夜空に星が流れるとき

浅黄幻影

文字の大きさ
上 下
13 / 23
火の玉

火の玉(3)

しおりを挟む
 もう十分怖い目に遭ったぼくらは帰ることにした。けれど墓を背にして歩き出したとき、今度はぼくもヴェルナーもそろって白い服の女が立っていることに気付いた。女は静かに足音もなく近づいてきた。
 ヴェルナーは大声を上げてまたしてもどこかに走っていった。今度はぼくも叫び声を上げてしまった。それでヴェルナーの後に続いて走ろうと思ったのだけれど、迫ってきた幽霊に手を掴まれた。もうダメだと思った。
 けれど、それはバルバラだった。ぼくが抜け出したのに気付いて探しに来て、墓地にぼくらがいるのを見つけたのだった。
「こんな時間に何をしているんです!」
 バルバラはぼくの頬をぴしゃりとひとつ、平手で打った。
 ぼくは打たれたショックと今までの心細さから、泣き出してしまった。バルバラはそれ以上ぼくを打たなかったけれど、怒っているのは変わらず、ぼくは手を引かれて連れていかれた。

 バルバラはこっそりとぼくを部屋に入れた。蔦のロープは持っていかれてしまった。でも父と母には内緒にしてくれて、二人から怒られることはなかった。バルバラは何食わぬ顔で家族の前では振る舞っていたけれど、数日間、強い目付きでぼくを見ていて、それでぼくもずいぶんしゅんとしてしまった。
 ヴェルナーの方は火の玉はいなかった、なんてことなかったと吹聴していた。それを否定することもできたけれど、彼を臆病者にするのはいただけなかった。ぼくが臆病者だと、彼に同じように言われるだろうからだ。仕方なく、ぼくもヴェルナーも夜中の墓地探索を大げさに言いふらした。
 ぼくとヴェルナーは嫌な秘密を共有することになり、互いに後ろめたさがあったせいもあり、それからはあまり関わることはなかった。
 拾ったガラス玉は肝試しのいい記念にはなった。
 ただ、それからも火の玉の目撃例がいくつかあり、ぼくはこの日の夜を思い出してはベッドの中で背筋を凍らせる日々を送ることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 混沌とした太古の昔、いわゆる神話の時代、人々は突然現れた魔竜と呼ばれる強大な存在を恐れ暮らしてきた。しかし、長い間苦しめられてきた魔竜を討伐するため神官たちは神へ祈り、その力を凝縮するための祭壇とも言える巨大な施設を産み出した。  神の力が満ち溢れる場所から人を超えた力と共に産みおとされた三人の勇者、そして同じ場所で作られた神具と呼ばれる強大な力を秘めた武具を用いて魔竜は倒され世界には平和が訪れた。  それから四千年が経ち人々の記憶もあいまいになっていた頃、世界に再び混乱の影が忍び寄る。時を同じくして一人の少女が神具を手にし、世の混乱に立ち向かおうとしていた。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

ドラゴンテールドリーマーは現在メンテナンス中です

弓屋 晶都
児童書・童話
『友達って、なんだろう……』14歳がゲームと現実を行き来する幻想成長譚。 こんなご時世で、学校の友達と遊ぶ場所もスマホゲームの中になりがちな今日この頃。 中学二年生の『花坂みさき』はデータのダウンロード中に寝落ちて、 チュートリアルを終えたばかりのMMORPGアプリの世界に入り込んでしまう。 現実世界では窮屈な女子グループの中で自分を見失いつつあったみさきが、 ゲームの中で可愛いペットや新たな友達と出会い、自分を変えたいと願い始める。 しかし、そんなゲーム世界にもウイルスの脅威が迫り……。 ファンタジックなゲーム世界と現実世界が、夢の中で交差する。 魔法とドラゴンの炎舞う、七色に輝く大龍のエンディング。 現代に生きる少年少女の、優しい成長物語です。 ※こちらは、小学校高学年から中学生を読者に想定した内容となっています。  難しめの漢字は開き気味です。  子ども達の知っている単語には説明が出ません。  逆に大人は普通に知っているような単語に説明が入ることもあります。 (2022ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

バロン

Ham
児童書・童話
広大な平野が続き 川と川に挟まれる 農村地帯の小さな町。 そこに暮らす 聴力にハンデのある ひとりの少年と 地域猫と呼ばれる 一匹の猫との出会いと 日々の物語。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

魔王の飼い方説明書

ASOBIVA
児童書・童話
恋愛小説を書く予定でしたが 魔界では魔王様と恐れられていたが ひょんな事から地球に異世界転生して女子高生に拾われてしまうお話を書いています。 短めのクスッと笑えるドタバタこめでぃ。 実際にあるサービスをもじった名称や、魔法なども滑り倒す覚悟でふざけていますがお許しを。 是非空き時間にどうぞ(*^_^*) あなたも魔王を飼ってみませんか? 魔王様と女子高生の365日後もお楽しみに。

人をふにゃふにゃにするスイッチ

まさかミケ猫
児童書・童話
――人に向かってこのスイッチを押すと、その人はふにゃふにゃになるんじゃよ。  小学六年生のケンゴは、近所に住んでいる発明家のフジ博士から珍妙な発明品をもらいました。その名も“人をふにゃふにゃにするスイッチ”。消しゴムくらいのサイズの黒い小箱で、そこには押しボタンが三つ。つまり、三回まで人をふにゃふにゃにできるらしいのです。 「精神的にふにゃふにゃになるだけじゃ」  博士の説明を聞いたケンゴは、お父さんとお母さんに一回ずつ使いたいなと思っていました。とうのも、二人は年中ケンカばかりしているのです。  いきなり両親に使用するのが怖かったケンゴは、まずは学校にいる誰かで一回分だけ試してみようと思いました。

処理中です...