孤児のTS転生

シキ

文字の大きさ
上 下
157 / 204
孤児と大罪を背負う英雄

157

しおりを挟む
平然と走る馬は何かを勘付いたのか御者の指示なく静かにその場に止まり道端の草むらが動いて人影が出てくる。
出てきたその姿は少々ボロボロな騎士の鎧一式を身につけ何処かの家紋を刻印された剣を手にコチラへとジリジリ歩を進めてくる。
顔は見えないがその挙動は何かに怯えたかのようにぶるぶると震えており手に持っている剣は振動しているかのようだ。

「ふーん…他の貴族の客か。差し詰め尻尾切りと言ったところだろう」

そんなことをアルキアンが発して頬杖を付き尻尾切りの方を見る。
どうせここで殺してもコイツらは雇い主である貴族の主人にはもういないものとしか考えられていないのだろう。
生き帰ってもいるべき職場はなくもしもアルキアンを殺せても勝手にやったことだと処理される。
なんと哀れなのだろうか…殺せもしない相手と戦う無意味な存在それがアイツらなのだ。

「助けな…いや助けれないのか?」

私がアルキアンにそう問うと静かにアルキアンは首を振る。
どうせ助けても暗殺されるのがオチってわけか。
…それに私があの刻印されている剣を主人である貴族に突きつけてもどうせ盗まれたとかで色々とのらりくらりと本題を流されて何も無かったことにされるってわけか?
本当に哀れで笑えない。

「ここは私が相手をいたしましょう…アルキアン様とレナ嬢様はどうぞゆるりとその場でお待ちくださいませ」

そう御者であるレイノルドさんが言うと手に持つ棒を前へ突き出した。
その瞬間に手に持つ棒は輝きを放ち白い棒…指揮棒へと変化を遂げる。
レイノルドさんが指揮棒を一度振い馬を昂らせる。

不明で理解もできないそんな状況に目を白黒させながら私はアルキアンの方を向く。
レイノルドさんと私以上に関わりがあり主人であるアルキアンなら今レイノルドさんがやっていることを知っていると思ったからだ。
だがその当の本人はというと先ほどまで頬杖をつきながら窓を眺めていた時とは一転して馬車に固定された椅子の足を掴みその身をうつ伏せのようにしているではないか。

「なんか変だぞ?」とそんなことを思いながらも私も真似をしてアルキアンと同じ態勢をすることとした。
まぁうつ伏せの状態でもレイノルドさんのことは僅かに椅子の足の隙間から見えるようになっていることだし存分にここで見学させてもらうこととしよう。
…でどうしてアルキアンは顔を青くして目を閉じているんだ?
そんなことを思っているとレイノルドさんは指揮棒を突き出して言い放ちその瞬間に視界がグルンと回った。

「さぁ伴奏は済みましたね…準備はいいですか?では参ります…馬に繋がれし我が愛車『残虐機構』よ…その真価を今ここに全てを轢き主人へ近づく者を踏みならせスキル発動『チャリオット』ッ!」

馬に鎖が繋がれそれに呼応するようにして馬車に繋がれた2頭の馬は甲高い声を上げ馬はここからでも見えるように暴れそれぞれが違う方向へと暴走して走り出す。
馬車はその2頭の馬に引きずられ左右にそして時に上下に揺れては時々金属音と何かがつぶれた音を出しながら地を走る。

操作するレイノルドさんはと言うと恍惚とし口の端が吊り上がった顔をしながら馬車の先頭で指揮棒を握り振るう。
まるで自らが馬を操る『馬の操者』…否、演奏のように指揮する正にそれは『馬の奏者』と言える姿。
尻尾切りを馬が踏み潰し馬が通った道の合間に避けようとする者は馬と馬車を繋ぐ鎖により弾き飛ばされ飛ばされた場所にて馬か馬車に轢き殺される。
そんな恐怖映像が馬車の隙間から見えている。

乗り心地は最悪と断言できる。
そしてレイノルドさん…コイツは戦闘とかさせちゃダメなタイプだろう。
明らかに戦闘する前と今とでは顔の表情が違う。
正直なところドン引きだ。

そんな感じで内心レイノルドさんにドン引きしつつジェットコースターのような速度で駆け回る馬車の中で「早く終わってくれー」っと叫びながら戦闘が終わるのを待った。
そうして数分後ようやく尻尾切りが全滅したのか馬は先ほどのような鼻息を荒くにはせずにコチラへと戻ってきて鎖は縄へと変わった。

「ふぅ…アルキアン様それでは処理が終了したので行きますよ~」

レイノルドさんはコチラへ何処かスッキリとした顔をした後平然と鼻歌をしながら馬を走らせた。
本来なら貴族の前で鼻歌だなんて処罰が下ることだろう…だが何も言えない。
怒らせてもしも戦闘になったらとあの無慈悲な行動が頭の中をよぎるからだ。
口に出したくない…アルキアンの方を向くと今でも目が回っているのか頭を抱えている。

「あのさアル…レイノルドさんってもしかしてアレな人?」

そう私がレイノルドさんには聞こえないようにアルキアンの耳元で呟くとアルキアンは深々とうなづいた。
やはりレイノルドさんは戦闘に入ると人格が変わってしまう系の人らしい。

そんな思いと共に学園へと馬車は走る。
はてさてこの後何回戦闘が行われることやら。
レイノルドさんは馬車の外にいる身であり一番初めに敵を見つけれる。
その度にアルキアンの身を案じて戦闘を自分と馬で敵を文字通り蹴散らす。
それはもう積極的にだ…敵意があってもなくても普通の人間以外は轢き殺して無理やり通過する快進撃だ。

そうしてその戦闘の度に私とアルキアンは恐怖を覚えるのだった。

「戦闘狂…怖い」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

引きこもりのニートは異世界を旅したい。

有栖紫苑
ファンタジー
引きこもりのニート富永理玖24歳はいつの間にか異世界転生とやらをさせられていた。それも、幼児まで逆戻り。また、人生やり直しかよ!!そう思ったのもつかの間、貧しい家に生まれたらしく捨てられた!?しかし、そんなことは気にしない。楽をして過ごしたい理玖は、家も持たずに自由気ままに旅をしていく。無自覚の成り上がりを実行するお話です、多分。 更新は不定期です。ご了承ください。そして作者の気まぐれで趣旨も変わっていくかもしれません。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

結婚なんて無理だから初夜でゲロってやろうと思う

風巻ユウ
恋愛
TS転生した。男→公爵令嬢キリアネットに。気づけば結婚が迫っていた。男と結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやるぜ。 TS転生した。女→王子ヒュミエールに。そして気づいた。この世界が乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』だということに。ゴリラと結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやんよ。 思考が似通った二人の転生者が婚約した。 ふたりが再び出会う時、世界が変わる─────。 注意:すっごくゴリラです。

猫ばっかり構ってるからと宮廷を追放された聖女のあたし。戻ってきてと言われてももう遅いのです。守護結界用の魔力はもう別のところで使ってます!

友坂 悠
ファンタジー
あたし、レティーナ。 聖女だけど何もお仕事してないって追放されました。。 ほんとはすっごく大事なお仕事してたのに。 孤児だったあたしは大聖女サンドラ様に拾われ聖女として育てられました。そして特別な能力があったあたしは聖獣カイヤの中に眠る魔法結晶に祈りを捧げることでこの国の聖都全体を覆う結界をはっていたのです。 でも、その大聖女様がお亡くなりになった時、あたしは王宮の中にあった聖女宮から追い出されることになったのです。 住むところもなく身寄りもないあたしはなんとか街で雇ってもらおうとしますが、そこにも意地悪な聖女長さま達の手が伸びて居ました。 聖都に居場所の無くなったあたしはカイヤを連れて森を彷徨うのでした……。 そこで出会った龍神族のレヴィアさん。 彼女から貰った魔ギア、ドラゴンオプスニルと龍のシズクを得たレティーナは、最強の能力を発揮する! 追放された聖女の冒険物語の開幕デス!

処理中です...