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125 後片付けまでが冒険です・14
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「……って、踊り過ぎちゃったね」
曲が一段落ついた時、私・八重垣紫苑はついつい踊り続けていた事に気付いた。
引き留めてはいけないので繋いでいた手を離す――うん、楽しかったなぁ。
でも付き合わせ続けた申し訳なさもあって私は一くんへと謝罪を口にした。
「ごめんね、休憩中に長々と」
「謝らなくていい。
――星空の下踊るのは、風情があってよかった」
「確かにそうだね……うん、綺麗な星空」
「元の世界だと、こんな空は中々見れないだろうな」
そうして並んで満天の星空を眺めていると、不思議な気持ちになるなぁ。
普段話せないでいる事も、話してもいいかな、ってそんな気になる。
「元の世界かぁ……ねぇ、一くん。
あの、その、今から変なこと言っていいかな」
「限度はあるが一応聞こう」
「ありがと」
実に一くんらしい言葉に苦笑しつつ、私は空を見上げる。
「一くんには、元の世界の私は、どう見えてた?
今の私は……良い方向に変われたかな?」
元の世界の私。
私は……自分の存在価値にずっと悩んでた。
両親は早くに亡くなって、私は遠縁の親戚の家で育った。
私を引き取って両親になってくれた、家族になってくれた人達は決して悪い人達じゃない。
だけど、私とは距離感があった。
何処か私に遠慮するような、あるいは少し怖がっているような、そんな距離。
今でこそ、私の両親との関係性が複雑だとか、私の生まれた事情が特殊だったとか、私自身の事とか、理由は幾つも思いつく。
だけど、子供の頃の私には、そういったことが分からなかった。
分からなかったから……幼い私は、その寂しさを埋めるために、テレビの中の世界に没入した。
誰かを救う正義の味方の物語に。
彼らが私を助けてくれるんじゃないか、そんな願いを託して。
うん、実際心の大半はすごく救われたよね。
だから私は正義の味方に憧れ続けてるわけだし……うふふ。
でも、助けてもらえなかった所もあった。
いや、恨みに思ってるとか、そういうんじゃなく。
画面からの手じゃ、届かないこともある……ただそれだけの、仕方のない話。
私にしても、他の誰かにしても。
だから私は、それを自分で補うことにしたんだ。
画面じゃ届かない誰かに、私が手を伸ばす為に。
色んな事があった。
やり過ぎて大人に怒られたり。
四苦八苦してる私の前に現れた謎の親戚との出会いとか。
私に弟子入りしたいって言ってくれた子もいたなぁ。
でも、私に出来ることには限界があって……私が延ばそうとした手こそが、誰かを傷つけてしまって。
間違えた私は、一人になった。
思い知らされた私は、自分の分を弁えようと思った。
誰かを傷つけない方法を考えて考えて考え抜いて……いつしか、私は人との接触を恐れるようになっていた。
教室の片隅で、世界を眺めるようになっていた。
力がほしいと望まれたら、手助けが必要なら躊躇わない。
だけど、私は、私自身を信じられないから、自分からは中々動けなかった。
私自身、そんな自分でいいのだろうかと、ずっと悩んでた。
そんな時だった……異世界召喚されたのは。
だから、私はこれをきっかけに変わろうって思った。
求められて召喚されたんだから、求めてくれた人たちの為に、って。
そう思って自分なりに一生懸命やってきたけど……私は変われたのかな。
こればっかりは自分だけじゃ分からないから訊ねた。
こういう問い掛けに、忌憚なく遠慮なく偽りなく答えてくれる、私の……あ、あああ、相棒に、うん。
そう思いながら私は星空から一《はじめ》くんへと向き直った。
何故か一くんは一度空を仰いで息をはいてから視線を落とし、私を静かに見下ろした。
うう、なんて言われるんだろうか……正直ドキドキですね、ええ。
「ふむ。そうだな」
というか、ドキドキどころじゃなくなってるような……割と心臓ヤバいです、ええ。
「……俺から言わせてもらえれば、君はさして変わってない」
「うごふぅっ!?」
「……話の途中だから腰を折る奇声はやめてくれ」
「あ、はい、ごめんなさい」
ドキドキを続けつつ、しょぼんと肩を落とす私に若干呆れ気味な半眼を一度向ける。
だけど、すぐに気を取り戻して私に告げた――少し優しい声音で。
「元の世界にいた時から君は、俺が尊敬できる数少ない人間だったよ」
「え?」
「自分じゃない誰かのために心を砕ける人間はそうはいないからな。
自分のことが覚束ないのは褒められないがね」
「え? え!?」
「そういう意味ではさして変わらないだろう、君は。
良い人間のままだ。
でもまあ、そうだな……良い方向には変わっていると思うぞ。
積極性と、自分を極極々僅かに省みるようになったところはな」
「――――――」
「と、俺はそう思う訳だが……って、紫苑!?」
「はふぅっ……?」
そうして、自分が思うよりずっと緊張していたらしい私は、色々限界に達して極僅かの間だけ気絶してしまいましたとさ。
ううう、申し訳なさ過ぎるし、恥ずかし過ぎる……やはり私に存在価値はない……の、かな。
でも、その、なんというか。
とても救われる言葉を貰ってしまったなぁ……うふふふふ。
こんな阿呆な質問に答えてくれた一くんには、本当に本当に、感謝ですね、ええ。
曲が一段落ついた時、私・八重垣紫苑はついつい踊り続けていた事に気付いた。
引き留めてはいけないので繋いでいた手を離す――うん、楽しかったなぁ。
でも付き合わせ続けた申し訳なさもあって私は一くんへと謝罪を口にした。
「ごめんね、休憩中に長々と」
「謝らなくていい。
――星空の下踊るのは、風情があってよかった」
「確かにそうだね……うん、綺麗な星空」
「元の世界だと、こんな空は中々見れないだろうな」
そうして並んで満天の星空を眺めていると、不思議な気持ちになるなぁ。
普段話せないでいる事も、話してもいいかな、ってそんな気になる。
「元の世界かぁ……ねぇ、一くん。
あの、その、今から変なこと言っていいかな」
「限度はあるが一応聞こう」
「ありがと」
実に一くんらしい言葉に苦笑しつつ、私は空を見上げる。
「一くんには、元の世界の私は、どう見えてた?
今の私は……良い方向に変われたかな?」
元の世界の私。
私は……自分の存在価値にずっと悩んでた。
両親は早くに亡くなって、私は遠縁の親戚の家で育った。
私を引き取って両親になってくれた、家族になってくれた人達は決して悪い人達じゃない。
だけど、私とは距離感があった。
何処か私に遠慮するような、あるいは少し怖がっているような、そんな距離。
今でこそ、私の両親との関係性が複雑だとか、私の生まれた事情が特殊だったとか、私自身の事とか、理由は幾つも思いつく。
だけど、子供の頃の私には、そういったことが分からなかった。
分からなかったから……幼い私は、その寂しさを埋めるために、テレビの中の世界に没入した。
誰かを救う正義の味方の物語に。
彼らが私を助けてくれるんじゃないか、そんな願いを託して。
うん、実際心の大半はすごく救われたよね。
だから私は正義の味方に憧れ続けてるわけだし……うふふ。
でも、助けてもらえなかった所もあった。
いや、恨みに思ってるとか、そういうんじゃなく。
画面からの手じゃ、届かないこともある……ただそれだけの、仕方のない話。
私にしても、他の誰かにしても。
だから私は、それを自分で補うことにしたんだ。
画面じゃ届かない誰かに、私が手を伸ばす為に。
色んな事があった。
やり過ぎて大人に怒られたり。
四苦八苦してる私の前に現れた謎の親戚との出会いとか。
私に弟子入りしたいって言ってくれた子もいたなぁ。
でも、私に出来ることには限界があって……私が延ばそうとした手こそが、誰かを傷つけてしまって。
間違えた私は、一人になった。
思い知らされた私は、自分の分を弁えようと思った。
誰かを傷つけない方法を考えて考えて考え抜いて……いつしか、私は人との接触を恐れるようになっていた。
教室の片隅で、世界を眺めるようになっていた。
力がほしいと望まれたら、手助けが必要なら躊躇わない。
だけど、私は、私自身を信じられないから、自分からは中々動けなかった。
私自身、そんな自分でいいのだろうかと、ずっと悩んでた。
そんな時だった……異世界召喚されたのは。
だから、私はこれをきっかけに変わろうって思った。
求められて召喚されたんだから、求めてくれた人たちの為に、って。
そう思って自分なりに一生懸命やってきたけど……私は変われたのかな。
こればっかりは自分だけじゃ分からないから訊ねた。
こういう問い掛けに、忌憚なく遠慮なく偽りなく答えてくれる、私の……あ、あああ、相棒に、うん。
そう思いながら私は星空から一《はじめ》くんへと向き直った。
何故か一くんは一度空を仰いで息をはいてから視線を落とし、私を静かに見下ろした。
うう、なんて言われるんだろうか……正直ドキドキですね、ええ。
「ふむ。そうだな」
というか、ドキドキどころじゃなくなってるような……割と心臓ヤバいです、ええ。
「……俺から言わせてもらえれば、君はさして変わってない」
「うごふぅっ!?」
「……話の途中だから腰を折る奇声はやめてくれ」
「あ、はい、ごめんなさい」
ドキドキを続けつつ、しょぼんと肩を落とす私に若干呆れ気味な半眼を一度向ける。
だけど、すぐに気を取り戻して私に告げた――少し優しい声音で。
「元の世界にいた時から君は、俺が尊敬できる数少ない人間だったよ」
「え?」
「自分じゃない誰かのために心を砕ける人間はそうはいないからな。
自分のことが覚束ないのは褒められないがね」
「え? え!?」
「そういう意味ではさして変わらないだろう、君は。
良い人間のままだ。
でもまあ、そうだな……良い方向には変わっていると思うぞ。
積極性と、自分を極極々僅かに省みるようになったところはな」
「――――――」
「と、俺はそう思う訳だが……って、紫苑!?」
「はふぅっ……?」
そうして、自分が思うよりずっと緊張していたらしい私は、色々限界に達して極僅かの間だけ気絶してしまいましたとさ。
ううう、申し訳なさ過ぎるし、恥ずかし過ぎる……やはり私に存在価値はない……の、かな。
でも、その、なんというか。
とても救われる言葉を貰ってしまったなぁ……うふふふふ。
こんな阿呆な質問に答えてくれた一くんには、本当に本当に、感謝ですね、ええ。
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