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短編集
制服の下の隠し事。
しおりを挟む「あれ? 不破君、今日は長袖なんだね?」
――ぎくり。
漫画や小説よろしい効果音が、ボクの脳内に鳴り響く。
8月中旬、まだまだ殺人的な暑さが続く今日この頃。
本来なら半袖で登校するべきところだが、今日のボクは腕をぴったり包み込んでいた。
いつもより気持ち短めなスカートに半袖と、涼やかな服装の窓雪さんにとっては不自然に思える格好だろう。
「あはは……最近、冷房が凄く効いてるからちょっと寒いなって思ってたところなんです」
「そうなの? 不破君の席、そんなに風が直に当たるところだったっけ……?」
半袖の美影ちゃんは平気そうだけど。そう付け加えてきた窓雪さんの言葉が、再度心に突き刺さる。
最後尾にあるボクの席は、特別冷房の風がよく当たる場所ではない。むしろ運良く風が直接吹いてくることはなく、なかなかに快適な場所だ。
同列にいる夏服の黒葛原さんが平気そうなのも、その快適さゆえだろう。
正直言えば、ボクも特別寒さを感じてはいない。普段は半袖で登校しているし、寒さに体を震わせたこともない。
なぜ今日は長袖を着ているか、というと――
「風邪でも引いたんじゃない?」
「えっ? そうなの不破君!?」
――しれっと横から会話に入ってきたこの男……影人さん。
ボクの友達であり、そして恋人である同年齢の男子。コイツが原因だ。
「あ、……え、ええと、そう、なんですかね……まぁ、異様に寒気がするような気はしたんですけど……」
「えぇ……不破君、そんな状態で学校に来て大丈夫なの?」
窓雪さんが心配そうに覗き込んでくる。ありがたさ半分と申し訳なさ半分で、心が締め付けられそうだ。
窓雪さんは多分、純粋にボクが風邪を引いたと思って心配しているのだろう。明らかにどもっているボクが口にした「寒気がする」なんて言葉にも、疑いのまなざしを向けている様子がないのだ。
彼女は本当に優しい女子だ。こっちが思い切り罪悪感を抱いてしまうくらいに。
「だ、大丈夫ですよ……やばくなったら保健室に行きますし、最悪ちゃんと帰って休みますから」
「そう? 大丈夫ならいいけど……無理しちゃダメだよ? 不破君が風邪こじらせて休んじゃったら、黒崎君に変な女の子が寄ってきちゃうからね」
「その前に蛍が休むなら俺も休むから大丈夫だよ」
「サボるな100%クソ野郎!」
影人さんの堂々たるサボり宣言に突っ込みつつ、窓雪さんに「ありがとうございます」と告げる。
……そして、後からじくじくと刺さる罪悪感。本当は風邪なんて引いてないし、熱っぽさも寒気もないのに、完全に嘘をついてしまった。
純粋に心配してくれた窓雪さんの良心を騙したようで、心が痛い。
……けれど、本当のことを彼女に言うことはできない。たとえ死のうとなんだろうと。
「……蛍」
「は、はい?」
窓雪さんが去った後、影人さんが距離を詰めてくる。息がかかるほどの近さでボクの名を呼んだと思えば、
「……バレなくてよかったね」
にやりと笑い、ボクのシャツの襟元を捲る。
少しだけちらっと顔を覗かせたキスマーク。襟でギリギリ隠せる首元だけでなく、胸元や首筋にもびっしりとつけてある。
肩には半円形の赤い点線――彼に思い切り噛まれた痕。半袖なんて着ようものなら、もしかしたら何かの拍子でみんなに見えてしまうかもしれない。
ボクを純粋に心配してくれた窓雪さんに本当のことを言えなかったのも、すべて――
「全部アナタのせいですからね!! 影人さん!!」
……昨夜彼としたことを知られるわけにはいかなかったから、というのは言うまでもない。
お題元→『一人遊び。』様より「制服の下の隠し事。」
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