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Klinge
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(親友を亡くした女性と、親友の弟の話)
止まない雨はない。世間は当たり前のようにそんな言葉を口にする。
けれど、それは嘘。止まない雨も世界に一つは存在する。
一体、そこの夢想家がそんな勝手な約束をしたのだろうか。
「よく、のこのこと顔を出せるものだね」
止まない雨に打たれ、洗い流されることのない罪を背負う私の躰。その傷口に、冷たいナイフが突き刺さる。
傘を少し上げ、感じた冷たさに目を向ける。そこに立っていたのは、一人の青年だった。
「いつか声をかけようと思っていたよ。けど、声をかける気にもなれなかった。今更自分を責めるような面をして、のこのこと姉さんの墓前に現れるあんたの顔を見て、何度腸が煮えくり返ったことか」
どこか、彼女――私の親友に似た青年。彼は、彼女の弟だった。
彼女が亡くなった当時、彼はまだ小学生……それも、低学年の子だった。その彼が今は、立派な大学生。
この歳になれば、いい加減姉の死の事実を耳にしたのだろう。恨めしそうに、鋭い瞳をこちらに向けている。
誰より優しかった彼女の弟が、こんな顔をできるなんて信じられない――本来なら、そう思えただろう。
けれど、どこかで納得してしまうのは……洗い流せない私の罪のせい。
「いくらそんな悲しそうな面を見せたところで、僕は……僕だけは、あんたを許さない。姉さんがいじめられていることを知っていながら、助けようともしなかったあんたを」
何年も研がれた言葉のナイフは鋭さを増して、私を責め立てるように突き刺していく。私はその痛みを受け入れるだけ。
殴られるより、斬られるより……肉体を傷つけられるより、ずっとこの傷は痛覚を刺激する。
「――あんたに、こんなものだって必要ないんだ」
私の手から傘を奪い取り、その辺に投げ捨てた。
同時に、冷たい雨が勢いを増して、私の体を強く打ち付ける。
「姉さんをいじめた奴らはもちろん許さない。けど、知ってて助けもしなかったあんたも僕は許さない。本当に申し訳ないと思っているなら、そうして一生雨に打たれていればいい」
――止まない雨はない。
それは、誰かを傷つけたことのない脳天気な夢想家の理想に過ぎない。
止まない雨はない。世間は当たり前のようにそんな言葉を口にする。
けれど、それは嘘。止まない雨も世界に一つは存在する。
一体、そこの夢想家がそんな勝手な約束をしたのだろうか。
「よく、のこのこと顔を出せるものだね」
止まない雨に打たれ、洗い流されることのない罪を背負う私の躰。その傷口に、冷たいナイフが突き刺さる。
傘を少し上げ、感じた冷たさに目を向ける。そこに立っていたのは、一人の青年だった。
「いつか声をかけようと思っていたよ。けど、声をかける気にもなれなかった。今更自分を責めるような面をして、のこのこと姉さんの墓前に現れるあんたの顔を見て、何度腸が煮えくり返ったことか」
どこか、彼女――私の親友に似た青年。彼は、彼女の弟だった。
彼女が亡くなった当時、彼はまだ小学生……それも、低学年の子だった。その彼が今は、立派な大学生。
この歳になれば、いい加減姉の死の事実を耳にしたのだろう。恨めしそうに、鋭い瞳をこちらに向けている。
誰より優しかった彼女の弟が、こんな顔をできるなんて信じられない――本来なら、そう思えただろう。
けれど、どこかで納得してしまうのは……洗い流せない私の罪のせい。
「いくらそんな悲しそうな面を見せたところで、僕は……僕だけは、あんたを許さない。姉さんがいじめられていることを知っていながら、助けようともしなかったあんたを」
何年も研がれた言葉のナイフは鋭さを増して、私を責め立てるように突き刺していく。私はその痛みを受け入れるだけ。
殴られるより、斬られるより……肉体を傷つけられるより、ずっとこの傷は痛覚を刺激する。
「――あんたに、こんなものだって必要ないんだ」
私の手から傘を奪い取り、その辺に投げ捨てた。
同時に、冷たい雨が勢いを増して、私の体を強く打ち付ける。
「姉さんをいじめた奴らはもちろん許さない。けど、知ってて助けもしなかったあんたも僕は許さない。本当に申し訳ないと思っているなら、そうして一生雨に打たれていればいい」
――止まない雨はない。
それは、誰かを傷つけたことのない脳天気な夢想家の理想に過ぎない。
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