから、きみの拾った石が必要だし、きみの力が必要なんだ。助けて欲しいんだ。お願い」
 星の子はそう言い、またくるりと宙を舞った。
「帰れないとどうなるの? 誰も迎えに来てくれないの?」
「帰れないと光を失ってただの石ころになってしまう。迎えに来られる星は誰もいない。それに、ぼくが光を失うとある人が死んでしまうんだ」
 ぼくはあのお話が本当なのだと知った。
 そうとわかったら、もう星の子の願いを断るわけにはいかなかった。
「いいけど……どうやってあそこまで行こう。ぼくはこの部屋から出られない。蔦のロープもバルバラに持っていかれてしまった」
「それなら、ぼくが少しだけ力を貸せばきみを浮かべられるよ。窓から下に降りるくらいなら平気だ」
 そうか、とぼくは星の子を信じ、山に登るために服を着替え、靴下と散策用のブーツを履いた。
「じゃあ、行こう」
 窓を開けると、星の子の言うようにぼくの身体はふわりと浮いた。不思議な感覚で庭にまで運ばれたぼくの身体は、再び地面にしっかりと足が着いた。それから、庭仕事のシャベルを納屋から持ち出し、星の子と一緒に山に向かっていった。
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